痴呆の再調査に関して


あるインターネットの掲示板に先日こんな書き込みがありました。
「日医が、いよいよ、痴呆の方の二次判定基準を検証するための調査を行うとのことです。内容をざっと伺いましたが、想像以上に大規模なものであり、とてもではありませんが、すぐに認定審査の現場にフィードバックできるような代物ではなさそうです。4月末を調査の目途としており、データ解析、検証の時間を考えると夏から秋になるまで、結論はでないのではないでしょうか。」

この内容のように、日本医師会は日医総研(日本医師会内の研究所)と共同で、痴呆老人の在宅での基本調査を行うことにし、先日初会合が東京で行われ、私も参加しました。

日医ニュースでも報告されています。

― 日医介護保険委員会 ―
 日本医師会の介護保険委員会が1月24日開かれ、同委員会が行う要介護認定の二次判定基準づくりを目的とした調査研究で、協力医師会を対象にした調査要綱の説明会が行われた。
 実施期間は2001年2〜4月、全国14都道府県の30地区医師会が調査に協力する。動ける痴呆患者のデータを1医師会当たり10例〜30例程度集める(比較対象として寝たきり患者についても10〜20例程度収集する)見込み。 

 このように今年4月末を目処に在宅の身体障害の少ない(動ける)痴呆の患者さんを1週間かけて調査し、その中でも24時間の詳細な介護時間調査などご家族にもかなり負担がかかる調査です。いままでの施設調査では得られなかった貴重なデータが得られるものと期待はしていますが、全国の一斉調査ではなく日医から声をかけられた約30の医師会だけが持ち帰って調査に協力するという変則的なものです。折角の調査なら全国規模で行えなかったのかとも思います。

 また厚生省も痴呆の検討に着手し始めましたが、聞く所によると在宅の調査は断念し、施設のタイムスタディーの調査をやりかえるようです。約5000人規模の調査のようです。

 いずれにしろ現在の一次判定に使用されている介護の基本調査は不正確で批判されており、この基本データの見直し調査は意味はあると思いますが、果たしてその結果直ぐに一次判定や二次判定に反映できるかと言えば、私は無理なのではないかと思っています。

 と言うのは、認定審査のモデル事業を見直していていろんな疑問にぶち当たっているからです。

 痴呆の認定に関しては、モデル事業に関わった方は覚えておられるかも知れませんが、この時の一次判定の問題点の一つにあがっていたのが、身体障害の少ない痴呆や問題行動例では一次判定で異常に要介護度が高く出ることと、一方寝たきりなど身体障害のひどい方の介護度はむしろ状態像から考えても低すぎる事でした。
 そしてモデル事業では一次判定の結果の変更は今の変更事例の縛りよりもっと厳しい変更禁止事例のためと実際の介護サービス利用には影響しないため審査会も敢えて変更せず、90%以上が一次判定を変更しない結果となっていたのです。

 現在使っている一次判定ソフトとは全く逆の認定結果になっていたのです。

 そのためにこのことを質問されると厚生省や自治体の担当者はこんな回答を用意していました。

「痴呆の進行に伴って、問題行動がおこることがあります。例えば、アルツハイマー型痴呆の方で、身体の状況が比較的良好であった場合、徘徊をはじめとする問題行動のために介護に要する手間が非常に多くかかることがあります。しかし、身体的な問題が発生して寝たきりである方に痴呆の症状が加わった場合、病状としては進行していますが、徘徊等の問題行動は発生しないため、介護の総量としては大きく増えないことが考えられます。」

 そしてみんな痴呆は元気な方が手が掛かるとのことで納得させられていたと思います。

 しかし11年10月から準備認定審査に入り本番の一次判定認定ソフトを使ってみて、ほとんどの審査員が「おや?」と思ったはずです。元気な痴呆や問題行動のある例の判定結果は無惨な状態となり、全国的におかしいと考えられ、厚生省も再調査に乗り出したのです。

 現在の一次判定ソフトは身体障害を中心に分類され、痴呆や問題行動は全く考慮されていない、むしろ10年モデル事業の結果より問題行動などは、外されたのではないかと言って良いと思います。

 10年モデル事業は認定審査の最終チェックのはずだったと思います。これに不具合があればもう一度検証して使わなければならないのに、検証もなく(本番前に数市町村で行ったとは言われていますが)突入したため現在の混乱が起こっていると言えます。

 この時のソフトの変更などはだれが、どんなに操作したのかそれこそブラックボックスのままです。これが分かれば再調査しなくても原因だけはわかります。

 と言うことは、要介護認定の要介護度の分布や、軽重度は厚生省の担当者の判断次第で幾らでもソフトの内容は変更できるわけですから、今回日本医師会や厚生省が痴呆の介護時間調査を幾ら厳密にしても、そのデータとしては意味はありますが、一次判定ソフトを変更することや改善することとは全く別の問題だと思っています。

 そして今回は問題のある痴呆の調査を行うことになっていますが、この要介護認定の問題は痴呆の判定だけでなく一次判定そのものの欠陥をどうするのか、また身体障害の介護度と問題行動の介護度を一緒に判定することの是非など、考える事はもっとあります。

 でも折角日医・厚生省とも同じ問題意識で痴呆に取り組み始めていますのでせめて調査項目や調査方法を同じにしてお互いのデータを共有し、利用できるようにするように出来ないものかと思っています。

 我々の医師会も地元自治体や調査員の方たちと協力して出来るだけの症例を調査してみたいと思います。これは全国調査に協力すると言うだけでなく、我々も痴呆の介護の実態を知っておく必要があると判断したからです。

                平成13年2月18日 吉岡春紀


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