「生活習慣病指導管理料」について

『「生活習慣病指導管理料」は,高脂血症,高血圧症又は糖尿病を主病とする患者の治療においては生活習慣に関する総合的な指導及び治療管理が重要であることから設定されたものであり,治療計画を策定し,当該治療計画に基づき,服薬,運動,休養,栄養,喫煙及び飲酒等の生活習慣に関する総合的な指導及び治療管理を行った場合に,許可病床数が200床未満の病院及び診療所である保険医療機関において算定する。』もので、従来「運動療法指導管理料」とされていた老人以外の慢性疾患指導の項目が名前を変えて「生活習慣病指導管理料」となったものです。高脂血症・高血圧症・糖尿病の3つの疾患で、指導管理等、検査・投薬・注射の費用はすべて包括したものです。

 「運動療法指導管理料」の時には、「運動療法について相当の経験を有する医師が運動療法に係る指示せんを交付し、総合的な治療管理を行った場合」という変な縛りがあった事と、包括点数が今より200点少なかったため、臨床の現場ではほとんど算定されなかったと思います。

 今回の「生活習慣病指導管理料」の点数は下記のような設定となっています。   
表-1
院外処方
院内処方
差(薬剤費)
高脂血症

1050点

1550点

500点

高血圧症

1100点

1400点

300点

糖尿病

1200点

1650点

450点

  1点10円

 「生活習慣病指導管理料」については月1回以上適切な指導と治療管理が行われなくてはならず、また3ヶ月に1回の「療養計画書」を発行しなければなりません。

 さて、この算定の是非と問題点についてはネット上でも、臨床の現場でも議論がなされています。
 今回の診療報酬改定では診療費・検査・薬剤費・入院費など軒並みダウンの医療費削減の中でただ一つ、「生活習慣病指導管理料」は診療報酬がアップした項目といえます。その意味では多くの開業医が期待した点数ですが、その選択には大きな問題がることが分かりました。

 包括点数としては現在の(突然14年10月廃止予定)老人慢性疾患外来総合診療料(外総診)などと比べても、月1回の算定ですから高点数とはいえないのですが、高脂血症や高血圧などで合併症のない安定した状態では月の受診回数も少なく、定期的な数ヶ月毎の検査以外積極的な検査もなく「生活習慣病指導管理料」の算定は医療機関にとってはかなりに有利な点数だといえます。
「ちなみに外総診は院外処方の場合は735点(月2回まで可で、月1470点)、院内処方の場合は月初回1035点、2回目735点で月2回受診なら1770点と設定されています。」

 しかし、全ての医療機関に有利な点数という問題だけでなく、後述するように色んな条件で患者負担が異なり、患者負担を強いる点数であることも分かりました。元々出来高制度と定率負担が基本の外来診療に、包括化診療制度を導入し、負担だけは定率に据え置いた弊害とも言えます。

 これらの慢性疾患の患者さんの今までの包括されない(出来高)点数と包括化された「生活習慣病指導管理料」の点数や自己負担を比べてみると、下記の資料(表-4、5)に示すように包括点数の場合2-4倍の自己負担アップになります。勿論このシミュレーションでは院外処方の場合を設定し、検査料は入れていませんので検査月には出来高の方が高くなることがあります。しかし包括化によって通常月の患者負担は大幅に増えることがおおいので、患者負担を考えればすぐに算定できない事情があるのです。

 もちろん「生活習慣病指導管理料」に、この自己負担のアップを納得できるものがあればいいのですが、安定期の慢性疾患では「療養計画書」の発行程度ではすぐに納得できるものはありませんし、安定した慢性期の「療養計画書」では特別変わった計画書も出せません。

 この様に包括化された「生活習慣病指導管理料」は色んな条件で、患者負担が変化するため、医療機関側で算定に二の足を踏む事になりますが、それはどんな場合かを少し検証します。

 まず「生活習慣病指導管理料」は診療所が院内処方か院外処方かで、診療所側にも患者側にも算定の是非が分かれてきます。一般的に院内処方では、月の薬剤量が高血圧で300点しか認められていないということですから、(表-1の薬剤費の差 高脂血症で500点、糖尿病で450点)、包括化を選択すれば、高薬価の新薬の処方などは包括化された薬剤費をすぐに超過しますので控えざるを得なくなります。また薬剤料以外に検査料も包括化されますので、年間の検査計画もシミュレーションを行わねばなりません。

 例えば、高脂血症で一般に汎用されるリポバス(5mg)1錠は182.5円ですので1ヶ月では薬剤費だけで5,475円となり、高脂血症の院内処方の薬剤料をオーバーしていますし、高血圧で新薬のニューロタン(50mg)は1錠薬価210.5円ですので月30日とすれば薬剤費は6,315円ですので高血圧の300点を遙かにオーバーしてしまい「生活習慣病指導管理料」では使用出来ないと思います。院内処方では設定された点数の中でジェネリックの使用や新薬の使用制限が必要となります。合併症の多い、投薬の多い場合は同じ理由で選択出来にくい状況です。

 一方院外処方を選択している診療所では、診療所では薬剤負担はありませんので、「生活習慣病指導管理料」の選択はかなり医療機関の報酬アップにつながりますが、前述したように患者負担も数倍アップするので医療機関側の都合だけで選択する事は出来ません。

 ただし院外処方の医療機関で「生活習慣病指導管理料」を算定した場合、調剤薬局での薬剤一部負担金が免除されます。(表-3)
 
たとえば、薬剤を3剤を処方した場合、薬剤費の自己負担とは別に1日30円(月900円)の薬剤一部負担金がかかりますが、「生活習慣病指導管理料」を算定している場合これが免除されます。特に多剤投与の場合には影響が大きく、患者の自己負担額合計は薬剤の種類で大きく違ってきます。多剤投与で薬剤一部負担金の多い患者さんなら、医療機関でのアップを薬局での薬剤費ダウンで少し解消できることも可能です。(院内処方とは別の問題ですが。)しかし、薬剤数によって一部負担を徴収するこの制度自体が薬剤費の二重負担ですし、来年度には廃止が叫ばれているのでいつまでその免除の利点が生かされるかは不明です。

 一方200床以下の病院でも「生活習慣病指導管理料」は算定できますが、この場合にはもっと自己負担の影響があります。というのは診療所に比べて再診料・特定疾患療養指導料も病院では低く抑えられているため、月の診療費は病院では診療所よりかなり低い設定となります。

   表-2 特定疾患指導管理料

診療所

225点

100床以下の病院

147点

100-200床の病院

87点

 ということは病院の医療費は特定疾患指導料だけでも診療所より低く設定されていますので、「生活習慣病指導管理料」を選択すれば患者負担は診療所の場合の負担よりもっと大きくなりますので、やはり患者さんに説明しにくい算定となります。(表-5 100床以上の場合)

 しかし、200床以上の大病院ではこの特定疾患指導管理料の設定はなく、今回の「生活習慣病指導管理料」の設定もないわけですから、これらの慢性疾患の診療費は診療所と中小病院・大病院で大きな差が出来ることにもなり、診療報酬そのものの決定の根拠が問われることになると思います。
「生活習慣病指導管理料」は本来は、大病院の専門外来で、専門医による治療・指導が行われた場合に算定できる包括化診療費であるべきです。それならば少し報酬が高くても患者側は納得できると思います。現在は大病院の専門外来が一番医療費(診察費)が低い事になりますので、これ以上診療所の患者負担がアップすれば、ますます大病院指向が進んでゆくと考えます。厚労省の思惑と逆の方向に進んでいます。

 また「生活習慣病指導管理料」を選択するかどうかの判断は現在の診療・受診状態にも関係します。現在もし1ヶ月に1回程度の受診で、投薬も1ヶ月なら「生活習慣病指導管理料」の算定では自己負担は大幅にアップします。特に診療所では自己負担は大幅アップともいえます。今回薬剤の投与期間の制限が原則的に廃止されましたので、今まで月数回の受診患者さんに、包括化で月1回の受診に出来る事にはなりますが納得が必要でしよう。と言うことは今後老人以外の安定した慢性疾患では受診回数は月1回程度に抑制されることは予想できます。
 1ヶ月4-5回の受診が必要な場合には包括化が患者さんにとっては有利になりますが、そんな状態は不安定な状況であり医療機関には包括化を選択する理由がありません。

 このように「生活習慣病指導管理料」は、診療所か中小病院か。院外処方か院内処方か。患者さんの受診形態はどうか。投薬の量や薬剤数は。検査がどの程度必要なのか。患者さんの負担割合は(2割と3割負担なのか)などによって、医療機関と患者さんの負担にメリット・デメリットがあり、それもかなり大きな開きがあるため、外来の現場で多くの施設が「生活習慣病指導管理料」を選択するかどうかは不明です。

 本当は、こんなに大きな問題となる包括化医療費を、現場の意見も聞かずに、負担割合も考えずに外来診療へ設定したこと自体再考すべきものと考えます。

 老人の包括化「外総診」が多くの診療所で選択された場合とは、全く異なる包括化であるといえます。外総診は包括化で診療報酬はアップしましたが、老人の患者負担は定額化で増加しなかったため選択されたもので、「生活習慣病指導管理料」とは異なります。また、厚労省はこの「外総診」を突然廃止すると発表しました。詳しい理由は説明されていませんが、「算定が複雑であり現場が困っている」といいます。勿論外総診の算定も色々複雑ではありますか、老人外来医療の中でほぼ認可されていたものが突然廃止となるのです。老人医療費の増加のためしか、理由はありません。包括化医療はこれまでも厚労省の思惑通りに進んでいませんし、多くが失敗しているのです。

 最後に「生活習慣病指導管理料」では総合的な指導に係る療養計画書を「3ヶ月に1回以上交付すること。交付した計画書の写しを診療録に添付すること」となっています。この療養計画書のひな形には患者と主治医のサインと印が必要な様式になっていますので、両者が納得し保管する事が求められているのかも知れません。しかし、診察時に印鑑持参で診察を受ける患者さんはいないと思います。書類には「はんこ」が必要というお役所の発想でしょうか。

 以上長々と私見を述べましたが、個人的にこの「生活習慣病指導管理料」を算定すのかと問われたら、特別な事情を除けば「算定しない」と言う結論になります。実際4月から外来で、患者さんに説明することもありますが、当院の場合、「病院の外来200床以下・院外処方・基本的には月1回受診」ですので、表-5の例のように通常の診療費は293点、2回受診月の合計で575点です。これが1050点から1200点になるのですから、高血圧の場合患者負担は3割で879円から3714円へ4.2倍のアップとなります。「算定できない」理由が分かると思います。

 こんな風に医療機関や受信者の金額の有利・不利で診療報酬の設定を決めざるを得ない制度そのものが何か不思議な制度だと思いますし、本来の慢性疾患の適切な指導や管理はいかにあるべきかという本質から離れた議論になっているようです。
 慢性疾患の正しい指導や管理には、医療者としてそれなりの正しい報酬を要求すべきですが、この指導料は、何の根拠もありませんし、同じ高血圧で受診する患者さんも医療機関によって、こんなに医療費の差があることは理解できない点数だと言えます。
 悪質な(??)算定も可能ですので、早急に見直すべきだと考えます。

               14年4月10日  玖珂中央病院 吉岡春紀 
                   4月11日 一部修正
                     15日 追加


   

追加情報 4月13日 倉敷市 姫井先生より
 改定から10日以上も経過しているにも関わらず、確実な情報は未だに医療現場に周知されていないと言うのもおかしな話です。また厚労省の出先機関であって、一番確かな筈の社会保険事務局の回答が一番誤っている可能性が大と言う、誠に不可思議な結果です。

 見 解
 1.「薬剤一部負担金のみ免除」
   岡山県薬剤師会からの情報です。
 2.「薬剤一部負担金、及び薬剤費、調剤費などの負担金も全て免除」
   老人外総診の場合と同様と考えればこうなります。
   (山口県支払基金の見解)
 3.「薬剤一部負担金、及び薬剤費、調剤費などの負担金も全て支払う」
   小生自身が4月11日に直接、電話で問い合せをして得た回答です。
   (岡山社会保険事務局の見解)

 

 このように院外処方の場合の、調剤薬局での患者さんの負担についての見解が、各県の支払基金や社会保険事務局で大きく違っていました。それほどわかりにくい制度と言うことが出来ます。

 この薬局での負担金の問題は、厚労省の確認の結果、1.「薬剤一部負担金のみ免除」で統一された見解となりました。  4月16日


生活習慣病指導管理料算定の為の、療養計画書作成テンプレート
 
ファイルメーカープロ4.0作成 テンプレート ダウンロード

現実の点数 

外来薬剤費一部負担金;   表-3

1種類

0円

0円

2-3種類

1日分 30円

月 900円

4-5種類

1日分 60円

月 1800円

6種類以上

1日分100円

月 3000円

 

一般の診療所(院外処方)における出来高算定と包括化算定の試算 表-4

出来高算定
包括化算定

1回目受診
2回目受診
1回目受診
2回目受診
差額

再診料

81

74

81

74

外来管理加算

52

52

52

52

継続管理加算

5

5

特定疾患療養指導料

225

225

処方箋料

69

69

特定疾患処方管理加算

15

15

生活習慣病指導管理料

1,100

医療費合計

447

435

1,238

126

月1回の場合診療費

447
1,238

791

2割負担

894円
2476円

1582円

3割負担

1341円
3714円

2373円

月2回の診療費合計

882
1,364

482

2割負担

1764円
2728円

964円

3割負担

2646円
4092円

1446円

                  生活習慣病は高血圧の1100点として計算
               ML himedaruma 平野仁志先生の試案に一部補足

100床以上病院(院外処方)の場合の診療試算 表-5

出来高算定
包括化算定

1回目受診
2回目受診
1回目受診
2回目受診
差額

再診料

65

59

65

59

外来管理加算

52

52

52

52

継続管理加算

5

5

特定疾患療養指導料

87

87

処方箋料

69

69

特定疾患処方管理加算

15

15

生活習慣病指導管理料

1,100

医療費合計

293

282

1,238

111

月1回の場合診療費

293
1,238

945

2割負担

586円
2476円

1890円

3割負担

879円
3714円

2835円

月2回の診療費合計

575
1.349

774

2割負担

1150円
2698円

1548円

3割負担

1725円
4047円

2322円

                   生活習慣病は高血圧の1100点として計算 


資料ページに戻ります