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2020.04.01
岡山県エッセイストクラブ作品集

『2020 位置(いち) Position 第18号』

岡山県エッセイストクラブ発行
「やったね」(久本恵子)

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(一部紹介)

やったね
                                 久本恵子

      

 「やったね、やったね」、ご近所スーパーのレジ機から明るく元気な
子どもの声らしき合成音声がした。突然のことに、まさに財布を出して支払おうと
していた義母(はは)は、笑いながら「びっくりしたわー、なに、これ」と言った。

 岡山県南部を営業範囲とする地元中堅スーパーマーケットでのレジ前での出来事だ。
 この店は、ポイントサービスに対応していて、その月の累計お買い物金額が一定の基準
に達した顧客には、まとまったポイントが千円札くらいの大きさの紙のハーフ券として
発行されるのだ。ハーフ券は所定のカタログ掲載商品と交換できるなど特典がある。
「やったね」の音声は、そのハーフ券の発行を知らせる合図で、店員さんが手元のハーフ券
の在庫の束から一枚抜いて渡してくれる仕組みだ。インターネット全盛の令和の時代に何とも
アナログな感じもするが、ありがたいサービスだ。

 義母も開店以来よく利用しているご近所スーパーだが、最近は足腰が少し弱って、自分は行かず、
同居している私(長男の妻)が買い物代行することが多い。この日は久しぶりに連れて来た。
義母には初めての経験だったようだ。
 親切なレジの店員さんが仕組みを説明してくれる。「お客様にハーフ券をお渡しする合図なんです」と。
付き添いで一緒に行っていた私も「あの券が出るってことよ」と、補足する。

 「そうかなあ、びっくりしたがな」とまだ驚いた風だが、ユーモアあふれる義母は、
その後、すぐこう言った。「いやあ、この年になると、なかなか褒めてもらうこともねえ(ない)から、
やったね、やったね、って褒めてくれるとうれしいなあ。ハハハ」
 さすがだ。かたわらの店員さんや私を笑わせてくれる。一緒に笑い合った。

 確かに、人は何歳になろうとも、褒められるとうれしい。



(以下、略)

  2020位置

〜「あとがき」より、一部引用始まり〜


○  春の息吹が道溢れる候、『位置』十八号が無事発刊の運びとなりました。
   98人の会員の内56人から玉稿をお寄せいただきました。
   この十八号をジグソーパズルに例えますと、様々な形をした五十六のピースが
   ぴたりと納まった温かみのある作品集になりました。そのピースのひとつひとつから
   今を生きている皆さまの想いが感じられ、ページをめくる手を休めません。
 
   (中略)

 

   私たちがエッセイを書く原点は、創刊号の巻頭言にあると思います。
   言葉の力、美しさを大切に楽しく書き続けましょう。皆さまのご健筆をお祈りいたします。

 

   (後略)

  
〜一部引用終わり〜

 

 岡山県エッセイストクラブ作品集『2020 位置 Position 第18号』(A5判、194P、全十章、56編)
  2020年4月1日発行
  発行 和光出版(岡山市南区豊成)   印刷 昭和印刷株式会社   編集 岡山県エッセイストクラブ   定価 本体1,200円+税

 

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