オスナサイルの盗賊団

1

はつみ達一向はナジャを先頭にミーシャを最後尾にして森を突き進んでいた。

ときおり亀裂があり覗いてみると普通の亀裂と思った箇所も深い谷になっている場合もあり遥か下のほうを河が流れている。古の時代から地殻変動が頻繁に起こっており、そのような亀裂や谷が随所にある。"オスナサイル"と呼ばれるその地方はそんな過酷な地形が人間の侵入を許さない為、オークなどの獣人達が好んで潜むと言われている。

先頭を歩いていたナジャが皆に話しかけた。

「その秘宝っていうのはこの森の何処かにあるの?」

その問いに風雅が答える。

「いや、ロメナスの村にあったのが俺達が知る最後の秘宝さ。まだ世界の何処かにあるはずなんだが場所は特定出来ない。闇雲に探し回るよりある程度情報を手に入れたほうがいいだろう」

「この森にはオークが沢山いるけど奴等から情報を手に入れるつもりなの?」

「オスナサイルには流れ者…盗賊だとか山賊だとかがいるっていう話を聞いた。彼等なら宝だとか秘宝だとかの情報があるんじゃないかと思ってね」

「なるほど」

そこまで話してナジャは突然耳をピクピク動かした。歩くのを止めて突然留まり目を閉じる。それを見た風雅も豊吉も同じく止まった。前方の3人が突然止まったのではつみは豊吉の背中に顔をぶつけて「ブッ」と小さく叫んだ。

「この先に集落があるみたいだよ」ナジャが言う。

豊吉は辺りを見渡しながら言う。

「さっきから崖や亀裂ばかりだけどこんな場所で住めるものなのですかね…」

少し進むとあいもかわらず先ほどから見慣れた亀裂が現れた。どこかに渡れそうな狭い箇所があるかとはつみ達が探していると突然はつみが叫んだ。

「この亀裂の間に家がある…沢山」

皆が揃って亀裂に顔を覗かせると僅かな隙間だと思われてた亀裂は奥のほうは意外と広く、深い谷となっていた。その谷は断崖が一部崩されて窪みが作られており橋を架けるように丸太はめ込まれている。その丸太を利用して木や竹で作られた家が建てられているのだ。

「イヤハヤ…なんともトンだビックリハウスですね…」豊吉が言った。

「あれを見て」

ミーシャがそう言って指差した先には小さなベランダに装飾品が並んでいる様があった。竹で作られた家には不釣合いな豪華な装飾品だ。

「もしかしたらここが盗賊達の住処なのかも」ナジャが言う。

「確かにね…オークが入るにしては小さすぎる入り口だしね。ほらあの家の玄関も」

ミーシャ指差した先には小さなドアがついた家があり、他の家と同じように豪華な装飾品がベランダにある。ドアには実戦では使い物にならないような装飾に力を注いでいる盾が飾られている。

「行ってみよう」

一向は盗賊団のアジトと思われる集落の入り口を目指してその谷に沿って歩いた。

2

豊吉曰く"トンだビックリハウス"の並ぶオスナサイルの地割れに作られた集落、その中でも一際周りよりも豪華な作りの家…というより集会場の様な広さの建物の中には立派な彫刻が施された王座があり、そこには20代ぐらいの若い男が座っている。

だが格好は王様、というよりはその側近の騎士のようにしか見えない。使い古された片手剣を窓から差し込む光に当ててその輝きを味わっている。そして時折軽く振ってみては腕鳴らしのような動作をする。

「ロイド、あなたに会いたいっていう連中がいるんだけど、どうする?」

その王座に座る男、ロイドに話し掛けたのはロイドと同じく20台ぐらいの若い女。まるで踊り子のような派手な衣装だが魔法を帯びた装飾が施されている事から、それが魔道士の装備の一つである事が解る。

「俺に客人?オークか?アイツ等がここに来たら重量オーバーで家ごと谷底へストンって可能性があるからなぁ…こりゃちょっとしたスペクタクルだぜ」

「心配しないで。客人は人間よ」

「ほう…こんな所まで何をしにきた奴等なんだろうな」

「ここらでは見かけない装束に身を包んでいるわ…異国の人でしょうね」

「面白そうじゃないか。通してくれ」

その女は入り口まで行くとドアを少し開き外へ向かって言う。

「会ってくれるそうよ。入っていらっしゃい」

入り口から姿を見せたのは東方の国の戦闘服に身を包んだロイドと同じぐらいの年齢の男、同じく東方の僧侶の格好の中年の男、そして犬の耳と尻尾を持つ少女2名。最後に東方の口寄せ師の装束に身を包んだ少女。はつみ達一向だ。

ロイドはその一人一人が部屋に入ってくる度に目を輝かせた。彼が予想していたよりも面白そうな組み合わせの一団なのだ。

「ほほぅ…アンタ等なにか…あれだろ、色んな国の人達が国際交流しようっていうアレだろう?俺も混ぜてくれよ。そうだな、俺はアルタザール代表って事でいいかな?」

ロイドはニヤニヤしながら言う。隣にいる女はロイドと同じくニヤニヤしながら彼の話に加わってくる。

「アナタはオスナサイル代表でしょ」

そんな彼等のオフザケに乗るわけでもなく風雅が淡々と答える。

「あんたがオスナサイルの盗賊団の首領?」

「まぁ、そういう事になるのかな。俺様がこの無名の盗賊団、の首領であるロイド様だ。んで隣のこのおネェさんが俺の側近のマハだ。でオマエさん方は?」

「俺は風雅、こちらの方は豊吉さん、このこがはつみ。そっちの二人はナジャとミーシャだ。俺達は探し物をして旅をしてる者だ。もし何か情報があるなら教えて欲しい、礼はそれなりにするよ」

「俺達に聞くって事は…それは只ならぬお宝なんだよな?」

「ただの箱さ。それほど高価なものでもない」

「ふ〜ん…とりあえず何を探してるのか聞こうか」

「魔法により見えないように封印された箱を探している」

「ほう…どっかで聞いたことあるなぁ…マハ、聞いたことあるか?」

ロイドに話を振られてマハが答える。

「世界中の様々な場所で魔法により封印された箱のようなものがあるというのは聞いた事はあるけど、具体的な場所まではわからないわ」

「それって何か凄いお宝なのか?」

「箱の中身は空っぽなのよ。中身が既に誰かに取られてるみたいに」

「でも魔法で封印されてるんだよな?…中身を取ったとしても後からワザワザ封印したのか…妙な話だな」

「そうね。それで…風雅さん達はその宝箱の中身が目的って事?」

「箱だけでいいさ。箱を集めるのが趣味の人に頼まれてるんだ。中身はいいらしい」

それを聞いていたはつみもナジャもミーシャも同時に風雅に質問した。

「箱の中身はいいの?」

「箱だけが必要なのさ。他はどうでもいい、ちなみに…中身が入ってる箱があるとすれば、その中身はコレだ」

そう言って風雅が懐から出したのは奇麗に研磨された様々な色の宝石だ。風雅はその一つを手に取るとロイドに差し出した。

「どうやらアンタ達に聞いたのは正解だったようだ。他を当たってみる事にするよ。これは情報をくれたお礼さ」

「お、センキュー。ついでに教えてやるが、この先のクレフィス山を越えるとジェノバっていう港町にでる。俺達の親戚みたいな連中がワンサカいるぜ。連中は海賊をやって生計を立ててるからな」

「ありがとう。恩にきるよ。さ、行こうか」

風雅ははつみ達にそう言うと盗賊のアジトを後にした。

彼らが出て行った後、広間ではロイドとマハは話をしていた。

「この宝石、本物みたいね。このままあの人達を逃がすの?あの様子だとまだまだ沢山金目の物持ってそうだったんだけど」

「ふむ…俺のカンだが風雅という男、かなりのツワモノだとみた。あれは邪馬の国の戦闘服だろ?しかもかなり高ランクの戦闘員のものだった…箱マニアの依頼主の元で動いてるって言ってたけどありゃ軍の命で動いてるって感じだな。そういうのは触らぬ何とかに何とやらって事だぜ」

「邪馬との戦争じゃあもの凄い被害が出たものね…あのティリスの城壁を初めて突破したのも邪馬の軍隊だったわね」

ロイドは風雅に貰った宝石を興味なしげにテーブルに放り投げると先ほどとは違う静かな口調で言う。

「なぁ…また戦争になるのかな」

「そうかも知れない…けどね、ロイド…あなたはもう関係ないのよ」

「あぁ…解ってる。解ってるさ」

3

はつみ達一向は盗賊のアジトから少し離れた場所にある開けた平地を前にしていた。そこは亀裂や谷のあるオスナサイルの大地には珍しく一面が平らで草原が広がっており少し先には集落が見える。オスナサイルで唯一の村のようにも見えた。

少し遅れて歩いていた豊吉が疲れた声調子で風雅に話し掛けた。

「風雅さん、今日はあの村で宿をとりませんか?ここ数日は毎晩野宿でしたからね」

「そうですね、今日はあの村に泊まりましょう」

それを聞いたはつみは喜んだ。

「やったぁ〜今日は魚と山菜以外の食べ物が食べれる〜!」

「そうかい?ボクは魚と山菜も意外とイケると思ったけどな」とナジャが言う。

「はつみは魚と山菜も喜んで食べてたじゃないか」ミーシャが言った。

「えへへへ…でも魚と山菜ばっかりじゃ飽きちゃうじゃない?」

3人がそんな食べ物の話ばかりに興じていると先頭を歩いていた風雅が足を止めた。林の隙間から小さな人影がはつみ達一行を見ている。そして叫んだ。

「止まれ!そこの人達!」

声はどう考えても子供の声だ。その声の後に林の間から子供達が数人、風雅の前に立ちはだかる。見れば手には大人用の片手剣を不恰好にも手に取っている。弓を、これも大人用のものを引き摺るように持っている子供もいる。中には兜を被る子供もいたが完全に視界を塞がれていてフラフラと手探りで歩いてやっと仲間の子供達の元まで来ていた。

「怪しい奴等め!この村になんのようだ!」

リーダーと思わしき子供が言う。

「…何をしにって、俺達は宿をとりに来ただけだ」

「盗賊の仲間じゃないの?」

「違うさ…俺達は旅をしてるだけだ。こんな昼間から、しかも村の正面からトコトコ歩いて来る盗賊なんていないだろう?」

「え…う、うん」

その子供は風雅の話に納得したのか道を空けるような素振りを見せた。その瞬間、その子供の後ろから首根っこを掴む手が現れて子供を宙に引っ張り上げた。

「この馬鹿!村に来る人来る人全員を盗賊呼ばわりしてるんじゃないよ!」

それは恐らくその子供の母親だろう。リーダー各の子供はそのまま宙に吊り上げられたまま村へと搬送されていった。周りの子分達はそれを不安そうに見つめながら付いて行った。そしてはつみ達もまた一緒に村へと入っていった。

4

オスナサイルにある村、それが何といわれる名前なのかは知られていないが、その村はジェノバへの途中にある為か港へ向かう旅人の休憩地となって繁盛していた。石造りの家々が立ち並び、広い土地を生かして畑で作物が育てられている。オスナサイルという過酷な土地で唯一見られる豊かな場所だ。

その村にある少しばかり大きな石造りの家は商人や旅人が疲れを取る為に宿として利用されていた。1階には食堂、2階には宿泊する部屋。はつみは食堂に入ると真っ先にメニューを探した。だが意外にもその食堂にはメニューはなく、客が食べている物についても同じ物だ。

一行は席につくとはつみが残念そうに話す。

「メニュー無いし、なんだかみんな食べてるものが魚とご飯ばっかりだね…」

「まぁ贅沢はあまり言ってはいけませんよ。こんな辺境で宿が取れるだけで満足しなきゃ。野宿して盗賊やオーク達に身ぐるみ剥がされるよりかは安全です」

豊吉が言う。その間に風雅が手続きを済ませたのか、メニュー無しの食堂では直ぐに食事が運ばれてきた。魚とご飯とお味噌汁。普段はつみ達が野宿して食べているものは取れたての魚を焼いたものだが、その魚は保存食としての干物であった。

「山菜がご飯とお味噌汁に、魚が干物にグレードアップしたね…」

はつみは寂しそうに言い干物に噛り付いた。

「さっきの村の子供達、盗賊がどうとか言ってましたけど、こんな辺境の村でも盗賊に襲われる事があるんでしょうね。金目のものもあるとは思えませんけど…」豊吉が話す。

「多分あれは村を守る遊びをしてたんだと思うよ。大人達は警備してないみたいだしね」ナジャが答えた。

「こういう辺境にある村ってのは盗賊とかには逆に利用されたりして、かえって繁盛するんだよ。意外とお金には困ってないかも。ボクとナジャは任務で遠い国へ行く事があるけど、途中にある村では盗賊とグルになって旅人からお金巻き上げたりする奴等もいたしね」

「ふむ。悪い人達もいるものですね」と豊吉が言う。

メニューに拘りをつけていたはつみも一通り食事を平らげて一息入れていると後ろから彼女を呼ぶ声が聞こえる。それは聞き覚えのある声だ。

「あ、はつみじゃないか!」

一行の前に姿を現したのはステファンだった。

「ステファンさん!ここで何をしてるんです?」

はつみが言う。

「何って…今休暇中なんだ。前の任務が終わって休暇を貰ってね。いとこがこの村に住んでるんで会いに来たんだ。はつみは…相変わらず旅してるの?」

「え、あ、うん。風雅さんと豊吉さんは知ってるよね。こちらはナジャさんと…」

はつみが増えた仲間を紹介しようとするとそれを聞き終わる前にステファンが叫んだ。

「げッ…ナジャ・ミーシャ姉妹」

「『げッ』ってなんだよ!ボク達がここにいるのが不満なの?」

「いや、そんなことないさ…っていうかお前達もはつみと一緒に旅をしてんの?任務はどうしたの?」

「任務は…はつみ達と一緒に旅をする事だよ」

「う〜ん…解らん。大体さ、はつみ、旅をしてる目的って何なんだ?」

ステファンに話を振られてはつみは少し迷いながらも答える。

「えと…世界を救う旅…」

「なんだそりゃ?…はつみ、その実力があればアルタザールの軍に属すれば活躍できるぜーッ!そうだ!士官にもなれるさ、ジニアスの奴よりも位の高い士官にね。僕の辱めの恨みを晴らしてくれ!もしかしたらさ、伝説の英雄の騎士団にも入れるかも知れないしさ!」

少し興奮気味に話すステファンに少し押されるはつみ。聞いているナジャもミーシャも「またあの話か」という感じで呆れ気味だ。

「え、ううん…私、戦うのとか好きじゃないし…」

「ほら、はつみが嫌がってるでしょ?ステファンはまた伝説の英雄の話か、まったくいつまで経ってもガキだね、ほんと…」ミーシャが言う。

「な!なんだよ、ガキで悪いのかよ!犬姉妹!」

「悪いよ!悪いね、悪ガキだよ!いつまでも夢見る少年から抜け出せないガキ!あそこで遊んでる10歳ぐらいの男の子達と同じ(レベル)」

ナジャがそう言うと彼女の指差す先には少し前に村を警備していた子供達が互いに大人用の武器を持ち、戦うような振りで遊んでいる。一人が巨大な両手持ちの剣を抱えて精一杯の力で持ち上げている。震える足でなんとか持ち上げたが重さに耐え切れず剣は床に向かって落下、そして木で出来た床に突き刺さった。突き刺さるというより貫通した。

血相を変えて現れたのはその子供の親だった。言うよりが早く拳骨が子供の後頭部に叩き込まれ「ゴッ」という鈍い音が響いた。

「この馬鹿!なんて事するんだい!この床どうするんだよ!大穴が開いたじゃないか!」

音が響くほどの拳骨による攻撃で子供は流石に今度は泣き出した。

「ほら、ステファンが泣き出したよ」

ナジャが馬鹿にするように言う。

「相変わらず意地の悪い姉妹だ。はつみ気をつけるんだぞ、こいつらイジメてくるからさ」

はつみは二人のやり取りを聞きながら苦笑いをした。

「さっきの子供も伝説の騎士がなんとか、って言ってたのを思い出しました。その伝説の騎士っていうのは何です?」

豊吉が話しに割り込む。

「ん、あぁ豊吉さんは異国の人だから知らないのか。まぁアルタザールの英雄の一人さ。ティリスの街が城塞都市と言われるようになったのはその英雄と城砦を建築した天才技師達お陰なのさ。幾度もの襲撃から街を守ってアルタザールの国の英雄と呼ばれた。今でも子供達からは伝説の騎士と言われ尊敬されているのさ」

ステファンが気持ちよく話していると間にナジャが口を挟んだ。

「公には今でもティリスの街の守備隊にいる、ってなってるけどね、本当はもう軍を辞めたらしいよ」

それを聞いたステファンは顔を曇らせて言う。

「え…そうなのか?僕はてっきりまだティリス防衛に従事してんのかと…」

「これは極秘の情報だよ。ボクとミーシャはこれでも諜報員の端くれさ。こういう情報も実は流れてきたりするよ。アルタザールは公にはティリスの守備隊にはその騎士がいて今でも城砦の増強を技師達がやってる事にしてる。伝説の騎士も城砦の維持をするはずの技師も居ないなんて他国に知れたら困るからね」

「技師達も…辞めちゃったのか…」

ステファンの声のトーンは下がりっぱなしだ。そのまま静かに立ち上がると音もなく食堂の外へと出て行った。いとこに会いに村へ来たという事なのでいとこの家に向かったのだろう。その寂しい背中を見ながらミーシャが言った。

「あらら…なんだかマズイ事言っちゃった?」

「いつも調子こいてるから調度いいんじゃない?」ナジャが答えた。

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