こんなに変わった1次判定結果


 介護認定審査会での1次判定結果は各地の審査会で、介護者の実状にあわない結果となり、多くの不満が報告されています。またこの判定基準で12年度からの介護保険制度が施行されれば各地で混乱が起きることは容易に想像できます。

 どうしてこんな1次判定基準になったのでしょうか。

 平成9年に全国の指定地区で行われた介護認定審査会の資料によりますと4万人を超える審査結果が別表のように報告されています。  (衆議院議員 桧田仁氏 講演会資料より)

自立 要支援 1 2 3 4 5 再調査 合計
1次判定 2434 2674 1534 6712 9048 10058 8341 - 41059
2次判定 1725 2812 2562 5737 8253 9893 9180 639 40801
推定介護時間
による調整
639 2979 9124 8022 8470 6300 5267 - 40801

 9年度の判定結果として、1次判定では要介護4-5が44.8%となり、かかりつけ医意見書や特記事項を考慮した2次判定の結果は要介護4-5は46.7%と少し増えています。9年度の個別の判定にも問題点はありましたが介護者の実状にあった判定であったと考えます。
 ところがこの結果から厚生省は介護に必要な推定介護時間の概念を持ちだし、コンピューターでの1次判定基準を変更しました。そして発表したのが図-1のような推定介護時間による調整結果です。推定介護時間については最後に表でお示ししています。

 

 この図-1で分かることは2次判定の黒棒と比べて、同じ対象者を推定介護時間で調整した白棒では明らかに要介護度が低くなり、要介護4-5が減り、要介護1-2が増えています。
 推定介護時間による調整という分かったような分からない基準を決め、コンピューターのソフトの中味の開示もせずに行ったわけです。
 原因は9年度の判定で要介護度の重症者が多く、これでは介護保険が成り立たないと考えたものと思います。
 勿論、介護保険制度では保険料を徴収し、自己負担を強いる訳ですから介護の大盤振る舞いはできないと思います。それならそれで審査会や国民にも納得できる説明をすべきです。

 そのコンピューター基準が今回10年度モデル事業で使用されたとものと思います。

 その結果はみなさんご承知のように介護者の実状にあわない1次判定結果になり、この1次判定を調査員にも、審査員にも「不適当事例」なる縛りをつけ1次判定を容易に変更できなくして、実施しました。
 コンピューターによる1次判定では、各地で問題点が指摘され欠陥だらけのシステムとしか言いようがありません。個々の欠陥事例は調査中ですので判明次第お知らせします。

 下の図-2は私どもの医師会で行った3地区の297名の認定審査会での1次判定結果ですが、図-1の9年度の介護時間調整結果と同じく要介護4-5が少なく要介護1-2が多くなっています。
 一見正規分布を示し妥当な結果のようですが、個別に見ると寝たきりの全介護者が要介護2-3程度で、介護者の実状を全く表していません。

 

 2次判定の結果も1次判定を大きく変えることは出来ず分布はほぼ同じ傾向を示しています。

 そこで、9年度と10年度の認定審査を同じ対象者で行った地区の結果を得ましたので比較してみました。大阪府のある地域の結果で、同じ人の調査数は67例です。
                        (音田 篤先生より提供資料 )

自立 要支援 要介護1 要介護2 要介護3 要介護4 要介護5 再調査 合計
9年1次判定 0 3 3 14 14 11 19 3 67
10年1次判定 3 0 7 17 14 17 8 1 67

 9年、10年の1次判定を比較して目に付くのは要介護5が19人から8人と半数に減っています。この1年間に悪化したのならある程度理解できますが、寝たきりが急に1年間で改善したとは考えられません。

 この結果を介護度別にどのように変化したかを見たのが表-2です。

           横が9年度1次判定・縦が10年度1次判定です。 
自立 要支援 要介護1 2 3 4 5 再調査
自立 - 1 2 - - - - -
要支援 - - - - - - - 1
要介護1 - 1 - 6 - - - -
2 - 1 1 4 6 2 1 1
3 - - - 1 2 2 8 1
4 - - - 1 4 6 6 -
5 - - - 1 3 - 4 -
再調査 - - - 1 - - - -

 1次のコンピューター判定で2年間で一致したのは青バックの数字で16例23.8%しかありません。問題は横軸の9年度要介護5-19例のうち4へ6例、3へ8例、ひどいのは2へ1例と変化しています。介護度4からも4例が2-3へと変わっています。一方要介護3のうち4-5へ7例、要介護2からも4-5へ1例ずつ変化していますが、これは1年間で悪化したと見るのが妥当です。他の地域の情報も調査してみます。

 いずれにしろ同じ対象者でこんなに簡単に変わってしまう判定基準は認定審査会での不信を招いています。
 本番の介護保険でもくるくる変わってしまう判定基準だとすれば、利用者からの不満・不信が爆発し、介護保険制度そのものの存続も難しいものとなると考えます。

 このように介護認定審査は非常に難しいもので、認定システムとしてもソフト・ハードともにまだ確立していません。人と金と時間は膨大な負担です。
 やはり介護認定制度をはずした介護保険制度を創るべきです。

               10年12月8日 玖珂中央病院 吉岡春紀


・要介護度分類ごとの高齢者の状態と・推定介護時間
                      要介護
要支援 1 2 3 4 5
高齢者の
状態像
社会的支援
を要する
生活の一部に介助を
要する
中等度の
介護
重度の
介護
最重度の
介護
過酷な介護を要する
推定介護
時間
1日あたりの要介護時間

5分以上
1日あたりの要介護時間が
30分以上65分未満
1日あたりの要介護時間が
65分以上100分未満
1日あたりの要介護時間が
100分以上135分未満
1日あたりの要介護時間が
135分以上170分未満
1日あたりの要介護時間が
170分以上

 新たに導入された要介護度の分類と推定介護時間の基準です。
 全く介護の状態が見えてきません。これを元にコンピューターのソフトを変更したと
 思われます。



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