メディア掲載>2012年〜

一覧ページへ

毎日新聞 朝刊(岡山版) 23面  

岡山県エッセイストクラブ  リレーエッセイ 選択(23) 
「未完成のパズル」  
2015年6月13日(土)掲載

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

毎日新聞 リレーエッセイ 選択 「未完成のパズル」

 

 

 突然、クロスワードパズルの楽しさに気づいて、少しはまっている。
いきなり一問目のヒントから、つまずく。さっぱりわからない。そこがいい。
 クロスワードパズルとは、四角のマス目の中にヒントに基づいて文字

(もじ)を書き入れ、縦横どちらでも意味の通じる言葉にする遊びである。
 ネット検索や辞書にすぐ頼らず、できる限り自力で頑張ってみたい。
与えられたヒントから、あれこれ単語を思い浮かべてみる。マス目にうまく
当てはまらない。うーむ。この、わずかな努力が結構楽しい。
 私が週一回挑戦している新聞掲載のパズルは、縦横13マスの計169マス、
縦35個、横35個、合わせて70個の単語がわかって完成となる。私のような
初心者にはハードルが高く、最初30分間くらい散々考えても、まず10個近く
は答えがわからない。
 そんなときは、一回パズルから離れて、カッカした頭を冷ます。少し空けて
フレッシュな気持ちで改めて考えてみると、ああーっ、とわかることがある。
 縦横のヒント、相互に助けられて、突然わかったりもする。それこそが、
快感。一生懸命考えて、突然、そうだー、とピカピカッとひらめく、あの感動。
なるほど、なーんだ、そうよねえ。わからないゆえの、ちょっとした緊張が、
しゅるしゅると一気に緩み、ほっとする。やれやれ、と満足して、全て埋まった
マス目を眺めて、ひたひたとした喜びに、しばし浸る。
 日々のささやかな暮らしには、わからないこと、割り切れないことが、時にある。
何年もたって、ああ、と思うこともあるが、全てのマス目が埋まることはない。
 なぜ、あんなことが起きたのか。あの人や、この人や、私やあなたが、あのとき、
どんな気持ちだったのか、なぜ、あんな言葉を口にして、あんな行動を取ったのか。
逆に、なぜ、あのひと言をさらりと言えなかったのか。
 体調がよくなかったり、タイミングがまずかったのかもしれない。高ぶるものが
あふれそうになり、ついこぼれたり。歩み寄る努力があったとしても、硬いものは、
なかなか溶けず、かけ違ってしまうしかない事情や成り行きもあったとしたら。
 マス目が埋まらないままの、未完成のパズル。
 もう許してあげたら、という声がする。私も、あなたも。
 全てがわからないままでもいいじゃないか。空白のマス目も、そっと懐にくるみ、
にっこり顔を上げて、また前を向いて生きていこう。

                   久本 恵子 

                       
                      (原文のまま。)

▲ このページのTOPへ     

メールマガジン配信中お問い合わせ