これは、いままでとはちょっと違ったエヴァ手話劇場。

 舞台は第3新東京市。

 碇シンジ、惣流アスカ・ラングレー、綾波レイの3人が、第一中学の生徒だった頃のお

話。もしかしたら、かれらの過去にこんなことがあったかも知れない世界。ってことで・・・

 

 

学園エヴァっす。

Neon Genesis 
Sign Language of Eva
Wishing well

 



 西暦2,016年4月。

 ぼくは中学3年生になった。

 

 第3新東京市立第一中学校…。

 ここへ通うのもあと1年か…。なんだか感傷的になっちゃうな…。

 

 なんてセンチになってたら…

 

ばこっ!!

 

 いきなり後頭部に鈍い衝撃を感じた。それが誰のものによるかは、すぐに分かった。

 

「校門の前でなにを佇んでんのよ。」

 

 ほらね、明日香だ。そんなニコニコしながらひっぱたくなよ。

 

「痛ってえなぁ!急に殴ることないだろっ。」

「うっさいわねぇ!だいたいなによ、いっつもあたしが起こしにいくまではぐぅぐぅ寝て

るくせに、なんできょうに限ってこんなに早くから登校してるわけぇ?」

 

 いきなりそんなこと言われてもなあ、たまにはそういう日だってあるんだ。あ、この女

の子の名前は惣流明日香。ほんとうはそのあとに「ラングレー」ってドイツ名がつくんだ

けど、普段は「惣流明日香」で通している。なんの因果か、ぼくの幼なじみで幼稚園のと

きからずっと一緒だ。家もすぐ隣だしね。おまけにぼくの母さんと明日香のお母さんは同

じところに勤めている同僚なんだ。

 あれ?なんだよ…。明日香だってそんな顔して校舎を見上げてるじゃないか。

 

「いよいよ3年生かぁ…。このあいだこの学校に入学したばかりだと思ってたのにね…。」

 

 そのときの明日香の表情は、さびしいような、感慨深いような、とにかくいろんな気持

ちがない交ぜになったような、それでいてなんだかちょっと大人びたカンジで、不覚にも

ぼくは一瞬見とれてしまった。鼻の下もちょっと伸びていた…みたい。

 

 

 腰までとどく黄金色の髪の毛。

 均整のとれたプロポーションに、芦ノ湖も裸足で逃げ出すくらいの深いブルーの瞳。

 たしかにかわいいよなぁ…。

 

 

「だからぁ!あんたも一応、最上級生なんだからシャキっとしなさいってえの!」

 

べちん!

 気がついたときには、明日香のかばんがぼくの頭の上にあった。

 ついでに目の前にはジャコビニ流星群が飛び交っている。

 

 前言撤回!!

 

「くっそ〜!あったまにきた!!明日香こそいいかげんにその性格なんとかしろよ!!」

 

「べぇ〜だぁ!」

 

 明日香はおもいっきりアッカンベェをすると、ぼくの前からダッシュした。

 

「あ!待てこの!」

 

 あわててぼくも追いかける。いいのかなぁ…中学生活最後の一年がこんな始まりで。

 

 

 

 

 

 2年生まではこちら側の校舎だったんだけど、3年生からは本館の教室になる。気がつ

いたら明日香はすでに中庭を抜けて本館の玄関に飛び込もうとしていた。明日香って女の

子のくせに、やたら足が速いんだ。ぼくだってそんなに運動神経が鈍いわけじゃないんだ

けど、とにかく明日香は足が速い。きっとゲルマン民族の血がそうさせているんだね。あ

の民族はとにかく世界中をウロウロしていたらしいから…。そうですよね、加地先生。あ、

加地先生って言うのは2年生のときの社会科の先生なんだけどね。

 って説明している場合じゃないよっ!

 とにかく明日香を追いかけなきゃ!!

 だいたい女のくせに乱暴なんだ。

 将来絶対に嫁の貰い手はない!!!

 ぼくは幼なじみとしてキッパリ言い切れるよ。うん。

 

 普段だとこのまま追いかけっこをしながら教室に飛び込むって状況なんだけど、きょう

はいつもとすこし違った。

 明日香に続いて本館の玄関に飛び込んだぼくの目に映ったのは、廊下で尻餅をついた明

日香の姿だった。

 

 

「いっ痛あ〜い!」

「どうしたんだよ、明日香!」

 

 あまりに情けない明日香の格好に、ぼくは我を忘れて駆け寄った。そして無意識のうち

に明日香を抱き起こしていたんだ。言っとくけど無意識だからね…。

 

「あ痛たたたぁ…。」

「明日香、だいじょうぶか?!」

 

 明日香は顔をしかめながらうなってる。よほど痛かったんだな…。ふと気がつくと目の

前に見慣れない制服を着た男の子が立っていた。転校生かな…?なんだか困ったような顔

してるよ…。あ、まさか明日香のやつ、この人とぶつかって…?

 

「違うよ慎二。ぶつかってないよ。あたしがそこの角を曲がったら、この人が立っていた

から避けようと思ったんだけど、そのままバランス崩しちゃった…。」

 

 なんとか立ち上がってスカートを払いながら、明日香は真っ赤な顔でそう言った。

 

「そ、そう?なら良いけど…。」

 

 明日香がそう言うもんだから、とりあえずぼくも納得することにしたんだけど…

 

「それより慎二!手!!」

「は?」

 

 あれ?どうしたの明日香?顔、真っ赤だよ…?って…

 

ををっとを!

 

 ぼくはまだ明日香の腰に手を回したままだった…。

 

 

 

 

 

 

 

 

 まあったくぅ!!よりにもよってなんで新学期からついてないのよっ!

 はっきりいって最悪ねっ!

 

 あたしは新しい教室にむかうあいだ中、はずかしさと情けなさで頭の中がぐちゃぐちゃ

だった。だいたいバカ慎二がいけないのよ!!なんできょうに限ってこんなに早くから登

校してんのよ!おかげで朝から痛い目に合うし…。この恨みは10倍にして慎二に返して

やらなきゃ腹の虫が収まらないわっ!おまけにあの職員室の前に立ってた奴、あいつもよ

っ。あたしが大声で『どいてぇ!』っていったのに、知らん顔して突っ立ってるんだもん。

あたしの運動神経がよかったからぶつからずに済んだようなものの、ほんとうだったらあ

たしのタックルを食らって………。

 

 ふう……。

 本当は廊下を全力疾走したあたしのほうが悪いんだもんね。慎二のこともそう…。今朝、

校門の前で校舎を見上げていた慎二は、なんだか今までの慎二とは違った雰囲気だった。

 あいつとあたしは幼稚園からずっと一緒の幼なじみ。弱虫で、泣き虫で、いっつもあた

しの後ろに引っ付いていた慎二…。少なくとも小学校の低学年まではそうだった。さすが

に3年生ぐらいからはあいつも一丁前のことを言うようになったけど、それでも基本的に

あたし達の立場が変わることはなかったの。

 

 だれよ、尻に敷いてんだな、なんて言ってる奴は!!

 

 それがいつのまにか男っぽくなって、中学校に入学した頃は背の高さもおんなじくらい

だったのに、あいつってば去年くらいから急に背が伸びて、許せないことにいまではあた

しよりも10センチくらい背が高い。

 

 

 なにが許せないんだろ…。

 さっきのことだって…、あの後、あたしはとにかく恥ずかしくて、逃げるようにその場

から走り去ってしまった…。すこし行ってそっと振り返ってみたら、慎二が男の子に謝っ

ているのが見えた。なんであんたが謝るのよ!あんたは関係ないでしょうが!勝手にでし

ゃばるんじゃないわよ!

 

 謝らなきゃいけないのは…あたしのほうなのに…。

 

 ほんと、なんて始まりなんだろ…。あたしの中学3年生…。

 

 

 

 

 

 新学期の始業式も終わり、ぼくらは体育館から教室へと帰ってきた。

 式の間中は気がつかなかったけど、改めて教室の中を見回すと、今まで一緒のクラスだ

った連中もいれば、3年生になって初めて一緒になった人たちもいる。そのなかでこの二

人とはまた一緒だ。結局3年間同じクラスなんだよね…。

 

「よお、慎二。またおのれと一緒やなぁ!」

 

 そう言って白い歯をむき出しながら話し掛けてきたやつは、バスケット部主将の鈴原統

治。

 

「よっ!とうとう最後まで3バカトリオだな。」

 

 そしてこの丸眼鏡のやつは相田健介。今年から新聞部の部長になった。将来はジャーナ

リストになりたいんだそうだ。この二人とは小学校は別々だったんだけど、1年生のとき

から一緒になってつるんでいる。

 

「それにしても慎二も新学期早々遅刻とは、相変わらずのようだな。」

「なんや、また夫婦喧嘩かいな?3年になっても難儀やのう〜センセ〜。」

 

 ああ…。またはじまったよ。こいつらも進歩が無いな…。

 ご存知のとおり、この「夫婦」というのはぼくと明日香のことだ。それというのも1年

生のときにぼくと明日香が一緒に登校しているのを統治と健介に見られたからなんだ。ぼ

くと同じ第一小学校からこの中学に入学した連中はなんとも思ってなかったんだけど、第

二小学校出身の統治達には意外な出来事だったらしい。初めの頃はムキになって否定して

たんだけど、さすがに1年、2年と言い続けられると言い返すのも面倒くさくなって、最

近はテキトーに受け流すことにしている。『どうせ単なる幼なじみ』ってだけだし。

 

「お。反応がありませんな、鈴原さん。」

「さいでんな。こりゃあいよいよ既成事実の構築に向けて本格的に始動開始といったとこ

ろかもしれまへんで、相田さん。」

 

 二人して腕を組みながら、うんうんとうなずいている二人を見ていると、ぼくもなぜか

安心した気持ちになってしまう。今までと変わらない光景。だから3バカトリオっていわ

れているんだろうな。

 

「あと一年よろしく頼むぜ、統治、健介。」

 

 ぼくはにっこり笑うと二人におどけて敬礼をした。

 

 

 

 

「おはよ明日香。なんか元気ないね?碇君と喧嘩でもした?」

「ん?あ、おはよー光。」

 

 机に突っ伏して、ぼーっとしていたあたしに声をかけてきたのは洞木光。あたしの小学

校のときからの親友。おさげ髪のかわいい女の子。むかしっから人に頼られやすいのが彼

女の長所でもあるし、それを断りきれないのが短所でもある。おかげで毎年クラスの委員

長をやっている。光の凄いところはそれをまったくいやな顔一つせずに引き受けて、テキ

パキと仕事をこなしてしまうところだ。あたしにはとうてい出来そうも無い。だからあた

しは彼女のことを尊敬してる。ほんとにいい子だよ。

 

「ん〜……。喧嘩したってわけじゃないんだけどねぇ…。あはは…」

 

 いくら親友でも今朝のことを話すのはちょっと気が引けた。とりあえず、ここは笑って

ごまかすしかない。

 

「そう?ならいいけど。」

 

 そう言うと光はあたしの横の席に腰をかけた。まだ授業が始まったわけじゃないから、

誰がどこの席かはまだ決まってないんだけどね。そのときだった。

 

「やあっほう!あっすか〜、ひっかりちゃ〜ん!」

 

ぐあ……でた……

 

 突然あたしの目の前に、シルバーブロンドの固まりが飛び込んできた。あいつだ…。

 

「また3人一緒のクラスになれてよかったねえ!」

 

 そういいながらあたしと光の目の前に現れたのは、綾波麗。なんとまあ、この子ともも

う1年一緒なわけね…。ふう…。心の中で頭を抱え込んだあたしのことなどお構いなく、

麗はひとりでぴょんぴょん飛び跳ねている。

 あたしと光は同じ小学校だったんだけど、麗は1年生のときに転校してきた。小学校の

ときまでは養護学校にいたの。彼女はアルビノという先天性の色素異常だったらしい。だ

から彼女の髪の毛は光線の加減によっては銀色に見えたり、蒼っぽく見えたりする。瞳の

色もルビーみたいにきれいな赤い色。ちいさい頃は抵抗力も弱かった関係で、虚弱児対象

の養護学校に通っていたんだって。それで中学生になるときに普通の学校でも問題ないだ

ろうということで、この第一中学校にあたし達と一緒に入学したの。

 わたしは麗のことは好き。光の次に親友といってもいいと思う。だけどねえ…。

 

「ねえねえ聞いて聞いて!麗ちゃんの小説、やっと半分くらい書いたんだよ〜。」

 

 これだ…。麗は今年から文芸部の副部長になったらしい。彼女は2年生の初めの頃から

SFを書いている。題名は「なんとか…げりおん」だったかしら?ここ第3新東京市を舞

台にして、ロボットやわけのわからない怪物が出てくるお話らしい。まいったのは登場人

物が、あたしや慎二がそのままの名前で登場していること。麗に言わせると、キャラクタ

ーの名前を考えるのが面倒くさいんだそうだ。それだけならまだしも、主人公はしっかり

自分がなっていて、そのヒロインの女の子(つまり綾波レイ)が想いをよせる男の子の名

前が、碇シンジってんだから始末に終えない。ついでにこのあたしもドイツからやってき

たそのロボットのパイロット「セカンドチルドレン惣流アスカ・ラングレー」なんだそう

だ。麗が書いているのは、ちょうどあたしが来日したところまでらしい。

 この小説の話が始まると、麗の演説は加速度を増してエンドレスに続いてしまう。これ

さえなけりゃあ可愛い娘なんだけどねぇ…。

 

「んでさぁ〜。そこでアスカがねぇ〜…」

 

 麗には悪いけど、きょうのあたしはわけのわからないSFをずっと聞いているほどの心

の余裕はないわ。ちょっと静かにしててくれない?

 そう思って麗の口を封じようとしたとき、

 

「は〜い!3−Aの諸君!おっはよー!!」

 

 教室に入ってきたのは脳天直結の教師だった。







つづく





創だす。エヴァ手話の続き、ようやく再開します。さて、第九話はすこし毛色を変えて『学園もの』にしてみました。え?!なんでやねん!!と思われる方も多いと思います。が、今回のテーマには学校の様子が不可欠なのであえてこうしました。エヴァ手話本編のパラレルワールドと思ってお付き合いください。KJさんのネタはしっかりと盛り込む予定ですので・・・。

追記 1999年4月より独立シリーズとなりました。





メールはこちら

BBSはこちら

エヴァ手話メニューへ