1
「わぁ!島が見えてきたよ!」
はつみが甲板から身を乗り出して指差した先には砂浜付きの島々が見える。それまでも「雲が見えた」「海が見えた」「魚が見えた」など色々と見える度に指差して報告してきたはつみだったが、今回ばかりは一同がはつみの指差す先に注目した。
「あれがピリヤニス諸島ですか?」と豊吉。
「そうだな」とジッタ。
飛行艇は旋回しながら緩やかに高度を下げてピリヤニスの砂浜に着陸した。
はつみとテト、ナジャとミーシャが一番に飛行艇を飛び降りて砂浜に駆け出した。次にジッタが乗客を歓迎するかのように飛行艇の搭乗口の前で一礼すると、
「本日はメッサーシュミット社の飛行艇をご利用頂き、有難う御座いました。青い空と青い海、白い砂浜と美少女達の待つ楽園、ピリヤニスにようこそ」
とニヤリと微笑むジッタ。そしての襟首を思いっきり空高くまで掴みあげるロイド。ジッタの人形サイズの小さな身体を宙でブンブンと揺らしながら怒鳴る。
「何が"ようこそ"だ!聞けばお前の都合で尻引っ叩かれて大急ぎで出発したそうじゃねーか!いつから俺達はお前の夜逃げを手伝う専門業者になったんだよ!」
「ぐはぁ、が、あぅ、い、いいじゃねーか!こうやって最初の目的地に辿り着くことが出来たんだからよ!それによ、ここは無人島だぜ、このビーチは今フリービーチになってんだよ、裸で泳ぎやがれってんだ!」
「てめーッ!海に沈めてやろうか」
「ま、まぁいいじゃないのよ」とマハ。ジッタの言うとおり、そこはリゾート地としても十二分にウケがよさそうな綺麗な砂浜と真っ青な海が広がっていた。それを180度ほど見渡してマハが続ける。
「こんなに素敵な島があるなんてちょっとした旅行気分じゃない?」
「ん、まぁ旅行ってのはひさしくしてなかったからな」
ようやく地に足をつくことが出来たジッタは風雅と豊吉のところに行き話した。
「んで、観光気分なんだが、どうするんだ?目的は他にあるんだろ?」
「自分と風雅さんで教会を見てきますよ。もし応援が必要になるんだったらこの砂浜に戻ってきます。まぁ多分大丈夫でしょうけど。他の方々はここの辺りで待っててください」
「んじゃ、今は観光気分でオッケーって事だな?」
「ですね〜。じゃあ行きましょう、風雅さん」
そして風雅と豊吉の二人は教会があるであろう廃村へと向かった。
2
「あ〜あ、こんな事になるんだったらジェノバで水着でも買っておけばよかったなぁ〜」
そういってミーシャは砂浜に不似合いな狩人の装束を指で摘んだ。
「脱いじゃおっか」とナジャ。
「え、脱ぐって?下着だけになるってこと?」
「うん」
「そうだね、どうせボク達しかいないんだし。はつみも暑っ苦しいでしょ、脱いじゃおうよ」
「うん、そうしよう〜」
そういって3人は各々が来ていた暑苦しい装束を脱ぎ捨てて下着だけになった。一人だけ、キサラは貴族としてのプライドが許さないのか脱ぐのは躊躇っている。
「あ、貴女達、いくら他に誰もいないからって、下着で泳ぐのはどうかと思いますわ」
それに対してナジャが答える。勿論キサラにも同じ格好になってもらいたい為に。
「大丈夫だって、ほら、キサラも脱いで。裸で泳ぐわけじゃないんだし」
「そ、そうじゃなくて、男性の方も向こうにいらっしゃるわけですし」
「風雅さんと豊吉さんは廃村の散策にいったよ。ジッタさんは飛行艇のメンテをしてるみたいだし。ロイドさんは…多分マハさんと一緒じゃないかな」
「あ、マハさんと一緒ですわ。でもこちらを見てる気がしますわ…どおりでさっきから視線を感じると思っていましたら…やっぱり見ていましたわ」
ロイドはこれまでにこれ以上目を酷使した事はないという程に熱心にはつみ達の下着姿を凝視していた。それに気付いた隣のマハが何度もどつくが一向にロイドの視線は彼女達から剥がれる事はなかった。
「こ、ここは危険ですわ。あの岩場の向こう側に行きましょう。確か空から見た時、あの岩場の向こうにも砂浜があったはずですわ」
「そうだね…」とミーシャ。
ナジャとミーシャ、はつみとテト、キサラは着替えを持っていそいそと岩場へと向かった。それに紐で引っ張られるかのようにロイドが付いて行こうとしたがマハに阻止された。
3
「ひゃっほう!」
そう声を上げながら勢いよく岩場から海に飛び込むナジャ。続いてミーシャも飛び込む。それからかなり長い間二人は海から上がってこなかった。よく息が続くなとはつみもキサラも感心していたところ、飛び込んだ場所から随分離れた所で、矢で仕留めた魚を空に高く上げて二人が海面に飛び出した。
「流石はエスパダの海の民ですわね。泳ぎがとても上手ですわ」
泳ぎ疲れたキサラとはつみとテトは砂浜で砂の城を建造中だ。意外にもテトは手先が器用で木の枝などを使いながら細かい部分まで再現している。再現中の城はテトがティリスに居たときに見たという何処かの城だ。形がある程度出来上がって初めてその城のようなものがキサラの実家だと解った。
岩場ではしゃいでいたナジャとミーシャが流石に泳ぎ疲れたのか砂浜へと向かってきた。キサラが泳ぎ疲れたのかと聞くと、「こんなのまだ朝飯前だよ」とナジャは大量の魚を砂の城の側に放り投げた。
「朝飯前にもう夕飯分までまかなえるぐらいの魚を取ってきたのですわね…」
キサラが感心しているとミーシャが岩場を指差した。
「あの向こうにも砂浜があるのかな?飛行艇からは見えた?」
「いえ、あの向こうは影になって見えませんでしたわ」
「探険してみようよ!」
ミーシャのその一声で一同は更にもう一つ岩場の向こうの砂浜を目指した。
4
飛行艇の着陸した砂浜ではロイドとマハが二人腰を下ろして波打ち際を眺めていた。
泳げるほどの暑さではあるが、かといってじっとしていて暑苦しいほどでもない。爽やかな風が海から吹き込んでくる。話すタイミングをうかがっていたマハがそれを見つけてロイドに話しかけた。
「ねぇ、風雅と豊吉の旅の目的って何だと思う?」
「ん?世界を救う旅だろ」
「確かにそうなんだけど具体的によ。どんな事が起きてだから世界を救おうとしてるのかってのが解んないのよ。ここまでついてきて今更って事は置いておいてね」
「ん〜…オーク達も動いてるから何となくそれ関係だとは思うんだけどな。まぁ、オスナサイルの事もあるが、風雅や豊吉を見てると奴等は悪い奴じゃないって思うね。危険を冒してまであんなちっぽけな村を守る事を協力してくれたんだ。これだけは確かだ」
「そうね…でも、一緒に旅をしてるわけじゃない?何が目的なのか話してくれてもいいって思わない?同じ目的で動いてるほうがもっと協力し合えると思うのよね」
「そこは色々と事情があるんだろうよ。何となく見た目律儀そうに見えるじゃないか。奴等は奴等なりにボスもいて、その命令に従ってるところもあるんじゃないか…。それにさ、この前聞いたら"話せる時が来たら話す"って言ってたぜ」
「…」
「ま、なんだかんだ言って、俺達も借りがあるんだから、な。デッカイ借りがな」
5
砂浜からごつごつとした岩肌のある岩場へ突進むはつみたち。気がつけば岩肌の少し下は崖になっており打ち寄せる波が飛沫を垂直に空へ放っている。歩けど先には新たな砂浜が現れるわけでもなく、そろそろ戻ろうかと誰もが思い始めた頃、先頭を歩いていたミーシャが耳をぴくりと動かして進まなくなった。
ナジャやミーシャがこうした行動を取るのは決まって近くに予想外の者が居る時だ。
「オークだ…」
ミーシャがぽつりと呟く。
「…この島って飛行艇でしかはつでしたわよね」とキサラ。
ミーシャがいう事が何かの間違いであると少しの期待を持たせながら、一同は岩場を突進み砂浜が視野に入り始めた。そしてミーシャの聴覚や嗅覚が鋭い事を認めざる得ない証拠も視野に入ってしまった。
砂浜にはオーク軍のものと思われる幾隻もの揚陸艇が乗り上げている。揚陸艇から荷物を運ぶオーク達の向かう先にある林ではテントが設置されている。そして少し海の沖にはこれもまたオーク軍の戦艦が停泊している。
「あの船、なんだか様子が変ですわ」
とキサラが指差す先にあるオーク軍の戦艦はまるで嵐が通り過ぎた後の様にいたるところがボロボロになっている。特に甲板は被害が酷く、まるで何か巨大なものが乗り上げたように大きな傷が残っている。辛うじて浮いてるという状態だ。
「船で来るのはやっぱり無理があったみたい。無理を通して来ちゃったって感じだね…どことなくオーク達も疲れてるっぽい」とナジャが言う。これだけ離れた場所から顔の表情までわかるというのだから嗅覚や聴覚だけでなく視覚も優れている事になる。
「とにかく飛行艇のある所まで戻ろうよ。風雅や豊吉も村に行ってるからオークとはちあわせにならないように知らせに行かないといけないし」
「そうですわね」
一同はバカンスの雰囲気をぶち壊されて重い足取りで今来た道を引き返した。
6
ロイドが綺麗な砂浜や真っ青な海を眺めながらジェノバで味わった甘い思い出を心に浮かべていると、先ほど視界外の砂浜へと向かったはつみ達が戻って着ていた。
「なんだ、遊びつかれたのか?」
「そうじゃないよ、向こうの、さらに向こうの砂浜にオーク達がいるんだ」
「オーク?連中も飛行艇で着てるのか?!」
「いや、軍艦できたみたいだけど、ただじゃすまなかったみたいだよ。何とか来れたって感じだけど数は結構いたし、とにかくこのままここに居続けるのは危険だよ」
「くそ…風雅と豊吉はまだ戻ってきてないぞ」
そう言ってロイドは先ほど風雅と豊吉が向かった方角を見る。
「迎えに言ってくる」とナジャ。
「まぁ待てよ。俺も行く。マハはここに残ってくれ、もし何かあったら、とにかく飛行艇で逃げるんだ。空までは追いかけて来れないだろうし」
「わかったわ…だけど、それは飛行艇の整備が終わったらでしょ?まだいじってたわよ」
「ったく、あのチビは」
「ボクも残るよ。鼻と耳が聞くからオークが近付くのは早く探知できる」とミーシャ。
「そんじゃ、俺とはつみとナジャとキサラで村に行ってくる。にしても…なんでオークはここに来たんだ?オスナサイルよりも遥かにココは立地条件が悪いぞ」
「…もしかしたら、風雅や豊吉さんが追っているものと同じものをオーク達も追っているのかも知れないわ…」
「う〜む…」
ロイド達は廃村へと足を進め、マハとミーシャはジッタの作業を急かした。既に空は陽が傾き始め夕闇が訪れようとしていた。
1.00 ▼