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山陽新聞夕刊 夕刊エッセー 6面(文化エンタメ面)  

「たんすの引き出し」
(岡山県エッセイストクラブ会員 久本恵子) 
2019年7月18日(木)掲載

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(一部紹介)

山陽新聞夕刊 夕刊エッセー「たんすの引き出し」

 

 わが家のたんすは、いわゆる婚礼家具三点セットの一つで、和だんす、
洋だんすと共に実家から私が持ってきたものだ。
 ちなみに私たち夫婦の結婚は、令和元年の2019年からさかのぼること、
三十五年前、1984年十月のことであった。ずい分時間がたったものだ。
 下半分の四段の横長の引き出しは、夫と私と各自二つずつ分けて使っている。
一番下の段には、普段使いの私のTシャツや下着類を入れている。最近、どうも
一番下の引き出しが開けにくくなってきた。頻繁に開け閉めするというのに、
開けにくいし、なかなか閉まらない。大きな声では言えないが、時には蹴りを
入れて閉める。使用年数三十五年の重みだろうか。  どうすれば改善できるか、よい知恵が浮かばないまま日が過ぎた。ある朝、
はたと気づいた。ちょっと待てよ、なぜ一番下の段が下着類なのか、そもそも、
誰が決めたのか、これは変えられないのか。
 そうだ。変えたっていいんだ。引き出しの上と下を入れ替えればいいじゃないか。
どうしてこんな簡単なことを今まで思いつかなかったのだろう。
 自分で言うのも気恥ずかしいが、新婚当時の、おそらく今よりは初々しかった
新妻(私のこと)は、奥ゆかしく自分の下着類などは一番下の引き出しに、とか
思ったのだろう。新妻も三十五年たった。もういいだろう。
 お休みの日曜日、横長の四段の引き出しを上下入れ替えて、私の下着類の引き出しは
上から二段目にした。中もきれいに掃除、整理し直して、二時間くらいかかったが、
スムーズに開け閉めできるようになり、出し入れが楽になった。やれやれ、さっぱりした。
 確かこういうのをパラダイム(価値観)の転換とかいうのではないか。まあ、そこまで
大げさなことではないのだが、ささやかながら今までの価値観で凝り固まっていたものが
突然ガラッと崩れてよい方に変わると、誠に爽快な気分だ。

(以下、略)

                                 久本 恵子

                                (原文のまま。)


                                 

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