お詫び。

   あれもこれもと書き込んでいたら、かなり長文になってしまいました。

   読みにくくなって申し訳ありません。適当にわけて読んでください。


医療区分分類が医療難民をつくります

 最近マスコミでも、療養病床再編問題が取り上げられており、先日のNHKの番組で、生活ほっとモーニング「シリーズ医療難民(1) 行き場のない患者たち」をご覧になった方もあるでしょう。


 番組の内容は、ホームぺージによると「主に病気を抱えた高齢者が療養やリハビリのために入院する療養病床は、一方で、いわゆる「社会的入院」の温床として問題視されてきました。そこで政府は、全国に38万床ある療養病床を6年後に15万床に削減する計画を打ち出しました。医療をそれほど必要としない入院患者を病院から在宅・施設へと移す方針です。今月からは診療報酬が改定され、医療必要度の低い患者の点数は大幅に減額されます。
 しかし、そのような患者の中には、身体まひや認知症などで多くのケアを必要とする人も含まれています。自宅での介護が困難な場合、介護施設の受け皿は不足しているため、このままでは行き場のない「医療難民」が増えると危ぐされています。」
とされ、療養病床削減により医療難民が増加することを訴えています。
 この番組では医療区分についてもかなり詳しく説明されていましたが、この放送の中でも「医療をそれほど必要としない入院患者を社会的入院」と捉えていますし、多くのマスコミも一般の人も「医療をそれほど必要としない入院患者」がたくさん療養病床に入院しているという厚労省の発表をそのまま信じています。

 本当に厚労省の発表のように、療養病床には「医療の必要がない人たち」がたくさん長期入院をしているのでしょうか。作為的な厚労省の発表をそのまま信じていいのでしょうか。また介護施設の受け皿が不足しているからなのでしょうか。受け皿が確保されても受け入れを制限される「医療継続が必要な人」がたくさんおられるのです。

 今回の改定で「医療がそれほど必要ない人たち」は「医療区分1」に分類され、「医療区分1」の患者さんには病院へ入る入院費(診療報酬)を極端に減らされ、「医療区分1」の患者さんが多いと病院の経営が難しい点数になったため、特に手のかかる「医療区分1」の患者さんは、今後療養病床からも退院を勧められたり、急性期病院からの療養病床への転院も「医療区分1」の対象者は、ますます転院困難になり、急性期病院も手のかかる「医療区分1」を抱えて平均在院日数は増え経営にも影響してゆくことと思います。

○ 本当に医療が必要のない入院が多いのでしょうか。

○ 厚労省の都合の良い調査の疑問。


医療費削減・社会的入院排除という名の暴挙
こんな患者さんが[医療区分1]
 などで、何度も訴えていますが、

今回の改定は、厚労省により療養病床には「社会的入院・大量にあり」という前提で決定されたものですし、元厚生大臣で、現自民党社会保障制度調査会長の丹羽雄哉氏のホームページでも、なぜ「療養病床」の再編成が必要なのかというテーマで「療養病床の8割の患者さんは入院の必要がない」と言う発言をしています。

「療養病床」に入院している人達が(1)どのくらい医療を必要としているのか(2)医師に直接医療を提供してもらう必要性があるのか?についてのデータがある。中央社会保険医療協議会(中医協)の調査では、ほとんど必要のない人と医療はせいぜい週一回程度でよい人を合わせると実に8割近くにのぼる。こうした人達は、必要に応じて医師の診察を受けた上で看護師が対応すれば十分であり、わざわざ病院に入院する必要がないと指摘されている。」


 厚労省や元厚生大臣の発言ですので、マスコミも一般の人も信じてしまいそうですし、自分たちが行ってきた医療制度の矛盾を棚上げにした「悪者は入院が必要のない老人を入院させている療養病床にある」とでも言いたいような発言です。

 そして、厚労省や中医協が行ってきた「医療が必要でない入院患者」の調査の方法や医療の内容は彼らに都合の良いような調査であり、また丹羽氏の療養病床への思いは、彼が大臣であった頃の、過去の「老人病院」の時代の検査漬け・薬漬けの思いが述べられています。今全国の療養病床で、そんな医療を行っている病院があるのでしょうか。

 「検査漬け・薬漬け」などの言葉をまだ使っていることに、現場を知らない発言だと思います。むしろ現在は「必要な検査も薬も、使えない報酬制度」なのです。

 急性期の病状は安定したが、在宅や介護施設への転院が難しい、重度の後遺症を残した患者さんたちが安心して長期に療養できるためにつくられたのが療養病床であり、全国の多くの療養病床では、それまでの一般病院や老人病院から療養病床に申請するため、自院の入院ベッド数を減らして施設の改築や新築を行い、また病院としての職員の確保を行い、特別養護老人ホームや老人保健施設などの介護施設とは違った看護や医療を行ってきたという自負もあります。だからこそ介護施設とは違い、患者さんの家族にも安心感があり、終の住み家ともなる施設だと思います。


 そんな療養病床を、「私はかつてベッドに拘束された多くのお年寄り達に経管栄養が施されている光景を垣間見て唖然とした。患者には褥瘡(じょくそう)、いわゆる床ずれの方が多い。行き場のないお年寄りを入院させ、ベッドに縛り付けて、検査漬け、薬漬け、そして流動食を流し込むような“劣悪な老人医療や介護”はもうピリオドを打たなければならないとの思いだ。」などとの批判は、現実を全く理解できていない発言ですし、昔の老人病院や一部の精神病院では、人手のたらない看護基準であり、拘束もあったようです。しかし現在の療養病床では、職員は看護・介護のプロとして、「拘束しない・褥瘡をつくらない」をテーマにみんな頑張っているのです。どうしても暴れたり生命にかかわるときの部分拘束は、家族の了解も得ていますし、褥瘡は急性期の病院でつくられてくることの方が圧倒的に多いと思います。経管栄養に至っては全くの認識不足です。

 「行き場のないお年寄り」とは、行き場つくらず、これ以上削減している行政の責任ではないのでしょうか。そしてこの制度に「ビリオドを打て」と言うことは「行き場のないお年寄りは早く死ね」という事ではないでしょうか。こんな発言が一般国民やマスコミに間違った認識を与えているのではないかと思いますが、国の専門家が医療費削減の為には「行き場のないお年寄りは早く死ね」と言っているのです。悲しいことです。


○ 「医療区分1」が「医療が必要のない人」なら

 臨床の現場をよく知るものには到底納得できない医療区分分類です。本当に「医療が必要ない人」がだらだらと医療費を使い長期入院しているのならその批判も仕方ありませんが、現実には「まだ医療が必要な人」や「在宅では治療継続が難しい人」「介護施設が引き受けてくれない人」が、忘れ去られた医療区分の設定と言っても良いと思います。

 

 厚労省の患者調査

 厚労省は以前より入院患者調査を行い、平成11年には「入院患者を重症度の状況別の構成割合でみると、「生命の危険がある」5.9%(8万8千人)、「生命の危険は少ないが入院治療、手術を要する」59.5%(88万2千人)、「受け入れ条件が整えば退院可能」18.6%(27万5千人)、「検査入院」2.2%(3万3千人)となっている。「受け入れ条件が整えば退院可能」は年齢階級が高くなるに従って増加している。」と公表しています。
 そしてその発表を基に当時の新聞報道では、ー退院後の受け皿なく、2割が「社会的入院」厚労省調査ーのタイトルで
「入院患者のうち5人に1人は、受け入れ先などの条件が整えば退院が可能だと医師が判断していることが、厚生労働省が12日に発表した「患者調査の概況」で分かった。入院治療の必要がないのに受け入れ先がなくて退院できない、こういった「社会的入院」は、27万5000人にのぼると推計している。75歳以上になると4人に1人、精神病院だと5人に1人が「社会的入院」とみられる」と社会的入院を取り上げました。

 その後平成14年10月8日〜10日に行われた患者調査の概況の入院患者の状況でも

(1 )重症度の状況
 入院患者を重症度別の構成割合でみると、「生命の危険がある」6.3%(9万2千人)、「生命の危険は少ないが入院治療、手術を要する」 59.7%(86万6千人)、「受け入れ条件が整えば退院可能」18.9%(27万4千人)、「検査入院」1.8%(2万6千人)となっている。「受け入れ条件が整えば退院可能」は年齢階級が高くなるに従って増加している。

という結果で、「受け入れ条件が整えば退院可能」は平成11年とほとんど変わらない結果です。

そしてこの調査はすべての入院施設が対象になっていますので、急性期の一般病院・療養病床だけでなく、精神科病棟・感染症・結核病床なども含めた調査結果なのです。療養病床よりも在院日数の長い精神科病棟も含まれています。

 ところが、今回の療養病床再編問題では、突然半数が「受け入れ条件が整えば退院可能」となり、丹羽氏によるとその8割が社会的入院と判断されるような調査結果を持ち出しでいます。

 同じ厚労省の調査でも、社会的入院が20%弱から50%以上、ひどい結果では8割に増えているのです。厚労省得意のデータの拡大解釈や調査の仕方で自分たちに都合の良い有利な解釈をしているのですが、その一つの原因は調査項目の不備で、調査票をみてみると「受療の状況 傷病名 1つ」で傷病名は一つしか書けなっています。
 いろんな病気の合併症や、身体状況や処置内容を記入することも無く、傷病名は一つだけで、最後に入院の状況として
 1.「生命の危険がある」
 2.「生命の危険は少ないが入院治療、手術を要する」
 3.「受け入れ条件 が整えば退院可能」
   退院は決まっていないが退院可能な状態にある患者
 4「検査入院」
 5.その他

を質問し、○をつけるだけですから、多くの例で症状が安定していれば医療を続けていても、3に○をつける事は必然です。そしてもそれも全入院医療機関を対象にしているわけですから、急性期病院では平均在院日数短縮が求められていますので、「受け入れ条件 が整えば退院可能」に多く集まるのは当然だと思います。
 そんなことを考慮しても患者調査では、20%弱が「受け入れ条件が整えば退院可能」なのです。そしてあくまでも「受け入れ条件が整えば」という前提です。療養病床の調査にも、受け入れ条件の具体的な調査や合併症、家庭環境などの調査は全くありません。どこにも半数や8割が退院可能とは書いてありませんが、自分たちに都合の良い調査で、結果を推測する手法です。

 高齢者の入院が長期化するのは、単独の疾患で長期化することは少なく、多くの合併症で、何度かの入退院を繰り返し在宅医療が困難になることのほうが多いと思います。


 脳梗塞で半身麻痺になっても、リハビリがうまく行き、自分で食事がとれるようになり介助で歩行が可能になり、意思疎通も可能なら、看護・介護の家庭環境が整った人たちは在宅治療継続ができ入院継続しないでもいいでしょう。
 ところが、同じ病状でも独居で生活全般に介助が必要なら介護施設に転院するしかなく、他の医療行為や合併症、たとえば脳梗塞・片麻痺に心不全が加わったり、がんの合併症があったり、糖尿病でインシュリン治療が必要であったり、意識障害で経管栄養が必要になったりしたら、介護施設への転院も在宅治療も難しくなる例はたくさんあります。
 そして医療行為として検察・治療や処置が必要な方や、窒息やけいれん、発熱など急変が予測される方は、在宅だけでなく介護施設でも引き受けは難しいのが現実です。介護の施設では夜間の医師の当直や、看護師の当直体制がとれていないため、受け入れが困難なのです。

 そんな人たちを「医療が必要でない人たち」として「医療区分1」に分類してしまったのが今回の改定なのです。

 受け入れ条件が整っている人たちが、退院して在宅で治療や介護を続けられることに異議はありません。看護・介護を引き受けられる家族には、医療費や介護費の免除・資金補助や介護援助を行ってでもそんな方が増えることを祈りますが、国にはそんな発想はありません。現実には入院を継続しなければ、家庭が崩壊したり、患者の生命維持も難しい人がたくさんおられます。

長くなりますが、具体的な事例で説明をしたいと思います。


○ 医療区分の早急な見直し

 7月から、療養病床の入院基本料は改定され実施されています。長期入院の患者さんを医療の必要度に応じて3つに分類したのが「医療区分」です。
 しかし、この医療区分分類が、医療の必要度とはほど遠い、介護のケアによる分類で、「医療区分1」に分類された疾患や状態が現場の実情を無視した分類であることと、医療区分1の診療報酬(入院料)が、入院して医療や看護を継続してゆくには、全く出来ないような入院料に設定されています。

 こんな医療区分や診療報酬の見直しを行わないと、重度の障害を持った本当に医療が必要な人たちが、療養病床から追い出され、かつ介護施設にも受け入れられず行き場を失った「医療難民」となることは目に見えています。

 問題点は「医療が必要ないのに入院している」という「社会的入院の定義」の問題と「医療区分分類」が、正しい判定で分類されているのか」という2つですが、ここではもう一度「医療区分分類」について検証し、実際の例も紹介します。

「医療区分分類」では、医療の必要度に応じて区分分けしたと言いますが果たしてそうなのか。
厚労省の試案では療養病床のケアタイムなどの調査結果より
 医療区分1(あまり医療が必要でない患者)は50.2%
 医療区分2(多少、医療的な患者)は37.2%
 医療区分3(医療が必要な患者)は12.6%

となっていました。
要するに、前段に説明した患者調査とは別の介護度による調査ですが、これでは療養病床入院者の半数は、医療が必要ないと判断し、将来は医療保険から外して介護保険施設の対象にしようとしているのです。

 その後の療養病床協会や現場の調査ではこの試案で調査すると、「医療区分1」は60%、「医療区分2」が30%、「医療区分3」は10%未満という結果もあり、療養病床の経営の危機が問題になっています。

医療区分の概要 過去に何度か掲載していますが再度掲載します。

I.医療区分3 療養病棟入院基本料 1,740 点/日

 1.スモン
 2.医師及び看護職員により、常時、監視及び管理を実施している状態
 3.中心静脈栄養を実施している状態
 4.24時間持続して点滴を実施している状態
 5.人工呼吸器を使用している状態
 6.ドレーン法又は胸腔若しくは腹腔の洗浄を実施している状態
 7.気管切開又は気管内挿管が行われており、かつ、発熱を伴う状態
 8.酸素療法を実施している状態
 9.感染症の治療の必要性から隔離室での管理を実施している状態

II.医療区分2(別表第五の三)療養病棟入院基本料 1,220 点・1,344 点/日

 11.筋ジストロフィー症
 12.多発性硬化症
 13.筋萎縮性側索硬化症
 14.パーキンソン病関連疾患
 15.その他の難病
 16.脊髄損傷
 17.慢性閉塞性肺疾患
 18.悪性腫瘍
   麻薬等の薬剤投与による疼痛コントロールが必要な場合に限る
 19.肺炎に対する治療を実施している状態
 20.尿路感染症に対する治療を実施している状態
 21.傷病等によりリハビリテーションが必要な状態
 22.脱水に対する治療を実施している状態
 23. 消化管等の体内からの出血が反復継続している状態
 24.頻回の嘔吐に対する治療を実施している状態
 25.褥瘡に対する治療を実施している状態
 26.末梢循環障害による下肢末端の開放創に対する治療を実施している状態
 27.せん妄に対する治療を実施している状態
 28.うつ症状に対する治療を実施している状態
 29.他者に対する暴行が毎日認められる状態
 30.人工腎臓、持続緩徐式血液濾過、腹膜灌流又は血漿交換療法を実施している状態
 31.経鼻胃管や胃瘻等の経腸栄養が行われており、かつ、発熱又は嘔吐を伴う状態
 32.1日8回以上の喀痰吸引を実施している状態
 33.気管切開又は気管内挿管が行われている状態(発熱を伴う状態を除く。)
 34.頻回の血糖検査を実施している状態
 35.創傷(手術創や感染創を含む。)、皮膚潰瘍又は下腿若しくは足部の蜂巣炎、膿等の感染症に対する治療を実施している状態

III 医療区分1 療養病棟入院基本料 764 点・885 点/日

 それ以外疾患や状態

[療養病棟入院基本料]

                        差        差
 ADL区分3  885 点 459 1,344 点  396  1,740 点
 ADL区分2  764 点 580 1,344 点  396  1,740 点
 ADL区分1  764 点 456 1,220 点  520  1,740 点
        医療区分1   医療区分2      医療区分3

医療区分とその入院費は上記のように決定されていますが、ここで問題となるのが、「医療区分1」と判定される人たちが果たして医療が必要のない状態なのかという問題はどこにも検証されていません。
そして、入院基本料で示すように、「医療区分1と2」は456-580点/日の差があり、また「2と3」にも396-520点の差がありますが、この金額にもなんら根拠を認めません。

元々「医療区分1」の「ADL区分3」の885点という設定自体が、病院の入院基本料としては成り立たない診療報酬ですし、介護施設の報酬としてもあり得ない金額なのですから、金額の根拠はないのです。

 例えば、「医療区分2」の「31.経鼻胃管や胃瘻等の経腸栄養が行われており、かつ、発熱又は嘔吐を伴う状態」なら「医療区分2」1日1344点の算定ができるのですが、脳梗塞などで麻痺があり、寝たきりとなって遷延性の意識障害のため嚥下できない人たちに胃瘻などの経管栄養をおこなっている状態で、発熱や嘔吐をしている日だけ算定できるので、発熱や嘔吐の無い日は885点というものなのです。
 この差は1日459点、4590円です。1日約5000円として月に約15万円となるので報酬も大きな差になります。
 そして、発熱は何℃からという定義はありませんし、発熱の治療についてもなんら規定は定められていません、氷枕だけでも、解熱剤の投与でも、抗生剤の点滴でも認められていますので、発熱なら算定出来るようです。しかし医療が必要であるか否かの根拠は薄弱で、発熱の原因や治療、例えば抗生剤の投与期間の算定期間は「医療区分2」に認めるなどの条件もありません。発熱だけで医療区分を分類し、この報酬の差を説明できるのでしょうか。

 その他にも、「33.気管切開又は気管内挿管」の患者さんでは発熱がなければ、「医療区分2」ですが、発熱があれば医療区分3の「7.気管切開又は気管内挿管が行われており、かつ、発熱を伴う状態」になります。医療区分2なら1,344 点、医療区分3なら1,740 点となり、1日396点の差です。

 まあ、熱があれば介護・ケアは時間がかかるので上のランクにしなさいと言うのでしょうが、やはり医療の必要度とは関係のない、医療の必要度とは根拠に乏しい分類だと思います。

もっと解らないのがも「医療区分2」分類にされた3つの状態です。
 27.せん妄に対する治療を実施している状態
 28.うつ症状に対する治療を実施している状態
 29.他者に対する暴行が毎日認められる状態


 これだけ厳しい医療区分がされた中で、「せん妄やうつ病」などの精神科疾患の治療実施と異常行動の「暴行」が「医療区分2」に取り上げられています。これらの区分算定に、専門的な治療は必要とされていないので、せん妄はお年寄りにはよく見られる状態で多くの方が「医療区分2」に算定できるだろうと思います。療養病床にとって今回の改定の救いの項目かもしれません。
 しかし、せん妄やうつ病の治療や他者に対する暴行が、療養病床にとって本当に医療が必要な状況なのでしょうか、介護施設でのケアタイムで判定されたケアの難易度の分類ではないでしょうか。

 また、「34.頻回の血糖検査を実施している状態」も「医療区分2」ですが、算定の要件は、1日3回以上の血糖検査を行った時に、3日間だけ「医療区分2」とするものです。

 インシュリン治療など行っている方では、本当にそれでいいのか疑問に思いながらも「医療区分1」では、薬剤費も出せない厳しい報酬ですので、「医療区分2」をとる為に3日間ごとに、1日3回の血糖検査が行われるものと思います。
 入院中の高齢者では、食事や間食の管理もできており、インシュリン治療しているからと言ってそんなに頻回に血糖検査が必要とは思えませんが算定要件を守るためには仕方ないのです。
 むしろ療養病床に入院されているインシュリン治療の糖尿病患者さんでは、糖尿病だけで長期入院している人は少なく、ほかに合併症をもち、自己注射などが行えない患者さんなのです。血糖検査を算定条件にするくらいなら、インシュリン治療そのものを条件にすべきだと思います。


○ 実際の例。こんな患者さん達が医療区分1なのです。

 現在私どもの療養病床に入院されている患者さんですが、こんな患者さんも「医療区分1」と判定されます。早急な見直しが望まれますが、診療報酬が少ないからと言って、それこそ行き場もない・行き場も造らない改悪ですので、退院してもらうわけには行かず、そのまま病院としての企業努力で継続して入院治療を行っています。

 ただ、これと同じ状態で、新しく急性期病院、別の病院や施設から転院を依頼されたら、お断りするしか無いのが現状ではないでしょうか。

 現在でも受け入れに困る制度ですし、それ以上に病床数が大幅削減されれば、多くの「医療難民」があふれることは誰が見ても予測できます。

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S.S  86歳 女性 独居老人
 脳出血後遺症・左片麻痺・失語症、意識障害、嚥下障害、(仮性球麻痺)
 胃瘻造設、高血圧性心臓病、胃潰瘍、C型慢性肝炎、肝硬変、食道静脈瘤
 骨粗鬆症・左大腿骨頚部骨折


平成3年、71歳時検診で高血圧と肝機能異常を指摘され、当院受診。その後、C型慢性肝炎・高血圧性心臓病、骨粗鬆症の診断で通院していた。
平成14年自宅で転倒し左大腿骨頚部骨折。整形外科入院し観血的手術。術後当院転院しリハビリで何とか歩行できるようになり退院。骨粗鬆症の治療も加わりまた通院治療行われていた。
平成16年、腹痛で内視鏡検査。食道静脈瘤・胃潰瘍発見。
平成17年11月自宅で倒れているのを訪問した介護ヘルパーに発見され、当院に緊急搬送。
CT検査で右視床脳出血。左片麻痺、失語症みられ、急性期病院への転院も勧めたが本人・家族の希望で当院での内科的な治療とリハ開始。比較的改善みられベッド上で食事もでき、車椅子移動までは出来るようになっていた。

冬場にインフルエンザ罹患後、誤嚥繰り返し誤嚥性肺炎もあり経口摂取困難で、意識状態も悪化し、平成18年5月胃瘻造設行い経管栄養と経口栄養併用している。
降圧剤の血圧の管理も行われている。
内服薬は粉末や溶解して胃瘻より注入
 アルカドール、アムロジン 各1錠、アシノン、カブトリル 各2錠
 サアミオン、ウルソ、メチクール 各3錠 

C型肝硬変・高血圧性心臓病・骨粗鬆症・骨折などの合併症をもち、脳出血・右片麻痺・言語障害きたし、寝たきり・認知症・嚥下障害・誤嚥性肺炎繰り返し、胃瘻造設後。経管栄養とできるだけ経口栄養も併用しながら治療・看護続けている患者さんである。
肝機能検査・エコー検査・内服治療も継続している。
こんな患者さんも、ほとんど医療の必要ない「医療区分1」なのか。

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Y.N 81歳 女性 
 糖尿病、糖尿病性網膜症、視力障害、糖尿病性腎症、インシュリン治療
 高血圧性心臓病、不安定狭心症(3枝病変) 右大腿骨頚部骨折

昭和62年より糖尿病、糖尿病性腎症で地元の中隔病院に通院治療。
平成12年3月視力障害あり、増殖性糖尿病網膜症の診断で大学病院入院し硝子体切除手術受けたが視力の改善は見られなかった。その入院中病棟廊下で転倒し右大腿骨頸部骨折あり手術されたが、その後入院中頻回に狭心症発作みられ、循環器科転科し心カテにて3枝病変と診断、ただしバイパス手術は不能とのことで内服治療となり、リハビリも行われずその後寝たきりとなる。糖尿病にはインシュリン治療開始。
平成12年5月大学病院から地元病院へ転院。入院続けていたが長期となるため平成12年6月当院紹介。
視力障害、眼前視力。生活全介助、寝たきり。認知症も出現している。時々狭心症状あり。
全身湿疹アレルギー性皮膚炎。

治療
インシュリン 18単位 朝・タ注射
シグマート、メチコバール、ダオニール2.5、各3錠

マーズレン 2g、アタラックスP 1錠

オキロット、フランドル、各2錠
血糖検査行いながら糖尿病の管理は行っているが、長い経過であり頻回の検査は出来ていない。HbAIc8−9%前後、腎機能障害あり。

本症例も、糖尿病を基本に、網膜症・失明、腎症等の合併症をもち、転倒大腿骨骨折後、寝たきりとなり、加えて三枝病変の不安定狭心症で手術も期待できない多くの合併症例である。
本例の医療区分は、インシュリン治療の糖尿病として、頻回の血糖検査を行えば「医療区分2」であるが、それを行わなければ「医療区分1」となってしまう。
糖尿病・心臓病・腎臓病などの治療内容や、視力障害・寝たきりなどの状態は医療区分には全く考慮されていないことがお分かりだと思います。

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M.T 74歳 女性
 C型肝硬変・気管支喘息、肝性脳症、高アンモニア血症
 肝がん併発、

10数年来C型肝硬変・気管支喘息にて近医治療。
平成17年4月ころより、肝機能悪化・意識障害頻発し血中アンモニア163と上昇。国立病院入院し、肝硬変・肝性脳症の診断でアミノレバン点滴治療開始。
その後意識障害は改善したが、S8に3cm大の腫瘤(肝癌)を認め、肝動脈化学塞栓療法。1ケ月で退院となった。その後肝性脳症再発し、7月、9月に再入退院の繰り返し。
3回目退院翌日に自宅で意識障害認め4回目の救急入院おこなった。
アミノレバン点滴中は、意識障害改善するが在宅治療は限界として、急性期病院から治療継続依頼され17年10月当院紹介転院。
肝癌の再発・悪化には、これ以上の積極的治療は行わない事に家族と前主治医の話し合いとなっているが、本人には肝がんの告知はされていない。
10月転院後も頻回に意識消失発作みられていたが、頻回の肝機能のチェックとアミノレバン点滴、リーバクト内服で現在は小康状態を保っている。認知障害出現。
血中アンモニア140−160前後。肝がんもいまのところ悪化なし。

治療

アミノレバン点滴

アミノバクト3包、ウルソ6錠、キャベジンU 3錠

肝硬変・肝がん・肝性脳症・高アンモニア血症など、濃厚な医療・治療継続が必要とされる状況であるが、医療区分では、全く考慮されず、この例も「医療区分1」である。内臓疾患は全く無視された医療区分の典型である。勿論、介護施設では引き受けはなく、何度も退院し悪化の繰り返しであり、在宅の看護できない時、どうすれば良いのか。

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T.S 89歳 女性 独居


 慢性関節リウマチ・病的骨折(右上腕骨・左大腿骨頚部骨折)、洞機能不全症候群、
 ペースメーカー植え込み、慢性心不全、認知症、嚥下障害、胃潰瘍

10年来、慢性関節リウマチ・病的骨折(右上腕骨・左大腿骨頚部骨折)で整形外科入院治療。
身体障害 肢体不自由で1級認定

平成14年 整形外科入院中、洞機能不全で失神発作繰り返しも地元の国立病院でペースメーカー植え込みうけたが、浮腫などの心不全もあり。在宅での管理は難しく、また整形外科の入院も困難とのことで、地元の療養病床へ紹介され入院されていた。
その後次第に寝たきりとなり認知障害も出現し、心不全悪化するため、その療養病床病院でも退院勧められ17年9月心不全管理が出来るということで当院に転院。
四肢の変形・拘縮あり、生活全介助で治療継続していたが、嚥下障害・誤解性肺炎繰り返し酸素吸入、食事摂取困難、胃潰瘍・点滴管理も難しくなり、鼻腔栄養管理している。

内服薬

 ランソラール30 1錠、ラシックス20 1錠、テノーミン 0.5錠

 フランドル 2錠、
 ノイキノン、キャベジン、マグミット、各3錠

 サワドールテープ 1枚

身体障害者 肢体不自由1級を認定された慢性関節リウマチで、四肢の変形・拘縮もあり、不整脈でペースメーカー植え込みされたが、心不全のコントロールも困難になり、行き場もなく当院に転院されたが、やはり心不全などの内臓疾患の医療は、医療区分には反映されておらず、この症例も「医療は必要のない」グループにされている。

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H.M 75歳 女性

 直腸がん術後、人工肛門設置、脳梗塞後遺症、右片麻痺、失語症、寝たきり、

 多発性肺転移、骨転移


平成15年8月下血で発病。地元の医師会病院で進行性直腸がんの診断。
平成15年12月手術目的で医師会病院入院中、16年1月突然の右片麻痩・言語障害発症、脳梗塞の診断。そのため手術時期遅れたが1月末、直腸切除と人工肛門設置術施行。
その後回復期リハ病院に転院し、リハ受けたが、麻療の改善はなく寝たきり状態であり、老人夫婦だけで在宅での人工肛門処置や寝たきりの看護は難しく16年11月当院転院。治療継続している。
失語症もあり、病状の訴え困難。身障者 肢体不自由 1級。
ストマ管理などもつづけているが、転院後しばらくして胸写・CT検査で多発性性肺転移認められ、咳嗽・喀痰など徐々に悪化し、転移巣も増大、最近骨転移のため胸部疼痛みられ、MSコンチン投与開始している。

本例も脳梗塞後遺症・右片麻痺・言語障害とで寝たきり。生活全介助必要であるが、それ以外に直腸癌・術後人工肛門、ストマ管理が必要で、老老では在宅治療は難しい。そして癌の転移もある。
この例ではがん性の痛みがあり、麻薬投与行って「医療区分2」になっているが、もし痛みがなければ「医療区分1」である。

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H.M  84歳 女性

 

 脳出血後遺症、左片麻痺、身体障害者 肢体不自由 3級

 大動脈弁狭窄。難治性・慢性心不全


60歳時にクモ膜下出血で入院。後遺症無く治癒。
平成11年4月(77歳)、突然の左片麻痺、脳梗塞で当院紹介入院。高血圧・大動脈弁狭窄合併あり。リハビリ後、自立歩行出来るようになり2ヶ月で退院。独居生活。

平成17年12月、呼吸困難・咳嗽・ひどく、胸水貯留で入院。
心不全・大動脈弁狭窄みられ、手術も考慮されたが。手術は高齢であり拒否。
心不全安定後、在宅希望あり退院したが、3月に再び心不全悪化し再入院。入退院繰り返している。

家族との同居は難しく介護認定後(要介護1)在宅ヘルプサービスの依頼などの手配を行い退院したが、4月食欲不振・呼吸困難で肺うっ血再入院。NYHA3-4度。


内服 プロプレス4、ルネトロン、アルダクトンA、各1錠

   カプトリル12.5、ニコランマート 各2錠

   ノイキノン、イサロン 各3錠
   ニトロダーム、

 脳出血後遺症・左片麻痺であり、在宅での治療続けていたが、感染症後、心不全悪化し、その後何回も入退院繰り返しており。入院中は安静・食餌療法・内服の管理で心不全は何とかコントロール出来ているが、在宅では長くコントロール出来ない。今後心不全は治癒することは無く、治療継続が必要である。

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S.Y 54歳 女性


33歳 脳出血 右片麻痺、開頭手術
12年 肝硬変 腹水貯留で国立病院入退院あり、その後介護施設に入所していたが、すぐに病状悪化する為、介護施設では転院を拒否され、時々けいれん発作も認めていたため療養病床での治療継続依頼され平成16年2月入院。

利尿剤で腹水の改善あり、高アンモニア血症もリーバクトで何とか安定している。

介護施設ではやはり転院を拒否され転院予約も受け入れられず、公的な養護老人ホームにも入所の相談しているが、老人ホームの入所は65歳からが基本となるため予約できず。在宅にするにも家はなく、生活保護であり療養病床入院の継続を頼まれている。

内服

 アルダクトンA、ラシックス20 、デパケン 各2錠

 リーバクト3包、ウルソ6錠、プロルモン3錠 

脳出血での肢体不自由 1級に肝硬変・肝不全あり、継続して医療が必要な状況であるが、このような実例も医療区分1なのです。

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 もっと実例はありますが、実際の「医療区分1」の矛盾を書き続けも仕方ないくらい、この「医療区分」には何の根拠もない、医療費削減のために、お年寄りを病院から追い出すためだけの分類だと言うことがご理解できましたでしょうか。

 今回の医療区分で、何とか医療区分1から免れたのは、「医療区分2」の「17.慢性閉塞性肺疾患」と、「医療区分3」の「8.酸素療法を実施している状態」の呼吸器疾患だけです。

 その他の心不全・腎不全・肝不全などの慢性疾患は、ほとんど医療は必要ないらしく、身体障害の認定を受けても「医療区分は1」のままなのです。

 内臓疾患やその医療費、合併症などを無視したケアタイムによる医療区分が行われた為、本当に医療が必要な人たちも、医療が必要ない人たちに分類され、医療難民となり追い出されようとされています。そしてもっと怖いのは、「医療区分1」が半数もいるので、「療養病床は半数削減して構わない」という厚労省や議員の発想なのです。

 

 早急に、医療区分・診療報酬の見直しが必要ですし、「本当に医療が必要な人」たちを訳のわからない医療区分で「医療が必要でない」と判定されることを、国民もマスコミも十分に理解しておいて欲しいと思います。また病床の削減も簡単に大幅削減が行われると、感染症の大流行時などで入院ベッドが必要になったとき、どこで診療出来るのでしょうか。毎年インフルエンザの流行時には、日本全国で病床は足りているのでしょうか。

病床削減については、もう少し時間をかけて、色んな意見も参考にしながら検討して欲しいと思います。

 

          平成18年7月10日 吉岡春紀