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毎日新聞 朝刊(岡山版) 27面  

岡山県エッセイストクラブ  リレーエッセイ ひらめき(13) 
「豊かな海」  
2015年9月19日(土)掲載

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毎日新聞 リレーエッセイ ひらめき 「豊かな海」

 

 

 

かつて会社員だったころ、上司から「改善案を出しなさい」と、よく要求された。

ところが、元々の知識が薄い上に、苦手な分野だという思いが強すぎた。
机に座って、いくらうなって考えても、さっぱり何も浮かばず、役に立たないことが
多かった。

 知識がないなら勉強すればよいだけのことなのに、一体何を調べればよいのか、
わからなかった。何をどうインプットすれば、ひらめくのか、と思っていた。その
スタート時点からボタンがかけ違っている。いわばカラカラのタオルを絞るような感じで、
本人としては、生き生きも伸び伸びもしないし、何とも辛かった。周囲にも迷惑をかけた。


 人は、ひとたび関心の高いことなら、アンテナがひとりでに立ち、誰に言われなくても
自発的に、できるだけ多くのことを知りたいと、精力的に動き、調べるのではないか。
そして、調べれば調べるほど、行ってみたい所や会ってみたい人が増えるので、また行動を
起こし、新たな刺激を受ける。問題意識と関心は益々高まり、アンテナは高く太くなる。

 私のイメージでいえば、結果、そのアンテナにひっかかって、膨大なものがたまり、
たぷたぷとした、いわば思いと知識の豊かな海ができあがる。その広大な海の中の何かが
反応し合い、ふとしたときに突然、水の粒のようなものが、海中から海面上に鋭く跳びはねる、
それが、ひらめき。

 もちろん、持って生まれた力量の差は、不公平なもので歴然とある。途中で息切れする、
今ひとつのものばかりかもしれない。中途半端な凡作、実らなかった思いつき。

 しかし、一旦へこんだとしても、少したてば、また気を取り直して、動き、調べ、思い、
考える。カスが出て当たり前、縮み思考にならず、結果にこだわらず、ただ無心に。

 その後、会社員生活は卒業して、個人でささやかな仕事を始めている。おかげさまで、
このところの私は、あれこれ混ざり合って、寝起きや寝しな、車の運転中などに、よく、
ポコポコと単語やフレーズ、映像の断片が浮かんでくる。

 提案、写真、文章、雑誌の記事。

 次はこんな提案をしてみよう、お役に立てるかもしれない。あの書類に例の写真を入れたら、
もっとわかりやすくなるはず。そうそう、ホームページの文章も手直ししたい。この前読んだ
雑誌の記事はおもしろかった。今度朗読してご紹介しよう。

 特大級のひらめきには遠くても、楽しく忙しい頭の中。

 少しは豊かな海になってきたのだろうか。

               
                                     久本 恵子 

                       
                                 (原文のまま。)

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