看護婦の労働を正当に評価しない
診療報酬・看護点数の矛盾

メディカル・クオール NO46 1998.9

 診療報酬の改訂が「モノからヒトへ」という流れのなかで行われてきたが、その結果、収支の状況が改善したのは公的病院を含むに大病院ばかりだ。なぜそうなるのかといえば、診療報酬における看護科の評価が新看護体制になっても、依然として正准比卒や看護婦一人で何人の患者を看るのかとうカウントによって行われているためだ。このため正看護婦の比率が高く、患者数の割に看護婦数が多い巨大病院では看護加算が取れて収支が改善するのだが、100-200床の急性期もみれば、慢性期の患者もみなければならない地域医療を展開する病院では、看護婦の確保もままならず、またそれほどの看護力を必要としないため加算を取れず、収支は改善しない。
 このような看護点数になった背景には、患者一人当たりの看護婦数が多いほどサービスの質が高くなるという判断があり、それは理解できる。しかし、この判断だけで看護点数を決定してよいのかとなると大いに異論がある。
 一つは、看護科は看護婦の労働に対する代価であるという本来の定義によるもので、看護料の夜間加算があるのは昼間の勤務よりも夜間の勤務のほうが労働環境が過重であるためで、この定義に基づいている。ならば、看護婦一人が一人の患者を看る場合と三人を看る場合とでは、どちらが過重労働になるだろうか。他ならぬ医療現場で働く看護婦自身に聞いてみればわかることだが、後者のほうが過重労働になることは明らかだ。三人の患者を看ているから、看護サービスの質が二分の一になるということはあり得ない。
 つまり、日本の看護科は看護婦が過重労働になればなるほど報酬が低くなる矛盾した体系になっているのである。ましてや、全国の病院で看護婦の募集をしていない病院はあり得ないという現実、それも中高卒の女子の「足長おじさん」にまでなって看護婦の確保に尽力していることを考えるならば、厚生省は自ら看護婦の供給不足の構造を作り出しておきながら、看護婦に過重な労働環境を与えているわけで、これは看過できることではない。
 もう一つは准看護婦に対する評価で、10年、20年の経験をもち、若い正看護婦に現場の実技指導を行っている准看護婦の働きがなぜ診療点数に上位に反映されないのか、ということだ。医療職というのは、医師もまた然りだが、研修を終えて配属されたからといって即座に戦力になるものではない。現場での経験とトレーニングを経て、徐々に結果を出せるようになるものだ。
 看護婦の場合、さらにその傾向が強く、現場では肩書よりも経験が重要視される。このような一般病院の実態をみず、一部の公的病院の看護体制だけをみて、看護の点数を決めているから、准看護婦を看護婦と認めないような点数付けが行われる。一体、いつまで戦後の臨時特別措置法であった准看制度を引きずっているのか。
 准看護婦であっても、5年以上の経験者は0.5のカウントにするとか、10年以上の経験者は正看護婦と同じ評価とするとか、点数設定の考え方を改めない限り、現場の実態と診療報酬との矛盾は解決しない。もちろん、すべては看護婦の供給不足に由来するのだが、厚生省はそれを解消できないのなら、せめて現場知らずの所謂専門家や学者、正看重視の看護協会の意見で看護点数を決めるのではなく、現場で働いている看護婦たち に決めさせればよい。ある病院では、夜間手当や救急手当などの諸手当の配分の基準を当の看護婦たちに決定させているというが、そうすると彼女たちは正准看の肩書にはこだわらず、現場での実態に合わせて公正・公平に決めると聞いた。看護科は現場の看護婦に委ねたほうが、よほど市場原理に則った価格になるに違いない。


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