「医療の個別性を無視した

入院時医学管理料の矛盾を問う」

  岩田めい達  医事放談
       月刊「メディカル・クォール」 NO32 1997より


 先日、4月の診療報酬改定の影響度を知るため、ある病院グループが行った点数の置き換え資科を入手したのだが、それをみて驚いた。平均在院日数30日以内の病院で、わずか24点しか上がっていない。資科をよくみると、確かに1ヶ月以内の患者は3%ほど上がっているのだが、1ヶ月以上の患者のほうで3%近く下がっており、相殺されてしまっている。要は、「患者を一カ月以上入院させるな」という改定であったということだ。
 さらに、資科をみていると3カ月以上の入院患者の点数の下がり方が著しい。全入院患者の1割にも満たないこの部分の患者が、経営上のネックになっている。そこで、さらに詳細な資科に目を通してみると、たとえば平成8年12月に右足の関節、脱臼骨析で入院した93歳の患者は、骨粗鬆症がひどくて家庭に返すと危険な状態であり、平成6年から入院している85歳の脳梗塞の後遺症の患者はMRSAが治癒しないため家に戻せないという状況だ。ほかにも、腎不全や肝臓がん、心不全などで病状が不安定で、症状が急変するとICUに入れなければならないような患者ばかりが3カ月以上の入院患者であった。
 主治医たちの所見もあり、「1年以上入院している患者でも病状が安定していないならば、食事を管理し看護管理し、医師の監視のもと、急変する症状の変化に対応しなければ責任はもてない。退院は即、死に結ぴつく」とある。
 つまり、老人病院へ転院させることもできず、訪問看護ステーションで在宅介護もできず、難易度が高い医学的管理が必要な患者の医学管理科が著しく低く評価されているということだ。2週間以内の入院であれば盲腸の患者でも625点が取れて、ICUが必要な患者が1年半以上も入院していると103点しか取れないという矛盾がここにある。


 このように書くと、ならば一度退院させて再入院させればいいといわれるかもしれない。昔、老人病院が行っていた点数を取るための作為約なキヤッチボールだが、その間に病状が悪化したら家族に申し立てはできない。ところが、大学病院や公的病院では病状に関係なく、1カ月以上の患者を退院させている。大学病院は「生きるか死ぬかの急性期の患者を診なければならず、1カ月も入院した患者までは診きれない」といい、そのレベルの患者は民間病院に助けを求めてくる。公的病院にも事情はあるのだと思う。しかし、そういう患者は感染症対策さえできていない老人病院で悲惨な思いをしているという現実がある。もちろん、素晴らしい老人病院もあるが、そのような病院は入院待ち患者がいっぱいで、とてもすぐには入れない。それゆえ、術後のケアができないような老人病院に行くしかない。
 ただし、この点に関して、私は大学病院や公的病院を責めるつもりはない。病院の経営効率を考えるならば、そうせざるを得ない制度に問題があるわけで、民間病院とて患者の治癒に心を尽くしているドクターの情熱があるからこそ、原価割れの医療でも実施しているのである。患者本位の医療をやればやるほど、経営が苦しくなるような診療報酬こそ変えねばならないものだ。医療の個別性を無視し、十把一絡げに期間だけで点数の体系化を行った行政担当者の無知にこそ責任がある。今、交通事故の死亡者が一万人ほどというが、老人の受診率からみて制度の犠牲になった方は、それより多いに違いない。恵まれた医療環境にあるこの国で、こんなことが許されるのであろうか。


参考資料のページに戻ります。