老人医療費増加と福祉施設の関係


  老人医療費増加と福祉施設の関係について
 厚生省はお年寄りの長期入院を解消するため、老人保健施設や特別養護老人ホームの建設を推進し、かつ病院の施設も長期療養型病状群への転換をはかり将来的にはこれらの施設入所者は医療保険から外し介護保険制度(新しい老人の保険制度)の対象とするように計画しています。
 この制度自体には問題ありませんがその運用や建設時の認可の問題など官僚がらみの不祥事が起こったことはご存じの通りです。
 医療費を削減すべく医療保険制度の改定を行っている厚生省が一方では福祉予算のばらまきでかえって医療費(福祉費)のアップを起こしており、これに連なる汚職問題は益々ひどくなると思います。
 ここでは本当にこれらの施設が長期入院患者の医療費削減になるのか、問題はないのかについて私見を述べます。

老人保健施設・特別養護老人ホーム・老人ホーム入所者の診療について
 これらの施設入所者の診療体型はかなり異なります。
 老人保健施設入所中の治療行為は基本施設療養費に含まれ、当施設は保険医療機関ではないため、施設での診療や医療行為は医療保険には請求できません。
 従って検査や治療が必要な場合には、併設の医療機関か別の医療機関に紹介し診察を依頼することになります。しかし紹介先の医療機関でも検査には制限がありまた、投薬や注射は行えません(保険診療が出来ません)。入所の費用はまるめであり、従って老人保健施設の入所者は治療の継続や検査が必要な場合かなり制限を受けています。
(老人保健施設入所者の診療参照)
 一方特別養護老人ホームでは、外来診療は可能で一般的には嘱託を受けた診療所で投薬や注射、検査が行われていますが、嘱託医の往診行為は認められていません。
一般の老人医療と同じ治療が為されています。
 こうしてみると老人保健施設は、治療の必要の無くなった患者さんの在宅までの中間施設という設定が足枷になり、治療継続が必要な患者さんでの治療が行いにくい施設であると考えられます。現実に病院より老人保健施設に移ったら薬が減り、慢性疾患が悪化し再入院となったケースは多くあります。
 老人ホームの診療は一般の老人患者と同じで老人ホーム自体は医療施設ではありません。万一病気が悪化し入院した場合入院期間が3ヶ月を越えるとホームの入所の籍がなくなります。
 従って問題は老人保健施設の入所者の治療と言うことになります。せめて必要最低限の治療は老人保健施設で行ってもらいたいと考えます。

老人病院・介護力強化病院・長期療養型病床群
 これらの区別も一般にはわかりにくい分類です。
 一般病院の内、入院の老人患者の比率が60%を越えるものは老人病院と定義され(一部基準看護を取っている場合と外科系病院では免除)、老人保健法による保険診療の対象となります。
 この老人病院の内、看護婦、看護助手の比率を満たし介護力を強化したものが介護力強化病院と言われ診療報酬の加算があります。またこの病院では一般に出来高払い制度よりまるめが優遇されていますので、診療報酬はまるめが適応されることが多いようです。
 長期療養型病床群はこれらの老人病院の内、1病室の人数制限、廊下の拡張など施設の環境改善を行った病棟にたいしての呼び方で、生活環境改善工事を行えば最高1人1日1000円の加算がつけられています。
将来は一般の老人病院は廃止し長期療養型病床群への転換を考えています。

ここでこれらの施設や病院の医療費を考えてみます。
 1年を超える長期入院で、リハビリテーションの加算のない場合は出来高払いの老人病院では食費を除き一般的には24-26万円程度と考えられます。
 介護力強化病院のまるめではこれが月平均31-32万円に、長期療養型病床群では月34-35万円程度となります。
 長期入院の是正、老人医療費の高額化などを盛んに訴えている厚生省が、反対に施設の環境改善工事を行わせて医療費をアップさせているとしか言えない状態です。
 老人保健施設での月26-27万円、特別養護老人ホームでの月25-26万円の施設療養費や措置費にしても自己負担や特別養護老人ホームの医療費を含めると月30万円を超え、かつ治療や入所に制限の多い施設を作ることは、何のために長期入院の医療費を体裁のみであげているのか解りません。
勿論今の日本の医療費は諸外国に比べきわめて貧弱で、厚生省の言う長期入院の医療費平均が50万円*もあるならば、もっと介護者を増やしたりアメニティを増したりもできると思われ、一般の病院の有効利用をすれば、金をかけて長期療養型病床群の改造をする必要もなくなるものと思います。
 (*厚生省の試案では長期入院の老人の平均が月50万と計算しているようで一般の老人病院では現実離れの医療費です。老人保健施設のモデルの外国の数字をそのまま当てはめたのではないかと思います。ドイツでは老人の医療費が月90万、老人保健施設の医療費が月50万程度との報道がありました。外国ではこれだけの医療費がかかっているので、スタッフの充実、施設の充実が行えるのです。)
 月30万程度の入院や入所費で国の言う患者さんのための満足のいく医療が行えるとは思いません。
 ディケア・デイサービスを行われている患者さんの医療費が月20-25万もあることを考えると厚生省の医療費削減の主張は全く絵空事に見えます。
               平成9年8月  玖珂中央病院 吉岡春紀
老人入院・入所施設基準について


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