規制改革・民間開放推進会議について

 先日の毎日新聞報道によると「混合診療解禁をめぐって、政府の規制改革・民間開放推進会議(議長・宮内義彦オリックス会長)や経済財政諮問会議の民間メンバーが「医師と患者の選択にまかせるべきだ」と全面解禁を迫るのに対し、「安全性が確立していない治療を提供されかねない」と厚生労働省は反論、全面対決の様相となっている。」と報道されています。

 では政府の規制改革・民間開放推進会議とは何なのか、規制改革・民間開放推進会議のホームページで調べてみました。

規制改革・民間開放推進会議とは「総合規制改革会議(平成13年4月〜平成16年3月)終了以降も規制改革をより一層推進するため、平成16年4月、内閣総理大臣の諮問に応じ、民間有識者13名から構成される規制改革・民間開放推進会議を内閣府に設置いたしました。」とされ、総合規制改革会議のあとに組織されたものです。


会議の委員(敬称略)は下記の13名です。
 議長   宮内 義彦 オリックス株式会社取締役兼代表執行役会長
 議長代理 鈴木 良男 株式会社旭リサーチセンター取締役会長
 委員   神田 秀樹 東京大学大学院法学政治学研究科教授
      草刈 隆郎 日本郵船株式会社代表取締役会長
      黒川 和美 法政大学経済学部教授
      志太 勤  シダックス株式会社代表取締役会長
      白石 真澄 東洋大学経済学部社会経済システム学科助教授
      南場 智子 株式会社ディー・エヌ・エー代表取締役
      原 早苗  埼玉大学経済学部、青森大学経営学部非常勤講師
      本田 桂子  マッキンゼー・アンド・カンパニー・インク・
             ジャパン プリンシパル
      矢崎 裕彦 矢崎総業株式会社代表取締役会長
      八代 尚宏  社団法人日本経済研究センター理事長
      安居 祥策  帝人株式会社取締役会長

 会議の中の、医療ワーキンググループに専門委員2名が選任されています。
      阿曽沼 元博 国際医療福祉大学国際医療福祉総合研究所教授
      長谷川 友紀 東邦大学医学部公衆衛生学講座助教授


 ただ、この会議は医療だけでなく官製市場民間開放・国際経済・教育・複視保育・雇用・農業などを協議する会ではありますが、このメンバーをみて、今回の医療制度に関わる改革で、委員に誰一人として専門家がいないこと、言い換えれば国民の医療を決める改革を医療福祉に全く関係のない人たちで決めてよいのかという疑問もあります。

 またこれらの委員の任命は内閣総理大臣の権限になっており、小泉首相の意に従う委員しか選ばれていません。
 先日の読売新聞では「規制改革・民間開放推進会議の教育・研究ワーキンググループで、委員に内定していた会社社長が規制緩和の一部に慎重な意見を述べたところ、内閣府の要請で委員就任を辞退させられていたことが16日、分かった。 」とされ、「政府が定めた結論に合わせて人選しようとする審議会の実態が露呈した形」と批判されています。
 これでは反対意見は全く反映されない、すでに決められた路線を承認するだけの委員会ではないでしょうか。

 もう一つ、この会議の議長に任命されている、オリックスの宮内氏の発言に関して、見過ごせない書き込みを見つけました。
 判断は読者にお任せしますが、こんな人が議長となっている委員会に日本の医療制度の行く末を任せることは危険だと思っています。

オリックス証券の宮内義彦ジャーナルの中の記事で、質疑応答の内容になっています。
このページから医療関連の記事を引用します
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――最も厚い壁は医療ですか。
 医療、福祉には確固たる「鉄壁の城」ができています。それを崩しにかかるのですから、少々のことでは動きません。特に医療はGDPの7%という大マーケットです。

――医療ではどのような方法で改革への道筋を作れるのでしょうか。
 医療は保険医療という日本独特のシステムが立ち行かなくなった。だから保険制度を、小さくしようということになります。医療イコール保険だけではなく「自由診療も認めよ」という考え方です。公は保険、民は自由診療で、公民ミックスで多様な要求に応じればよい。しかし医師会は反対です。制度変更と同時に既存制度でも、もっと合理的にやれるのではないか――既存制度の中身の透明度を高めようということです。

――具体的には。
 既存の保険制度のなかにある無駄を排除しよう、たとえば、報酬の出し方が基本的に出来高払いですが、症状別の標準方式、定額払いという方向にもっていきたい。国民の医療費をGDPの7%に抑えるというのはとんでもない。10%でも何でもよいと思います。国民がもっとさまざまな医療を受けたければ、「健康保険はここまでですよ」、後は「自分でお払いください」というかたちです。
 金持ち優遇だと批判されますが、金持ちでなくとも、高度医療を受けたければ、家を売ってでも受けるという選択をする人もいるでしょう。
 それを医師会が止めるというのはおかしいのです。医療サービス、病院経営には民間人の知恵を入れるべきでしょう。企業が病院を経営してもよい。利潤動機の株式会社に、人の命を預かる医療を担わせるとは何事かと言われるわけですが(笑)。
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 これからわかることは、オリックスは医療を自社の商売のマーケットに考えており、医療は今後の大マーケットであり、民間に開放すべきという主張で、混合診療に関しては、自由診療の保証のためには民間保険でまかなえという自社の利益誘導に近い発想です。医療をセーフティネットと考えるような発想は全くありません。
 先日民主党の桜井議員が「宮内議長は関連企業の利益誘導」ではないかと質問書されています。その質問内容を見ると一般人には、誰が見ても、オリックスの医療関連部門の収入が増えているのですから結果的には「利益誘導」はあるわけですが、政府は「公正に規制改革・民間開放推進会議の運営を行っていると承知している」とだけ述べて退けています。

 また最初に紹介した毎日新聞報道では、これに関係して「推進会議が混合診療解禁に熱心なのにはもう1つ別の理由もある。それは「いったん混合診療の対象となった医療技術はその後も保険適用されず、それが公的保険全体の費用膨張を抑える可能性が高い」ということだ。推進会議はもともと企業や現役世代の医療費負担を抑制する考えが強く、それは財務省、経済界の意向とも合致する。公的保険が縮小すれば民間保険がとって代わる余地が生まれる。厚労省幹部は、オリックスが民間保険市場に参入していることを挙げ「商機拡大をもくろむ意図が透けて見える」と非難する。」と利益誘導型の推進会議を批判していますので、政府が公正に運営を行っていると判断しても、世間はそう思わない・そう思えないのではないでしょうか。

 日本の医療制度・国民皆保険制度は、国民がその収入に応じた保険料を月々納めることによって、万一自分が病気にかかったときには、いつでも・どこでも・保険で認められた医療は低負担で受けることが出来、安心して療養できる、お互いの互助制度です。だからこそセーフティネットとして国民は万一の疾病に安心出来るのです。万一病気にかかったとき、大きな自己負担を誰も望んでいませんし、保険で十分な治療が行えるなら自由診療を増やすべきとは誰も思いません。
 勿論、病気になったとき・亡くなったときのために民間の生命保険や疾病保険は必要ですが、これは個人の負担能力に応じて生活の不安をなくすためにかける保険であり、医療そのものを受けるための保険ではありません。現在の国民皆保険と民間の医療保険を混同して議論すべきではありません。


● 利害の抵触
 規制改革・民間開放推進室の職員名簿 
 161 臨時国会 厚生労働委員会 質問 2004年11月11日(木)
「混合診療解禁」/保険会社の利益狙いだ/参院委 
   小池議員が追及(関連記事)


小池議員
 こうしたことを考えていったときに、内閣府の規制改革・民間開放推進室の職員名簿をいただいたんです。私、見て、これ驚いたんですが、ごらんいただけるように、室員二十七名中十四名が民間企業からの出向なんですね。しかも企業名、これ見ると、オリックス、セコム、第一生命、三井住友海上、東京海上火災保険、これ、結局、どういう企業かというと、ほとんど混合診療で保険商品を売り出そうとしているような企業ばっかりなんですよ、これ。これが役所なのかと、私、見て目を疑いましたね、はっきり言って。もう内閣府の殻かぶった企業集団ですよ、これ。私、これ内閣府に、なぜこういう人たちを選んだのか、お聞きしたい。

政府参考人(河野栄君)
 お答えをいたします。
 規制改革会議、規制改革・民間開放推進会議そのものが民間の委員の方の知見を生かしつつ規制改革に取り組むということで、民主導で取り組んでおります。事務局につきましても、そういった民間の方々の経験なり知識も活用したいということで御出向いただいているところでございまして、今御指摘ございましたように、現在の室員のほぼ半分は民間からの出向者でございますけれども、これは事務局員も内閣府の職員として現在は真摯に業務に取り組んでいただいているところでございまして、御指摘のような問題はないものと考えております。

http://www.a-koike.gr.jp/hilight/2004/h2004_11_13.html
------------------引用終わり-------------------

 規制改革・民間開放推進室の委員や職員の名簿をみて、小池議員がのべておられるように、「そんなの言い訳にならないんです。民間といったって、民間というのは企業だけじゃないんです。例えば医療を受けている患者さんであるとか、医療従事者であるとか、病院の関係者とか、あるいは医療関係以外の市民だっているわけで、それで、民間というので選ぶのはほとんどもうこれ、要するに混合診療で一番期待をしている企業の人たちばっかりじゃないですか。何でこれで、あなた、これで行政の中立性担保されると思いますか。」
前述した桜井議員の質問と併せて、これは利害の抵触といわず何というのでしょう。
 混合診療解禁によって、医療関連の巨大マーケットに群がるハイエナ集団に審議されているのです。

 審議している会議が、本来の医療制度のあり方を審議するのではなく、経済優先の既定路線に沿った審議を行い、その委員や職員が、混合診療により利益を受ける保険会社の関係者というのです。そして、委員に任命していても、反対する委員を解任したり、反対の組織をつぶそうという戦略が議論されているのです。
 本当にこの人たちに、日本の将来を任せてよいのでしょうか。

                   平成16年11月22日 29日修正 吉岡春紀


 一方混合診療に関して平成16 年9月17日規制改革・民間開放推進会議から「規制改革・民間開放推進会議『中間とりまとめ』に対する厚生労働省の考え方」に対する見解についてというファイルが公開されました。


 これには「さる8月3日に当会議が公表した「中間とりまとめ−官製市場の民間開放による『民主導の経済社会の実現』−」に対し、同月5日付けで厚生労働省が標記の「考え方」を公表した。 そこで、上記「考え方」に対する当会議の見解を改めて整理し、別紙のとおり公表することとした。」とわかりにくい表現ですが、現在の厚労省の考えと規制改革・民間開放推進会議の見解が書かれていますので紹介します。
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1 医療分野
(1)いわゆる「混合診療」(保険診療と保険外診療の併用)の解禁について

厚生労働省の考え方
 ○我が国の医療保険制度においては、国民皆保険の下、「社会保障として必要十分な医療」は保険診療として確保することが原則であり、これまでも、科学的根拠に基づいて安全性、有効性が確立した治療法等について、随時保険導入してきたところである。

 ○他方、患者ニーズの多様化や医療技術の進歩に対応するため、適切なルールの下に保険診療と保険外診療の併用を可能とする特定療養費制度が設けられている(昭和59 年に創設)。

 ○このような仕組みによらず無制限に保険外診療との組み合わせを認めることは、たとえ特定の医療機関に限ったとしても、不当な患者負担の増大を招くおそれや、有効性、安全性が確保できないおそれがあるため、今後とも特定療養費制度の下で対応を図っていくことが適切であると考える。

 ○この考え方に基づき、抗がん剤等の適応外使用について、特定療養費制度を活用し、承認前から保険診療と併用できるよう措置したほか、特定療養費制度における高度先進医療について、承認の簡素化及び新技術の導入の迅速化を行ったところであり、さらに、随時簡素化の対象技術を増加させるなど、対応を図っているところである。
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規制改革・民間開放推進会議の見解
 ○そもそも医療保険は疾病や傷害というリスクを加入者間で分散する仕組みであり、保険対象となる診療行為は診療方法の普遍性、副作用のリスク、モラルハザードの防止、保険財政の均衡などによって決定されるのであって、それを超える診療行為を禁止することを意味する訳ではない。

 ○自由診療が容認されている現状において、混合診療に限って患者負担の増大や有効性、安全性を問題にすることは理解に苦しむ。保険外診療の内容、料金等に関する適切な情報に基づいて、患者自らが保険診療に加えて当該保険外診療の提供を選択する場合に、それを認めない理由はない。

 ○現行の特定療養費制度に基づき、中央社会保険医療協議会などの審議を経て個別技術毎に承認することで混合診療を限定的に認める方法では、医療現場の創意工夫と医療技術の競争を促すことはできない。また、特定療養費制度における高度先進医療の承認手続きについても、簡素化の対象は77 技術中20 技術のみであり、極めて不十分なものにとどまっており、抜本的見直し(審議の迅速化、透明性の確保、利用者志向への転換等)が行われない限り是認し難い。


● 医療界の仲間割れ戦術

 最近手に入った資料によると、この委員会の議論がやはり「結論ありき」ですすめられ、医療の安全性、有効性、公平性などは全く無視して進められていることがわかります。

 そして先日24日に、東大・京大・阪大の病院長が規制改革・民間開放推進会議にあてて、混合診療解禁の要望書を提出したことが報道されました。

 3大学病院長は「高次医療制度」新設を提案
 政府の規制改革・民間開放推進会議(議長=宮内義彦・オリックス会長)が22日開かれ、東京大、京都大、大阪大の3大学医学部付属病院長が連名で、「特定療養費制度の抜本的改革もしくは混合診療の導入」を求める要望書を提出した。日本外科学会も19日付で「特定療養費払い制度の拡張を含む、混合診療に対する規制の大幅な緩和
が必要」との意見書を提出した。いずれの要望も、保険財源の限界を指摘しながら、保険診療と保険外診療の併用拡大を求め、まず特定機能病院で実施することを要求する内容となっている。

 東大の永井良三、京大の田中紘一、阪大の荻原俊男の3大学病院長連名の要望書では、現行の特定療養費制度では「適用認定に長期間を要し、医療技術の進歩が遅れがちになる」と指摘。また保険適用されても「制約が多く、人的・物的資源を賄う経費が必ずしも保証されない」と訴えた。

 そのうえで、国民皆保険制度のもと、あらゆる医療が健康保険で給付されるのが「理想」だが、「保険財源に限界がある以上、現行の健康保険と自己負担を組み合わせた新たな制度設計が必要」と提言。「患者の選択権に基づく医療が、少なくとも特定機能病院において推進される」ことを求めている。

 この報道を見ると、大学病院などの専門家は混合診療解禁を望んであり、開業医中心の医師会とは考え方が違うようにも書かれています。果たしてそうなのでしょうか。

これらの病院長の要望は、大学病院などでの診療報酬が安く、経営できないので自由診療を認めて欲しいとの要望であり、本来はこの会議に提出すべき要望でもありませんし、提出するならば診療報酬を決める中医協や、審議を行う厚労省の委員会であるはずです。

 そして、もう一つ驚くのは、これらの東大を中心とする大学と日本医師会の仲間割れによって混合診療問題を優位に進めようとする筋書がすでに話し合われており、今回その筋書通りに進んでいる事です。

下記は、6月に行われた規制改革・民間開放推進会議の議事録の一部ですが、「中間とりまとめ」まであと1ケ月しかないので、急いでほしいことと、混合診療廃止について公開討論を行ったらどうかというテーマで話し合われています。

 その内容を発言者を伏せて掲載しますが、どうしても解禁を進めるためのえげつない会話が記録されています。
 本来の医療制度のあり方を審議するのではなく、経済優先の既定路線に沿った、そして反対の組織をつぶそうという戦略が議論されているのです。
 本当にこの人たちに任せてよいのでしょうか。


 ○公開討論については、総理から、意見の対立を明確にしろ、という明確な指示があり、マスコミに当会議についての記事を書かせることが必要。

 ○ 例えば東大病院のような質の高い病院については、厚労省の関与を排除していく。そういう取引をして厚労省が関与しないで高度先進医療が認められる穴を開けていく。

 ○不妊治療、予防治療は今までにない論点であり、そこで対立点を明らかにすることが大事。医療界は診療報酬引き下げで一層経営が苦しくなっているので、公開討論で敵方(医療界)の仲間割れを促す。当会議の主張を明確にしていく。仲間割れのためには東大病院だけで認めろと言ってもだめで、例えば臨床研修指定病院など800ぐらいあるレベルの低い民間病院でもできるようにしろと主張していくと仲間割れが生まれる。

 ○医者の世界は見解の遠いが大きい。個々の医者では混合診療賛成派も多い。開業医と勤務医では意識が違う。勤務医は、開業医は技術が進歩しては却って困るのではないかと思っている。その見解の違いを浮き彫りにする公開討論が必要。

 ○福祉は公開討論必要ない。教育と医療を公開討論する。論点整理の資料ぐらいは事務局の方で気を利かせて用意しろ。

 ○医師会はどう変わったのか?変わってないのではないか。医師会だけでいいのか?医師会がちゃんと返事をしなければ、厚労省ともやる必要があるのではないか?医師会は変わってない。前の医師会長はまだ良かったが、むしろ悪くなっているので、説得する必要はない。医師会に大反対と言わせて、医師会が非常識であることを明らかにすればよい。また、医師の中の反対意見を盛り上げる。厚労省を呼んでも何も言えない。むしろ消費者代表を呼ぶべきか。

 ○病院協会を呼んでもいい。厚労省は当事者能力ない。
 ○病院協会と医師会を戦わせてはどうか?

                      


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