安田病院事件を他山の石とせず
民間病院は事業の本質を守れ


 大阪の安田病院グループが巨額の不正請求事件を起こした。日本の典型杓な民間病院が、一族のスキャンダラスな部分も含め、官憲の出入りを受けるような事件が発生したわけだが、事件の内容からして影響は安田院長らの逮捕、病院の行政処分に止まらず、民間病院全体に対する評価を損ねる結果をもたらしかねないだけに残念でならない。ましてや、ここ数年の民間病院は、厳しい経営環境のなかで医療の質を担保しながら懸命な努力を続けてきただけに、なお一層その思いは強い。
 ところが、その報道をみていると、安田病院では従業員が患者を一人連れてくると一万円渡していたとか、患者が死亡すると入床率が下がるため看護婦が一万円の罰金を取られていたとか、長年勤めていた看護婦の内部告発を大きく取り上げ、いかにも不正請求を行う素地があったかのように報じている。民間病院が事件でマスコミを騒がす時というのは、概して内部告発が発端となることが多いのだが、今回もしかりで、マスコミが問題堤起ばかりの告発情報に焦点を当てた報道を行うのもいつものパターンだ。
 しかし、不正請求の問題と入床率を上げることとは別の問題で、安田院長の手段は姑息で、責められるものではあるが、老人病院が依然として数の論理で動いており、入床率を上げなければやっていけない環境にあるのは事実。内部告発が続出するような組織を抱えた病院長が、経営体質を近代的に切り換えることは無理と判断して、餌で魚を釣るような方法で入床率を上げている病院はほかにもある。
 むしろ、安田病院で問題視すべきは、不正請求の事実と、それを指示し、なおかつ利益を私物化した安田院長の金儲け主義と、経営パートナーとして院長を諌めるのが職務責任であるにもかかわらず、共犯者となってしまった事務長たちの経営姿勢にある。事件発覚当初は安田院長もマスコミに対して持論を展開していたようだが、医業の利益を金の延べ棒に変える生き方をしていたのでは、医療制度が悪い云々とどんなに立派な理屈を並べても、すべて詭弁になってしまう。
 医療を事業の対象とするなといっているのではない。事業であって何ら問題はないが、事業の本質というのは病院の本来あるべき姿を追求することであって、この本質を見間違ってはならないということだ。そして、病院のあるべき姿を追求した結果、利益が出たならば、それは引き統き病院に投資すべきである。そうせずに、院長やその一族が利益を私腹し、病院のあるべき姿を壊していくと、本件のように高い代償を払わされることになる。このことは、すべての民間病院の経営者は肝に命じておかねばならない。
 安田病院のような事件は過去にも多々あった。事業利益を私腹する院長がいて、内部告発があり、マスコミが面白おかしく事件化するという構造は変わらない。そして、過去においては病院に入院している患者たちの医療を受ける権利までもがマスコミの報道によって侵害されていたものだった。
 しかし、今回に限っては病院が行政処分される前に入院患者の転院先が確保され、病院のすべてを悪と決めつけるような報道洪水のなかで、使命感をもって最後まで患者を見守り統けた医療スタッフの努力が報われたことは、不幸中の幸いであった。最低限のところで医療の公益性が守られたことだけが心の救いになるとは、これほど淋しいことはないのだが…。


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