自治体病院への補助金は疑問
国は「老人いじめ」の施策を転換せよ

メディカル・クオール NO42 1998.4

 中学生のいじめの問題が社会的に注目を集めているが、その一方で国をあげて老人いじめを行っていることには誰も関心を払っていない。ある本によると、わが国の自殺者は年間23.000人に上り、そのかなりの部分を老人が占めているといい、また、ある経済学者によると昭和54年を境に老人の貯蓄率が減少しはじめており、2010年には貯蓄率がゼロ、もしくはマイナスになるという。2010年といえば、高齢化のピークを迎える2025年の15年も手前なわけで、現行のような「老人いじめ」の改革が続くならば老人は生きる術を失ってしまう。
 この4月の診療報酬改定をみても、一般病院では6カ月以上の入院ができなくなるようにしたり、はじめたばかりのデイケアやショートステイの回数を制限したり、目先の都合で制度をクルクル変える。また、平成12年に老人保健を介護保険に移行して医療と福祉を切り離し、さらに平成15年には介護保険を高齢者医療保険に変え、高齢者の年金から強制的に保険科を微収するとしている。有無をいわさず、老人に対する官僚統制を強めていっているのだが、その結果、老人は自分の病気に対する一部負担金すら求めるところがなくなりつつある。有職者が無職者の面倒を、若年層が老年層の面倒をみるという社会保障における所得の再配分の原理さえも、一時の財政的な行き詰まりを理由に反古にし、老人を無視した制度改革を続けるならば、老人は生きることができなくなる。
 そして、老人が全人口の17%を占めることを理解するならば、この問題は医療や経済の問題として厚生省や大蔵省が取り扱うのではなく、社会問題として内閣府や自治省が担当すべきものといえる。  ただし、その前に是が非にでも検討しなければならない問題がある。全国に98ある地方自治体病院の経営で、ここに4年間に3兆9000億円もの補助金が文払われていることだ。もちろん開設当初のキヤピタルコストとは別の、毎年のランニングコストの補填分で、一ベッド当たり310万円にも達する。現在の一ベッド当たりの収益率が1%であることからいえば、これは3億円の収入に等しい補助であるが、にもかかわらず自治体病院の経営は赤字であるという。一方で、民間病院が生き延びるためにリストラを断行し、贅肉をとり、ものすごい経営努力を統けているというのに、自立自存できない自治体病院は何の努力もせず、補助金に依存した経営を続けているわけだ。
 なぜ、ここでこの問題を持ち出すのかといえば、先般述べた「老人いじめ」の制度改革を行ったところで老人医療費の削減効果は1兆円足らず。その4倍もの補助金が自治体病院にばら蒔かれ、官民間の病院の不公正競争が生じているというのに、自治体病院の経営体質改善あるいは閉鎖等の見直しは一切行われず、一方的に老人にしわ寄せがなされているからだ。老人を死に迫い込むような制度改革を実施する前に、自治体病院の改革を行い、この際民間病院と同じバランスシートを敷かせてみて、自立できない病院はすべて閉鎖すればよい。官庁自体の行政改革が行われるなか、もはや自治体病院や国立病院などの公立病院だけが既待権を維持できる時代ではない。
 そして、国は「国民の生命を守る」という施政の原点に立ち戻り、〃老人いじめ〃を止め、逃げ場のない老人を救うのでなければこの国に未来はない。


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