老人は3ヶ月経ったら一般病院(病棟)から追い出されます

 昨年10月に「一般病棟へ6ヶ月以上入院の老人患者の看護料大幅削減」
 「長期入院を余儀なくされている老人患者を見捨てる改悪」をこのホームページにも掲載していました。
 看護料のめちゃくちゃな逓減化により、6ヶ月を過ぎると一般病院ではお年寄りの入院継続できなくした制度でした。

 今年1月から「老人医療費の定率1割負担や高額医療費の還付額の変更」などの医療費自己負担増額の政策が、施行されています。

 そしてもう一つあまり大きな話題になっていませんが、一般病院・病棟に入院の老人患者の入院費包括化が90日を超える入院患者に適応されていることです。昨年10月の制度は経過措置としていままでは6ヶ月だったものが3ヶ月に短縮されたのです。

 要するに、老人は一般病院に入院すれば3ヶ月しか医療費を正当に認めないと言うシステムなのです。
 老人以外にはこの規定はありませんので、老人だけの不利益な入院規制です。医療費抑制とは言え大変な改悪です。

 この制度は一般病棟に入院している高齢者(*一部の特定患者を除く)では入院90日(ほぼ3ヶ月)を超えると、医療費の入院診療報酬を低減し「老人一般病棟入院医療管理料」という料金体制を適応し、看護・介護の職員の配置数ですこし点数は違いますが「1日967点〜937点=9500円程度」と一般病院の点数とすればびっくりするような低い点数になってしまいます。しかも、これは包括化された点数で検査・投薬・注射・処置を全て包括しているのです。

 包括化とは「どんな検査をしても、どんな高額な治療をしても1日いくらで決まった点数である。何をしても同じである。」と言うことです。この包括医療は長期入院の療養型病棟などでは以前から行われていましたが、それを一般病棟・急性期病院にも拡げてしまったのです。しかもその診療点数は療養型病棟などと比べられないくらい低い点数なのです。
 これでは、1ヶ月約28-29万円の入院医療費しかならず、慢性期療養病棟の包括入院費(月およそ34-36万)はもとより、介護保険制度の介護福祉施設(特別養護老人ホームの入所費月27-29万)とほぼ同額で・介護保健施設(老人保健施設の施設入所費・月およそ30-32万)よりも安い設定なのです。
 これでは人件費比率の多い一般病院の経営は難しい診療報酬体系です。入院を「急性期病棟」と「慢性期病棟」にわけその診療報酬を確実に分けてしまう考えで「急性期病棟には年寄りは3ヶ月以上入院させない」と言う考えですが、これは医療機関だけのペナルティーではなく、現実に入院している患者達にも直接関わる不利益で、患者のことは全く無視した改訂なのです。

 急性期治療が終わった患者をだらだらと一般病棟に入院させろと言っているのではありません。しかしこの報酬制度とは別に一般病棟では、平均在院日数という入院患者の入院日数で、看護料に差を付けるなどすでに「縛り」をつけながら、今度は入院期間で患者に不利益を与える改悪を黙っていて良いのでしょうか。3ヶ月と言う期間は患者のせいではありません。

 今後高齢者人口はますます増え、急性期疾患も勿論増えますし、以前では救命できなかった疾患も救命できる可能性が増えてきました。しかし一方では救命はできたけれど大きな後遺症を残して救命される場合も多く、また悪性腫瘍や心不全・呼吸不全なども高度医療を入院で行う必要があり、長期間の延命も可能になっています。

 しかし、この高齢者は一般病院で3ヶ月以上の入院を制限する制度は、大きな後遺症を持ちながら別の病院や施設に転院せざるを得ず、現場では混乱していますし、これまで築いてきた医師と患者間・家族間の信頼関係も壊してしまう事にもなっています。ましてや高度医療は長期間行ってはならないと言う制度であり、「年寄りは早く死ね」と言う制度と言っても過言ではありません。

 在宅で看護・医療ができれば越したことはありませんが、大きな後遺症を持った高齢者が在宅で治療を継続できる環境はまだ十分ではありません。だからこそ介護保険制度に期待したのですが、今の介護保険制度では内臓疾患の要介護度は全く考慮されていません。要介護認定では肢体不自由以外の要介護度はほとんど考慮されていないのが今の介護保険なのです。介護サービスが使えねば、内臓疾患をもって命に関わる事もある看護や介護を家族だけで行えと言うのでしょうか。重度の障害で救急病院に入院したら、すぐに入院継続の出来る病院や施設を探して、それこそ家族は転々としなければならなくなりますし、現実にされています。

 あまりマスコミの話題にもなっていませんが、大変な医療制度改悪だと思います。

 また、先日朝日新聞の「くらし」のページで取り上げられていました「延命治療の拒否」の話題などとも関連しているのではないかと考えると、やはり「年寄りはあまり治療をするな・早く死なせてあげなさい」と言う国民的コンセンサスを作ってしまおうとしているようにも感じます。
 この記事は記者の勉強不足で間違った内容があちこちありますが、鼻腔栄養や酸素療法・胃瘻をすべて「延命治療」と考えているような記事で「延命治療」の定義をしっかりさせないといけないと思います。しかしこんな記事がでますと、一般の方にはチューブをつないでまで生きていても仕方ないように捉えられ、知らず知らず国民は「老人」を見捨ててしまってゆくのでしょうか。看護している家族にとっても、治療している関係者にとっても寂しいことです。

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例外の規定
※90日を超えて入院する患者で特定患者に該当しない者(別告示で規定)
 ・別に定める重症の障害者、神経難病等の患者
 ・入院基本料の重症者等療養環境特別加算を算定している患者
 ・悪性腫瘍に対する重篤な副作用のある治療を受けている患者
 ・観血的動脈庄測定を受けている患者
 ・複雑なリハビリテーションを受けている患者
 ・ドレーン法若しくは胸腔又は腹腔の洗浄を受けている患者
 ・頻回の喀痰吸引を受けている患者
 ・人工呼吸器を使用している患者
 ・人工透析を受けている患者
 ・全身麻酔等を用いる手術を受けた患者

これらの患者では90日を超えても「老人一般病棟入院医療管理料」を選択せず出来高払いが行えることがある。


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