獣王の寝床

1

アリシアは出発の準備を早々と終わらせて急かすように言う。

「さぁ、急ぎましょう。こんな所で留まっていたら危険よ。早くユグドラシルを抜けてジェノバに向かいましょう。着けばテトの衰弱も直せるわ」

キサラはまだ納得が言っていないといった表情をしながらも無言で立ち上がりアリシアの意見に賛同するように出発の支度を始めている。一方はつみは先程からウトウトと眠っているようだ。それを見たアリシアが彼女の身体を揺すり起こす。

「はつみ、起きて。出発よ」

まだ寝ぼけて意識がはっきりしていないはつみ。いつかの様に手首をさすって手首から何かを探すような素振りを見せる。それをみつけたアリシアは疑問を感じ彼女に問う。

「どうしたの?」

「自分の手首を切る夢を見たの…ナイフで、こう」

と言ってナイフで手首を切る仕草をするはつみ。

「他にはどんな夢を見たの?」

「教会にいる夢とか、学校にいる夢とか…でも私、一度も行った事もない場所なの」

「はつみ、一つ聞いてもいい?」

「なに?」

「シャングリラっていう言葉知ってる?」

「…知らない」

話を途中から聞いていたキサラが割り込んでくる。

「貴女、どこでその言葉を知ったのかしら?」

「夢の中でその言葉を口にしたり、実際に口にしたりする人が居るらしいわ。世界を意味する言葉だと聞いた事があるけど、解らないわ」

「はつみの見た夢とどう関係するのですの?」

「シャングリラという言葉を口にする人は夢の中で今まで行った事の無い土地の話もするそうなのよ。何か共通点があるのかと思って聞いてみたのよ」

「そう…わたくしの知人がした話と同じですわね」

「まぁいいわ…急ぎましょう。はつみ、テトをおぶってあげて。疲れたら言ってね、私が代わるから」

はつみは静かに頷いた。

2

しばらく進んだ先には広大な空間が続いていた。

アリシアの持つ鉱石の光りだけでは空間を照らしきれていない。4人の間には不安が広がっていた。照らしきれていない空間に何かの気配を感じ、その気配は確実に4人に迫っていたからだ。光に向かって暗闇から近付く気配は、一方で光の照らす範囲には入れない様で、蠢く何かが鉱石の光に照らされてはまた闇へ消える、という事を繰り返す。

「アリシア、魔法は禁じ手なのは承知ですけど、周囲を光で照らしてもよろしいかしら…?なんだか囲まれているようで気になって仕方がありませんの…」

「いいけど、感知して色々と近付いてくるようなら一気に走り抜けるわ。準備はいい?」

アリシアは4人全員に同意を求めるように聞く。はつみもテトも黙って頷いた。

それを確認したキサラは呪文を詠唱し始めた。マナが一点に集中し、小さな光の粒となり、次の瞬間、爆発でもするかのように周囲を光で包んだ。

鉱石の照らしていた僅かな空間を除いて辺り一面を何かの生き物が埋め尽くしていた。尖った鼻と耳、鋭い爪、そして鏃のような尻尾を持つ大きさはテトよりも少し大きいぐらいの魔物、インプだ。

幸いな事に鉱石の小さな光りですらも怯むインプはキサラの唱えた聖なる光の呪文は弱点であったようだ。パニックとなったインプ達は一斉に光の届かない空間を探して逃げ惑っていた。その様子に唖然とする4人だったが、周囲のフロアを照らした光のお陰でインプ以外の巨大な何かをも視界に捕らえる事となった。

簡素な甲冑を身に纏った背丈がオークの2倍ほどもある巨人、トロルだ。

トロル達はキサラの光の魔法にも怯むことはなかった。むしろ自分達のテリトリーを犯された怒りを向き出しにして襲い掛かってきたのだ。だが巨大な身体を支える足の速さは遅く、フロアには彼等の響かせる重量感のある音が響き渡るだけでキサラ達と彼等の間の距離を縮めるのも時間が掛かりそうだった。

「…逃げるわよ」

アリシアが言う。どんなに足が遅くても、その存在感溢れる足音が周囲の他の何かをもついでに起こしてしまいそうなのだ。

一直線に走る4人。フロアは暫くの間はキサラの唱えた光の魔法により隅々まで光に包まれていたので容易に抜け道に辿り着くことが出来た。その抜け道は元は坑道の一つであったのだろう。作業用の車両が通るように線路まで引いてある痕跡はあるが、木の根に覆われて今は人間が一人、間を縫うようにして進む事が出来るほどの隙間しかない。

小動物が物陰に駆け込むように4人は木の根の間に逃げ込む。苦労して縫うように進む一方で、それを追うトロル達は邪魔な木の根を手持ちの切れ味の悪そうな斧で叩き割って易々と進んでいく。

「これじゃすぐに追いつかれるわ!あなた達は先に行って!」と叫ぶアリシア。

「え、でも」躊躇するはつみは足を止めてアリシアの側から動かない。

それを背中に聞きながらアリシアは呪文を詠唱する体勢になり、言った。

「時間稼ぎをするだけよ。終わったら直ぐに追い付くから、早く行きなさい!」

頷いてからはつみとキサラは木の根の間に消えていった。

そしてアリシアは呪文の詠唱を始めた。

「汝の守るべき門を汚す哀れな魂を地獄の炎で焼き尽くせ…」

手前に魔方陣が現れ光り輝き始めると、溢れ出た光の粒が次第に形を成していく。巨大な犬の姿の形。だが犬の頭は一つの身体に対して3つもある、魔犬ケルベロスだ。

召喚して直ぐに手前に迫っていたトロルの斧の一撃がケルベロスの頭の一つに直撃した。勢いでケルベロスは地面に突っ伏す。一つの頭を除いて他の2つは怒りの表情でトロルを睨む。その口からは真っ赤な溶岩が垂れ、地面に落ちると白い煙を発していった。

鈍感なトロルは自分に生命の危険が迫ることも知らず、次の一撃を他の二つの頭、どちらかに狙いを定めて振り下ろそうとする。だがそれが成されるわけでもなく、ケルベロスの吐いた溶岩がトロルの身体を包んで一瞬のうちに肉を溶かし骨だけにした。残るトロル達はその光景に怯む事無く襲い掛かってくる。恐怖が無いのではない。頭が悪すぎて今の状況を飲み込めていないのだ。

ケルベロスへ襲い掛かった左側のトロルは左側の頭が吐き出す溶岩をまともに食らって骨と化し、右側から攻めていたトロルは右の頭の吐く溶岩を避けようと身体を翻したが間に合わず半分だけが骨と化した。だが残った半分の身体は勢いに任せてケルベロスに渾身の一撃を与えた。木の根を弾き飛ばしながら吹き飛ぶケルベロス。そして壁に当たってぐったりしている。地獄の番犬も恐怖を感じない鈍感な神経を持つトロルを前にしてはその能力は成されていなかった。

「チッ…さすがに数が多すぎね」

アリシアは舌打ちした。呪文を唱えて元いた世界へケルベロスを戻すと自らもはつみ達が逃げていった方向へ駆け出していった。

3

はつみとキサラは坑道のさらに奥深くへと潜っていった。

そこは先程までの作業用の道路とは到底思えないような小さな隙間だ。木の根が張り巡らされているからではない。完全に通風孔としての役割しかないようで、はつみとキサラのような女性で辛うじて一人が通れるほどだ。そこをテトを先頭にはつみ、キサラと四つん這いになりながら進む。

先頭を進んでいたテトが突然動きを止めて耳を澄ませた。

「ねぇ、なんだか地響きが聞こえない?」

はつみは首を傾げて答える。「そう?」

動物の感というのであろうか、テトにしか聞こえない地響きがあるようだ。だが更に奥へと進むとはつみの耳にもキサラの耳にも明らかに地響きが聞こえるようになった。大地を揺るがすような重低音だ。

「ほら、なんだか聞こえるでしょ?オイラの気のせいじゃなかったんだ」

「ほんとだね…でも、地響きっていうより何かが呼吸する音のように聞こえない?」

最初はただの地響きとしかわからなかったが、次第にそれが何かの呼吸音である事がはっきりとしていく。坑道全体を大きく揺るがす音なのだ。その大きさから想定されるのは今までに見たことのない大きさの何かである事は容易にわかる。

「あ、あの先、通風孔が壊れてる。気をつけてね」

はつみがテトと後ろを進むキサラに言う。それまで通風孔が何処かの別のフロアへと繋がっている箇所は多くあったが、どれも網が頑丈にしてあって、気をつけて網の上を渡っていたが今回の網は何者かが突き破ったかのように捻じ曲がって裂けている。

網に差し掛かりテトが慎重に網の脇を通る。次にはつみがその上をうまく跨いで通った。その時、はつみが網から見えるであろうフロアの中の様子を見入っていた。

「どうしましたの?はつみ」

その様子を不思議に思ったキサラが問う。

「ひッ!」

はつみが小さく悲鳴を上げた。そしてまるでその悲鳴が何かに聞こえてはならないように自らの口を塞いだ。はつみは急いで網の上を通過してキサラのほうを振り返った。

「な、なにがありますの?」

キサラが恐る恐る壊れた網からフロアの中を覗く。

視界に飛び込んできたのは巨大な狼の姿だ。フロアはかなり広く、元々鉱石を切り出して一旦保管する場所にでもしていたのだろう。あたりにはその時使っていたと思われる道具が転がっていたが、それらを邪魔そうに押しのけて巨大な狼は自らの寝床と定めた場所に居座っていた。それらの人間達が使った道具が豆粒のように見える事から比較すると狼の大きさがどれだけのものか判る。はつみは一瞬何がいたのか判らなかったが、巨大な山の様な何かが動いた為、それが生きているのだと知って驚いたのだ。

「獣王、ベヒーモスですわ…」

「ベヒーモス…?」

「えぇ…古い書物の中に書かれている神話の中の生き物だと思っていましたわ。実在していたなんて。この炭鉱が使われなくなったのは落盤事故があったからじゃなくて、これが現れたせいなのかしら。…わたくし初めて見ますわ」

「寝てるみたい…」

「獣とはいえ人語を理解するほど知恵も持っているという話らしいですの。とにかく危険ですわ。起きないうちに逃げましょう」

そしてキサラも注意深く壊れた網の上を跨いで通過した。だが身体が何かに引っ張られて動かない。身体がというより、衣服の一部が何かに引っ掛かったのだ。

「あら…あら、あら…御免なさい、何かに服が絡まったみたいですわ」

スカートの一部が壊れた網に引っ掛かっている。それを手繰り寄せようと強く引っ張る。うまく網から放すのなら一旦通風孔まで戻って取ればいいのだが、またあのベヒーモスの寝床に顔を覗かせなければならないという恐怖から、それはせずに必死にスカートのを引っ張ってどうにかして網から放そうとするキサラ。その慌てが結局は最悪の結果を出した。

ビリッ。という音と共にスカートの一部が網に残されたまま切り離された。顔面蒼白になるキサラ。高級な学生服のスカートが駄目になったからではない。その音と共に、先程まで響いていたベヒーモスの寝息が止まったのだ。

次の瞬間、壊れた網からは離れているので見えるはずがないベヒーモスの視線がキサラには見えた。それは視線がキサラの脳に直接送り込まれた事を意味している。キサラの脳裏にはベヒーモスの月の光のような黄色の目のイメージが浮かび上がった。

「見つかりましたわ…!はつみさん、急いで逃げて!早く!」

3人は自分達が立てる音など気にする暇もなく、四つん這いで出来る限りの速度を出しながら狭い通路を通り抜けていく。

4

通風孔を抜けた先には小さな部屋となっていた。3人はそこへ転がり落ちた。

そしてベヒーモスが追いかけてこないか耳を済ませて音を聞いた。だがよくよく考えてみればあれほどの巨大な姿の獣が通風孔を彷徨うネズミのような存在をどうやって追いかけるのだろう。それほどまでに巨大な坑道はここには用意されていないだろう。そもそもどうやってあのフロアに身体を入り込ませる事が出来たのかも不思議である。

「だ、大丈夫だよ。追いかけてこないよ」

はつみは安心して二人に話しかけた。

「でも寝息は聞こえなくなったね。やっぱり起こしちゃったのかな?」とテト。

はつみはキサラの様子を伺った。キサラは先程と同じく顔面蒼白のまま、何かに脅えるように辺りを見回している。

「キサラさん、大丈夫だよ。追い掛けてこないよ」

「ま、まだ睨まれてますわ。ずっとこちらを睨んでいますわ…!」

「ここは部屋だよ。窓もないし、どこからも睨めないよ」

はつみはそう言って辺りを見渡す。そこは事務所のような場所で机や本棚、客用のテーブルなどが並んでいる。まるで昨日まで使われていたように、乱雑に資料などが散らかされている。相当急いで出て行ったのであろう。客用のテーブルの上にはコーヒーが入っていたと思われる高級そうなカップが3つ置かれていた。中身は埃まみれだったが。

テトは部屋の中を散策していた。目的は食べ物だ。机の上の資料などには目もくれず棚の中を開けて周っている。

「はつみ!クッキーだ!クッキーを見つけたよ!」

「え、どこどこ?」

テトの元に駆け寄りテトがクッキーだという頑丈に保管された木箱を見つけるはつみ。そしてそれを棚から引っ張り出すとナイフでこじ開けた。頑丈に密封されていた為か中身は残っているようだ。テトはクッキーの入った箱から更にクッキーの入った麻袋を引っ張りだすと、爪で袋を破いて中身のものを口に頬張り食した。はつみも負けずとお腹を満たすためにクッキーに噛り付く。

はつみは麻袋の一つを拾い上げキサラの元へ歩み寄ってクッキーを差し出した。

「キサラさん、食べて。まだ腐っていないみたいだよ」

「わ、わたくしはいりませんわ。食欲がありませんの。ずっとあの視線が頭に浮かび上がって消えませんの。それにさっきから誰かがわたくしに話しかけているような気がしますの…声が聞こえません?」

「…声?特に聞こえないよ」

部屋の隅からはつみを呼ぶ声が聞こえる。テトの声だ。

「はつみ!紅茶の葉も見つけたよ!あ…駄目だ、腐ってる」

テトはその紅茶をポイっとテーブルの上に捨てた。風化していたそれは埃と一緒になって紅茶だったのか埃だったのか判らなくなった。

5

『ほう…真実を追い求めるか?人の子よ』

そこは先程いた部屋だ。側にははつみもテトもいる。だが彼女達の声は聞こえない。聞こえるのは何者かの声だ。図々しくも、全ての音より優先させて自らの声をキサラの頭に直接送り込んでいるのだ。

「わたくしの心を読んだの?」

『心を読むなぞ容易いことだ』

「わたくしの心を読んで、一体何が望みですの?」

『ただの暇潰しだ』

「では開放してくださらない?もう十分読んだでしょう?」

『貴様は真実を追い求めて、それを知る覚悟も持っている、違うか?』

「何が言いたいのですの?」

『俺が貴様に真実の一つを見せてやろうというのだ』

「いりませんわ。真実とは自らが見るもの、見せてもらうものではありませんわ」

『ハッハッハ!面白い!愚かなる人の子よ。貴様は自らが望む真実を見たいだけではないか?貴様が目を背け、心の闇の中にしまいこんでいる真実を見せてやろう』

「心の闇にある真実…?」

『貴様がなぜ真実を知ろうとするのか、その理由を己に問え』

「え?」

暗闇だ。突然、部屋は真っ暗闇に包まれた。僅かな光すら届かない真っ暗な闇。手探りで自分の居場所を探ろうとするキサラ。暫くすれば暗闇に馴染んで見えるはず…だと思っていたキサラだが、一向に真っ暗闇のままだ。

「見えない…何も、何も見えませんわ…」

『ハーハッハッハッハッハ!』

笑い声が地響きとなる。その声はキサラの頭の中にだけ響き渡っている。辺りを手探りしているキサラをあざ笑うかのような笑い声。それは次第に遠くへと離れていき、消えた。

6

「見えない…何も、何も見えませんわ!」

先程まで脅えていたキサラは今度は辺りを手探りし始める。その様子に驚いたテトとはつみはキサラに駆け寄った。キサラは目を見開いて辺りを見ているがその視点は定まっていない。本当に何も見えていない様に映った。

「はつみさん…貴女そこにいらっしゃるの?」

「う、うん。居るよ、テトもいるよ。どうしたの?見えなくなったの?」

「見えませんの、真っ暗闇に包まれて、何もかもが見えなくなりましたの…」

「どうしよう…」

テトは急いでクッキーの麻袋をはつみの荷物入れにしまいながら言う。

「急いでここをでようよ。こんな所に長い間いるからだよ」

「う、うん。そうだね」

はつみがキサラを背負いテトと共に部屋を出ようとした時、部屋のドアが何者かによって叩かれている音が鳴り響く。はつみとテトは驚いてドアを見つめた。

「はつみ?そこにいるの?」

その声はアリシアだ。安心したはつみはドアを思いっきり引っ張り開けた。そこに立っていたのは体中が傷だらけのアリシアの姿だ。

「どうしたの?!」

「大丈夫、ちょっとてこずっただけよ。急いでここから出ましょう。この先にエレベータがあるわ。まだ動いているみたい。そこから一気に地上にでるわ。多分、ジェノバ近郊の鉱山に抜けるはずよ。…キサラ、どうしたの?」

「目が見えなくなったみたいなの」

「え?…とにかく地上に出ましょう。治療はその後に出来るわ」

「うん」

はつみはキサラをアリシアに委ねると、印を結び地面に手を添えた。

「口寄せ。マカミ」

地面が裂けて山犬が姿を現す。それにキサラを乗せ、はつみとアリシアとテトは地上に出るエレベータへと続く薄暗い坑道を走り抜けた。

7

4人がエレベータに乗り込んだ事を確認してレバーを引くアリシア。歯車が合わさる音がどこかで聞こえゆっくりと上昇し始める。備え付けられた明かりが次第に輝き始めて周囲を照らし、その時初めて広大なフロアの隅にエレベータが設置されている事が解った。

縦に長いそのフロアは坑道で見かけた木の根より何倍も大きな根が地面に張り巡らされている。岩の間からは木の幹と思しきものが顔を覗かせている。ユグドラシルの木の一部であろうそれは、まるで岩の中から種から芽を出し、岩を押し広げて成長していくようにすら思えた。

エレベータが上昇するに連れて地上からの光りが4人にも見えるようになる。その光に反応するようにキサラは輝く方向を見つめる。

「光が見えますわ…」

「目が見えるようになったの?」とはつみが問う。

「えぇ…さっきまで真っ暗闇でしたわ。何がどうなっているのかわかりませんわ」

次第に強くなる地上の光りにまだ目が慣れていない為か手で額を覆う3人。ただキサラだけは目には光がきつくないのか、手で額を覆わずにただ光を見つめていた。

どれほどの時間エレベータは上がり続けただろうか。

何年も使われていない鉱山の作業場に突然振動が発生して埃を揺らし、同じく何年も使われていないだろうエレベータが地下から姿を現した。ようやく4人は鉱山から地上へと上がりきったのだ。

「商人が坑道を利用してジェノバへ行き来しているのでしたわね」

作業場の入り口が板で厳重に封鎖されていたのを見てキサラが嫌味を言った。アリシアはそれには何も言い返さず、ただ呪文を詠唱してその封鎖された板を突き破った。4人が作業場の入り口から外へと出て振り返った時、看板にはこう記されていた。

『ユグドラシル鉱山への立ち入りを禁じる。近辺で魔物を見かけた場合、近付かず、ただちにジェノバ総督府へ連絡されたし』

「まぁ誰にも間違いはあるわ。全員無事だったんだからいいじゃないの。さぁ、ジェノバはもうすぐよ。行きましょう」

1.00