第4章
矢倉三人衆の誤算

 4回戦ともなれば、さすがに甘い相手は期待できない。次の相手は衆目の一致するところ、東北工大最強の宮本氏である。過去に一度対戦して、研究手順を食い破られて敗れるという、私としては最も屈辱的な敗北を経験している。
 戦形は向い飛車対三間飛車の典型的な相振飛車。宮本氏は右矢倉を目指してきた。ここで私に一つの計略が思い浮かんだ。角交換後、宮本氏の自陣角に私は平然と左に金を上がり、以下第3図となった。
 右玉ならぬ相振飛車左玉の構想である。


第3図

後手:宮本

持ち駒:なし

持ち駒:角

先手:藤田



 第3図は自分だけ角を手持ちにして作戦勝ちであるが、右銀の働きの関係から打開が難しい。
 実のところ私には打開する気など毛頭なかった。宮本氏の消費時間を増やして次の千日手指し直し局で持ち時間の優位を主張するつもりであったのである。そして案の定、私は千日手に持ち込むことに成功した。

 指し直し局は、3回戦に続きまたしても相風車。宮本氏の、一瞬の隙を捕らえた鋭い攻めに私は一時は劣勢にたたされた。ところが、時間に追われた宮本氏は、私の反撃に受けを誤り、狙いどうりの勝利を得ることが出来た。


 こうして私の千日手狙い作戦は成功したが、二つの誤算があった。
 その一つは太田の敗北である。
 太田は「両わきで妙な将棋を指されて(鈴木も相風車模様の将棋だった。)頭がおかしくなって、逆転された。」と主張している。
 してみると、私ももっとまともな作戦を採るべきであったろうか。
 冗談はさておくとして、いまひとつは体力、気力の消耗である。実のところ最初からわかっていたのであるが、強豪宮本氏に勝つためにはやむ得ぬ犠牲といえよう。



解説:
 宮本氏相手に引き分けなら上々というのは、偽らざる本音であった。指しなおし局が不利になったときはもちろん後悔したが。

 太田氏が負けたのは意外ではあったが、100戦して100勝できるわけもない。

 私が一番不思議なのは、皆、太田氏が弱くて負けたなどとは思うはずないのに、いつでも太田氏は負けた言い訳をしたがることである。(^^;


第5章
マクラーレン・ホンダの逆襲


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