認定審査会の悩み -3-


 認定審査を続けていますかと、そのほかにも色んな問題に直面します。自分の合議体だけで解決できる問題と制度自体の問題とがあります。
 審査会の悩み-3- の今回は認定審査の問題点として

1.認定審査の資料の事前配布について
2.調査員の資質に左右される判定結果
3.自立の認定の苦悩
について述べてみます。

1.認定審査の資料の事前配布について
 認定審査会も3ヶ月を経過し、我々の審査会は最近は2時間程度で審査を終えることが出来、かなりスムースに審査が出来るようになりました。審査例数は原則30例以内としているため、通常は26-27例です。
 審査会の5-7日前には審査資料が自治体から届けられて、委員は必ず資料に目を通し自分で検討して出席しますので当日は問題点だけの検討で済み、長時間の審議はなくなりました。

 私は最初、全国全ての審査会で認定審査の資料は事前に配布され、委員は前もって検討して審査会に望むのだとばかり思っていました。ところが、我々の地域医師会のメーリングリストで隣の市の審査会では審査当日に資料が配付され、審査委員は事前検討はしないことを聞き驚きました。その後の報告でも全国ではかなりの数の審査会で事前配布していないようです。
 しかし、審査会の当日に資料を配付することでは本当に十分な審査が出来るのだろうかと思っています。

 認定審査会は要介護認定制度が廃止されない限り、今後6ヶ月毎に再認定を繰り返し、新規申請を合わせてエンドレスで続きますので、認定審査に係わる委員、事務員の仕事量・負担を考えれば、また将来ペーパレスの認定審査を含めてもっとスムースに認定が行えるようになれば、当日配布・当日審査が一番良いとはおもいます。
 しかし少なくとも当分の間、せめて今年の4月までの認定審査はやはり全国全ての審査会で事前配布で行って欲しかったと思います。本番の準備認定ですので審査員も自分でゆっくり時間をかけて資料を調べてみることも必要であると思います。
 そうでないと、当日渡された資料では、「一次判定のどこがおかしかったのか、逆転現象とはどんなものか」など知らずに認定されているものと思います。
 私も、これを実感出来たのは事前に資料が配布され、一次判定がおかしいなと思った例で、シミュレーションしてみることが出来たからです。
 事前配布していない自治体の言い分は秘密保持があげられていますが、むしろ審査会の公開が望まれており、厚生省も原則事前配布を通達しており、全国的に事前配布すべきだと思います。

2.調査員の資質に左右される判定結果
 この問題はある掲示板でpeke先生が話題にされたことですが、私も常々感じていたことですので述べてみます。
 今回の認定システムの構造上の問題を考えてみますと、すでに述べてきた「要介護状態区分の変更等の際に勘案しない事項について」という一次判定変更禁止条項のため、認定審査は一次判定に大きく左右されます。  よく、二次判定では一次判定にとらわれずに判定している等と報道されたり、そう言う関係者もいますが、現場の認定審査を知らない方の発言と思いますし、現実にはこの禁止条項は廃止されていませんし大きな影響力を持ちます。
 そして一次判定のかなりの部分は認定調査員による「調査項目の選択枝の選択チェック」に左右されます。主治医意見書や特記事項を考慮した二次判定もそれなりにウエイトはありますが、今の認定システムは圧倒的に調査員に支配されると行っても過言ではありません。
 要するに今の認定システムは「調査員」によって支配されていると言うことです。
 しかし、一次判定ソフトは、すでにご存じのように1項目のみの変更で逆転を起こす例もかなり報告されています。さらに選択枝の組合せによる逆転があります。2項目軽く1項目重くて逆転することもあります。
 従って、ソフトの欠陥は知っていたとしても、認定の現場では審査員もこれにはほとんどの人が気付くことはありません。

 認定調査書提出前にシミュレーションを行いつつ調査項目の選択項目をチェックするというワザを持った調査員以外は、べつに意識することなく調査項目をチェックしている訳です。従って通常の調査員のチェックは「一次判定」に支配されているわけです。
 この様に、この一次判定の矛盾は、認定制度に関わっている人でも現場で実際に申請者の状態を理解してシミュレーションしたものでないと、あまり実感として感じられないのかも知れません。
 調査員も、認定審査員でも、通常の調査や認定審査を行っていれば、一次判定の矛盾はあまり認識していない方も多いのです。これが怖いことです。
 だから、こんなソフトでも「約8割の判定が一致しているソフトだから、あまり文句を言わずに、このまま続ければいい」「始まった制度だからこれ以上混乱させるな」と言うような反論も見られています。  
 しかし、このまま続けて行けば、必ずどこかで取り返しの付かない矛盾が明らかになると思います。だからこそ問題は指摘し続けるべきです。
「是非関係者の皆さんは一次判定シミュレーションをやってみて・使えないソフトを実感してください」と言いたいです。

 そして一般の調査員はこれを意識することなく「一次判定の調査」を行っていることが多いのですが 一方、それを理解し意識した調査員も出現しているようです。
 しかし、「申請者のためにシミュレーションまで行って意識した調査を行った調査員」と、「自分の施設の有利な判定のために意識した調査をした調査員」があり、前者は法律の範囲内で申請者に有利な調査を行ったと言うことで責められる問題ではありませんが、むしろ最近の認定審査会では後者の方が多いような印象を持っています。特に主治医意見書と痴呆度・自立度の調整を行って提出されれば認定審査会では二次判定の変更はほとんど不可能となります。
 ただこれを作為的に行った調査だと断定する事は一次判定のソフト自体が欠陥だらけですので難しいことは言うまでもありません。
 認定の原則や一次判定の欠陥を知らねばなりませんが、裏技を知りすぎた調査員の行った調査結果での一次判定はだれも変えられぬと言う事も知らねばなりません。
 そしてそれを防ぐ唯一の手だては、自治体に十分なケアマネの補充が出来たなら、認定調査員の民間委託を禁止することしかないと思います。

3.自立の認定の苦悩

 認定審査会で「非該当・自立」の結果を出すときには我々審査員はかなり苦悩します。
 「自立」と言うことは申請者は保険料を納めていながら、今後その介護サービスは受けられないと言うことであり、すでに今まで色んなサービスを受けていた方にすれば介護保険制度からは見捨てると言うことです。
 「非該当・自立」の判定・ここのところが、介護保険の認定審査で今後問題になるところだと思います。
 これにも色んな捉え方があると思います。
 良く話題になっている元気なディケアやディサービスのお年寄りにすれば、「認定審査で「自立」とされたと言うことは今受けているサービスは過剰なので必要はない」のも事実ですし、こんな方たちも多いと思います。現実にカラオケや編み物教室などのつもりで通っておられる方も多く知っています。この中には、申請の時点で「だめで元々ですが、施設から申請するように言われたので意見書を書いてください」と頼まれた方も多くあります。この方達は万一「非該当・自立」の判定結果となっても差し向きの生活や介護には何ら支障はありません。
 一方、介護保険の認定としては「自立」としかなりませんが、現在生活介助のホームヘルパー派遣で何とか生活をしておられる「病気を持ったお年寄りや独居、住宅環境の悪い老人」では、ホームヘルプを外されたらたちまち日常生活が出来なくなる方たちがおられるのも事実です。
 こんな方たちには今受けているサービスは外せません。認定審査会ではいつも最後に「今受けているサービス」をチェックするようにしていますが、これで判定を変えることは出来ませんし悩みます。
 でも自立・要支援で生活介助のホームヘルプサービスを受けている方は結構多いのです。
 どこで線を引くのか、難しいですが、審査会ではいつも数例悩んでいます。
 現行の老人福祉で施設などを決める措置制度では、福祉の専門家たちが本入の家族や住宅の事情も考慮しながら認定をしていました。介護保険制度ではこれらの生活環境を全て無視しなくてはなりません。一人暮らしのお年寄りには厳しい介護保険だと思いますし、改善すべき項目だと思います。

 これをどうしたらよいのかは、今後の行政の大問題ですが、一般的な行政の考えは前者の救済の「はこもの」を作ることが多いようです。ディケア・ディサービスを外された元気なお年寄りの方の憩いの場を提供すること、これ自体悪いことではありませんが、もっと困っている後者のホームヘルパー派遣などは今後どうなるのでしょうか。自立の方のホームヘルプも積極的に援助するという自治体は多くありません。
           12年1月10日 吉岡春紀



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