20XX年。本は消滅した。文字データはカードで、供給される。5×8センチの
薄い金属片に大英百科辞典がが数セット入る容量がある。このカードを端末に差し込
んで、ディスプレイ(20世紀のような大型ではない。A4サイズのノートくらいの
大きさで、曲げることは出来るが、折れることはない)で、読むことが出来る。
ほとんどの人は、これ1枚で学校の授業からプライベートの読書まで利用できる。新
しいものが読みたくなったら、やはり端末に差し込み、ライブラリからダウンロード
すれば読むことができる。また、専門の端末からダウンすれば最新のデータを読むこ
ともできる。ただし、この場合自分のクレジットからデータ料を支払わなければなら
ない。
ところが、最近データを読む方法として、直接大脳にデータを送信するシステム「
DBS」が開発された。これがあれば、わざわざディスプレイを使わなくていい。昔
のヘッドフォンのようなものをかぶればいいだけだ。これを推進してきたのが、最近
進出してきた「The Third」と言う文字データの販売会社だ。
DBSの販売によって「The Third」は急成長し、文字データの販売量も
飛躍的に増大した。
だが、副作用も出始めた。学者によると、大脳皮質を直接に操作するために何らか
の悪影響が出ているらしい、と言うのだ。しかし、その発表をなされた時には、すで
に耳をかすものはいなくなっていた。みなが、同じように「DBS」をかたときも離
さず、「The Third」のソフトを流し続けている。そして、時々つぶやいて
いる。
「ハイル ヒットラー」と。