割れた皿の破片を片づけながらシンジは思った
 
 『凄く嫌な予感・・・・・・・』
 
 ふっ、と心の中をよぎるモノがあった。
 
 
 アスカは部屋の中にいたので皿の割れる音は聞こえなかった。
 
 キッチンの方へ行くとシンジが割れた皿の破片を片づけていた。
 
 その様子を見ながら牛乳パックの最後の一パックを冷蔵庫から取り出し、コップを使って飲む。
 だが、いつもやらないことをするべきではなかった。
 
 コップは手から滑り落ちてシンジの頭上へ・・・・・・
 
 シンジは牛乳まみれの臭さと頭痛に耐えながら、更に増えた仕事をこなした。
 
 
 
 君と僕があるために
 第8話 使者は突然やってくる
 
 
 
 トウジはネルフ本部の自販機の前で苦悩していた。
 『妹のカナエがコアとして使われていた』という彼の直感が真実なら、病室に居るのは一体なんなのか?
 本当にカナエなのだろうか?
 そしたら、何故カナエじゃなければいけなかったのか?
 
 
 彼が馴れない苦悩の海に陥っていると、加持がコーヒーを買いに自販機へやってきた。
 ゆえに、加持を直撃
 
 「加持さん、聞きたいことがありますねん・・・・・」
 
 「なんだい、トウジ君、俺で答えられるならいいが・・・・」
 
 「エヴァに魂ってあるんですか?」
 
 しばしの沈黙の後、加持は答えた
 
 「・・・ある。何が知りたいんだ?」
 
 
 
 加持はトウジに知ってることを全て教えた。
 
 リツコのしたことは到底許されることではない。
 まだ幼い、罪もない少女を強引に殺したのだから
 ご丁寧に最初から診断を偽装し、カルテを何種類か用意してまで備えていた。
 
 そして、コアに使った。
 
 そのいわくつきのコアをもう一度使うことをマヤが提案したことが加持には信じられなかった。今使えるモノは何でも使う、と考えればそれまでだが彼女が一番嫌がった『汚れ役』を自ら買って出たのと同じである。
 
 
 トウジは病室へ向かった。
 カナエが死んだなら、あのベットに横たわるモノは何なのか?
 それが知りたかった。
 
 病室にはいると、カナエらしきモノは生命維持装置のようなモノに繋がっていた。
 前と変わらない、いかにも『まだ思わしくない状態』といった感じだ。
 
 近くで見ても普通の人間の顔としか思えない。
 
 その顔にトウジは触れた
 
 人の暖かさはなかった
 
 あるのは硬い感触だった。
 
 腕も同様
 
 それどころか腕が硬まっていて動かない
 
 脈を探しても脈が無い
 
 
 トウジは理解した
 
 これはカナエの遺体だということを
 生命維持装置らしきモノはこの遺体を腐らせないためだということを
 
 
 トウジは壊れた
 
 
 なぜ大人は汚いのか
 
 どうして意味もなく人を殺せるのか
 
 なぜカナエでなくてはならなかったのか
 
 
 純真故に、真実に耐えられずにトウジの思考は狂った。
 
 物を壊すわけでもなく、暴れるわけでもなく、叫ぶわけでもなく
 
 心が壊れた
 
 目に光はなかった
 
 
 看護婦に発見されるまで、彼は床の上で目を開いたまま倒れていた。
 
 
 
 発令所
 
 特にすることが無く、暇な時間を弄ぶ職員で溢れていた。
 今後、ネルフは大リストラを敢行する事が既に決まっていた。
 ただ、再就職先は全て用意されていたので特に心配はなかった。
 優秀な人材が揃った故、官庁などが多かった。
 
 
 そののほほんムードだった発令所に突然警報が鳴り響いた
 
 「なんなのっ?」
 ミサトが叫ぶ
 
 一気に雰囲気が締まった。
 
 「太平洋上空にパターン青・・・・・エヴァですっ!」
 日向の叫び
 
 「モニター出ますっ!」
 青葉が叫ぶ
 
 発令所にいた職員が喰い入るようにモニターを見つめる
 
 
 モニターに映った物は
 
 右手にダミーの槍を持った白い悪魔だった。
 
 
 全職員に緊張が走る
 
 まだ見つかっていなかったエヴァシリーズがわざわざ第三新東京市まで飛んできたのだ。
 3機はこちらの、ネルフの手にある。なら、残りは6機
 そのうちの一機だろうと判断
 
 「MAGIはっ?」
 
 「三者一致でエヴァ量産機と断定、本土上陸前にエヴァによる排除を推奨しております。」
 
 兵装ビルは一部しか使えない
 だから、素早く行動せねばならない
 
 「一般住民の避難を最優先、急いで通達してっ。」
 ミサトの叫び
 
 「第一種戦闘準備だ、急げっ」
 冬月が遅れてあらわれた。
 
 東海地方に突如出された避難命令は混乱を呼びかねなかった。
 
 だが、無事に作業は完了
 
 
 シンジとアスカは割れたガラスを二人で片づけていた
 
 時刻は既に午後1時だった
 牛乳だけふき取ってしまい、さっさと食事を取る。
 簡単な野菜炒めとハンバーグにパンがメニューだったが、ハンバーグはすでに冷めていた。材料は全てクローンの物
 
 アスカがマシンガンのように喋り、シンジが聞き手。
 この様子は変わっていない、前と同じだった。
 
 だが、その時間にもすぐに終わりが訪れた。
 
 リビングで話をしていると『ピンポ〜ン』と抜けたチャイムの音が聞こえた。
 
 「は〜い」
 シンジは玄関に向かう
 
 
 玄関の前にいたのは笑顔を浮かべた緋室だった。
 
 「やぁ、迎えに来たよ♪」
 シンジの嫌な予感が的中した瞬間だった。
 
 アスカがヒョコッと顔を出した。
 すると緋室はアスカの方を向いて言った。
 「勿論、アスカちゃんもね♪今日は車だから・・・・」
 
 
 
 エヴァ輸送機・機体のサイズはとても大きく利用方法が限定されていたため、輸送機のそのうちの数機はただの物資輸送機となってしまったが、大量の物資の搭載が可能なために重宝されていた。
 
 その輸送機のうちの一機が、シンガポールで積み荷を卸し、帰る途中でその“白い悪魔”と鉢合わせをしてしまう。
 勿論、逃げ切れなかった。標的とされて散々追い回されたあげく撃墜される。
 
 「パイロットはまだなのっ?」
 ミサトの叫びも虚しく響くだけ
 
 「もうすぐ来るさ。」
 加持だけがこの状況を楽観視していた。
 
 「トウジ君はっ?」
 冬月がもう一人のチルドレンの名を呼ぶ。
 
 『だめです、意識が・・・・・いぇ、回復しました。』
 看護婦の戸惑い
 
 途端に、少年の怒号がスピーカーから響いた
 「ワシにやらせろっちゅーんじゃぁ」
 
 完全にキレていた
 やり場が見つからない怒りが彼を起こした。
 
 『敵』
 
 ただそれだけが、彼の怒りをぶつける場所になった。
 
 「いいわ、やらせましょう」
 
 ミサトの判断
 シンジとアスカが来るまでの時間稼ぎにもなるだろう
 そう考えていた
 
 
 
 シンジとアスカは緋室の車を見た瞬間から嫌な予感がしていた。
 
 マクラーレンF1GTR 96
 
 世界で最も美しいロードゴーイングカーと云われたマシンだった。
 何故、一介の医師がそんなモノを持っているかは謎だった。
 
 外観からして『戦闘的に速そう』なその車はとっても速かった
 
 「3人乗りだからこれにしたんだよぉ♪」
 またしても緋室の楽しそうな声が車内に響く・・・はずがなかった。
 エンジンの音でかき消されるだけだった。
 
 勿論、二人のチルドレンの叫びも・・・・・・
 
 メーターは時速300qを超えていた
 
 
 
 トウジはエヴァに乗り込んだ。量産期・改でしかないが、性能は五分五分だ。
 もともと、廉価版とはいえそんなに値段に変わりはなかった。
 
 トウジの目はギラギラに輝いていた
 まるで、なにか考えることを無くしてしまったかのように
 
 
 「遭遇予定地域は伊豆半島上空っ!」
 オペレーターの声が響く中、ネルフ職員達は不安を隠しきれなかった。
 
 相手はたった一機しかいなくても、こちらも一機。しかも初陣。
 
 こうしてトウジの初陣は始まる
 
 

 第9話へ続く   



後書き
やっと終わった第8話・・・・遅れました。

創さんへ

「創さんのほめぱげ」二周年おめでとうございます。
何か書こうかな?

そろそろこの物語にもスパイスを混ぜようかな?


創さんのオコトバ

緒方さんから第8話が送られてきました。ついにキレたトウジが出撃します。あう〜(泣)

ところで、初め『君と僕があるために』というのはなんの疑いも無くシンジとアスカの事だと思っていたんですが、ここまでお話が進んでくるといろんなことが考えられますね。っと、これ以上はネタにかぶるといけないので黙っていよう・・・。

さあ、ますます目が離せなくなってきた!!

緒方さんへのメールはこちら

緒方さんのHP「KEEP on RIDING」

RIDE on AIRから名前が変りました。

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