関節リウマチは痛みを伴う慢性疾患でありますので、痛みの程度は患者さん自身しか分かりません。ある患者さんは「うずくような痛み」「寝むれない程の痛み」「針を刺されるような痛み」などの様々な痛み訴えられることもあります。結局のところ関節リウマチは痛みとの闘いにつきると思います。この世に関節の痛みが無かったならば、自分の人生はなんと形容しよいか分からないほど幸せだったにちがいない、と思う関節リウマチ患者さんもいることでしょう。
一般に使用されている非ステロイド抗炎症薬やステロイド薬ではある程度痛みをとることができますが、関節リウマチの進行を止めることはできません。現在では抗リウマチ薬が関節リウマチの進行を止める薬剤として認められ、リウマチと診断がついた時点で早期に使用することが常識となっています。また2003(平成15)念4月に新しい抗リウマチ薬としてレフルドマイド(商品名アラバ)が認可されました。
そこへさらに生物学的製剤が開発され、インフリキシマブ(商品名レミケード)が同年7月に認可されました。また、まもなくエタネルセプト(商品名エンブレル)も認可されようとしています。
これらの生物学的製剤を使用すれば、確かに関節リウマチの疼痛に苦しんでいる患者さんは、インフリキシマブの点滴注射終了後にまもなく疼痛は除去され、足取りも軽く歩いて帰ったという話を聞きました。今後の関節リウマチの治療法は画期的に変わろうとしています。ある医師は革命的変化といっています。
薬物療法の歴史を振り返ってみると、関節リウマチ患者さんにステロイド抗炎症薬が最初に使用された時、関節リウマチの痛みは解決できると思ったでしょう。また、ステロイドの内服や関節腔内注入療法がなされた時には関節リウマチの治療は解決したと思ったでしょう。抗リウマチ薬が登場してきてから、関節リウマチの進行は阻止できると思ったでしょう。そして人工関節が開発され、リウマチ外科医はこれで関節リウマチの関節機能障害はなくなるだろうと思ったでしょう。
しかし、医療の現実は理想と異なっていました。現在、関節リウマチ患者さんの中で満足のいく治療と思っていない人も多数おられるでしょう。この度登場した画期的な生物学的製剤により、関節リウマチはすべて解決できると思っている人々もいることでしょう。確かに抗TNF-α製剤はすばらしい薬効のあるものです。注射療法なのですが、よく効く薬ほど副作用も強烈です。免疫力がいちじるしく低下し、すべての感染症に罹患しやすくなります。
とくに、肺結核の既往症のある患者は再発の可能性が非常に高くなります。過去に知らないうちに肺結核に罹患し、知らないうちに治癒した患者さんもいることでしょう。そのような患者さんにこれらの薬を使用すると、肺結核が発病しやすいのです。しかも肺だけでなく、肺外結核もあるといわれています。このようなことから、結核の既往症のある患者さんには抗結核薬を併用することになっています。
日本は太平洋戦争前から戦後にかけては結核大国であり、全国に結核療養所が多数ありました。戦前、ある人が米国に留学する場合には、下船するとき、自分の胸部X線写真を持参して、結核ではないことを確認してもらって初めて上陸が許可されたという話も聞きました。このことは戦前戦後を通じて、米国では肺結核は非常に少なく、結核大国の日本人から結核菌侵入を防ぐための水際作戦であったように思います。
歴史的に結核の少ない米国で生物学的製剤が使用され、たとえインフリキシマブの使用した37万人の患者のうち277人が結核となったという、米国の報告では非常に低い比率であったとしても、それが結核大国の日本で通用するか否かはいささか疑問であります。このような両刃の剣と思われる生物学的製剤が使用されて、日本国民にとって吉と出るか凶と出るかいずれ解明される日が来るでしょう。吉と出ることを私はただ祈る気持ちでいます。また、これらの生物学的製剤の有効性は50〜60%であることも医師も患者さんもよく知る必要があります。