1
太陽が沈み始める頃にはゼノグラシア中央神殿の門前に集まろう、というのが風雅のスケジュールだった。その時に彼が望んでいた答えが得られるだろうとしていたが、結局、宝と呼ばれるものをみつける事は出来ずに、メンバーは門前に集まっていた。
「やはり、中央神殿の中か…」
風雅が沈む太陽を背にする巨大な建築物を見あげて言う。
門前から中央神殿へと続く階段には、蜘蛛型のロボットの残骸が大量に残されており、そこで激しい攻防が行われたことを物語っていた。
「街のいたるところにロボットの残骸があったわ」
とマハが言う。そしてそれに続けて、エルドが言う。
「ロボットの額にはゼノグラシア軍の紋章がありました。伝説によると、ゼノグラシアには北軍、西軍、東軍、南軍の4つの軍隊があり、そえぞれが四神…東洋神話に現れる朱雀、青龍、玄武、白虎を模った紋章を持っているそうです。街にあったロボットの残骸を見る限りは朱雀・青龍と玄武・白虎に分かれて内戦が行われていたようですね。…そこらにあるロボットの額には鳥の紋章と龍の紋章があるでしょう。つまり、この神殿の防衛についていたのが北軍・西軍という事になります」
「へぇ、随分と詳しいんだな」と、ロイドがエルドに言う。
「えぇ、これでも前まではトレジャーハンターとして日々鍛錬してきましたから…空に浮かぶゼノグラシア大陸…女王が忽然といなくなり、その後に内乱が起き、そして住民もいなくなった。それらの伝説を調べているうちに、辿り着いたのが"別の世界"の存在です。風雅さんが言われている、"いつか話そうとしている事"ですよね」
エルドはそう言って風雅に話をふる。
「あぁ。知っている奴もいるかもしれないが、俺と豊吉さんは別の世界からやってきた。捜し求めている宝物…それはその別の世界と交信する為の機械のようなものだ。時が来たら本当の事を話す、というのは、その機械を入手することが出来たら話すつもりでいた」
「…それは本当に私たちが知ってもいい情報なのですか?」
風雅が一呼吸置いてから言う。
「知らなければならない情報だ」
2
薄暗い廊下を風雅達一行は突進んだ。
門前に大量に横たわっていたロボットだが、廊下を進むうちにその姿は消えていく。つまり、この建物を攻略しようとしていた南軍・東軍は、最終的には奥の方まで進むことなく、戦闘が終了した事になる。
隙間風が吹き込む廊下には、時折何かの動物の鳴き声のようにも聞こえ辺りの雰囲気を一層不気味にしていた。だがそれが動物がいることの証明であるのなら、まだ救われるかもしれない。ゼノグラシアには植物だけが存在し、動物は人間も含めて忽然と姿を消しているのだ。
そして一行の前には巨大な扉が立ち塞がった。他に入り口が見当たらない。奥に進むのなら扉を抜けるしかないようだった。
「少し開いてる…」
ナジャは扉に近付くと、隙間から中を覗き込んだ。だがそこは闇に満たされており、中の様子を伺うことは出来ない。そして、その巨大な扉は、別の巨大な何かの力によって少しだけ空けられた事が、扉につけられた傷から想像できた。
「ここが行き止まりみたいだけど。どうする?魔法でこじあけてみる?」
マハが言う。こじあける、というの魔法は実際には存在しない。正確にはマハの扱う火炎系統の魔法により、扉を吹き飛ばすという意味である。
「それしか手段はなさそうだな」
風雅が返した。
「じゃ、いくわね」
マハが詠唱を始め、周囲には魔方陣が展開された。それが強力な呪文である事が解る。だが、唱え始めた瞬間、魔方陣の光がそのまま廊下を伝わって何処かへと勝手に進んでいった。一瞬、マハはそちらに気を取られたが、再び詠唱を続ける。
マハ以外にも光は気づいていた。フェイはその光を目で追った。そして解ったのは光りが一直線ではなく、まるで廊下の模様をなぞるように進んでいった事だった。
周囲のマナが炎に変換され巨大な炎となり扉へと命中した。衝撃で周囲の空気が吹き飛び、一瞬音が消える。その後轟音で始まり、扉はまるでバターが熱で溶けるようにど真ん中に炎の玉の跡を残した。
「よし、進もう」
風雅の声の後に一同が続いていく。
3
扉の向こうは最初は暗闇だったが、風雅達が足音を立てる都度、まるでそれに反応するように光が廊下を伝わっていった。それで歩くのには十分な明るさが周囲にあった。
「綺麗!」
はつみが歓喜の声をあげる。それに続けて、テトも調子にのって走りだす。テトの走った跡を光の筋がついていく。そして光は広がってしばらくして消える。
「あはは!流れ星みたい」
またはつみは歓喜の声をあげた。そしてさらに調子にのったテトは今度は地面だけではなく、壁までも駆け上がり、綺麗にカーブさせた光の筋を残した。そうやって、光を瞬かせながら風雅達一同が廊下の奥へと更に進む。
そして大きな広間に出た。
「え…?」
はつみが最初に気づいたのは、巨大なガラスケースの中にある人の足だった。そして見あげる。そして、そこに収められていたものに気づく。
仮面をかぶり、ドレスを着た女性と思わしき人。ドレスはアルザタールでもシハーでもないデザインのものだった。はつみが驚いたのは、それが人形でも、死体でもない、まるで今も生きていて、風雅達を見下ろしているかと思えるほど、血色がよかった事だ。だが呼吸はしておらず、ガラスケースの中にまるで観賞用に飾られているように見えた。
「はじめて…見ました」
震える声でエルドが言う。
「まさか、これがゼノグラシアの女王?」
「そうです…この世界から去ったと言われている…女王です。まさかこんな形で"保管"されているなんて…」
ロイドがエルドに質問する。
「なんでこれが女王だって解るんだ?」
「それはネックレスで解ります。あれはゼノグラシアの王家に伝わるもので、女王のみが持つ事が許されるもの。伝説ではあのネックレスがなければゼノグラシアは宙には浮いていないと言われています」
「っていうか、女王様をこんなガラスケースに閉じ込めて、どういう趣味をしてんだ?」
「ですから、女王が死なず、そしてその魂だけが別の世界へと消えているという話が伝わっているのですよ」
ロイドとエルドが話している間に、キサラやはつみは物珍しそうに、それでこそ博物館の展示物の観賞にひたるように、ガラスケースの中の人物を見る。
「あ、…仮面の中のお顔が見えそう」
はつみが言う。
「それでは仮面を被っている意味がありませんわ」などと言いながら、はつみの後ろからキサラが仮面の隙間に視線を集中させる。しばらく硬直した。
「え?」
「ん?どうしたの?」
とはつみが問う。キサラの視線が仮面の隙間から見える女王の顔に集中している事に気づいたはつみは同じ様にそこに目を向ける。そして同じ様に硬直した。
「…仮面の中に…顔が無い」
次の瞬間、凄まじい金属音が風雅達の背後から響いた。
先ほどマハが溶かしてこじ開けた大扉から幾本もの真っ黒い爪が差し込まれ、そして扉をこじ開けようとしている。金属音は扉が圧力によって歪む音だった。その爪はついには扉をこじ開けて、自らの巨大な身体を部屋の中へと押し入れた。それは既に風雅達が見慣れていたものだった。街のいたるところに転がっていた、門前にも、そしてこの建物の廊下にもあった、蜘蛛の姿をしたロボットが、そこに稼動している姿を現したのだ。
「こいつ!死んでたんじゃねーのかよ!」
ロイドが剣を抜き、盾を構える。
ロボットは街などで見たものとは異なっていた。まるで新造されたばかりの、どこにも傷や汚れの無い姿なのだ。
風雅が素早く印を結ぶ。
「土遁!土龍壁!」
地面に小さな埃が集まった。そして埃は渦を巻き、龍の姿でうねりながら壁を作ろうとする。だが、少し様子が違った。
「…この地面、土じゃないのか…!」
ロボットは身体を半回転させて爪をスピンさせると、風雅の胸倉目掛けて切り裂いた。寸前で風雅は忍刀で防御した。だが凄まじい力は、人やオークなどを相手に造られた忍刀では防ぎようもない。弾き飛ばされる風雅の身体。
「風雅さん!」
豊吉が叫び、そしてはつみと共に駆け寄る。と、それを後ろから追うロボット。確実にトドメをさそうということなのだろう。
「ちっくしょう!」とロイドは叫び、剣をロボットの足に振り下ろす。まわりに、まるで素焼きの壷でも叩いたような甲高い音が響く。
「か…かてぇ!」
ロボットは動きを止めた。ロイドが見あげると、ロボットの背中側にごつごつとしたイボのようなものが蠢いているのがわかった。そのイボは目玉だった。明らかに、それらの目玉が、誰が足を攻撃したのかを捜していたのである。
そしてロイドだと解ると、イボの中でいくつか色の異なる目玉が強い光を放った。
ぶぉん、と風を切るような音がロイドの耳にはいる。腕から重さが消えた。それは彼の腕が重い盾と共に地面に落ちた事を意味していた。
「おぉぉぉ!!」
驚いて立ち尽くす事は無い。彼がそれだけの戦闘経験を摘んでいるからだ。次の攻撃は確実にロイドを殺そうとするだろう。案の序、ぶぉん、と再び音を立てて光の線がロイドの身体の首の部分を切断しようと宙を舞う。軽く身体をひねってそれをかわすロイド。そして落ちた彼の腕を拾って射程外へと退避する。
「風雅!今のうちに逃げろ!」
ロイドが叫びながら風雅のほうを確認すると、そこには豊吉が風雅を治療している姿があった。はつみも心配そうに側にいる。風雅は意識が無かった。
「そこの通路だ!、うしろ!」
はつみがロイドの叫びに気づいて、後ろの通路を見る。そこは人が一人二人は入れるぐらいの幅しかない細い通路だった。そしてはつみは頷くと、豊吉と共に、風雅の身体を細い通路へと運んでいった。
その通路へと逃げられる事に気づいたのだろう。ロボットはロイドのトドメを刺す事を諦めて、再び風雅を狙う。
「くそッ!」
と叫ぶも、ロイドは腕をキサラに治療してもらうのが精一杯だった。
その時、背後から素早くロボットの懐へと飛び込む影が見えた。ナツメグだった。
身体を半回転させて、体当たりをロボットへと繰り出す。それはただの体当たりではなかった。以前、はつみがロメナスで見た片目のナブが使っていたものと全く同じだった。
凄まじい衝撃波が周囲の埃も空気も弾き飛ばし、女王の身体が保管されている頑丈なガラスケースにまでもヒビが入った。衝撃波は完全にロボットの身体を貫通し、彼女の体当たりが直接当たった部分よりも、その衝撃波が抜けた背中側の部分が壷を地面に落とした時のように粉々に吹き飛んだ。
「すげ…」
ロボットの背後から攻め寄っていたカイはナツメグの凄まじい攻撃に圧巻されていた。ついには危機がさって一同が安心して、そして風雅と豊吉を呼び戻そうとした時、再び、それが不可能である事を知る事になった。まるでデジャブであった。大扉に同じ様に爪が侵入してきた。今度はあっさりと巨大な身体を部屋へと押し込ませるロボット。全く同じタイプの、蜘蛛の姿のロボットは再びその場に居た一同を殺そうとしたのだ。
「ど、どうすりゃいいんだよ…」
ナジャが喘ぐ。
「どうすりゃってよ…こういうときは逃げるしかねーだろ!」
ジッタは一目散に、風雅達が入っていった細い通路の反対方向にある、同じ様な細い通路へと消えていった。
「今回はジッタの意見に賛成よ、勝てないわ」とマハ。
「よし…逃げよう。風雅は豊吉さんが治療していたから大丈夫だろう」
ロイドの治療はキサラが終えていた。切断されていた腕は繋がった。
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