1
アルタザール銀行、ジェノバ支店。開店は朝の9時、閉店は昼過ぎの15時。だがそこから日々の事務業務がある為、夕方の19時頃に職員は退社する。というのは求人募集の蘭に書かれている内容で、実際はさらに遅く21時頃となる。
2階の事務所の明かりだけがついているジェノバ支店へ重々しい足取りで戻るのはいつぞやジッタの工場をおとぞれた銀行員の女だ。遅くまで事務作業をしていた社員達も退社する頃にようやく彼女は営業を終えて自分のデスクへと戻る事が出来たのだ。ゆっくりと深く椅子に腰を下ろすと、目下には1枚のメモ用紙がある。
『マリオ所長がお呼びです』
いつかかれたメモなのかはわからないが、少なくとも今朝彼女が出社した時にはなかったメモだ。今日置かれたものに違いは無い。ため息をついた後ゆっくりと椅子を立ち上がるとマリオ所長がいるとされる部屋へと向かった。
ノックすると中から「入れ」と声がした。そして入ると部屋にはマリオ所長がいる。人間が座る為の椅子に座っているのはコロボックルのマリオである。身体のサイズにあう椅子に座るのはプライドが傷つけられる為か拒んでいるようである。
「なんでしょう、マリオ所長」
「ニーナ君。君が入社した時から君の事を見ているが、営業成績の伸びが非常によくて俺の上司からの評価も素晴らしい。まずそれを言わせてくれ」
「…ありがとう御座います」
「ここからは忠告だ。世の中にはバランスという言葉がある。そして信頼という言葉がある。信頼とバランス、この二つの言葉には繋がりがあると思うかね?」
「あまりないようにも思えますが…よく解りません」
「例え話をしようか。…ある日、仕事がよく出来る人間が入社した。その人間はグイグイと自らの成績を押し上げて同僚を押し除けトップへと上り詰めた。誰もがその人間を尊敬し、頼りにして、そして嫉妬した。そんなある日の事だ。その人間は大きなミスを犯してしまった。…さて、どうなったと思う?」
「なんとかミスを自らの努力でフォローした、でしょうか?」
「そうだ。なんとかミスを"自らの努力で"フォローした。その人間は、誰も頼る事無く自らの努力でフォローしたのだ。いや…頼る事無く、なのか、頼る事が出来なくて、なのかは解らない。だがどっちにしたって、自らで自らのミスをフォローしたのだ」
「その話の教訓はなんでしょう?」
「教訓か?そのまんまさ。仕事のよく出来る奴は、人一倍苦労する」
「あまりよくわかりません…人一倍苦労したから仕事がよく出来るのでは?」
「人一倍苦労して仕事がよく出来て、仕事がよく出来たからさらに人一倍苦労して、人一倍苦労したから仕事が更に増えるんだ。何とかしようと人一倍苦労したら仕事をさらに押し付けられた。…今の君の事ではないかね?」
「…」
「少しは自分の弱さを見せたらどうなんだ?誰も君を助けてくれなくなるぞ」
「私は自分の中に弱さがあるとは思っていません。今までも誰にも助けてもらわずに仕事をこなしてきました。これからもこのやり方を変えるつもりはありません」
「ふむ…話は聞いているぞ。メッサーシュミット社のジッタという社長、別口からまた借金したそうじゃないか。取り戻す採算はあるのか?」
「なんとかしてみせます。私の辞書には失敗の2文字はありませんから」
「なんとかするだと?相手は破産してる上でさらに借金してるんだぞ?あの小っこい身体を揺さぶっても小銭1枚すら落ちてきやしないぞ。ケツの毛でもむしりとる気か?」
「お金を持っている者から奪うのは強盗の仕事です。私は銀行屋です。お金が無いところからお金を産み出すのが私の仕事です」
「…いいだろう…どんな手段を使っても、貸した金を利子とチップをつけて返して貰うんだ。どんな手段を使ってもだ。俺が許可する」
「お任せください」
ニーナはマリオの怒声を聞いても顔色一つ変えなかった。最後は「これ以上マリオの顔は見たくはない」とでも言いた気に、少しの心残りすら見せずに退室した。
2
仕事帰り、ニーナはジェノバの繁華街にある小さなバーへ立ち寄っていた。
銀行員、とりわけ営業が中心の彼女の仕事柄、昼間の喧騒を逃れる思いで立ち寄るバーはいつも人が少なく、静かな場所で飲めるお酒は彼女の精神的な疲れを癒していた。
その日も彼女の精神的な疲れを癒してくれる…はずだったが、その日に限っては普段の静けさが無かった。見慣れない客がテーブル席に居るからだ。
その客はアルタザールの軍剣を携えている事から騎士か、または元騎士なのであろう。身の上話を陽気にしている。陽気なのは酒が入っているからだけではない。取り巻きには若い女性達を数人連れまわしているのだ。
「うざぃ…」とニーナは呟いた。今の彼女の気分にはこの店は会わない。もう家に帰ってしまおうかと席を立とうとしたが、その陽気な男のする身の上話がどうしても聞きたくなっている自分がいた。現実逃避を少しだけしてみたいと本心は思っていたのだ。そして、聞き耳を立ててみるニーナ。
「それでな、オスナサイルの小さな村を救った俺達は、次なる目的地のジェノバを目指して森を突き進んでいたわけよ。そしたら森の中から重い足音が聞こえる…オーク達が俺達を付回していたのさ!この人数で奴等とまともに殺り合ったらまずやられてしまう!って事で、俺達は吊り橋まで逃げたのさ…それでもしつこく追ってくるオークども」
「それでそれで!?」と取り巻きの女が急かす。
「俺は言った。『そうだ!吊り橋を焼き払うんだ!奴等を対岸へ渡らせてはならない!』」
「うんうん!」
「ボウガンを構えたオークどもが俺と俺の右腕の風雅を狙う…だが卑怯にも奴等は、俺達の背後にいた女子供を狙ってきやがったんだ!」
「えぇーッ!」
「『げへへへ…あの乳くせぇチビガキは俺様が仕留めてやるぜぇぇ』と汚い笑みを浮かべるオーク!そして凶弾が俺の優秀な部下である乳臭いガキに命中してしまう…」
「そ、そんな…それでどうなったの?」
「谷底へ落ちる乳臭いガキ…風雅が叫んだ。『助けにいこう!』…だが俺は止めたんだ。『今助けに行けばオーク達の思う壺だ!』…勿論、俺だって助けに行きたかった。だがここでみんなを死なせてしまうわけにはいかないんだ。みんな俺の大切な仲間なんだから」
「…そうだよね、仲間は大切だよね」
「危機を回避した俺達は森で休息を取っていた。みんなが寝静まった頃…俺は単身オークの本拠地へと向かったんだ」
「え…そんな、危険だよ?!」
「つづく」
「えーッ!」
「まぁこの続きはまた今度な」
「聞きた〜い!」
「ダメダメ、良い子は寝る時間だぜ」
「いいも〜ん。私、悪い子だも〜ん」
「ダメダメ、悪い子も寝る時間だ」
と言って立ち上がるロイド。それから周囲の女性達に引き止められそうになるが、ロイドが拒み、また引き止められそうになり、ロイドが拒みというやりとりが続いてから、女性の中に一人がロイドに質問する。
「ねぇロイド様、結局のところは何が目的で旅をしてるの?」
「ん〜…世界を救う為かな?」
「かっこい〜!!次の目的地はどこなの?」
「この沖にあるピリヤニス諸島かな。そこに秘宝が眠ってるのさ!」
「ひ、秘宝?!」
「世界を救う為の秘宝さ!フッ」
「かっこい〜!!」
「まぁ、今はその島へ向かう為に飛行艇をチャーターしてんだけどね。その飛行艇会社のチビ社長が…これがまたチビでさ。ほら、こんなにチッさいの」
と言ってロイドは小指の先を指差す。
「ぷっ…飛行艇会社のチビ社長って、ジッタ社長の事でしょ?」
「ん?あぁ知ってるのか」
「うん、この店にも着たことあるよ。あの会社…なんていったっけ、倒産したって思ってたんだけど、まだ続けてたんだね」
「ほぼ倒産だぜ。だが奴は俺達の為に借金してまで飛行艇を造ってくれたんだ。身体は小さいが心は大きい…奴はああ見えても立派な男だぜ」
「ふ〜ん…そうなんだぁ」
「そんじゃ、俺はそろそろ戻らないとな」
「え〜ッ!」
それから何度か引き止められながらも店を結局出て行く。ロイドも一時的な取り巻きの女達も店を去り突然しんと静まり返る。いつもの静けさが訪れて安心する…はずだったニーナだが、先ほどの話が頭に引っ掛かっていた。
(ジッタ社長…一体何をしでかすつもり?)
ニーナと同じくカウンターに座っていた客の男は五月蝿かった客にケチの一つでもつけようとロイド達が座っていた席に向かって捨て台詞を吐いた。あの五月蝿い女達の声の間から聞こえるロイドの話も嫌でも聞いていたようだ。
「ピリヤニス諸島ねぇ…あの廃墟になった農村に御宝なんてあるのかね」
その声をニーナは聞き逃さなかった。すかさず男に詰め寄ってそのまま襟首を掴み上げるような勢いで問いただした。
「ねぇ、そのピリヤニス諸島の話、詳しく教えて欲しいんだけど」
「ん?アンタもあのロイドって男の話を聞いてたの?」
「嫌でも聞こえるでしょ」
「ピリヤニスの話をしたのは俺だよ。俺がロイドの仲間の…誰だったかな…まぁいいや、とにかくその仲間の誰かに俺が話したんだよ」
「お宝があるって、そう言ったの?」
「いや。ピリヤニスには既に廃墟になった農村がある、って話した。あと、その農村には教会はあるか?って聞いてきたから、あるって答えた。そしたら、連中そこへ目指して行こうって話してたね」
「…ふむ。何かひっかかるわ」
「何かって…アンタもお宝だとかの話を信じるのか?」
「お宝の話は半分に聞くわ。私はジッタ社長がお金をきちんと返してくれるなら何も文句はないのよ。例えそれがお宝を手に入れて、それを売ったお金であってもね」
「このご時勢に、お宝かぁ…夢があるねぇ」
「夢で現実が何とかなるなら、それにしがみついてでもなんとかしたいのよ。今の私はね。アナタにも協力してもらいたいのよ。謝礼はするからさ。アナタ情報屋でしょ?」
「なんで知ってるの?」
「お宝求めて世界中を旅して、あげくお金に困って借金したことあったわよね?私はこれでも今まで相手にしてきたお客の顔全部覚えてるんだから。アナタは私の事は忘れたんでしょうけどね」
「覚えててくれたのは嬉しいけど、きっと俺がカッコイイ男だから覚えててくれたんだと思うよ。アンタが無意識の内にそう感じて、脳に俺の顔を焼き付けてるんだ」
確かにその男はまんざらでもない顔立ち、それは男らしさという感じではなく、どことなく女性的な整った顔立ちだ。だがそれをあからさまに自慢されると素直に受け入れられないという性分のニーナは懐からメガネを取り出してそれを掛ける。
「あら、アナタ、そういう顔立ちをしていたのね」
情報屋と名乗る男は肩を竦めて、それから握手する為に手を差し出した。
「エルドだ。よろしく」
「ニーナよ。よろしく」
そして二人は握手した。
3
工場にある従業員用の寝室で物音で目が覚めたはつみは音の主が酔っ払ったロイドである事を知る。テンポの外れた足音は不器用に階段を上る姿を想像させた。ロイドぐらいになると酔って転んでも受身が取れるらしいが、既に何度か階段を転げ落ちた経験もあるゆえに今回もまた転げ落ちないだろうかと足音に聞き入った。やがてそれは2階の寝室へと進んでいき消えた。
一安心したはつみが窓の方へと目をやると月明かりに照らされたキサラが居るのが見えた。寝巻き姿で街の明かりを見つめる真っ赤な目。どことなく寂しそうにしていた。
「キサラさん…まだ起きてるの?」
「え?…うん」
「眠れないの?」
「えぇ…」
キサラは街の明かりから目を逸らすと、そのまま顔を室内へと向けた。
「夜は真っ暗になるから嫌いですわ」
「暗闇が怖いの?」
「怖くは…ありませんわ。ただ、色々なものが色を失っていくのが嫌なだけ。…ところで、はつみ、貴女、光と物体の話、ご存知?」
「ううん…知らない」
「わたくしの学校の先生がおっしゃってた事なのですけれどね、人々が目にしている色は、本当は物体の色ではないらしいですわ。光が物体に当たって反射してそれが目に入って初めて色となるの。だからわたくし達が見てる色は物体の色じゃなくて、光の色なの」
「光の色…?」
「えぇ…そう。本当の物体の色は、ほら、その暗闇の色、漆黒が物体の色ですわ」
そう言ってキサラは寝室の真っ暗となっている壁の方を指差した。
「光に照らされなければ、物体は自分の存在を示す事も出来ない…。わたくし…先生の話を聞いてすごく悲しくなりましたの。あるって信じていたこの世の殆どのものが実は漆黒で、見ていたものは光の作り出した偽り」
「…偽り」
「目に見えるものには真実はない、そう信じてきたけど、光の当たらなくなった物体、ただ漆黒となった物体を見ていたら、それが真実だとは思いたくないのですの」
4
翌朝、朝霧に覆われたジェノバの繁華街にエルドとニーナの姿があった。
「それで、どこへ向かっているの?」
それほど眠っていないのか欠伸をしながらニーナが言う。エルドもまた普段から早起きは慣れていないようで生活のリズムを壊されて眠たそうに返す。
「街の便利屋だよ」
「便利屋といえば、街の貧困層がやってる商売よね」
「悪かったね。俺も便利屋が出発点でね。アンタは貧困層の人間が嫌いなのか?」
「隙じゃないわね。別に貧乏人が嫌いってわけじゃないけど、貧乏になるとよほど精神がしっかりしていない限りは心も貧しくなるものだから」
「アンタから見たら俺はどう?心は貧しいほうかい?」
「今の所、普通だわ」
「そりゃどうも」
二人は街の小さな路地へと入っていく。人が一人入れるほどの通路、そこは元々は少しだけ広かったのだが誰かが荷物なのかゴミなのか分別がつかないものを沢山積み上げたあげく、一人通れるのがやっとの隙間になっている。そしてその隙間を越えると便利屋と思しき窓口がある。「便利屋」という看板があるわけでもない、元々は何かの店があった名残がある。店には誰もおらず、かといって閉店というわけでもないようだ。
エルドは窓口から顔を突っ込んで中を見渡し、
「すいませ〜ん。仕事を頼みたいんだけど」
しばらくして店の奥、それも随分と遠くから
「…あ〜い」
と声が聞こえる。ガサゴソと遠くのほうから足音らしきものが聞こえる。廊下を歩くような音ではなく、まるで沢山のゴミの中を走り回る音である。時折早く、時折何かを慎重に避けるように遅く聞こえ、ようやく窓口に顔を現したのはゴブリンだった。
「おや、お前さん、街に戻ってたのかい」とそのゴブリンはエルドを見ると笑顔で返す。懐かしそうにエルドの顔を眺めた後に後ろの女性に気付いたのか「後ろのは?」と聞く。
「今回の雇い主さ」
「ほほぅ、で、なんの仕事を依頼しにきたのかい?」
「ちと込み入っててね、具体的には決まってないんだが人手が要るんだ」
「えぇぇと、じゃあ今空いてる奴を遣すとするか」
ゴブリンは汚らしい台帳らしき本のページを捲る。そして指で上からなぞる。
「ふむ、コイツが手空きだな」
「そいつ、俺の知ってる奴?」
「いや」
「まぁいいや」
「コイツとそれからコイツの部下をつけよう。合計3人だが財布のほうは大丈夫かい?」
「ニーナ、財布の方は大丈夫か?だって」
少し離れた位置に距離を取り、回りを見渡していたニーナはエルドやゴブリンに目を合わせる事無く答える。
「大丈夫よ」
「だそうだ」
「そんじゃ、いつもの場所で待っておいてくれよ。そいつをそこへ向かわせるからさ」
「了解」
二人の話が終わったのを確認してニーナは早くも立ち去っていく。エルドも後を慌てて追いかける。
「どうしたんだ?そんなに信用ならないか?」
「えぇ、少しだけ信用できないわ」
「人手を借りただけだ。指示をするのは俺達なんだから使えるか使えないかはきちんと指示できるかにもよるぜ?任せたら後は勝手にやってくれるわけじゃないからな」
「それって、自分の頭で考える事が出来ないって事じゃないの?不安だわ」
「まぁそう言うなって」
説得しようとするエルドと納得がいかないニーナの二人は言い争いながら"例の"場所へ向かった。
5
"例の"場所というのはゴブリンが経営するレストランであった。
その日の朝に二人は同じくゴブリンが経営しているであろう便利屋へと足を運んだが、無造作に置かれた荷物やらゴミやらの印象がそのままレストランになったと考えたほうがわかりやすい、というほどに不衛生な場所だ。「うわ…最悪っ」というのはニーナがレストランに入店して1秒立たないうちに言い放った感想だ。
テーブルにつく二人の目には前の客が食べ残した皿などが置かれている情景が嫌でも入ってくる。肘をつこうとしたニーナだがテーブルの上にこぼれている汁などを見つけてしまい、慌てて止めた。
「ねぇ、もしかして、前の客の皿とか片付けるのはセルフサービスじゃないの?」
「いやぁ、それはないだろう。多分前の客が残しているものを食べる奴がいるから、こうやってしばらくの間は放置してるんじゃないのか?」
「…最悪」
店に来る客の種族は様々だが一律に貧困層の者が多い。そのため街を歩いていれば貧困層の人間は目立つ事はあるが、ここではニーナが一番目立っていた。
ニーナは店に来る客を眺めていた。あまりに様々な客が来るので一々驚かなくなるほどに慣れだした頃、3人の客が店に入ってきたのだ。一人は大きな両手持ちの剣を背中に抱えた男、歳は15か16ほどだ。一人はやたらと図体の大きな、人間以外の何かだ。最後の一人は小さなゴブリンで、つねに俯いていてよく見ると面のようなものを顔につけており素顔が見えない。尖った耳からゴブリンである事だけは解る。
先ほどから店には様々な種族の貧困層が訪れているがどれも同じ種族同士でやってきている。その3人がニーナの目に付いたのは種族がバラバラでありながらも仲間のようであったからである。
3人のうち人間である男の子がエルドを見て近付いてくる。
「アンタがエルド?」と突然話し掛ける。
「ん?そうだけど、まさかお前が便利屋?」
「ああ、そうだよ」
「あのオヤジ…まさか子供を遣すとはな…」
脇でその子供を観察していたニーナは汚いものでも見るような眼をしながら言う。
「こんな子供に仕事が出来るのかしら」
というのはエルドも同じく考えていた事だが、それを口には出していない。流石にこれから一緒に仕事をするメンバーに対して初対面でそれは言わない事にしていたのだ。だがニーナが言ってしまったので慌てて正そうとする。
「ニーナ…それは言ってはダメだ。さっきもいったろ?」
「なんだこのババア?」、というのはその子供が発した言葉だ。
「バ…」とニーナは声を詰まらせた。
案の定次から矢のように怒るであろうニーナを想像したのか、彼女が声を発する前にエルドはニーナの口を塞いだ。何かをもごもごと叫びながら暴れようとするニーナ。対してその子供は耳クソをホジリながらつまらなさそうに見ていた。
「つか、どうでもいいけどさ、オレを注文したのはあんた等なんだからさ、ケチつけないでくれるかな。それとメシ。あ、オレの名前はカイ、そこの大きなのがオレの部下のモウ、そこの小さいのが同じくオレの部下のマル。シクヨロ」
狂ったように怒っていたニーナだったが、彼女が顔を真っ赤にして暴れているのを見てエルドは初めてニーナの口と鼻の両方を塞いでいる事に気付いた。
「あ、わりい…」
「ふぅ…ふぅ…」
死にかけて怒る気力も失せたニーナだったが怒りの形相はそのまま変えずにカイを睨んで止めなかった。エルドは「これから先が思いやられる」という意味で肩をすくめた。
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エルドとニーナを除く3人は思い思いに注文をして存分に腹を満たした。
がつがつと色々よく食べたのはカイ、意外と菜食主義で普通の量を食べたのが巨体のモウ、小柄なマルは酒のつまみの様なものを注文して口にゆっくりと運んで食べ終わったのはカイとモウよりも後だった。
食事の最中にもエルドとニーナが仕事の話をしたが、相槌を適当にうつカイが本当にちゃんと聞いていたのか不安になっていた。そしてちゃんと理解したか聞いたのだ。
「で、つまりはそのジッタって奴を殺せばいいんだろ?」
「違うっ!」
案の定頭には入っていなかった様だ。怒りがまたピークに達していたニーナを今度はエルドは止める事はなかった。流石に今度ばかりはニーナに同情したのだ。「どうぞ」というジェスチャーをするエルド。
ニーナはカイの襟首を掴んでブンブンと上下に揺らしながら言う。
「捕まえるのよ!つ・か・ま・え・る・の!殺したらどうやって借金を返させるの?」
「知らねーよ、そんなの。つぅかさ、オレは今まで殺ししか仕事した事ないからさ、そういう"器用な事"出来ないんだよ」
「何が器用な事よ!アンタ脳味噌にシワないでしょ?!」
「そりゃ、オレはまだ若いからまだシワは無いと思うぜ」
「…」
埒があかないと判断したエルドは二人の間に入って話を纏めた。
「まぁ、カイ、お前は俺とニーナの部下なわけだからさ、ここは与えられた仕事をしよう。別に深く考える事は無い。俺達の言う事を聞けば言いだけだ。簡単だろ?」
「ん、あぁ」
「ジッタ社長を捕まえる事が仕事だが、別に今からしようってわけじゃない。タイミングとかは後で俺かニーナが指示するから、言われるまで適当に待機しててくれ」
「わかった。んじゃいくか」
とカイはマルとモウに言い、満足させた腹をパンパンとたたきながら店を出て行った。その光景を見届けてからエルドはニーナに言う。
「相手は馬鹿なんだからまともに相手しても疲れるだけだ。淡々と教えればいいんだよ1から10までな。んで解らなければまた1から10までだ。ただそれだけの事だよ」
「すっごく不安なんですけど」
「…う〜む」
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