メディア掲載>2012年〜
毎日新聞 朝刊(岡山版) 26面
岡山県エッセイストクラブ リレーエッセイ 縁(えん)(14)
「5色(ごしょく)のティッシュ」 2012年3月24日(土)掲載
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
毎日新聞 リレーエッセイ 縁 「5色のティッシュ」
スーパーマーケットでよく見かける、ティッシュペーパーの5箱パック。長方形の、いわゆる箱ティッシュが5個入って、
透明なビニール包装にくるまれて売られている。特売なら、1パック198円で買える。
私のお気に入りは、箱の外側に色違いの花柄がそれぞれ描かれている、某製紙メーカーの商品だ。重ねられた
5色の色が鮮やかで、売り場でもぱっと目に入る。中に入っている紙の肌触りもよい。
使っていると、知らず知らずのうちに、赤色の箱は台所、黄色は居間、青色は洗面所、緑色は寝室に置くように
なっていた。私には、色から連想するイメージがあり、自然とわが家のルールのようなものになっている。
台所は調理に火を使うから赤色、居間は温かいくつろぎの場所だから黄色。やっぱり水回りは青色でしょ。一番
好きな色で落ち着くから、寝室は緑色。人それぞれ違うだろうが、私にはこれがしっくりくる組み合わせだ。
時々うっかりして、このルールが乱れるときがある。すると、何だか落ち着かない。理由を考えてみて、「ああ、そうだ」
と気づき、居間の青色の箱と洗面所の黄色の箱を入れ替えたりして、やっとほっとする。
ここで問題だ。1パックは5箱である。
決められたルールに従って4箇所に使っていくと、いつも余るのは、そう、一番底にある紫色の箱だ。上から順に破ら
れた外側のビニール包装を身にまとったまま、洗濯室の隅に置かれ、じっと出番を待っている。
しかし、なかなかお呼びが来ない。そのまま、また新しいパックが買い足され、気がつけば、紫色の箱だけ1、2個重
なって残っている、ということがよくある。
昔、中学生の頃、美術の先生から、色のもつイメージについて教わった。その記憶が私の深層心理にあるようだ。
他の色のことは忘れたが、紫色の話はよく覚えている。確か、「紫色は高貴な色だ」と教えてもらった覚えがある。
どうやら、残念ながら、わが家には「高貴」との縁も場所もない。紫色の箱を一体どこに置いたらよいか分からないの
はそのためだ。
その後、製紙メーカーは、デザインを一新し、5箱のうち、紫色の箱だけ姿を消し、新しくピンク色の箱が登場した。
箱の外側の花柄が全てリニューアルされているが、赤・黄・青・緑の色はそのままで、紫色だけがなくなったのだ。
私のような人が多かったのだろうか。