訪問看護ステーションの実態を理解しない
旧態依然の指導が在宅医療をダメにする

メディカル・クオール NO47 1998.10

 今、行政主導によって施設医療から在宅医療への転換が図られている。社会的入院の排除、医療費のなかの福祉費外し等、その理由はさまざまだが、要は施設医療よりも在宅医療のほうが費用が低くなるためで、財政抑制が最大の目的だ。
 その在宅医療の中心となるのは訪問看護ステーションで、制度化されてから年数を経て、全国的に普及してきている。ところが、訪問看護に対する診療報酬の基準が、いまだに現場の実態と乖離しているため、訪問看護ステーションの運営に支障を来たし、それどころか患者さんに迷惑をかける事態が発生している。
 たとえば、訪問看護の報酬は訪問回数に応じて支払われるのではなく、一日単位で支払われることになっている。
 このため、昼間訪問したあと、夜になって患家から至急の要請を受けて再訪したとしても、支払われる報酬は1回訪問の時と変わらない。また、神経難病、がん末期、急性増悪の場合を除き、1週間の訪問回数は3回までに制限されているため、患者の家族の要望による4回目の訪問に対しては報酬は支払われないことになっている。
 しかし、現実には1日に何度か訪問しなければならない場合もあれば、週4回以上の訪問が必要なケースもあるわけで、それを診療報酬上認めないというのであれば、患者と訪問看護ステーションとの間で公正な料金設定をしてサービスを提供するのは認めてしかるべきだ。ところが、この点を地方自治体に問い合わせると「規則でそれは認められません」の一点張。「そういうことを行うのであれば、訪問看護ステーションの負担で実施しろ」という。一昔前、患者が保険証をもって来院した限り、どんなに高度な治療を行ったとしても診療報酬の差額請求は認めないという規則があったが、当時と同じ感覚で、訪問看護ステーションに対する指導が行われているわけだ。
 ようやく訪問看護ステーションの仕事が患者やその家族に理解され、支持されて、非常に重宝がられて需要が大きくなってきている時に、患者に不便を感じさせたり、訪問看護ステーションの運営者が患者との関係の処理に困ってしまうような指導がまかり通っている。この制度が社会に根づき、成長していくためには、訪問看護ステーションと利用者の双方が、メリットとプロフイットを享受しなければならないのだが、それに逆行することを現場で行政が指導している。
 ましてや、訪問看護ステーションは在宅医療の中核的施設であり、医療法人だけではなく民間の事業者も参入している分野だ。保険外のサービスは一切認めないというのであれば、1日2度訪問や週4回以上の訪問は、「保険で認められていませんし、実費を頂戴することも禁じられているため、残念ですがお受けできません」と断わるのは明らか。 結局、迷惑をこうむるのは患者とその家族で、「そんな不便な施設ならもう利用しません」ということにもなりかねない。それは介護保険制度も含め、在宅医療全体にも悪影響を与えかねないわけで、地方自治体は規制緩和の流れのなかで在宅医療が展開していることを理解し、現場の実態に沿った運営指導を行う必要がある。また、厚生省も実態に合わせた看護報酬の設定を行うのでなければ、在宅医療の制度そのものがダメになってしまうことに気づかなければならない。


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