療養病床の在宅復帰率について

今後は急性期の7対1病院からの転院には、7対1病院だけで無く、受け入れる
転院先の病院にも在宅復帰率という縛りがかかり、地域の入院医療が大混乱
しそうであることは先日書き込みましたが、その後いろんな情報を読んで、
本当にこの在宅復帰率が可能な数字なのかどうかは疑問に思います。

一番の問題は看護師の絶対的な不足です。

大都会で看護師数に余裕があるところでは可能かも知れませんが、少なくとも
慢性的な看護師不足で地元での看護師養成後も地元に残らず短期間で都会に流
れている岩国医療圏ではこの在宅復帰率という制度のために、地域の入院シス
テムが維持出来ず患者家族は訳の分からないまま、地元を離れて転院させられ
てしまいそうな気がします。

在宅復帰率とは、期間中の入院患者の退院先が自宅等に退院した割合を言いま
すが、「自宅等」とは、自宅、他院の回復期リハビリテーション病棟、他院の
地域包括ケア病棟、他院の療養病棟(在宅復帰機能強化加算届け出)、居住系
介護施設または介護老人保健施設(在宅強化型または在宅復帰・在宅療養支援
機能加算届出)とされました。
当初は同一の法人内の転院を認めず、他院の施設とされていましたが、7対1病
床の削減のため、地域包括ケア病棟設置を進める立場から、同一法人内の回復
期リハビリテーション病棟、地域包括ケア病棟、療養病棟(在宅復帰機能強化
加算届け出)は計算式に含めない、すなわち算定からはずという措置がとられ
て、7対1病床削減のため新設される地域包括ケア病棟などが自院でも認められ
ることになったようです。
本来の算定方式とは違ってきているようです。

 

この4月からの改定ですが、まだどこにも申請したり認可を受けた施設はないと
思いますし、現実には実績報告をして10月以降の申請になるのですが、入院医
療について在宅復帰率が求められるようになれば、大きな変化が有ります。

長期の入院や医療看護が必要な患者さんの流れは、救急入院した7対1急性期病
院からリハビリが必要な病気なら回復期リハ病院へ、その他の治療が必要な患者
さんは
新設される地域包括ケア病棟や新設される慢性の在宅復帰機能強化加算届
け出の療養病棟、認可を受けた老人保健施設などの順になります。

7対1病院はこれらの施設に転院させれば在宅に退院したという扱いになります。

上記以外の10対1.15対1看護の一般病棟や在宅復帰機能強化加算のない療養病
床は、この7対1の急性期病院の受け皿にはなっていません。

これらの施設がバランス良く地域に無ければ、地域患者さんの入院医療は地域で
完結できなくなります。
従って7対1病棟で、在宅復帰率が厳しくなれば、地元以外のこれらの施設に転院
させられることになります。それこそ在宅に帰れない、長期の治療や看護の難し
い患者さんのたらい回しが起こりそうです。

このように療養病床にも療養病棟入院基本料1を算定する病床では、在宅復帰機
能強化加算届けを出して認可されれば、急性期7対1病院からの受け入れ病床とな
り、地域には必要な療養病床となるのです。
地元にこの病床が無いならば急性期病院の在宅復帰率が確保できなくなる可能性
があるとともに、患者は急性期病院から地元の療養病床に転院出来なくなる可能
性もあると言うことです。

在宅復帰機能強化加算の療養病床
「療養病棟における在宅復帰機能を評価する観点から、療養病棟入院基本料1を
届け出ている病棟において、在宅復帰率が50%以上等の基準を満たす病棟に対す
る評価を新設する。」と決められています。在宅復帰機能強化加算10点(1日に
つき)の加算はありますが点数的には高いものではなく点数により誘導されること
無いと思います。

療養病棟には看護基準によって入院基本料1と入院基本料2があり、当地区では
地域的な看護師不足から入院基本料1を採っている療養病床はかなり少ないのが
現実です。

また療養病棟入院基本料1には、入院患者の医療度で医療区分2.3が80%以上が
必要となっています。
普通の療養病棟よりは重症者を受け入れるようにとの基本料でした。
療養病棟の入院料は全て包括された入院料で、決められた疾患や状態により医療
区分が3つに分けられ、別にADL区分を3つに分けた合計9区分で決まっています。

そのうち医療区分というのは医療区分1~3までありますが、当初から介護に重き
を置いた基準で有り、医療区分2.3が本来の病気が重症というわけでは無く、医療
の重症度とは全く関係ない場合があります。

特に呼吸器疾患以外の内臓疾患の医療区分はほとんど「1」と言っても良く、例
えば癌の末期であるとか、肝硬変の末期だとかは高齢者の場合在宅での看護が難
しくなれば緩和ケア目的でよくご紹介いただきますが、末期癌でも医療区分は「1」
です。
癌の場合、疼痛緩和に麻薬使用を開始して初めて悪性腫瘍という医療区分2とな
るのです。
以前は鎮痛麻薬の薬代も認められていませんでしたが、前回の改定で麻薬代が
出来高で承認されました。

糖尿病という病名だけではインシュリン注射していても医療区分1です。
頻回に血糖検査行えば医療区分2になります。

また肝臓の場合は肝硬変で腹水や脳症があっても、食事が食べられなくなって
持続点滴になるなど別の条件が無い限り医療区分1です。

医療区分1の入院料(通常は1日9000円程度)では肝性脳症治療や新しい利尿剤など
高価な薬は出せません。
心臓疾患では勿論重症の心不全でも酸素療法など行わなければ医療区分1なのです。
腎不全も同様で末期腎不全も医療区分は1です。

また近年経管の栄養補給としての胃瘻造設が目の敵にされて今回の改定でも胃造
増設の点数が大幅に削減され、胃瘻をたくさん行う施設ではペナルティーもあり
ます。
この胃瘻造設を受けて栄養管理しても医療区分1ですが、逆に中心静脈栄養や
24時間の持続点滴では医療区分3になるため、最近急性期病院から中心静脈栄養
で転院する例も増えており、何か違和感を感じています。

少し旧い資料ですが、医療区分に関する書き込みは私のホームページをご覧下さい。

医療区分分類が医療難民をつくります
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/nanmin.html

療養病棟入院基本料1は看護の人数を増やすことによって重度の看護・医療が
必要な人を受け入れる施設なのに、内臓疾患で在宅看護が難しく重度の医療
が必要な患者さんが医療区分1なら、直ぐに8割を切ってしまうので医療区分
を考えながら入院を引き受けるかどうか判断しなくてはならず、結果的に引き
受けにくくなります。

そして問題なのはその病棟に在宅復帰率を持ち出すなど、厚労省の担当者は現場
が解っているのか疑問です。

また、この在宅算定基準の中で、在宅に退院した患者の条件が1か月以上入院
していた患者に限るとされています。療養病棟でもかかりつけの患者さんや地
域の高齢者などは感染症や短期入院で治療出来る場合には、包括化の点数では
入院検査・補液・抗生剤など行えば明らかに赤字ですが、急性期病院の受け入
れ拒否などの時には入院治療行う場合もあります。
そこで在宅復帰率は急性期の疾患で10日から2週間程度の入院では認められな
いことも疑問ですし、できるだけ入院期間を短縮するという趣旨からはずれて
します。また退院患者の在宅生活が1月以上(医療区分3の患者については14日
以上)継続することを確認していることというのも、退院後1ヶ月以内は入院
させてはならないという基準です。

当院の実情で検討してみます。

当院は2.3.4病棟の療養病棟で、2階病棟は入院基本料1算定で、重傷者の観察
室3床など含んで47床で、夜間も看護師2名体制です。

主に急性期病院からの転院が多く、高齢で介護施設で引き受けの難しい、重度
の管理が必要な内科的に重症者が入院されており、がん末期の緩和医療や疼痛
管理などもこの病棟でおこないます。
病状が安定し看護が安定すれば3.4階の病棟・入院管理料2の療養病棟に移るこ
とになります。
3階52床は主に寝たきりなどで在宅復帰困難な方が入院され、4階病棟49床は
歩行可能な患者さんや在宅復帰に向けてリハビリなどで、当院では2階病棟から
4階病棟に移り退院される方が殆どです。

また当院での年間の看取りは平均65例で肺炎一番多いですが、この数年がんの
看取りもおおくなりましたが、これらの看取りは殆ど2階病棟です。
また3階・4階の患者さんの急変や病状が悪化すれば夜間看護の面で2階病棟に
移って頂きます。
自院に急性期病棟が無い療養病床では、このような形態を取っているところが
多いと思います。
従って在宅復帰率を問われる療養病棟入院基本料1では、退院の多くは死亡退院
であり、在宅への退院は少数となり、別病棟への転棟後在宅退院となります。

昨年9月以降今年2月末までの半年間の在宅復帰率を検討してみました。

死亡退院を除く退院患者の2階病棟での在宅復帰率は予想通り8%程度で基準の
50%は大きく下回っていました。前述したように2階病棟では、病状が安定すれ
ば3.4階病棟へ転棟しますので、この復帰率は伸ばしようがありません。
しかし、病院全体で見ると1ヶ月以上入院し在宅に退院された患者さんは在宅
復帰率は50%を少し超え、平均在院日数は223日、回転率は13.6%と療養病床
の復帰率基準を何とか維持できることがわかりました。
ただ今回の復帰率算定は療養病棟入院料管理料1の病棟でしか認められないので

いくら療養病棟が頑張ってもいろんな足かせで継続が難しい基準を設定されれば、
申請は足踏みしなくてはならないようです。

しかしこの地域に、認可された在宅復帰機能強化加算届け出の療養病棟が無け
れば、7対1急性期病院の在宅復帰率75%も維持できなくなり、前述したように
地域医療の維持も困難になるのです。

療養病床の在宅復帰率を廃止すれば良いのですが、在宅復帰にこだわるのなら
短期間の入退院も換算できるようにしたり、短期間の入院が必要な患者さんには

それなりの診療報酬を設定すべきです。
また自院の療養病床入院基本料1からの転棟で病院全体で在宅に復帰された人も
認められれば申請も増えるのでは無いかと思います。
厚労省の再検討を望みます。
医療区分の問題点については、関係者は誰もがおかしいと思っているのですが
未だに解決しませんし、医療や看護の必要度に合わせた医療区分の再検討が

必要です。

 

平成26年4月2日 15日修正  玖珂中央病院 吉岡春紀

療養病棟再編問題 
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/ryouyoumondai.html
療養病床についての問題点
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/ryouyou.html
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/mayaku.html
社会的入院と医療区分
http://www.urban.ne.jp/home/haruki3/shyakaikubun.html

療養病棟入院基本料 医療区分
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001e933-att/2r9852000001e9i6.pdf