Chapter 4

 

「な〜〜〜。ヒカリ〜〜〜。わい、もう死にそうや〜〜〜。」

 

 トウジは先ほどから大きな荷物を持たされて、ヒカリの後をヨタヨタと歩いている。別

に義足の調子が悪いわけではない。

 ただ、彼は鈴原トウジなのだ。

 なんといっても鈴原トウジなのだ。

 ……そして彼女は洞木ヒカリであった。

 

「もう、そんな情けない声出さないでよ〜!だいたいあなたが朝寝坊するから、ご飯食べ

損ねたんじゃない。自業自得だわ。」

 

「そんな事言うたかて〜〜〜〜〜。」

 

 はっきりいって情けない。いちおうトウジは学校では、硬派のカッコイイ先生で通って

いるのだ。服装に若干の問題はあるが、さばけた性格で「良いものは良い、悪いものは悪

い」とはっきり言い切ることのできるトウジは、男子からも女子からも人気がある。

 しかしいまはただの駄々っ子でしかない。

 

「いくらタイガーシャークスの忘年会だったからって、昨日は飲みすぎよ。あんなヘベレ

ケになるまで飲んじゃってさ。」

 

「う〜〜〜〜〜〜〜。堪忍してくれや〜。」

 

「………カナエちゃんも受験生なのよっ。」

 

「う゛…。それを言われると返す言葉があらへん…。」

 

「でも………」

 

「ん?」

 

「鈴原も、今年はいろんなことがあったね…。」

 

「……そやな。」

 

「…………いい年だった?」

 

「………ああ、ええ年やったと思う。」

 

「そう…。」

 

「…………ヒカリは?」

 

「…………うん、いい年だったよ。」

 

「……さよか。」

 

「さよだ。」

 

「…あほ、そんな言葉あるかい。」

 

「ふふ。そっか。」

 

 

 

 

 

 

 

 なんとなく良いムードで歩いて来た二人だが、突然それをぶち壊しそうな音が聞こえた。

発生原因は言うまでもない。

 

 

 

ぐぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんなにお腹空いてる?」

 

「なはは…。ん。」

 

「……じゃ、これ。」

 

「なんや…。おにぎり一個だけかいな…。」

 

「あたりまえじゃない。みんなの分もあるんだから。」

 

「まあ、虫養いくらいにはなるわな。」

 

「虫養い?」

 

「ああ。腹が減るとお腹の虫が鳴きよるやろ。そやさかいちょびっとだけ、物食うて黙ら

せんねん。」

 

「へえ…。おもしろいね。」

 

「…もぐもぐもぐもぐ…」

 

「…………どう?虫さん静かになった?」

 

「う〜ん…。まあまあやな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「わたしもそろそろ誰かさんに養ってもらおうかな………。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

「うそ…。言ってみただけ…。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………おまえの妹のノゾミちゃん、就職決まったんやったな。」

 

「………うん。4月からは幼稚園の先生だよ。」

 

「……………うちのカナエも、合格すれば4月からは高校生や。」

 

「そうだね、希望の高校に行けるといいね。」

 

「……………ま、なんとかなるやろ。」

 

「カナエちゃん、成績いいもんね。」

 

「油断は禁物やけどな。」

 

「お、さすがは鈴原先生!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あいつが一人前になったら、わいは死んだおかんにも、松代のおとんにも面目が立つ。」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…とにかくそういうこっちゃ。」

 

「……………うん。」

 

「…………すまんな、ヒカリ。」

 

 

 

 

 

 

 

「………ひとつ言っておくわ。」

 

「なんやねん?」

 

「わたしの将来は、中学2年のときにもう決めてるの。だから謝らないで。それに…、何

でも一人で抱え込むのがあなたの悪いところよ。」

 

「…………ん。すま……、わかった。」

 

「ふふ、その調子、その調子。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、鈴原。おにぎりもう一個食べる?」

 

「二つはあかんかな?」

 

「ばか。」

 

 

 道の真ん中を、おにぎりを食べながら歩くのは厳に慎みましょう。

 

 

 

 

Chapter 5

 

 

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