どこへ消えた 政管健保の2兆1931億円
国民負担増を求める前に -大蔵省へ提言-


  政府,厚生省が、老人医療のl-2割負担や薬剤費自己負担3-5割など、患者に負担増を求めることを正当化するために持ち出しているのが、医療保険財政の危機論である。  1991年度過去最高の黒字を出した政府管掌健康保険が、わずか2年で赤字へと転落した。政管健保の黒字は、l981年度からl992年度までの12年間続いた。
その結果、l994年度末で、
1.事業運営安定資金(積立金)1兆1.366億円と、
2.国に対する債権2兆1.931億円(棚上げ債務1兆4.792億円と国庫補助の繰入特例7.l39億円)ができた。
(「繰入特例」とは、「未払い」の意味)。総額3兆3.297億円のプールがあった政管健保が、なぜ、こうした短期間で財政危機を訴える中心的存在になったのか。
 はじめに、政管健保がどのような経過で、国に対して2兆l.931億円もの多額の債務を持つに至ったのかをたどってみよう。
 政管健保は、l973年度以前国鉄、コメと並んで「3K赤字」と呼ぱれていた。その時代の累積赤字は、将来一般会計から,入れることが国会で決った。ところが、今日に至る23年の間、国はまったく未払いのままである。これが「棚上げ債務1兆4.792億円」である。
 次に、政管健保はl985年度とl991年度の2回大幅な黒字分を出しているが、2回とも財政難に苦しむ大蔵省に狙われた。
 政管健保に対する国庫補助は、当時の法律では給付費の16.4%と定められていた。ところが、1985年大蔵省は、厚生省に対し、さらなる借入すなわち「政管健保の国庫補助の繰り延ベ」を要請した(「繰り延ぺ」とは、前述の「繰入特例」と同様、「未払い」の意味)。それに対し厚生省は、最初「国の財政が、容易に好転しにくく、借りっぱなしにされるのでは」と警戒し、また「将来、医療費が増えた時にむやみに保険科を引き上げないためにも、黒字分は積立金にするのが筋だ」と譲らなかった。
 しかし、大蔵省は「政管健保が赤字になった場合は、返還する」と約束し、結局「繰り延ぺ」は再三にわたり行われた。l985年度からl989年度までが4.639億円、1993年度1.300億円、l994年度1.200億円で、合計7.l39億円に達した。
 さらに、政管健保はl991年度3.747億円という過去最高の黒字を示し、国庫補助率が16.4%から13%へ引き下げられた。これは、約1.500億円規模の減額に相当する。
 ところが、それからわずか2年後のl993年度、政管健保は935億円の赤字を出した。これは、「繰り延ぺ額1.300億円」と「国庫補助率引き下げ分1.468億円」のダブルパンチが効いたからだ。大蔵省がこれらの減額措置をとらなければ、1.833億円の実質黒字であった。つまり、「赤字転落に加速」をつけたのは、「大蔵省の減額措置のやり過ぎ」によるものだ。
 1996年9月9日社会保険庁は、「事業運営安定資金を全額取り崩してもしても、l997年度は3.l00億円の不足を生じ、何もしなければ資金はショートする可能性が強い」として、政管健保の財政危機を訴え、医療保険制度制の改革を訴えた。
 しかし、そもそも政管健保は事業運営安定資金が枯渇することで財政危機というが、国に対し2兆1.931億円の債権を持っているではないか。度々国庫補助を節約し、そのツケを国民にまわし、保険料率の引き上げや患者負担増を求めるのは筋違いだ。大蔵省の赤字になったら返還する」という約束は、どうなったのか。返済を怠慢していないか。政管健保の2兆1.931億円は、もともと,「医療費として使うぺき国民の掛け替えのない血税」である。
 「一般会計に組み込んで、どこかへ消えた」では困る。政管健保の財政危機の到来を加速させた「大蔵省の道義的責任」は大きい。政管健保の財政の安定化は、まず「国の借金の返済」によりなされるのが筋だと考える。国民に負担増を求めるのは、その後だ。
大蔵省に、次の3つの予算編成を最優先に作ることを要請したい。
1.今後、政管健保に対して国庫補助の繰り延ぺをしない。
2.国庫補助率を13%から16.4%にもどす。
3.2兆1.931億円の返済分として、年間3.000億円から4.000億円規模の定期的な返済を行う。 
 最後に、「作られた財政危機」を理由に、「21世紀の社会保障のの根幹である医療保険制度の見直しを、わずか半年という短い間で、さっさと決めてしまって良いものだろうか。それこそ国民投票を行って、国民が納得して決める重要課題ではないか。国民にどういう形の負担増を求めるかは。21世紀の社会保障制度の構築に関わる重要な問題だ。審議会レベルだけではなく、国民参加の上で、時間をかけた十分な議論が必要と考える。
       山口県医師会報 1454号 会員の声
                         下関市 松海信彦


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