《ネコの森から・・・・》                          ミズモリ ショウ                          準  星   俺たちゃ野良ネコ、にゃおーん   俺たちゃ捨てネコ、にゃおーん   勝手気ままな毎日を、勝手気ままに暮らしてる   ここは猫達(おれたち)にとっちゃ天国さ   腹が減ったら 飯食って   眠くなったら 昼寝して   ご機嫌をとんなきゃなんない人間もいない   まったくここは天国さ   俺たちゃ自由だ、にゃおーん   俺たちゃ愉快さ、にゃおーん   自由で愉快な毎日を、気楽にのんきに暮らしてる   空が晴れたら 昼寝して   雪が降ったら 丸まって   ホウキを持って追い回す人間もいない   まったくここは極楽さ  「今日は天気がいいなぁ。昼寝日和だぜ」  「お日様を丸まった背中いっぱいに浴びて」  「思いっきり背伸びをして」  「にゃお〜〜〜ん!」  ネコ松、ネコ竹、ネコ梅の三匹は体を細長く伸ばして、思いっきりのびをしました。  「いやぁ、気持ちいいなぁ」  「あーあ、でも、お腹すいたなぁ。なにかおいしもの落ちてないかなぁ」  「ばぁか。落ちてたら、とっくに誰か食っちまってるよ」  それでも、ネコ梅が未練たらたらあたりを見回していると、あたりをきょろきょろ 見回しながら見慣れないネコがやってきました。  「おやおや・・・・?  新人さんのご到着ぅ。何かおいしいもの持ってないかなぁっと」  「おい、こら」  ネコ松が止めるのも聞かず、飛び出していきました。  「くんくん、くんくんくくん、くんくくん・・・・・・・」  「ちょ、ちょっとぉ、何してるんだよぉ」  新しく来たネコはびっくりして飛び退きました。  「なぁんだ、なんにも持ってないやぁ。つまんないの・・・」  ネコ梅はシッポをたらして二匹の所に戻ってきました。そして、「はぁ」と大きな ため息をつくと、小さく「おなかすいた」と言いました。  ネコ松はそんなネコ梅を横目で見て、苦笑しながら新しく来たネコに言いました  「おめぇ、名前は?」  「ぼぉ、僕ですか?」  新しく来たネコは急に声をかけられてびっくりしたのか、すっとんきょうな声を出 しました。  「ああ、おめぇの名前だよ」  「あ、ああ・・・・。僕はニャオって言います」  「ニャオ、か。うん、面白い名前だな」  「たっちゃんがつけてくれたんです。いつも”にゃおにゃお”言ってるからって」  「たっちゃん?」  「ええ、僕を飼ってくれている、人間です」  「にんげんだってぇ!?」  今度は、三匹がすっとんきょうな声を出しました。  そして、顔を見合わせると大きな声で笑い始めました。  「なにがそんなにおかしいのさ!」  しばらく笑った後、ネコ松が言いました。  「おめぇ、知らねぇのか? ここは、その人間に捨てられたネコが来るところなの さ」  「す、捨てられた・・・・?」  「そうそう。ぼくたち捨てられちゃったのよん」  ネコ梅が楽しそうに言いました。  「僕は、捨てられてなんか………」  「じゃぁ、なんでここに来たんだい?」  ネコ竹が意地悪そうに聞きました。  「そりゃぁ………」  「ほうらな。ここに来る奴はみんな捨てネコだって決まってるのさっ」  「違うよっ!」  「ほぉ? 何が違うって言うんだい?」  「たっちゃんは毎日ご飯をくれるし、一緒に布団で眠ってくれるし・・・・」  「それがどうしたってんだい。そこまでかわいがっていても、飽きたらポイッ」  「飽きたらポイッ」  「飽きたらポイッ」  ネコ竹とネコ梅がニャオを囲んで歌いながら踊り始めた。   人間てのは身勝手で   きゃぁかわいい!  と言って飼っといて   何だつまんないのぉ で捨てちまう   飽きたらポイッてな具合にね   飽きたらポイッ  飽きたらポイッ   飽きたら 飽きたら   飽きたら 飽きたら   飽きたらポイッ!ソング   人間てのはわがままで   美味しいえさだよ  と言って食べさせて   ぶくぶくになったら 捨てちまう   飽きたらポイッてな具合にね   飽きたらポイッ  飽きたらポイッ   飽きたら 飽きたら   飽きたら 飽きたら   飽きたらポイッ!ソング  「違うよぉ!!」  見かねたネコ松が二匹に言いました。  「まぁまぁ、ここでぐだぐだ言ってもはじまんねぇ。ここに来たネコはキャット大 王様に必ず裁判をしてもらわなくちゃなんねぇんだ。早いとこ行っちまおうぜ」  急な話にニャオは驚きました  「ちょ、ちょっと待ってよ。なんだい、そのキャット大王様って。それに、裁判っ てなんなのさ!?」  「おめぇなぁんにも知らねぇんだな。ま、来たばかりで無理もねぇか」  「キャット大王様ってのはなぁ、このネコの森を治めてるどえらぁいネコなんだぜ ぇ。それから、裁判ってぇのはな、おまえを飼ってた人間がしたことにどんな罰を与 えるか決めることさ」  「え!?それじゃぁ、たっちゃんは死刑にされちゃうの?」  たっちゃんが死刑にされたらとっても悲しいとニャオは思いました。  「死刑だって?」  三匹はびっくりして、そして、大笑いを始めました。  「はぁっはっはっは。死刑なんてのは人間が考えた一番愚かな罰さ。人間が人間を 殺してしまうなんて野蛮じゃないか?」   「俺達はそんなことはしやしない。ネコやいろんな動物みんなに知らせるだけさ、 あの人間には近づくなって」  「おまえも知ってるだろ?ネコやイヌをいじめる人間には俺たちゃ決して近づかな い。その人間がどんなに動物が好きでも。だ」  「う、うん」  「さぁ、早くキャット大王様のところに行って、おまえの飼い主の罰を決めてもら おうぜ」  ネコ達はニャオを強引に引っ張って行きました。    ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・  「ニャオ。ただいま。あれ?ニャオ?ニャオ? どこにいるんだい? ニャオ!?」  たっちゃんは部屋の中を隅々まで、ベッドの下から本棚の裏まで、捜しました。で も見つかりませんでした。  仕方ありません。内緒でニャオを飼っていたことがおかあさんにわかってしまうこ とを覚悟で聞くことにしました  「ねぇ、ママ・・・・。ニャオ、どこに行ったか知らない?」  「ニャオってなぁに?」  いつもより優しそうにきこえます。これなら、怒られないかもしれません。勇気を 出して言って見ることにしました。  「ネコだよ。僕の飼ってるネコだよ」  ところが、急におかあさんの顔つきが変わってきました。  「たっちゃん。あれほど動物を飼ってはいけませんって言わなかったかしら?ママ の言うことを聞かない子は知りませんよ」  「ねぇ、ママ、ニャオをどこにやったの?ねぇ、お願いだから教えてよ」  おかあさんもたっちゃんの”お願い”には勝てません。ため息をつきながら教えて くれました。  「はぁ・・・。眠っている間に箱に入れて原っぱに捨ててきましたよ」  「えっ!?そんなぁ・・・・・ ニャオがかわいそうだよ!」  びっくりしたたっちゃんは、おかあさんがとめるのも聞かないで飛び出して行きま した。  「あっ、たっちゃん! タツオ! 待ちなさい。 タツオ」    ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・  「ニャオ、ニャオー。どこにいるんだい。ニャオー」  原っぱと言ってもその向こうには大きな森があるほどの原っぱですから、子供ひとり で捜すにはあまりにも広すぎます。  ふと、道路脇の柵を見ると端の方にニャオを入れて隠していた段ボール箱が転がって いました。  「あっ、これはニャオのだ・・・。ニャオ、ニャオっ!。どこにいっちゃったんだ よぉ。ニャオォ・・・・・・」  「ぼうや。ネコを探しているのかい?」  ニャオを捜し疲れてしゃがみ込んでいると、おじいさんが声をかけてきました  「うん。ママが勝手にぼくのニャオをここに捨てちゃったんだ。 これ、ニャオがすんでた家なんだ」  「そんなにそのニャオってネコが好きだったんだね」  「あたりまえだい」  おじいさんは目を細めてたっちゃんを見ました  「そうか、そうか・・・・。うん・・・・。ぼうや、いいことを教えてあげよう」  「えっ!?ニャオがどこにいるか知ってるの?」  たっちゃんは立ち上がって、おじいさんの顔を見ました。  おじいさんの顔にはサンタクロースのような大きな真っ白いヒゲとたくさんのしわ が顔中にありました。  「いや。わしは知らん。だが、捨てられたネコの行き先は知っておる」  「どこ?それ、どこなんだいっ!?」  「この向こうの森さ・・・・」  おじいさんは遠くを見るような目つきで森を見ました。  「ありがとう」  たっちゃんはぴょこんとおじぎをすると、森に向かって駆け出しました。  その後を悲しそうに見送った後、おじいさんは溜息をつき、小さく首を振りながら 去って行きました。    ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・  森の側まで来たたっちゃんの目の前にネコが飛び出してきました。  「とまれぇ。」  「危ないじゃないか。僕は急に止まれないないんだぞ」  たっちゃんは口をとがらせて、交通標語のようなことを言いました。  「ここから先は人間は立入禁止だ」  「たちいりきんしだって?」  「そうだ。人間は入ってはいけないってことだ」  「そんなこと、わかってらいっ。でも、どうして入っちゃいけないのさ」  たっちゃんはまた口をとがらせました。  「それは、ここが『ネコの森』だからだ」  「ネコの森だって!?」  たっちゃんは不思議そうにネコの顔を見ました。  「そうだ。だから人間は入ってはいけないんだ」  「だったら僕、なおさら入んなきゃ」  「ああん?」  今度はネコがたっちゃんの顔を不思議そうに見ています。  「だって僕、ニャオを捜してるんだもん」  「ニャオ?」  「そう。僕の友達なんだ」  「人間の友達は人間だろ? 人間はここには入れないんだぞ」  「ううん、違うよ。ニャオはネコなんだ。ネコの友達なんだよ」  「へぇ・・・ ま、いいや。じゃぁ、オレとじゃんけんしろ」  「じゃんけん?」  「勝つ自信がないんなら、別にいいんだぜ」  「いいよ。やるよ。絶対勝つからな」  「じゃんけん、ぽん。あいこでしょ。あいこでしょ・・・・」  なかなか勝負がつきません。あまりの勝負がつかないのでじゃんけんネコの方が先 に音を上げました。  「お前なかなかやるな。ようし、特別に通してやろう」  「え?ホント?やったぁ!」  たっちゃんは飛び上がって喜びました。  「ふふふ。それじゃぁ。むにゃむにゃむにゃの・・・・ そら!」  たっちゃんはちょっとめがまわりました。そして、気がつくと。 「あ、あれあれあれ・・・・ ぼ、僕がネコになってる!!!」  「ああ、そうさ。ここはネコしか入れない『ネコの森』。だからおまえはネコにな ったのさ」  「じゃぁ、どうしたら僕は人間に戻れるんだい?」  「『ネコの森』から出ればいいのさ。じゃぁな」  と、言うが早いかネコはあっという間に消えてしまいました。  たっちゃんはあわててネコがいたあたりに向かって叫びました。  「ちょっと待ってよぉ。僕は、これからどうしたらいいんだい?」  そうするとネコが首だけ出して答えました。  「キャット大王様に会いに行けばいいのさ」  そう、ひとこと言い残すとネコは本当に消えてしまいました。  「お、おおい。待ってよぉ。待ってったらぁ」    ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・  大広間の上の方に裁判官のようなキャット大王がニャオを見おろしている。  「これからニャオを飼っていた人間の裁判を始める。ニャオよ前へ」  ニャオはびくびくしながら一歩前に出ました。  キャット大王は目を細めうれしそうにニャオに声をかけました。  「ニャオよ。よく来た。この『ネコの森』に来れば何も心配することはない。いや な人間どものことを忘れて心ゆくまでのんびりとするがよい。のんびりするのはネコ の特権だからな。だが、その前におまえを捨てた人間に罰を与えなければならない。 飼い主がおまえにしたことを一つ残らず話すのだ」  「大王様・・・・・・」  ニャオは言いよどみました。  「うむ」  「大王様。・・・・お願いです。僕をたっちゃんのところに返してください!」  「たっちゃん? たっちゃんとは何じゃ」  「僕を飼ってくれた人間、の名前です。お願いです、たっちゃんのところへ・・」  「なんだと! 飼い主の、人間のところに返せだと!?そんなことを言ったものは わしがこのネコの森を治めるようになって初めてじゃ」  大王の目が赤く光り始めました。怒っているようです。  「たっちゃんは優しい人間です。どうして僕がここに来ることになったのかわかり ませんが、きっとたっちゃんは僕を捜しています」  「おまえを捜しているだと?ふんっ!そんなことがあるものか。 人間はわがままで自分勝手な生き物だ。最初はかわいがっていても、面倒になるとネ コの気持ちも考えないでさっさと捨ててしまう。捨てられたネコはどうしてよいかわ からず、さんざん飼い主の名を呼び続けて、鳴き続けて、疲れて、そして、あきらめ てここに来るのだ。ここには人間を信じているものなど一匹もおらん」  「でも、でも、たっちゃんは違います。そんな人間じゃぁありません」  「では、おまえはなぜここにいる。ここに来るのはみんな、捨てられたネコだ。そ れなのにどうしておまえはここにいるんだ?」  「・・・・・・・・」  「なぁ、ニャオ。おまえが捨てられたことを信じられないのも判らないでもない。 だが、事実おまえはここにいる。そのことをよく考えるように」  「でも・・・・・。いいえ、大王様。違います。たっちゃんだけは違います」  「ニャオ。よく考えて見ろ。お前がお腹が空いたとき人間はすぐにエサをくれたか?  お前が遊んでほしいときに遊んでくれたか?お前が遊びに行きたいときに外に出し てくれたか?」  「・・・・・ でも、それは・・・・・!」  「ええいうるさい!!これだけ言ってもわからんのか!!ならばこの者を牢屋に閉 じこめてしまえ!!」  「ま、待って下さい。大王様、大王様」  とうとう、ニャオは衛兵ネコに牢屋へと入れられてしまいました。  牢屋の窓から外を見ながら、ニャオはたっちゃんのことを思い出していました。  「たっちゃん・・・・・。本当に僕を捨ててしまったの?そんなことないよね。僕 は信じてるからね。きっと僕を助けに来てくれるよね・・・・」    ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・  ネコ松が顔をしかめてなにやら考え込んでいる。  「どうも気にいらねぇ」  「何がそんなに気にいんないんだい?」  ネコ梅とじゃれあっていたネコ竹がネコ松に声をかけました。  「どうもさっきからいやなにおいがする」  「いやなにおいだってぇ!おめぇそんなに腹へってんのかい?」  相変わらず、ネコ梅は食べ物のことばかりです。  「ばぁか。お前じゃないってぇの、なんだって食いもんの話にしちまうんだからさ っきアジの開き食ったろ?」  「あんなんじゃたりないよぉ」  「何言ってやがんだ。一番うまい頭をいきなりボリボリかじりや がって、食い物の恨みは恐ろしいんだぞ・・・・。  ふんぎゃぁぁぁぁっ!!!!」  「ふにゃぁぁぁ。やめて、ネコ竹、やめてくれよぉ。今度は頭あげるからさぁ」  「お前、それ、何回目だ? いつもじゃなかったっけ?」  「うっ・・・・・」  「ええい、うるせぇ。いいかげんにしねえか。おれは腹が減ってるんでも、頭が減 ってるんでもねぇ。お前らもこうやってにおいをかいでみろ。この森の入り口の方か ら妙なにおいがするのがわからねえのか?」  「くんくんくん・・・・ そういえば・・・・」  「くんくんくん・・・・ このにおいは・・・・  今日の晩飯は鯖の味噌煮だぁ!」  ネコ梅、ネコ竹にタコ殴りにされる。  そんな中、ネコ松だけが真剣に何かを思い出そうとしていた。  「このにおいは、ずいぶん前にかいだことがある・・・・。この森に来る前・・・ そう・・・、これは・・・人間のにおいだ!!」  「人間の・・・・! そういえば・・・ でも、この森には人間は入ってこれない んじゃないのかい?」  ネコ竹がネコ梅をぽこぽこたたきながら言った。  「それはそうなんだが・・・・・・」 ネコ梅「あれれぇぇぇ。ネコだ・・・・・?」   くんくんくん 何か変だぞ 何かにおうぞ くんくんくん   くんくんくん 人間のにおいだ              きらいなにおいだ くんくんくん   どこから見てもネコなのに   どこからともなく人間のにおい   ちょっと待て 通すわけにゃ行かないね   もしかしたら スパイだろ!』  「ち、違うよぉ!」   じろじろじろ 何か変だぞ 何か違うぞ じろじろじろ   じろじろじろ 人間のようだ             きらいなやつらだ じろじろじろ   どこから見てもネコなのに   どこかなにかが人間みたい   ちょっと待て 通すわけにゃ行かないね   もしかしたら 忍者だろ!』  「違うってばぁ」  「じゃぁ、いったい何だってんだ。こんなに人間のにおいをぷんぷんさせやがって」  「だってぼくはに人間なんだもん」  「あーはっはっはっは、人間だってぇ!!」  三匹は馬鹿にしたように笑いました  「そりゃぁ、やけに人間くせぇし、どっかネコ離れしたとこはあるけどよぉ。いく ら何でも人間ってのはねぇだろぉ? 久しぶりに笑わせてもらったよ」  「本当だってば、さっきまで人間だったんだってば」  「きゃははは。人間にシッポだってさぁ」  ネコ梅はおかしくてたまらないようで、ころげ回って笑っています。  「だって、じゃんけんネコにネコにしてもらったんだもん」  「じゃんけんネコ・・・・?」  「聞いたことあるか?」  ネコ松がネコ竹に聞きました。  「うんにゃ、ないね」  「お前は?」  「ぶんぶんぶん」  ネコ梅は顔中を横に振って返事をしました。  「そうか・・・ 俺は聞いたことがあるぞ」  「ええっ!?」  二匹は驚いてネコ松の顔を見ました。  「ネコの森の入り口にいて、人間が入って来ないように見張ってるって聞いたこと がある。ネコが森か出ないようにも。もし出るときにはじゃんけんをして勝てば人間 の姿に変えてくれるって」  「そうだよ。ぼくは人間からネコにしてもらったんだ」  「へぇ・・・・」  それを聞いたネコ竹とネコ梅は珍しいものを見る目つきで、たっちゃんのヒゲや、 耳、シッポをひっぱりました。  「痛い、痛いよぉ」  「へぇ・・・・ どこから見てもネコだこりゃ。」  「で、お前はいったいここに何をしに来たんだ? 俺達をここに追いやっただけじ ゃ気がすまないとでも言うのかい?」  「違うよ。僕はニャオを探しに来たんだ」  「ニャオ?」  「うん、ママに勝手に捨てられちゃったんだ」  「捨てられちゃった?」  「捨てられたぁ? 俺達はモノじゃねぇ。生きてるんだ。邪魔だからって、いらね ぇからって、そんなにポイポイ捨てられてたまるか!」  ネコ竹の鼻息が荒くなってきました。  「だから僕、探しに来たんだ。連れて帰りたいんだ」  「連れて帰ってどうするつもりだ」  ネコ松は一歩前に出て威嚇するようにたっちゃんをにらみます。  「どうするって・・・・・」  「いいか、たとえお前がニャオってネコを捨てたんじゃなくても、そいつは捨てら れたことには変わりはねぇんだ。それに、お前のおふくろさんがそいつを捨てたんだ ろ?お前が連れて帰っても、またおふくろさんに捨てられちまうんじゃねぇのか?」  「それは・・・・」  「なぁ、だとしたらそのニャオってやつはずっとここにいた方がいいんじゃねぇの か。ここなら人間を気にすることもなく自由に暮らせるんだ」  「・・・・・・ でも、僕はニャオを連れて帰りたいんだ!」  「そうか。だが、そいつはどうかな? 帰りたがってるのかな?  来な、いいところに連れていってやる」    ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・  いろいろなネコが狭い店の中にひしめき合っています。  隅の方に年老いたネコが一匹だけ離れて、酒を飲んでいるのがすこし気になりまし た。  たっちゃんたちが入って行くと急に歌とおどりが始まり、ネコ竹、ネコ梅はたっち ゃんとネコ松を残しておどりの輪に入って行きました。ネコ松も輪に入りはしないけ れど、楽しそうに口ずさんでいました。  たっちゃんも一緒に歌を歌いたかったのですが、残念ながら知らない歌だったので、 一緒に節をとる取るだけにしました。  歌が終わるとネコ達はみんなで乾杯をした後、思い思いの席で酒を飲み始めました。  気がつくと、傷だらけのネコがネコ松とたっちゃんのの方を恐そうな顔をして見て います。たっちゃんは少し恐かったのですが、平気そうな顔をしてネコ松にたずねま した。  「ここはどこなの?」  「ここはネコ達のたまり場さ・・・・。俺達の仲間には捨てられただけじゃない者 もいる。殴られたり蹴られたりして、命からがら逃げ出して、やっとここに来たもの もいるのさ」  すると、さっきからにらんでいたネコが立ち上がってこちらに向かってきました。  「よぉ、ネコ松じゃねぇか。久しぶりだなぁ。まぁ、一杯やれよ」 どうやら恐い のは顔だけで、ネコ松と知り合いのようです。  「ああ」  恐い顔をしたネコがネコ松にグラスを渡し、なみなみと酒を注ぎました。そして、 今気がついたかのようにたっちゃんを見て言いました。  「おや、これは新人さんかい?よろしくな。これはあいさつ代わり。まぁ、一杯や ってくれよ」  「いや、僕は・・・・・」  たっちゃんは断りましたが、  「まぁまぁ、そんなことを言わずに・・・・・」  「ほんとに僕は・・・・」  「まぁまぁまぁまぁ・・・・」  断りきるような相手ではありませんでした。  「ういぃ。飲んじゃったぁ・・・・」  ネコ松はそれを見て楽しそうに笑いました。そして、注いでもらった酒を一気に飲 み干しました。  「ネコ助、どうだい、ここの暮らしは?」  「いやぁ、最高だね。ここには俺達を追いかける人間もいねぇし。ここに来なかっ たら死んじまうところだったぜ。腕の傷もやっと直ってきたしな」  そう言って見せた腕には肩から肘までざっくりと傷がありました。  「すごい傷・・・ それどうしたの?」  「いやぁ自慢じゃねえんだがよぉ」  「って言いながら、自慢話なんだよねぇ」  と、どこから現れたのか、ネコ梅がちゃちゃを入れます。  「うるさい。おめぇは黙ってろ」  「だって、ネコ助ったら新しい仲間(ネコ)が来るたんびにその話ばっかり」  「ふん。 ・・・・あれは冬の寒い雪の降る日だった・・・・」  「あれ?この前は冷たい雨の降る秋の夕暮れ・・・っていってなかったっけ?」  いつのまにかネコ梅はほとんど空になった酒瓶を抱えています。 もしかしたら、一匹で全部飲んでしまったのかもしれません。  「うるせえ!どっちでもいいんだ。とにかく決して良い条件じゃなかった。俺は、 むちゃくちゃ腹が減っていた。そこにたまたま魚屋があった。そして、目の前には私 を食べて下さいと言わんばかりの、うまそうな鯛!さっそく俺は飛びついた。もちろ ん、まわりには人間がいないのを確認してな・・・。ところが、その鯛が思ったより でかくてなぁ。重くてもたもたしてる間に人間にみつかっちまってな。『この、泥棒 ネコ!』バシッ!って、ホウキでぶん殴られちまった。もちろん、俺は殴られても鯛 は放さなかったねぇ。死にものぐるいで逃げ出した。その鯛の大きさって言ったら、 俺の体位もあったねぇ。そのときの傷よぉ」  「またまたぁ。この前はこの位って言ってなかったっけ?  話すたびに大きくなるんだもん」  「でも、お店にある物を取るのはいけないと思うんだ」  じっと、聞いていたたっちゃんがぼそっと言いました。  「お前、人間の味方するのか?」  ネコ助もだいぶん酒が入っているようです。目がすわっています。  「え・・ だって・・・」  「お前さんはよっぽど良い家に飼われてたおぼっちゃんネコのようだな。俺だって 、好きで盗(と)ってるわけじゃねぇ。きちんと、エサをくれる人間がいりゃぁ、命 までかけて盗(と)ろうなんて思やぁしねぇさ。それに俺は、生まれたときから野良 猫さぁ。おぼっちゃんにわかってもらおうなんざぁ思っちゃいねぇや・・・・」  「実はな、こいつぁ人間なんだ」  唐突に、ネコ松が言いました。  「えぁ?」  一瞬静まり返った酒場が急に騒がしくなりました。  「じょ、冗談がうまくなったじゃねぇか。ぅ。な、なぁみんな」  ネコ助は顔をひきつらせながら、他のネコ達にいいました。他のネコ達も一様にた っちゃんの顔を見ては、うなづきました。  「悪いが冗談じゃねぇんだ。じゃんけんネコにネコに変えてもらったんだとさ」  ネコ松が言うと、ネコ助はネコ松とたっちゃんの顔を見比べた後、たっちゃんの顔 をのぞきこんで聞きました。  「本当かい」  「う・・・、うん・・・」  たっちゃんが小さくうなづくと、ネコ助はたっちゃんのグラスを狂ったように取り 上げました。  「だとしたら、何しにきやがったんだ」  あまりの剣幕に驚いているたっちゃんの代わりにネコ松が答えました。  「ニャオとかいう奴を捜しに来たんだそうだ」  「人間が?わざわざ?冗談じゃねぇ。そんな奇特な人間がいるわけねぇじゃねぇか」  「そんなことはないよ。だってニャオは僕の友達だもん」  最初は黙って聞いていたネコ達でしたが、『友達』という言葉が聞こえると、ざわ めきが波紋のように広がって行きました。  「はじめてニャオを家に連れて帰ったときから僕たちは友達になったんだ。だから、 ここまで探しに来たんだ」  「ネコが友達だって?信じらんねぇなぁ。」  ネコ助はたっちゃんをにらみつけます。  「俺はまた人間のおもちゃだって言うのかと思ったぜ。それに、ここに来たネコで 人間のところに帰りたいなんて言うやつがいるとは思えねぇな。なぁ、みんな」  ネコ助はみんなを振り返りましたが、他のみんなにはたっちゃんを強く拒否するよ うな元気はありませんでした。  「どうしたんだ。みんな・・・・」  ネコ助は、近くにいるネコを揺さぶりましたが、顔を背けて下を向くだけでした。  「人間かぁ・・・・・ ひろしくん、元気かなぁ・・・・・。ずいぶん会ってない なぁ。もし今、会いに行ったら、かわいがってくれるかなぁ」  ネコ梅が寂しそうに言いました。  「きっと喜んでかわいがってくれるよ」  元気づけるようにたっちゃんは言いました。  「どうしちまったんだ、みんな」  そして、どこからか聞こえてきた声がみんなの声を代弁していました。  「ネコ助・・・ お前は生まれたときから野良猫だったからわからないかもしれな いが、一度でも人間に飼われたことのある者は、そのときのことを懐かしく思い出す こともあるんだ。一番良い時をなぁ」 と、そのときです。その静寂を破るようにネコ竹が酒場に転がり込んで来ました。  「大変だ。新しく来たネコが牢屋に入れられたぞ」  「何だって?一体どうしてなんだ。今までこんなことは一度もなかったぞ」  ネコ松はあわてているネコ竹を捕まえて聞きました。  「なにか、来る早々、人間のところに帰りたいと言ったとかで・・・・」  「なんだって!? それは、本当なのか!?」  「本当も何も、今、お城の門番から聞いてきたばっかりのピッカピカの正真正銘本 当の話さ」  そのやりとりを聞いていたたっちゃんは気になって聞きました。  「ねぇねぇ、そのネコの名前は何って言うの?」  「えっと、なんて言ったっけな・・・・。聞いてはきたんだが・・・・。えっと・ ・・・ニャン!・・・じゃないし、えぇ・・・ミギャァ!でもない・・・・・」  「はい、落ちついて。一杯どうぞ」  ネコ梅がコップを差し出します。  「サンキュッ、うえっぷ!酒じゃねぇか。大体お前は・・・・」  「ねぇ、早く思い出してよ」  脱線しそうになるネコ竹を催促します。  「ええっと・・・・ニ、ニ・・・・」  「ニャオ!」  「そう、ニャオ! うえっぷ。水・・・・」  気分が急に悪くなったのか、ネコ竹は水を求めて酒場の奥の方へと走っていきまし た。  「どうしてニャオが牢屋なんかに!? 僕、大王様に会わなきゃ。ねぇ、お城はど こにあるの?」  「あ、ああ。あっちだ」  「僕行って来る」  そう言うと、たっちゃんは酒場から走り出して行きました。  「俺達も行ってみようぜ。あんなに真剣にネコのことを思ってくれる人間は初めて だ。なんだか応援したくなったぜ。ネコ助、お前はどうする?」  ネコ松はネコ助を促します。  「ああ、俺もいくさ。人間にも良いやつはいるみたいだからな」  「よぉし、じゃぁ、みんなで行くぞ」  「おお」  ところが、一匹だけ取り残されたネコがいました。ネコ竹です。  「み、水・・・・・。あれ?みんな・・? お、俺も行くよぉ」  みんなが去った後の酒場には老ネコが一人、隅で酒を飲んでいました。が、何を思 ったのか、すっくと立ち上がりました。  「ネコが友達か・・・・。わしも子供の頃、新太郎という猫を飼 っていた。じゃが、仕方のない事情で捨てなくてはならなくなった。わしは悲しかっ た。後悔した。新太郎そっくりのネコを見るたびに 声をかけてみた。その中に、新太郎はいなかった。そして、ある日、原っぱでじゃん けんネコにあって『ネコの森』に入った。それ以来、毎日のようにここに来るように なったが新太郎はみつからんかった。今ではわしもここの住人のようになってはいる が・・・。わしも人間じゃ、ネコを友達のように大事に思っているのはあの子だけで ないと言うことを大王様にわかってもらわなければ・・・・」  そして、手の中の古くなった鈴をじっと見つめ、意を決したように皆の後を追いま した。    ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・   わしは大王 キャット大王   人間の来ない平和な国を作るのが   わしの夢 わしの希望   人間に味方する者は   たとえネコでも許さない   わしは大王 キャット大王   ネコしかいない自由の国を作るのが   わしの使命 わしの運命   自由の邪魔をする者は   たとえネコでも容赦しない   わしは大王 キャット大王   わしの思い通りの国を作るのが   わしの野望 わしの希望   わしに反対をする者は   たとえ神でも倒してみせる   わしは大王 キャット大王   わしは大王 キャット大魔王  「お願いです。大王様。ニャオを助けて下さい。牢屋から出して下さい」  たっちゃんが大王の大広間を扉を開けて叫んだ。  「無礼者。無断でにわしの部屋に入ってきおって、何を勝手なことを言っておるか !」  「ごめんなさい。無断で入ったことは謝ります。でも、お願いします。ニャオを牢 から出して下さい」  「ダメじゃ」  「どうしてですか? ニャオが何をしたんですか」  「ニャオは人間の味方になってしまった。それは、このネコの森では危険なことじ ゃ」  「なぜ人間の味方になるのが悪いんですか?どうして仲良くはできないんですか?」  「ええい、うるさい、うるさい。お前などこうしてくれる!!」  大王が片手を振ると、雷光とともに強風が吹き荒れ、たっちゃんを吹き飛ばしてし まいました。  そこへネコ松たちが現れたっちゃんを助け起こしました。  「たっちゃん。大丈夫か?」  大王の目つきが変わりました。  「たっちゃんじゃと? お前がたっちゃんか」  「そうだよ。だから、ニャオを牢からだしてください」  「お前が、今回の件の原因だからな。なおさら出すわけにはいかん。お前も牢に入 れてやる。一番離れた牢だ。だが・・・。ふむ」  大王は何かを思いついたらしくにやっと笑いました。  「ニャオを連れてこい」  と、衛兵にニャオを連れてこさせました。  「たっちゃん!!」  「ニャオ!!」  たっちゃんがニャオに近づこうとすると、目の前に鉄格子が降りてきて、引き離さ れてしまいました。  「ニャオ!!」  「たっちゃん!!」  見かねたネコ松が大王に言いました。  「大王様、俺からも頼む。お願いだ。ニャオを返してやってくれ」  他のネコ達も口々にお願いをしました。  「みんな・・・・」  しかし、大王はかたくなでした。  「だめだ、だめだ。お前たちみんなでさからいおって。わしの言うことが聞けぬと 言うのならこうしてくれる」  大王が右手左手を振り回すたびに、雷鳴がとどろき暴風にネコ達は右へ左へと吹き 飛ばされてしまいました。  そこへ老ネコが遅れてやってきました。  そして、キャット大王の顔をまじまじと見ると、大きな声で言いました。  「新太郎!」  「何?」  「お前は新太郎だろ?」  「なぜ、わしの名前を知っておる」  「ずっと、ずっと、捜していたんだ・・・・ よかった・・・無事で・・」  老ネコは涙ぐんでさえいます。  「カツヒロ・・・・くん・・・。いや、そんなはずはない。カツヒロくんはわしを 捨てたんじゃ。それにこれは年老いたネコじゃないか」  「変えてもらったんじゃ、じゃんけんネコに。ここに来るために」  「何をしに来たんだ。お前の顔なんか見たくもない」  「わしはずっとお前を捨てたときから後悔しておった。そして、捜していたんじゃ。 お前を捨てたことを謝るために。もう一度一緒に暮らすために」  「嘘だ嘘だ嘘だ」  「嘘じゃない!」  りんとした声が大広間に響きました。  天井から顔だけのじゃんけんネコゆっくりと降りてきました。  「この森に人間が来ることが出来るのは、飼っているネコのことを友達以上に思う からここにこれるんだ。だからじゃんけんにも勝てるのさ。カツヒロくんは毎日のよ うにじゃんけんに勝ってたんだよ。変だと思わなかったのかい?」  じゃんけんネコはカツヒロ君に聞きました  「考えても見んかった」  「それは、新太郎を思う気持ちさ。だから勝てたんだよ。いつも持ってるんだろう? お守りをさ」  「なぜそれを知ってるんじゃ」  老ネコは驚きました。お守りのことは誰にも話したことはなかったからです。  そして、手の中から古ぼけてカラカラとしか鳴らない鈴を取り出しました。  「それは、わしの首輪の鈴・・・・  てっきり捨てられたときに無くしたとばかり思っていた・・・・」  大王は玉座から降りてカツヒロくんに近寄りました。  「いつもこれを見てお前に謝ってたんじゃよ」  老ネコは、いとおしそうに鈴を見ました。  「カツヒロくん・・・・」  ニャオのとたっちゃんを引き離していた鉄格子がゆっくりと消えて行きました。  ニャオ「たっちゃん!!」  「ニャオ!!」  「たっちゃん、ニャオ。すまなかった。そしてありがとう。目が覚めたような気が するよ」  大王がたっちゃんとニャオに謝りました。  「ううん。僕は何もしてないよ。カツヒロくんが大王様・・・ううん、新太郎を思 う気持ちが一番だったんだよ」  「ありがとう、たっちゃん」  「よかった。よかった。さぁ、ニャオ、帰ろう」  そのときたっちゃんが急に倒れてしまいました。  一番近くにいたキャット大王がたっちゃんを抱きとめましたが、その後、たっちゃ んはぴくりとも動きません。  「大丈夫かい? しっかりしろ」  それを見ながらじゃんけんネコは、ニヤニヤ笑いを宙に残しながら愉快そうに言い ました。  「大丈夫、大丈夫。初めてで長い間ネコになってたから、疲れたのさ。しばらくし たら目が覚めるよ」    ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・ ・・・・・  原っぱです。  すずしげな風が原っぱを渡って行きます。  「う、うん」  たっちゃんの目が覚めそうです。ニャオはあわてて段ボールの箱の中に飛び込みま した。  「う、うーん・・・。ここは・・・・? あれ? 原っぱだ。さっきまでお城の中 にいたはずなんだけど・・・・。あ、ニャオ!」  たっちゃんはあわてて周りを見回すと、段ボールを見つけ中をのぞいてみました。  「みゃぁ・・・」  ニャオが中から顔をひょっこり出しました。  「よかったぁ・・・・。ママにもきちんと話をして飼ってもらえるようにするから ね。」  「みゃぁ・・・・」  たっちゃんはニャオを抱き上げほおずりをしました。  「でも、あれは夢だったんだろうか」  そこへ、捨てネコの行き先を教えてくれたおじいさんが現れました。今度は風格の 良いネコを抱いてうれしそうにやってきました。  「おじいさん、ありがとう。これがニャオです」  「ほぉ。よかったな」  そう言ってたっちゃんとミャオの頭をなでてくれました。  「ところで、おじいさん。このへんでじゃんけんをするネコを見ませんでしたか?」  「じゃんけんをするネコ?」  おじいさんは眉をしかめて変な顔をしました。  「二本足で立ってて、そのネコとじゃんけんをして勝つとネコになってネコの森に 入れるんです」  「じゃんけんで勝つとネコに?ほぉ?面白いネコもいるもんだね」  「さっきまで僕、そこにいたんです」  「坊や、夢でも見たんじゃないのかい?」  「夢・・・・・? そんなぁ・・・」  紳士、たっちゃんの頭をなでて立ち去ろうとしました。  たっちゃんは何となく気になっておじいさんのネコを見ました。  「キャット大王! 新太郎!?」  すると、それに答えるように猫がなきました。  しまったというような、照れくさいような顔をしておじいさんが振り返りました。  「はっはっはっは。ばれてしまったか。ネコの森のことは内緒だよ。あそこはネコ の楽園だからね」  おじいさんは指を口に当てて「しぃ」という格好をしました。  「はい。でも、ときどき僕も行っていいですか?」  「ん?」  「あそこには僕やニャオの友達がたくさんいるんです」  「ああ、いいとも!」  おじいさんはうれしそうに顔をほころばせて言いました。  そして、振り返ると、  「みんな、聞いたかい?」  「ほんとに?」  ネコ梅が、草むらからひょっこり顔を出しました。  「うん」  たっちゃんもうれしそうに言いました。  「ほんとに、ほんとかい?」  ネコ竹です。  「うん」  「僕も・・・?」  おそるおそるネコ助も聞きました。  「ああ!」  たっちゃんは自信たっぷりに返事をしました。  「だから言ったろ、こいつは他の人間とどこか違うってな」  お本と、咳払いをしながらネコ松が言いました。  「そうさ、みんな友達さぁ」  原っぱ一杯になったネコを見ながらたっちゃんは言いました。  それを聞いたネコ達はうれしそうに原っぱ中を飛びまわりました。   さあ行こうよ  ネコの森へ   みんなを呼んで 始めよう   僕も君も    大人も子供も   友達集めて   毎日パーティ   さあ行こうよ  夢のパラダイス   僕たちみんなで 作るんだ   ネコもヒトも  イヌもトリも   みんなで仲良く 楽しく暮らそう      引っ込んでなんかいられない   僕が主役 君も主役   そうさ みんなが主役さ   元気!元気!元気!で行こう   僕たちみんなのパラダイス!                            end.