病院長は自ら意識改革をし
行政依存型経営から脱却すべし

           メディカル・クオール NO38 1998.1


 九月の保険医療改革の影響により、全国の病院で5%程度患者が減少したという。
当然のことながら、「こんなに努カしているのに、頑張っているのに、経営状態はよくならない。これでは民間病院はやっていけない」という病院長の声も聞こえてくる。そして、相も変わらず行政にもの申し、行政からお金を引っぱり出すことばかりを考えている。
 しかし、冷静になって社会の流れを見渡せば、そんな時代はとっくの昔に終わっていることは明らかだ。昔の流儀にしがみついて、世の中の動きについていかない組織は、たとえ山一証券や都市銀行であっても淘汰されてしまうのが現在の社会状況なのであって、病院とて例外ではない。旧来の薬価差に依存した経営体質や、あり余る保険診療点数のなかで行ってきた経営体質では、もはや病院を維持できないのは当然のことだ。
 ところが、旧来の体質というものが組織の体質ではなく、院長の体質になっているものだから、「一生懸命頑張っている」といっても身体を動かしているだけで、そこにはインテリジェンスのかけらもない。北海道から九州、沖縄に至るまで、全国の病院長が「患者本位の医療」を言葉にする割りには、サービス・マインドのある経営を行うわけでもなく、組織のシステム作りをするのでもなく、旧来通りの経営を続けているのだから、経営状況が改善るはずがない。また、患者を「患者様」と呼ぶことを「患者本位の医療」と勘違いした経営でも、真の改善は望めない。
 今、病院長に必要なことは、自らの意識を改革し、患者が本当に求めている医療を提供し得る病院を作ることだ。医療が医業である限り、患者は企業でいうお客様であり、お待意様であるのは当然のこと。「患者本位」「患者が病院を選ぶ」などというのは当たり前のことであって、今さら口にするほどのことではなく、消費者のニーズをすくい上げて、その要求にあわせて商品を取り揃え、価格を提示し、そのために経営の効率化を図ることが、経営者たる病院長の仕事だと考えなければならない。
 ところが、思者に「治していただいてありがとうございます」という体質があるものだから、依然として医師が患者を見下ろすような意識が直っていない。患者が、「ありがとうございます」という一方で、権利意識のもと病院を選別していることに気づかない。しかも、選別の基準は医学的には、循環器の専門医に心臓を診てもらいたいというようなレベルになっており、それ以外の部分でもあの病院の看護は生理的に嫌だとか、室科が高い割に部屋が狭くて汚いというものになってきているのに気づいていない。
 端的にいえば、われわれが今、乗用車やテレビを買う時、故障のことなど考えず、多機能であるとか、スタイルが格好よいという基準で商品を選ぶように、患者は病院を選ぶ時代になっているのだ。そんな時代に、総合病院だからといっても、外科医が皮膚科を診たり、呼吸器の医者が循環器を診るような医療を、十年一日の如く変えもしないで提供していたのでは、患者に選ばれなくなるのは当たり前だ。そして、日本には潰れるほど病院があるのだから、そんな病院が淘汰されろのは市場原理からして当然のことだ。
 ただし、本当に患者が求める医療を提供し続ける病院は、どのように制度が変わっても漬れることはない。もうそろそろ、病院長は行政依存型の要求を繰り返すのは止め、病院経営者として足元を見つめ直さなければ、自らの立脚点さえなくしかねない。


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