認定審査会の苦悩

認定審査会での挨拶
 「介護認定作業はもうすぐ始まりますが、認定方法・制度の運営などまだ改善の余地はたくさんあると思います。しかし、この制度に不満があるからと言って、現実に認定審査の申請があれば、審査会として審査せざるを得ません。我々の認定審査会としては公明正大に分かりやすい、申請者の側にたった審査を考えています。
 しかし、昨年のモデル事業での認定審査を経験された方も多くおられますが、コンピューターでの一次判定がいかに難しいか、また当てにならないかは実感されたことであろうと思います。
 今年の一次判定ソフトは昨年より改善されたとは聞いていますが、判定の資料に使われた要介護者の数や対象は全く変わっておらず、介護の時間をいじくったり、組み合わせを変えたりしただけで本質的には変わっていないことが指摘されています。また最近は一次判定の状態像でも、ある項目を重く変更したら介護度が軽くなると言う、いわゆる逆転現象も頻回に見られると言う報告もあり、果たして一次判定は公正であるのか疑問視されています。むしろ一次判定ソフトは欠陥だと言われています。
 特に自立と要支援・要介護1を区別することは一次判定の推定介護時間区分では無理であると結論されています。
 そんな中での認定作業ですから、全てに公正と言う訳には行きませんので、申請者からいろんな不満も出るかも知れませんが、この審査会では公明・迅速を心がけたいと思います。
 一方、3つの合議体で全く同じ結果が出るものでもありません、先に述べたように一次判定ソフト自体の問題がありますし、調査員の調査の仕方、項目への取り上げ方、入力時の転記ミスなども改善すべき事項です。
 最後に基本姿勢として、どちらか迷うような症例の審査に当たったら、申請者に有利なような認定にすべきだと考えています。」
 これは、介護認定審査会の研修会で、3合議体の会長に就任したときに私が委員の皆さんにした挨拶の一部です。

認定審査会の苦悩

 その後審査は始まりましたが、99年一次判定ソフトには大きな欠陥が見つかり、認定審査の手順についても、厚生省の作ったプログラムから打ち出される一次判定を原案とする二次判定の手順では間違った判定をする可能性があると考えるようになりました。
 従って私どもの審査会では、より公平・公正な認定をするためには「厚生省のマニュアルに沿っていない判定手順も致し方ない」との全委員の意思統一を行った後に認定審査手順を変更しました。
 これにはどんたく先生・認定審査会の流れや、尾形先生らの審査会の判定手順を参考にさせていただきました。
 尾形先生がある掲示板で述べられているように「厚生省のマニュアル通りに二次判定を進めれば、どの審査会でも同じ結果が出るかもしれません。しかし、それはみんなが同じ不利益を被っているのだから我慢しなさいというようにしか聞こえず、一次判定プログラムを修正することが出来ないならば、せめてこの一次判定を原案とするような二次判定のマニュアルの修正を早急に行ってほしいと厚生省に訴えていくべきです。」だと私も思います。
 しかし、現場ではすでに認定審査は本番に入っているわけですから、少なくとも12年4月までの6ヶ月間は途中で判定法が変わることは好ましくありません。
 全国レベルでの「公平な」判定は出来ませんが、せめて地元では「公正な」判定が「迅速に」出来るようにしたいと思っています。

認定審査手順
 我々の判定手順の基本も、まず一次判定の結果を見るのではなく、主治医意見書および基本調査の「障害老人の寝たきり度・痴呆性老人の日常生活自立度」から要介護度を推測して行く方法を利用しました。これは以下「寝たきり度・自立度」とします。
 後で述べますように、この方法にも勿論大きな問題点はあるのですが、現時点で判定するにはこれが「よりベター」と思ったからです。

 認定審査資料は原則として5日前に前もって届けられており、委員は一通り目を通し問題点を把握して委員会に出席します。
 本来なら前もって調べなくても当日のチェックで判定が出来ることが理想です。そうすれば委員の負担も軽減でき長続きするかも知れません。しかし、今は2-3日前から前もって下調べしておかないと審査会で時間もかかってしまい、25-30例の審査を2時間位で終えることは到底出来ません。1例あたり審査に4-5分しかかけられないと言う事であり、下調べは必要です。
審査会前には委員は数日1-2時間の下調べ。
それでも最初は認定審査は2時間を超えある合議体では10時になってしまいました。
審査員も大変な仕事だと言うことを分かっていただきたいとも思います。



さて、具体的な手順
1.申請者の年齢・性別の確認する。
2.「主治医意見書」の病名・経過を簡単に紹介。特に65歳以下の第2号被保険者の 申請では「主治医意見書」第1病名の適否の確認を行う。基本調査の問題点を紹介。
3.主治医意見書および基本調査の「寝たきり度・自立度」を照合する。
 両者が一致している場合には意見書・基本調査・特記事項とも矛盾がないか判断するにとどめる。  このうち一致とは両者のランクが1ランク以内のものとする。
 両者のランクがいずれかで2ランク以上異なる場合には,基本調査の特記事項と意見書のチェック欄を照合し徹底的なすり合わせをし,合議体の意見として「寝たきり度・自立度」を決定する。
 3ランク以上の異なりがある例では同席した調査員に尋ねるか、再調査とする。

 最初はこの様な基準で始めているが、どの程度の異なりを一致・不一致とするかは審査会で意思統一することが必要である。
 言い換えれば、審査会として「寝たきり度・自立度」を確定し推定要介護度の幅を求めると言うことになる。
4.3で決定した「寝たきり度・自立度」の組み合わせから想定される要介護度の幅を決定(例えば要介護3・4を中心に2・5までの広がりがあり得ること,などを確認する)。これには「日常生活自立度の組み合わせによる要介護度別分布」を使用する。
 ここまでの判定は一次判定結果は横においておき、状態像を把握することから入りる。

5.ここで初めて一次判定結果を参照する。それが4で想定した幅にぴたっと収まっておれば,状態像のレーダーチャートと比較して最も類似しているパターンを探す。
 類似パターンが一次判定結果の要介護度の中に含まれておれば,そのまま採用。
 なければ4で想定した要介護度のレーダーチャートから類似パターンを探索する。

6. 続いて、各評価項目の調査結果と「主治医意見書」の麻痺評価等各記載に矛盾の無いことを確認する。その上で、中間評価項目・レーダーチャートの各介護度のモデルとの照合を行い、概ね一致する介護度を確認する。

7. 特に今回の一次判定では「問題行動」の有無で判定に差がでないことが問題となっており、問題行動の多い例では意見書の特記事項、基本調査の特記事項に介護度の変更にかかる特段の記載がある場合には、介護度の変更を考慮する。
8.最終的には委員会の総意と多数決で決定する。


一次判定の縛り
 最終判定を下すときにネックとなるのが厚生省の一次判定の縛りである通達「要介護状態区分の変更等の際に勘案しない事項について」である。
これでは一次判定を基準としての変更を考えた通達であり、一次判定が欠陥であり、この一次判定にとらわれない二次判定を行う上では、この通達の廃止を求めて行くことも必要だと思います。
と言う方法をとっています。
「要介護状態区分の変更等の際に勘案しない事項について」は相変わらずわかりにくい、判断の難しい記載になっています。興味あればご覧下さい

この認定審査手順の問題点
 この様な手順で認定審査を行うことにしましたが、全てこれでよいとは思っていません。現実点で出来るベターな判定方法と考えているだけです。
 これでは、主治医意見書および基本調査の「寝たきり度・自立度」」が、認定審査で俄然大きなウエイトを占めるようになっています。
 現実にはこの2つの組み合わせで、要介護度を判定しても、欠陥のある一次判定ソフトの推定要介護時間で判定しても大きな差はでないだろうと思います。

 しかし、「寝たきり度・自立度」などの判定方法は我々医師にとっては日常の診療で使っている判定法ではなく、医学教育でも習ったことはありません。一般的な判定法として受け入れられているかどうかは疑問です。
 また福祉の領域の方には、一般的な方法かも知れませんが、看護では一般的な分類法ではないとのことですし、使ったことはありません。調査員の中にも全てがこの判定法を理解しているとは思えません。また98年までのモデル事業では意見書にも無かった項目ですから、厚生省も最初からこの項目を参考にするなんて思っていなかったと思います。

 と言うことは認定審査に関係するものが全て了解した判定法でない方法を使って判定すると言う、かなり大ざっぱな判定であるといえます。
 医療福祉の分野で現場で受け入れられている方法か、短時間の判定が可能か、介護度と合うかどうかの検証も必要だと思います。
もし、それが検証されているならば、より簡単な判定法として使えばよいと思いますし、介護保険の関係者には、その記載法を徹底する必要があります。

 主治医が「寝たきり度・自立度」を判定する場合には、我々は患者さんの病気としての診断はいろんな方法を使って行いますが、「寝たきり度・自立度」などは外来の診察室での短時間の診察だけでは判定はかなり難しいと思います。
 一方、調査員も顔馴染みの患者さんならば状況の理解は出来ますが、初対面での調査だとすれば調査項目のチェックをするのが精一杯で「寝たきり度・自立度」の判定はかなり難しいのではないかと思います。
 むしろ日頃介護している家族や介護者の意見が優先されてしまいます。

 そうすると公平性に問題が出て来ますし、短時間に見たままで判定するとなれば、主治医や調査員が大ざっぱに判断した項目で、それが一致していればそのまま判定が決まってしまうと言うことでもあります。
 この判定法も急場しのぎの判定手順として考え、このまま継続してゆけるとは思えません。 

 またこの方法のもう一つの欠点は、時に、意図的に公平性が保てなくなることだと思います。
と言うのは、ある地域では主治医と調査員が同一施設であることを認めているからです。全国で同一施設は禁止することにしている認定審査会もあるかも知れませんが、調査員の数が少なく、ケアマネージャー数の施設の偏りなどもあり、調査員を施設のケアマネージャーに委託している審査会は多いと思います。

 施設入所者だけでなく、デイケア・ディサービス、訪問介護などの在宅でも関連施設の調査員に委託して行っています。
 いつも介護や看護している調査員が調査をすることが、一番申請者の実状がわかり正しい調査が出来るとは思っていますし、それが申請者にとって良いことだとは思います。本来ならこれが一番いいのです。

ただ、そうばかりでもないことが現実です。
 主治医と調査員の「寝たきり度・自立度」で認定を行うということは主治医と調査員同一施設ならば、幾らでも申請者の内容を操作調整できることでもあります。両者が調整して「寝たきり度・自立度」をチェックされれば判定は幾らでも変えられることになります。
 福祉産業として営利を目的に営業されることが可能な介護保険制度では、やはり最低の歯止めとして、主治医と調査員の同一施設を禁ずる事くらい作っておく必要はあると考えます。


認定制度は廃止しませんか。
 本来、調査員の1時間程度の調査とコンピューターの一次判定で、申請者のランクを厳密に7ランクに分けることは無理なのに、介護報酬を細かく決めたため無理してそのランクを決めなくてはならず混乱してしまったとも言えます。
 自立・要支援・要介護1などは一次判定では判定出来ないともいわれますし、要介護4.5も明らかに区別できる指標はなにもありません。何を使っても厳密な分類は不可能とも言えます。
 ですから最初から公平・公正な判定は無理だとわかっているようなものです。
 せめて「要支援・要在宅介護・要施設介護」程度の分類で良かったのではないかとも思います。

 それならば、
 何度も言いますが、個人的には認定審査そのものを無くした介護保険制度が良いと思っています。
 時間と金と労力をかけて、不満と混乱の認定審査は無くしてはどうでしょう。すっきりした、介護保険制度になると思います。

         平成11年11月11日
                       玖珂中央病院 吉岡春紀



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