介護認定審査制度は必要なのでしょうか
認定にかかる膨大な費用と労力を介護に回すべきです


 介護保険制度はまだまだ多くの解決せねばならない問題点を抱えたまま制度だけが見切り発車的に、国会を通過しました。
 高齢者の介護支援について考える制度に反対する理由はありませんし、むしろ積極的に援助の手を差し伸べる必要があることは言うまでもありません。しかしこのままこの制度が施行されるなら、現場での混乱は目に見えていますし、多くの方より問題点も指摘されています。厚生省はまず制度を作ることを主眼とし、運営方法は後回しにしました。それならば今の内に問題点を洗い出し早く手を打たないと取り返しのつかない悪法に変わる可能性を含んでいます。

なぜ介護認定制度が必要なのでしょうか
 この介護保険制度の一番の問題点は介護認定に関わる部分だと考えます。
 介護保険が医療保険と根本的に違うのはサービスを受けるためには審査会での認定が必要なことで、医療保険のような保険証さえあれば必要なときに誰もが、どこでも、いつでもすぐに医療が受けられる保険と根本的に違うことです。
 国民の多くはこの違いを理解されていませんし、政府の説明不足です。
 医療保険は国民全てが保険料を納めますが、その受ける医療は必要なとき誰もがいつでも受けられ、国民皆保険制度として受け入れられています。また国民も自分が万一必要になったときの保険であり、その必要のない時も納得して保険料を納めていますし、コンセンサスは得られています。
 やはり、介護保険制度も誰でもいつでも必要になったとき、介護が受けられる制度に変わらねばならないと思います。
 それには介護認定に関する部分が大きな問題点を含んでおり、要介護度の認定がこの法案の一番のネックだと思います。
 この為に市町村も医療機関も福祉施設も困っているのです。
 調査員の1回、約1時間だけの訪問で本当に正確な判定やチェックができるのかが疑問ですし、調査員の資質や教育も十分でなく、特に痴呆の診断や程度は専門家でも短時間では判定できませんし、日によって、時間によって、または生活環境の変化でものすごく変化しますので、これを短時間の聞き取り調査で行うこと自体が不可能とも思えます。
 次に一次認定はコンピューターで行いますがモデル地域でも実際の状態とかなりかけ離れた認定となっている事例も多いようで、3月22日の厚生省の発表でも、審査委員会での判定の変更は25-30%程度だそうです。また地域によって1次判定と2次判定の差が大きく、審査委員会による差があり厚生省ももっと正確な判定基準を定める方向とのことです。
 しかも、これは現実に介護サービスのないモデル地域でのシュミレーションでの差であって、実際は認定により、受けられるサービスの値段が違えば、現場ではもっと多くの問題が出るのは目に見えています。介護を受ける側は少しでもランクアップを望まれると思いますが、最悪の状態で認定すれば、改善したときとまたかけ離れた認定となります。モデル地区の審査委員会での審議は1人に付き数分だったとのことですが、大量の審査が必要になったときどうするのでしょうか。審査委員会の開催の頻度、人数、審査委員の選定にも問題があり、委員も介護保険の専任審査員ではありませんのでこれにかかりきりとはいきません。
 この認定のための労力と費用も莫大なものとなると考えられます。果たしてこんな労力と費用が必要なのでしょうか。
 詳細な認定にかかる費用は公表されていませんが、介護保険に伴う40歳以上の国民の納める保険料・国の負担・県市町村の負担の総額約4兆円のうち20%程度が認定費用につぎ込まれると言う話もあり、本来の介護のための保険料の一部がこれらの人件費に費やされてしまうことになり、無駄な経費と考えられても仕方ありません。そんな経費を掛けるなら介護にまわすべきだと考えます。
 また、この介護保険のために新たな職種が生まれつつありますが、福祉を食い物にする新たな企業も生まれる可能性を含んでいます。

そこで私の提案です。
1.要介護認定制度は廃止する
 介護保険法案のうち、要介護認定によるものを全て廃止し、介護保険も医療保険と同様に誰でもが、いつで   も、必要になったときに介護を申請し、すぐに介護サービスが受けられるシステムとする。この方が国民のコンセンサスを受けられると考えます。
2.「保険あって介護なし」とならないような基盤整備
 当面は色々な介護サービスが必要となった者が、その地域での出来る範囲のサービスをすぐに受けられることにする。介護サービス施設やマンパワーについては、地域の受け皿に出来るだけ格差がないよう今後も充実し、新ゴールドプランも見直してゆく。
3.自己負担について
 介護サービスに伴う費用について、自己負担はやむを得ないと思われ、計画通り10%程度の自己負担は認めることは仕方ないと思います。
4.サービスの調整とケアプラン作成
 サービスの調整・ケアプラン作成は養成されたケアマネージャーが行う。
折角全国にケアマネージャーを養成しているのですから、これらの有効利用を考えるべきで、ケアマネージャーは認定制度の調査やその結果でプランを立てるのではなく、申請があればすぐに出向いて申請者の状態や家庭環境、地域でのサービス内容、申請者の希望(支払い能力も含む)を調査し、現実に沿ったサービスの調整を行う役となって欲しいと思います。
5.40歳-65歳の対象者も同じサービスが受けられるものとする。
 40歳-65歳の要介護認定も厳しいものがあり、特定の疾患しか認められません。これもおかしな制度であり保険料を支払う年齢では介護が必要な状態なら誰もが受けられる制度にすべきです。
6.短期間のサービスも行えるようにする。
 がんじがらめに縛られた認定より、短期間のサービスも受けられるように改める。たとえば何とか日常生活は出来る程度の病弱な一人暮らしのお年寄りが、インフルエンザ等で寝込み、食事や日常生活に不便があるときは申請によりすぐに短期間の家庭介護が出来るようにする方が必要ではないかと思います。
介護認定を待っていてはこんな方の介護は出来ません。

 以上の提案です。特に1.5.6を強調したいと思います。
 これにより介護保険が無制限に増大する懸念はありますが、無制限なサービスの調整のため、介護サービスにはある程度の限度額を設定し、万一多くのサービスを希望された場合は最高限度額の規制を行う事とし、それ以上は申請者の負担とする事も考えないといけないかも知れません。しかし現実には介護保険の実施時期には医療保険制度も改定が予定され、高齢者の医療保険も10%の自己負担が考えられており、医療と介護の両方が必要な高齢者ではかなりの負担増が見込まれるため、これによりむしろ介護サービスへの患者側の抑制がかかるものと思われます(サービスを受けたいが負担が大きすぎる)。
 また介護保険サービスでは医療保険と違って施設入所や長期療養型病床の入院にも定額性が設けられており無制限な介護保険料となることはないと思います。
 むしろ今の平均2500円の自己負担が無制限に増額されないようなシステムを作らねばなりません。

 そうすれば介護認定・審査会は不要でこれに関わる経費や労力は介護そのものに回すことが出来ます。
介護保険導入の過程で専門家により審議されている事とは考えますが、現場を知らない審議であったと思いますし、実施までにまだ少し時間の余裕はあります。
もう一度 「誰でも、いつでも、どこでも必要なときにサービスを受けることの出来る制度」を作り替えてはどうかと考えます。

    10年3月22日     玖珂中央病院  吉岡春紀


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