「RETAIL LABOで米国小売業を学ぶ前に」

TOTAL RETAIL PRODUCE GROUP

産能大学 プロジェクトマネジャー 竹元雅彦


現況日本の経済が低迷し、企業倒産やリストラが今後ますます本格化していく中、アメリカは順調に景気が回復している状況にあるのは新聞等でも報道されている。

世界最大の小売業ウオルマートは、売上げ15兆円(97年度)を越えるなどその他マイクロソフト社等のコンピュータ関連企業の動向を見てもすこぶる好調である。企業間の競争は、ますます激化するものの全米のみならず全世界に向けて飛躍的成長を遂げる企業も多い。

そのような状況下アメリカでは女性の社会進出が急激に進んでいる点が注目される。

たとえば既婚女性の就業率が95年以降70%越えたと言われている。さらにその70%はフルタイム労働者であると言われている。

そしてこの背景には、女性の高学歴化が考えられる。統計データーによれば85年頃から大学、大学院を出る女性の数が男子の数を抜いている。その結果企業においても女性の経営幹部(課長以上)が急速に増加し全体の41.5%に当たる612万人まで達していると言われている。

先述のウオルマートや徹底したサービスを提供すると評判のノードストロームなども店長の半数以上がもはや女性と言われている。単なる「パート」「アルバイト」ではなく有職主婦があたりまえの時代になっているのだ。

今やアメリカのお金持ち像は、女性(妻)が、どれだけ稼いでくるかによるのだそうだ。このことがアメリカの世帯収入構造にも大きな変化をもたらしている。

米国の世帯別収入の構造

年代/階層

ロワー

ミドル

アッパーミドル

アッパー

収入($)

〜14,999

15,000〜34,999

35,000〜49,999

50,000〜

1970年

16,8%

39,0%

22,9%

21,4%

1991年

16,9%

31,6%

19,5%

31,9%

この図を見るとミドル、アッパーミドルクラスがアッパーへとグレードアップしている事が読み取れる。高収入を得る事で今まで手の届かなかった「家」や「日本車」が買えるようになったり、お金を出して余暇を楽しむ生活を得られるファミリーが多く誕生しているのである。その流れを受けて小売も変化していく。夫も妻も働いている世帯のライフスタイルに応じた小売業が現れ、それらが急速に成長していく構図である。

95年以降日本でも問題になった量販店の元旦営業、最近新聞を賑わす24時間営業の問題も実はここに端を発している。女性(妻)が、職業を持つ事で「買い物」と言う消費行動は、大きな変化を遂げた。「仕事の帰りに買い物をする。」「残業で遅くなっても開いてる店があったらいい。」「一つの店で全ての商品が揃って欲しい。」。このような要望に応える形で24時間営業の店や、「なんでも揃うお店」が次々とできていった。

消費者がショッピングセンターで過ごす時間が80年の12時間から90年の4時間へ激減していったことにも象徴されるように、共働きが増える一方で余暇の使い方そのものが変化しているのである。

無論お店に限らずテレホンショッピング、通信販売、インターネット等の無店舗販売も急速に成長を遂げる事になる。

それらが形成されていった背景は別として販売形態や業態はそのままの形で即座に日本の市場に導入されていく事がなかば常識化されている。

実際日本の場合有職主婦の増加や価値観の変化に伴い、たとえば今まで成長してきた生協が衰退し、無店舗販売から店舗販売へと変わっていくような動きが起こっているが、リストラで職を失う事以外で大きくライフスタイルが変わることはない。量販店の深夜営業の問題もつきつめれば顧客の要望と言うよりは、売上増に向けての打開策にすぎない。

結果的には深夜等の勤務に伴う人件費増の問題で都市部を除いて今以上に進展することは日本では当分考えられない状況である。

今の日本市場は別としても、アメリカでは現実問題として顧客のニーズの多様化にあわせて企業は、急速にその変化に対応していかねばならないし、その流れについていけない企業は淘汰されていく構図が明確にあらわれている。

市場統合化の流れ

業態

社数

市場占有率(90年)

市場占有率(96年)

ディスカウントストア

3

68%

80%

百貨店

4

43%

61%

オフプライスショップ

3

27%

59%

ホームセンター

2

7%

18%

 

この図にあるディスカウントストアは、ウオルマート、ケーマート、ターゲットの3社である。 この三社で実に80%のシエアを握っている事になる。突然できあがった店が 急速に発展し、また淘汰されていく事はアメリカでは日常茶飯事である。 顧客のニーズに合わせた店作りは、成功すれば急速に巨大化し、瞬く間に市場を占拠する。 そして力(競争力)を持った店(企業)だけが勝ち残り他はすべて淘汰されていく。 今のアメリカではそのスピードがますます速まっている。 たとえば、1860年ごろ誕生した百貨店は、1960年代にその成熟点を迎え実に100年間かかって成熟していったが、スーパーマーケットは1935年ごろに誕生し、30年後の1965年に成熟点に達したことになる。さらに1976年に誕生したホールセールクラブは、わずか15年間で1993年には成熟点に達した事になる。それだけ、早いサイクルで小売は成長している事になる。

カテゴリーキラーと呼ばれるある分野の商品を徹底して品揃えを行う店なども「こんな店があれば」と言うニーズから生まれている。生活者のニーズの多様化が次々に新業態も生んでいるのである。

主要業態の伸び(単位 百万ドル)

業態

1980年

1995年

伸び率

ホールセールクラブ

39,548

コンピュータ販売

6,420

49,735

675%

カタログ販売

5,001

36,785

636%

コンビニ

43,959

65,588

49%

76年頃に誕生し80年代には形(業態としての確立)のなかったホールセールクラブは、15年後には、一大マーケットを形成している。日本流に言えば「会員制卸」のこの店は日本ではダイエーが「kou`s」と言う名前で神戸、大阪、厚木等に店舗展開しているがアメリカ程顧客の評価を得ていない。ところがアメリカでは、プライスコスコやウオルマートのSAM`Sがこの市場でまだなお急激に成長し続けている。この店では会費を払って会員になることでどこよりも安く商品を購入することができる。つまり徹底したローコスト運営で店舗の運営費(含む人件費)でまかない、商品は原価に近い低い粗利で顧客に提供される。結果増大する会員の会費が大きな利益をもたらしている。この店を目指して遠く300kmや500km運転して買い物に行く事はさほど苦にはならないようである。駐車場は常に満杯で、皆詰め込めない程多くの商品を買っていく。レジも常に長蛇の列であり、高々と積み上げられた商品が瞬く間に消えていく。

日本で急速に成長していると言われているコンビニエンスの伸びに比べれば、コンピュータの専門店や通信販売の伸びと共に成長する企業の勢いがどれだけすさまじいものかが解っていただけると思う。

当然この裏では衰退していく店も多くあるのである。

日本ではここ20年近く小売業の上位企業に変化はないが、アメリカでは激しい競争下、めまぐるしい変化が起きている。その結果が、下図の順位に大きく現れている。何年か前には形がなかったものが、数年のうちに生活者の購買行動までも変えてしまうのである。

小売業順位の変遷(米国)

小売業順位の変遷(日本)

96年度順位

企業名

81年順位

96年度順位

企業名

81年順位

1

WAL-MART

30

1

ダイエー

1

2

SEARS

1

2

イトーヨーカ堂

2

3

K-MART

3

3

ジャスコ

3

4

DEYTON H

4

4

マイカル

6

5

KROGER

5

5

高島屋

7

6

JCPEANY

4

6

西友

4

7

COSTO

-

7

三越

5

8

HOME DEPO

-

8

ユニー

10

 

二つの表を見比べる限り日本では、殆ど順位の変化が起こっていない。近年超成長企業と言われるファーストリテイリング(山口・宇部)でも、まだ売り上げ750億円で1兆円を越えるダイエー、IYの地位を脅かすにいたっていない。そんな風に見ると日本ではまだ本当の競争は起きて無いのかもしれない。しかしながら、この変化の波はまもなく日本を巻き込む事になるであろう。規制緩和により日本の商慣行が変わり、例えば大店法や再販制度も大きく変わってきたが、結局のところ米国企業の日本進出が、日本の規制を変えてしまうと言っていいだろう。日本の培ってきた常識(商慣行)が、アメリカの物差しで「非常識」に変わり、消滅の途をたどって行くのである。

91年にトイザラスが日本に進出するにあたり、日本のおもちゃメーカーや問屋は既存小売店の猛反発にたいして「積極的に取り引きはしない。」と豪語した。しかし、売上げ700億円、店舗数50店を越え2000年には売り上げ1000億円と日本の市場のほぼ20%押さえることも目前となった今、結果として玩具メーカーの営業は、本部に日参し販促協力や専用商品の供給までも始めている。結果百貨店や量販店の中にはおもちゃの取り扱いをやめるところも出始めているし、市場の40%を占めていた玩具専門店の数は半減している。玩具の業界は事実上自由価格時代へと突入したと言える。

このことは、おもちゃのみならずスポーツ用品や、文具・オフィス用品、家電、医薬・化粧品、ホームファッション、書籍、衣料品の分野でもおこりつつある。日本にはまだ多くある衣料問屋はアメリカでは10年以上も前に市場から消滅している。

また古い体質に守られてきた「本」なども、アメリカで現在起っているように近い将来

「なまもの」として扱われ、鮮度の落ちたものが半額で売られたり、ベストセラーが目玉商品として特売される日も近いと思っている。

ある意味で日本は、古い商慣行によって守られてきた事で欧米から見れば「手つかずのおいしい市場」であり、規制に守られることで本当の競争力をもたない企業に独占されていた市場であったのだ。規制は、中小の小売を守ってきたと言いながら実は海外の黒船から日本の大手量販店を守ってきたわけでその規制が取り除かれれば当然アメリカにある様々な分野の小売りが日本への進出を企ててくる事が予想される。

(正確に言うならば、日本の量販が売り上げ拡大のために提携等で誘致しているのだが。)

米国からの日本進出企業

進出年度

企業名

業態(合弁企業)

1990年

ヴァージン・メガストア

AV(丸井)

1991年

トイザラス

子供用品(日本マクドナルド)

1991年

ブロックバスター

レンタルビデオ(藤田商店)

1992年

ディズニーストア

雑貨(100%)

1992年

エル・エル・ビーン

アウトドア(西友・松下)

1993年

エディーバウアー

アウトドア(住商オットー)

1994年

ランズエンド

衣料(100%)

1995年

ギャップ

衣料(100%)

1996年

ピアワンインポーツ

家庭雑貨(暁印刷)

1996年

ワーナーブラザーズ

雑貨(ダイエー)

1996年

スポーツオーソリティー

スポーツ(ジャスコ)

1997年

オフィスデポ

オフィス用品(デオデオ)

1997年

オフィスマックス

オフィス用品(ジャスコ)

1997年

ウォルグリーン

ドラッグ(伊藤忠)

1997年

フットロッカー

スポーツシューズ(100%)

上記が90年以降日本に進出してきた米国企業である。これに続いてホームファッション、 書籍、家電のチエーンが進出を計画している。 日本の企業を守っている規制さえ外せば、たとえば政治的力をもっておこなっても、あとは互角かそれ以上の力をもっているのだからチャンスは拡大する。また、規制が緩和されることは同時に日本の企業を守っている壁がなくなることを意味する。

元来体力を持たない側にとっての競争は過酷である。大型量販店のみならず、中小小売りにとっても同様である。競争がないと言っても、ここ10年間に30万軒ちかくの小売りが廃業に追い込まれていると言われている。反面大手量販の出店は大店法の緩和以降短期間での出店が可能になったことから急激に増加している。まず小さな店から淘汰されて、次に大手の統合が行われる。水面下で行われてきた統廃合が、今後は急激に表面化されていく事が予想される。

もう一つ見逃せないのが無店舗販売(カタログ販売・インターネット)の日本進出である。 これは、売上げ数字がアメリカで計上されてしまうので実際いくら売れているのかわからないが日本通信販売協会の推定では、海外通販会社の95年度の売上高は 1500億円と前年比20%以上も伸びたと言われている。今回訪問したワシントン州シアトルに本社を置くアウトドア用品を販売するREIを事例にあげると昨年度の売上げ4億4千万$の内訳は直営店舗での販売88%、メールオーダー12% となっている。そのうち1600万$が海外、その大半が日本からのオーダーと言うことだ。ちなみにこのREIは,日本に既に進出しているLLBean,EddieBauerに続く後発で前者のようにまだ日本に直営のショップも持っていないのである。

現状円高のメリットや値ごろ感、ファッション性で売れている通販であるが、例えばインターネットがどこの家庭にもある「常識」となったり、「店舗を持たない優位性」で「常に低価格で商品が提供できるようになったり」「物流面でのコストが軽減される」ような事があれば、また反対に市場の拡大で結果としてこのような状況ができあがったとすれば この販売形態は「いつでもどこでも買い物ができる」常識となり、海外通販等の無店舗販売までもが日本市場を脅かす競合相手となる。

顧客志向と言いながらも「売らんがため」を優先させて、 売り手のロスを価格に載せたり、利益を守るために「規制」を利用してきた多くの企業がこの「変革」 に巻き込まれるのは時間の問題と感じた。 その事が生活者としての私に、 また企業人としての私にどのような影響や変化を与えるのかは分からないが 引き続きこのテーマについての研究は続けていきたいと思う。

 

1997年10月記(視察レポートより)

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