物書きのデスティン

1

翌朝、ジニアスと生き残った彼の部下、そしてジニアスの護衛の任に従うシハー兵達は前夜戦いのあった場所に戻ってきていた。そして、生き残りの怪我人など居ないか調べて周ったが怪我人どころか死体さえもない。

「どういうことなんだ…やはり連れ去られたのか?」

風雅は倒れたテントや焚火の後などを見渡しながら言った。

「なにか違和感がありますね」

と腕組みをして考えながら誰も居なくなったキャンプ後を見るジニアス。そして彼はその足で導き岩まで歩くと岩を登り始めた。頂上で再び風雅が居る位置を見る。

「こ、これは…風雅さん、こちらへ」

「ん?」

ジニアスに呼ばれ同じ様に導き岩に登る風雅。そこから見渡すとただ単に例のキャンプ後が一望できるだけだ。忽然と人が居なくなった事実だけがある。

「いいですか、何もない砂地の場所とテントが残っている場所を見てください」

見ると、円の中は砂地に周囲にはテントが残っている。まるで円を描いて中にあるものは綺麗に片付けるかのように。だがそんな馬鹿らしいことは誰もやらない。

「これは…空に吸い込まれたのか砂に吸い込まれた、ということか…?」

「の、ようですね…」

「砂に詳しいシハー兵に聞いてみようか」

「そうしましょう」

そう言って風雅とジニアスは、実際に砂の民として砂漠で暮らしていたというシハー兵、ヤンの元へと向かった。

2

ヤンは風雅とジニアスがそうしたように導き岩の上からキャンプを一望している。

「これは…本当にあったなんて…」

「一体なんなんです?」

「ジャ・ハイです」

「部隊長がおとぎ話だと言っていた?」

「ええ。自分も話半分はおとぎ話だとは思っていました。ジャ・ハイは死神のようなもので、死期が近付いた人間や死んだ人間の下に現れて砂の中へと引き摺り込む…と言われています。ですからこの地方では人が死ねば遺体は岩地で風葬します。もし遺体と一緒に居るのなら、砂地には居てはなりません…何故なら遺体と一緒に砂の中に引き摺りこまれるからです」

「確かに…今回の状況ととてもよく似ていますね」

「自分は子供を叱るためのおとぎ話…、それか、身体が弱って家族に迷惑をかける者を村から遠ざけるための口実だと思っていたのですが」

「ふむ…流砂という自然現象にも似ていますね。まぁ流砂は場所を選んで起きる事はありませんが…そのジャ・ハイに連れて行かれた者で戻ってきた者は居ないのですか?」

ヤンやしばらく考えてから言う。

「そういえば…昔、ジャ・ハイに村ごと飲み込まれて後に村人達が戻ってきたという話がありました。ただ彼らは精神をやられていたのか戻ってからワケの判らない事を口走っていたらしいです」

「精神を…ですか」

3

「はつみ!」

(う…)

「はつみ!起きて!」

(テト…?)

目を開くとそこにはテトが居た。薄暗い洞窟のような場所である。

だがテトの背後には見たことも無い動物がいる。

「て、テト…後ろ、後ろ…」

はつみは全身を打ち付けている為か体中が痛んでいた。だが痛みを我慢してテトに危険を知らせようとした。それを知ってテトが後ろを振り向いたが意外にも驚くどころか笑ってから一言、

「あぁ、この人がオイラを助けてくれたんだ」

はつみがテトの後ろにいる動物をよく見てみると、その動物はテトのように毛に覆われているわけではなく、まるで人間の様に全身の毛がない。目や耳や鼻もなく、口のようなもの、手・足もある。テトを助けてくれた事に感謝しなければならないはずだが、あまりにも異様な姿のためはつみはたじろいだ。

「あぁ、そうだね。キサラを呼んでくるよ」

テトは何かその動物を話をしているようだ。ボソボソと言っているので何を話しているのか判らなかった。もしかしたらテトにしか判らない言葉を話しているのかもしれない。

テトがキサラを呼びに行くと、薄暗い洞窟の中でははつみとその得体の知れない動物だけになる。動物がはつみに近付くと小さく悲鳴を上げてしまったはつみ。

だがその動物ははつみを通り過ぎると近くにある砂山の中をゴソゴソと掘り起こし始めた。掘り起こされた物がはつみの側に転がってくる。それはキャンプで使っていた皿やらフォークやらナイフ、はつみがかじっていた干し肉もある。布の様なものを引っ張り出すと、気に入ったのかその動物はまるでマントの様に自らの首に巻きつけた。それはシハーの部隊が掲げていた軍旗であった。

言うまでもなく奇妙な動物であるが、一部だけ更に奇妙な箇所がある事をはつみは見つける。その動物の尻尾のようなものが異常に長いのである。その尻尾はずっと洞窟の奥まで続いており、単純に考えても見える部分だけで身長の10倍もある。

(…へび?)

そんな事を考えていたはつみだったがキサラとテトがやってきたことで少し安心した。

「はつみ!大丈夫ですの?」

「う…」

「骨が折れてる様ですわね。直ぐに治療しますわ」

魔法を詠唱し始めるとはつみの身体から痛みが消えていく。先ほどまで話す事すら出来なかったが回復したと同時に声が出るようになった。

「みんな大丈夫なの?」

「大丈夫ですわ。でも既に亡くなられているシハー兵の方々の遺体はどこにも…」

「ここ、どこなのかな?流砂に飲み込まれたまでは覚えているんだけど」

「わたくしにもさっぱりですわ…多分砂漠の地下ではないかしら?」

テトは得体の知れぬ動物がマントをしているのをみて喜んだ。

「お!カッコイイね〜似合ってるよ」

その得体の知れぬ動物は喜んでいる様子だ。具体的になにがそうなのかというのは判らないが、何となく雰囲気は喜んでいるように見える。

「では、みなさんのいるところまで行きますわよ、はつみ」

「うん」

キサラついていくはつみの後からテトが得体の知れぬ動物に話掛ける声が聞こえる。

「ジャ・ハイさんもきなよ」

4

洞窟の中を進むと"皆が集まっている場所"に辿り着く。

まるでそこに人が生活していたかのように、机やらテーブル、食器棚、本棚まである。そしてそれらを照らす照明。先ほどから何処からか洞窟を照らす明かりがあったように思えていたはつみだったが、ここにきてそれが何なのか判った。その照明が洞窟の中を反射して奥まで照らしていたのだ。

「よっ!」

と手を上げたのはカイだった。手にはなにやら骨付き肉のようなものを持って、それを美味しそうに噛りついている。その周囲にはナジャ、ミーシャ、ジッタなど、旅を同行していたメンバーが揃っている、が一人だけ見たことのない男が混じっていた。その男はメガネ姿で無精ヒゲを生やしてボロボロの服を纏っている。

「その人は?」

「あ〜この人は」とカイが紹介する前に、焦りながら男は自分の名前を名乗った。

「すいません、自分、デスティンと申します」

「この人、この洞窟の中で何年も暮らしているらしいぜ、そこにいる変な生き物…じゃなかった、"ジャ・ハイ"って奴と一緒に」

「砂漠の地下なんでしょ?食べ物とか水とかは大丈夫なの?」

メガネ姿の男、デスティンが申し訳なさそうに言う。

「え、えぇ。ここには定期的に色々と落ちてくるんですよ。水と食料も砂と一緒に落ちてくるんです。実は僕の後ろにある家具も落ちてきた物なんですよ」

ジッタはカイが噛り付いている肉と同じものを皿から拾い上げて頬張りながら言う。

「食べ物に困らないのはいいが、どうやってここから砂漠まで這い上がるかだな」

「やっぱり、ここからでる事できないのかな?」

「ま、現にそこにいるデスティンさんが何年もこの洞窟から出てないしな」

そう言われてデスティンは自分が悪いわけではないのに申し訳なさそうに頭を下げた。

5

ジッタ、カイ、キサラは出口がないか探してくると言い残して洞窟探検へと向かい、残されたはつみ達は特に何かするでもなく、暇を潰す為に本棚から本を出しては読んでいた。

変な生き物、ジャ・ハイは先ほどから姿を見せない。おそらくはまた砂山に行って何か自分が欲しい物でも探しているのだろう、というのがデスティンの見解だ。そのデスティンは先ほどからテーブルにノートを広げては書き物をしているようだ。

気になったはつみはデスティンが何を書いているのかを覗き込んだ。

「あっ…」、とデスティンは自分の書いているものが見られたのが恥ずかしかったのか、それを手で覆い隠した。

「デスティンさん、何を書いているの?」

と純粋に自分の疑問をぶつけるはつみ。

「あ、こ、これはですね……絵本です」

「絵本?見せて見せて!」

「これはダメですよ。まだ書き掛けのものは見せないようにしてるんです。ほら、その後ろの本棚に僕の書いた絵本もありますから、それは見てもいいですよ」

そう言ってデスティンは再びテーブルに突っ伏しながら彼の世界に浸っている。

「おぉ〜」と言ってはつみは本棚の中からテンジンが書いたであろう本を探す。

「あ、みっけ」と最初に見つけたのは同じ様に探していたナジャだ。

「見せて見せて〜!」

そうして、ナジャ、ミーシャ、はつみ、テトの4人は一つの本をぐるりと囲んで読む。

6

「本当の強さ」

あるところに、とても元気で力の強い女の子がいました。

ある日喧嘩をしてとても強い男の子を負かしてしまいました。

街の人は彼女を褒めて讃えました。みんなが尊敬しました。

彼女は女でも強くなれることを証明したくなりました。

どんどん喧嘩をして男の子達を負かして行きました。

そんなある日のこと、街にオーク達が攻めてきました。

女の子は怖くなって逃げ出していました。

街の人が沢山殺されました。

兵隊さんたちが街にやってきて、オーク達を倒しました。

それから彼女は戦わなくなりました。

自分がとても小さくて弱いという事に気付いたからです。

どんなに考えても、どんなに修行しても、今よりも強くなれませんでした。

そして大人になる頃には、男よりも弱くなっていました。

そんなある日のこと、また街にオーク達が攻めてきました。

街の人が沢山殺されました。

オークに追われて逃げている男を見つけました。

それは女の子が昔喧嘩をして負かした男の子でした。

気がついたら彼女はオークと戦っていました。

そして大怪我を負ったけれども、オークを倒しました。

どうして男よりも弱い自分が勝てたのか、その時わかりました。

男の事を助けたいと思ったからです。

その時、女の子は本当の強さを見つけました。

7

その絵本にはおそらくデスティンが描いたであろう綺麗な挿絵がいくつもある。多分先ほどはつみがデスティンが何かを描いているのを見ようとした時に恥ずかしそうに覆い隠してしまったのは同じ様な挿絵を描いている途中だったのかも知れない。

「いい話だね〜」

そんな感想をはつみが言うと、デスティンは苦笑いをしながら首を横に振った。

「あまりうけなかったんですよ、その絵本」

「え?どうして?」

「女の子がオークと戦うなんて野蛮な事を子供に教えるな、って方々の親達から苦情が殺到しまして…それで学校でも僕の絵本は置いてくれなくなったんです。まぁそれまで僕の絵本を置いてくれてたのは貴族が通うような学校だったので…」

野蛮という言葉を聞いてはつみやナジャ、ミーシャも脳裏にはオークと戦っていた自分達の姿が浮かんでくる。少なくとも女の子ではある彼女等は年頃の女の子と比べればどんな風に野蛮に映っているだろうか。と考えるとしょんぼりと首をもたげた。そんな様子を見ていたたまれなくなったのかテトが言う。

「誰かを守ろうとしてそれが野蛮だっていうなら、オイラ、そういう野蛮な女の子のほうが好きだよ。野蛮じゃない女の子はオイラが死にそうな時も、きっと無視するんだ。そんな上っ面ばっかり気にしてたら誰も守れないよ!自分だって守れないよ!」

「ま、まぁ落ち着いてください。この本は貴族の学校に置かれていた物ですから…基本的には貴族はオークと直面する事なんてありませんから。あぁ、そういえばさっき回復魔法を唱えていたあの女の子も、貴族の学校の出なんですよね?なんだか学生服を着ているみたいでしたし」

学生服なのかは知らなかったが貴族の出なら一人いるとはつみは考え、

「キサラの事?」という。

「キサラさんですか。あの子はどうして貴族なのにあなた達と旅をしてるんです?」

「世の中の事をいろいろと知りたいからって旅をしてるって言ってたよ」

「そうなんですか…」

8

その日の夜、といっても洞窟の中ではそれが夜なのか昼なのかわからないが、あくまでその場に居る全員の腹時計計算での夕食の時間。昨日のメニューと同じく何かの骨付き肉を全員で焼いて食べる。

はつみが出口が見つかったのかという質問をジッタにしたところ、彼は肉カスを撒き散らしながら不満そうに言う。

「みつからね!一体この洞窟はどういう構造してるんだ?って言うぐらいみつからね!俺様達は流砂に巻き込まれて洞窟まで落ちて着たんだぜ?ここに来れたなら出口もあるはずだろうがよ!一体ぜんたい、どうなっているんだ」

それに対してカイは骨付き肉をブンブンと振り回しながら、

「なけりゃ作るまでだぜ。俺が天に向かって大穴を開けてやるぜ」

「お前が言う様に簡単に出来ればいいんだがな」

そう言ってジッタは深い溜息をついた。

時折、デスティンがキサラの顔をうかがっていた。キサラ本人はそれに気付かず談笑しているが、はつみだけはデスティンのそんな行動を気付いていた。

貴族でありながら平民達と同じ様な食べ物を口にするキサラ。貴族でありながら何故かはつみ達と危険を伴うであろう旅をしているキサラ。そんな様子を不思議そうにデスティンは見つめていた。そして食事が終わるか終わらないかの頃には姿を消していた。

デスティンが去った彼の書斎。

残された描きかけの絵本を悪いとは知りつつもはつみは覗き込んだ。

そこには一人の少女の絵が描いてある。何かを思いつめたような物悲しげな表情である。そして幾つかの文がそこにあった。

9

「」(タイトルはまだないようだ)

むかし、あるところに男の子と女の子がいました。

二人はいつも仲良く遊んでいましたが、生まれつき体の弱かった男の子は、しだいに女の子と遊ぶことが出来なくなってしまいました。

ある日、男の子と女の子は、眠っているときに夢を見ます。

それは二人で楽しく遊ぶ夢です。

翌朝、男の子と女の子は昨日の夢の事を話します。

二人の見た夢は全く同じ夢でした。

それから、二人は毎日の様に夢の中で遊ぶようになりました。

女の子が一人で寂しいときも、男の子が病気で苦しんだ日も、どんな時でも夢の中では二人は楽しく遊びました。それはそれは、とても幸せで大切な時間でした。

でもある日、男の子はとうとう死んでしまいました。

女の子は誓いました。

「」

10

そこで終わっていた。

(まだ書きかけなのか〜…残念)

そう言い、はつみは絵本を閉じた。

1.00