アスカら変身

ばっかじゃないの！？

　アスカは弐号機で残骸整理をしていた。
　「馬鹿シンジは何考えてるの！ちょっと考えればどうなるか分かるじゃない！」
　残骸は初号機による巨大チェロ演奏による結果である。
　シンジはチェロ（？）から音が出ないため全力で演奏したのだが、実際には想像を絶する高デシベルの低周波が地震のようにジオフロントを襲っていた。
　天井構造物が剥落し始めようやくシンジは事態に気がついたのだが、人々をなごませるつもりがとんでもない恐慌を引き起こすことになってしまった。
　今ごろは、うっかり「面白そうじゃないの」と乗ってしまったミサト共々油を絞られているはずである。
　「終わったら絶対何かおごらせてやる！」
　アスカはＮＥＲＦとは別にシンジの処罰を検討しているようだ。

　アスカはそもそも三馬鹿トリオの低能ぶりが理解できない。
　低能な男共は自分の下僕であるべきだというのがアスカの持論であるが、三馬鹿トリオが服従する気配はない。
　日常生活で絶対服従に近いのはシンジだけであるが、そのシンジの目に時々憐れみが浮かぶのは気に入らない。
　そんな気配を感じるとアスカはいつも過剰に反応し、よりいっそうシンジをいたぶることにしている。
　そんなときは迷惑そうにしているが、反面、元気になったアスカにうれしそうである。
　「サドだわ、シンジはサドに違いない！」
　最後の残骸を運びながらアスカは断言した。

　ミサトは９時前になってようやく帰ってきた。
　「アスカ、ごめん。シンちゃん今日帰れそうにないから、冷蔵庫のもの適当にチンして食べて。」
　言い残して、ミサトは自室に入っていった。
　アスカは予期していた通りの事なのでとっくに食事をすませている。
　夜９時も回って食事なんか取っていたら、美容に悪いと考えてのことだ。
　ただし、今晩のメニューはとんでもなく偏っている。
　サンドイッチを食パン１斤分である。
　エッグサンド、ハムサンド、野菜サンドをレシピを変えながら作っては食べていったのだ。
　・ エッグサンドは完熟ゆで卵で作り、ゆで卵をつぶしすぎないこと。つなぎのマヨネーズの分量を間違えないこと。
　・ ハムサンドはパンにカラシバターを作って塗るときれいに見える。ハムの耳の切り忘れ厳禁。
　・ 野菜サンドはオーロラソースがベターでパブリカとコショウを忘れないこと。
　・ 全部作ってから重ねてサンドイッチの耳をきる。ケチらずにばっさり切る。焼いた包丁で切るときれい。
　・ パセリを一切れ色合いに乗せる。
　・ 一口サンドはつまようじで止めることをを忘れずに。
　・ お皿は大きめの物を選び、色は白かパステルのこと。
　・ 調理後の後片づけは完璧に。
　等々と書き連ねたメモを記憶したことを確認すると、細かく千切ってゴミ箱に捨てた。
　「よし！馬鹿シンジめ、見てなさいよ！」と気合を入れると、自室に入った。

　翌日は学校である。
　シンジが本部から直接学校に行くことを確認してアスカも登校した。
　今日の授業は「技術家庭」である。
　アスカは過去数年の料理実習が「サンドイッチ」だとリサーチ済みだったのだ。
　「ミサトとは違うところを見せつけてやる。」との堅い決意である。
　教室には半徹夜明けで机に突っ伏すシンジがいた。
　「勝負よ！」とは口に出さないが、日頃の料理実習とは余裕が違う。
　実習室に集まると割烹着を用意し、みな着席して実習の先生を迎えた。
　「えー、今日の実習は・・・」
　サンドイッチよ！と小さくアスカがつぶやく。
　「ピラフです。」
　「なんですって！」思わず立ち上がってしまった。

　「では試食を始めてください。」
　先生の声を背中にアスカはがっくり肩を落としていた。
　「これ、ピラフじゃない・・・。」
　鍋にこびり付くのでむりやり引っ剥がした結果、山盛りのおこげが出来上がっていた。
　シンジが自分のピラフを持ってアスカの横に来た。
　「この味付けでいいかな？」と同居人のアスカの意見を聞いた。
　恐る恐る一口食べると・・・口には出さないがおいしい。
　返事をする代わりにシンジの口にお手製のおこげを突っ込んで実習室を飛び出した。
　「お塩が足りない」と、見当違いな反応をしてシンジは立ち尽くしている。

　

　夕方、シンジが家に帰るとアスカもミサトさんもすでに帰宅していた。
　「シンちゃん、やっぱり料理上手いんじゃない。やっぱ、料理当番はシンちゃんじゃなくちゃねぇ、アスカ」
　「そうそう、私、ホント感心しちゃった。お任せしちゃうわ。」
　・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
　アスカは転んでもただでは起きないと、シンジは再確認した。

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