「保険あって介護なし」では大混乱や


落語医者の介護保険あまから問答 その参
    北畑英樹氏 メディカル・クオール NO.33 1997より

三年だけの議論で施行なんてムチャや
「今までの話で、日本は急激に老人の数が増える、おまけに子どもの数は減る、おかげで老人の医療費は増える、介護の問題は深刻になる、そのうえバブルがはじけて経済状態は悪化する、いろいろと都合の悪いことが統いて、厚生省もドロ縄式にゴールドプランを立てたり、介護保険を考えたりということになったという道筋は、なんとなくわかったような気になりました」
「なんとなくでも理解してくれたら、ありがたいことや」
「それでは、ぼちぼち本筋の介護保険の話してもらいましょか」
「そもそも介護保険の構想が公にわれわれに知らされたのは、平成6年9月、杜会保障将来像委貝会第二次報告が最初なんや。そのあとすぐの10月には老人保険福祉審議会に審議してもらうようにしたんや。しかも、はじめの予定では、平成7年末までに審議会の最終報告を受けて介護保険法を作って、平成8年春の国会で成立させて、平成9年、つまり今年から施行させたいと厚生省は考えていたんやから、いくらなんでもムチヤな話や」
「へー。介護保険が正式に議論されてから3年もたってないんですか、知らなんだなあ。介護保険、介護保険って、もう何年も前から騒がれていたような気がしてましたのに」
「そうなんや。ドイツは20年も議論して作ったんやが、それでもいろいろと問題が出てるのに、日本はわずか3年や」
「それだけ急ぐということは、日本のほうが問題が深刻なんとちがいますか」
  「まあ、そういうことかも知れんな。それ以外にも厚生省が強いバックアップやと考えたものがあるんや」
「それはなんですか」
「それは、毎日新間が平成4年9月にやった『高齢化・介護に関する世論調査』というもんなんや。この調査で『お年寄りを介護する人のために、個人、企業、国、自治体などが一定の金額を負担し、介護サービスや現金などを支給する一公的介護保険一が検討されています。あなたは、このような制度の導入に賛成ですか』と質問したんや。そしたら86%の人が賛成して、反対は9%しかなかったんやな。この数字に厚生省はえらく力づけられたようやな」
「そやけど、その当時は介護保険の中身はなんにも知らされてなかったんでしょ」
「そうや。そやけど老人介護が問題になることは誰でも知ってたから、それを解決できそうなものなら何でも、ないよりマシやと考えたんやろな」
「たとえたら、腹へってる時にメシ食べよかいわれたら、誰でも食べよっていいますわな。とりあえず」
「まあ、そんなことに近いかも知れんな。しかも、その賛成の理由をみたら、介護は社会的に解決しなしればならないからが35%、家族で介護費用を出すのは大変だからが33%、家族で面倒をみきれないからが20%、となっていて、この理由からは、介護に保険を導入せんといかんという直接の理由はないような気もするんやがな」
「なんで、保険にこだわったんですか」
「とにかく、消費税の導入でも大騒動やったやろ。これ以上の増税は言い出しにくいんやろうな」
「そやけど、保険というのは、もともと掛け金を払う人が大勢いて、もらう人が少ないと成り立ちませんがな。これから、ますます老人の数が増えるむということは、もらう人も増えるということやから保険としては危ないですわな」
「そういうことや。今まで国がやってる保険には、健康保険、年金保険、雇用保険、労災保険と四つの保険があるんやが、健康保険も年金保険も先行きが暗いことはわかってろやろ。特に国民健康保険なんかは今でも市町村は四苦八苦してるのに、また保険つくるんや。どの市町村も第二の国保になるのと違うかと心配で心配でたまらんのや」

「介護の必要なし」なら掛け金はパー
「そりや、少ない掛け金で、手厚い面倒みてたら赤字になるのは当然ですわ」
「そやから介護保険では、介護認定制度というのを作って、その認定にあった金額のサービスしかやらんのや。おまけに、その一割は自己負担ということなんや。介護の必要なしという認定もあるんやで」
「そうなったら、掛け金パーということですか」
「そういうことや」
「そら、あほらしい。そんなこと厚生省はハッキリいうてましたか」
「そこや。今まで慣れてた健康保険では、病気かなと思うて病院や診療所へ行けば、必ず診察してくれたんや。病気でなかったら、なかったで、その説明もしてくれたんや。少なくとも門前払いはなかったんや。そやけど介護保険では門前払いもあるわけや。認定員が家に来てくれただけで終わり」
「それは問題でっせ」
「そやから、介護保険の先進国のドイツでば、その認定に村する裁判が何万件もでてきてるんや」
「そらそうですやろな。そやけど一割負担やったら、高いランクの認定してもろたら、その一割を払うのに困る人もでますなあ」
「たぶん、そんなことも起こるやろなあ。早い話、今、特別養護老人ホームに入所してる老人にしてみたら、介護保険がこのままのかたちで導入されたら、月々に全費用の一割と食事代で46000円いくらかを払うことになって、全体の75%の人の負担は増えることになるんや」
「ふ−ん。考えてしまいますなあ」
「そやから、ワシの考えでは、介護保険いうのは、介護の問題を国民全体で痛み分けにしましょう、老人の自立支援をしましょうというお題目には誰も反対できへんのやけど、その実は、家庭でシッカリ介護しなさい、それを少し手助けはしますよ、ついては保険料を払いなさい、しかし一割は実費もらいまっせという制度なんやな。そんなバラ色の制度やおまへんのや」
「そら、介護保険で日本の老人問題がすべて解決するのを期待するのはムリなことはわかってます。そやけど聞いてるとだんだん心配になってきますなあ。まあ、制度の仕組みなんかの詳しいことはあとで説明してもらうことにして、その認定で受けられるサーピスの準備は大丈大なんでしょうな」
「いやいや、それが大丈夫やないんやな。厚生省は2000年のスタート時点で要介護高齢者は280万人で、施設ベッド総数との差の200万人弱の老人が在宅サービスの対象になるとして、そのうちの40%が介護サービスを受けろだろうと試算してるんや。いくらなんでも、掛け金かけた人の40%しか利用しないだろうと考えるのはおかしいと思わんか。この数字は、厚生省が制度に自信のない証拠か、その時点でサーピスの必要量の40%しか整備されてないことがチヤントわかっての数字合わせやろうな。
 また、2005年でも60%の整備率で40%の要介護者が給付を受けられないという予想もでてるんや」
「そりや、ひどすぎるんと違いますか。そうすると、保険科は取るけどサービスはできませんということですか。そんなんサギそのものですなあ」
「そやから『保険あって介護なし』と悪口いわれてるんやけど、そんなことになったら日本中で大混乱や」
「いくら、急がないかんいうても、もうちょとシッカリ考えてもらわんと、安心して歳も取れませんなあ」


その四にご期待下さい。
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