少女が目覚めた場所は病室
 
 起きたとき
 聞き覚えのない声が聞こえた
 目を開けたら
 目の前に一人の男がいた
 
 「シンジ・・・・・・・」
 
 ハッキリしない、ぼやけた視覚で顔を見て
 少女はそう呟いた。
 
 その男は主治医の緋室
 シンジをそのまま大人にしたような顔の持ち主
 
 緋室は走った
 クランケが回復に向かっていることを知らせるために
 
 
 
 君と僕があるために
 第6話 HAPPY BIRTHDAY DEAR ASUKA (後編)
 
 
 
 『アスカが目覚めた』
 
 
 そのニュースを知った職員らは発令所で心から喜んだ。
 
 自分たちが無力だったために子供が戦い、傷ついていった。
 それでも身も心もズタボロにしてまで戦ってくれた。
 
 その子供の回復は何よりも喜ばしいモノだった。
 
 そのニュースを聞いた瞬間、発令所にいたミサトは駆け出し
 
 街中にいた加持は本部からの呼び出しを受けてアルファロメオをかっ飛ばし病院へ向かった。
 生憎、加持のアルファはエンジンがオーバーヒートを起こし、到着が遅れたが・・・
 
 
 しかし、少女はまた眠ってしまった。
 
 ミサトも加持もアスカの寝顔を眺めるだけだった
 
 
 その頃、緋室はシンジの迎えに出ていた。
 
 
 
 トウジはヒカリの所に電話していた。
 「せやからな、惣流のヤツが目を覚ましおったんや。
 
 そう、まだ完全や無いけどな。
 
 そろそろ戻ってきたらどうや?
 
 ワシもイインチョに見せたいモンがあるねん。
 
 ほな、元気でな・・・。」
 
 足が元通りになったこと
 まだリハビリ中とは言うものの足はついている
 そのことを、一番心配し、世話になったヒカリに直接言いたい。
 それがトウジの率直な願いだった。
 
 『直接、足が元に戻ったことを伝えたい』
 
 そのために。
 
 
 
 シンジは復興した街並みに驚くばかりだった。
 
 あれだけの大爆発の後にも関わらずもう都市として機能している。
 ビルもだいぶ並んでいた。
 わずかな間で復興を遂げていった街
 
 自分の父が中心になって創った街
 
 そう思うと不思議だった。
 
 シンジにとってこの街はなんなのか
 
 それを思うとなにか不思議だった
 
 
 
 緋室のバイクの後ろに乗ってエヴァに乗るより怖い思いをした甲斐があり
 加持の車よりもかなり早い時間で到着した。
 
 
 
 シンジは廊下をひたすら走った。
 やや大きな買い物袋を抱えて走った。
 廊下の曲がり角を右に曲がって、アスカの病室のある通りにくると
 病室の前の椅子には加持とミサトが座っていたのが見えた。
 
 
 「ミサトさん、どうしたんですか?」
 
 「シンジ君・・・。アスカ、今眠ってるの。また寝ちゃったみたい。」
 
 「そういえば加持さんも・・・・」
 
 「いや、スマン。呼び出されて帰ってきたら、丁度アスカが起きたって聞いたもんだからこっちへきちまった。」
 
 「そうですか・・・・・」
 
 
 シンジは二人の足下を見た。
 違った模様の袋が二枚、それもかなり大きめの袋だった。
 
 「二人とも、何か買ってきたんですか?」
 
 「いや、誕生日だから何か無いと後でアスカが怒ると思ってさ、服を買ってきたんだけど、選ぶのは葛城に任せた。」
 
 「私も同じ、冬になっちゃったから冬用の服をちょっちね。あとケーキも♪」
 
 「準備がいいんですね」
 
 「そりゃぁ、ネルフ随一の演会部長だからな・・・」
 
 「なによソレ・・・・」
 
 
 苦笑しながらシンジはアスカの部屋に入っていった。
 シンジが部屋に入ろうとしてもミサトは茶化すようなことはしなかった。
 
 
 アスカはまだ寝ていた。
 本当は起きているのだが
 シンジはアスカのベットの傍らにある椅子に腰掛けた。
 
 
 『アスカが起きた』
 その事実は喜ばしい事実だとは思う
 だが、まだ自分自身は確認していない
 また、目覚めた少女が少年を拒絶するかもしれない
 そのことに対する恐怖は消えてはいなかった
 
 嬉しさと悲しさが入り交じった気分で少年は
 ベットに横たわる少女を見ていた。
 
 
 
 少女は布団の中で悩んでいた
 
 −もう心を開くことはない−
 そう思い続けていた。
 だが、目が覚めて、目の前には私の名を呼んでた医師がいた
 しかもシンジそっくりの
 で、シンジの名前を呼んでいた・・・・・
 シンジに対してアタシは何かを望んだのかな?
 
 『未練でもあるのかな・・・アタシ?』
 もう目覚めている。
 特に混乱するわけでもなく、むしろ冷静なぐらいだ。
 
 エヴァに乗ることを全てとして、
 常にトップに君臨し続ける事を自分の定めとした
 
 が、シンジに負けた
 負けたと思いこんだ
 
 そして自分を追い込んだ
 
 自分より劣ってる奴に負けたと思い込んだ
 
 そしてどんどん自分を追い込んでいった。
 
 結果が精神崩壊
 
 
 『ママと同じなのか・・・・アタシも・・・・』
 
 
 恐ろしく冷静にアスカは自分自身をを判断できた。
 
 
 「アスカ・・・・誕生日おめでとう。」
 
 不意にシンジの声がした。
 一番逢いたくて
 一番逢いたくなかった少年
 
 私を助けてくれて
 私の首を絞めて
 暴れたのを抑えた少年
 
 少年の腕の中は不思議と落ち着く気がした
 そのことは覚えている
 
 だが、首を絞めた時のことも覚えてる
 
 悲しそうな瞳だった
 すぐにでも涙が零れてきそうな気がした
 だからアスカは頬を撫でた
 
 アスカの母性本能が目覚めた瞬間かもしれない
 
 
 そう思うと、悩んでいる自分がバカらしく思えてきた。
 
 『もう、全て終わったのだから悩む必要なんて何処にも無い』
 
 起きようとした。
 シンジと直接話せば何か分かるだろうと
 
 アスカは既に自分自身で壁を開いていた
 
 少女は少年に言った
 
 「アンタ、アタシの誕生日覚えててくれたんだ・・・・・」
 
 
 モニター室には3人の大人がいた。
 一人は主治医の緋室
 後の二人は・・・・・近いうちに加持夫妻となる二人
 
 3人ともにやついていた・・・・・
 展開が楽しみだと・・・・・
 
 
 
 シンジは慌てた
 寝てると思ってた少女が起きていたのには不意打ちを食らった
 
 
 二人の間で一瞬だけ時が止まる
 
 
 先に動いたのはシンジだった。
 
 少年の白く細い腕で
 少女を強く抱きしめた
 もう離さない、と言わんばかりに。そして
 「・・・・良かった・・・・・・」
 そう呟いた。
 少年の本心
 アスカが目覚めた事の現実を確認し、喜んだ
 そして少年は涙を流す
 
 
 少女は戸惑う
 何故、少年は泣いているのか
 どうしてアタシが起きたことが良かったのか
 アタシにそんな価値があるのか
 
 でも、少年は涙を流している
 アタシが起きた事を喜んでいる
 
 だから呟いた
 
 「シンジ、アンタどうして泣いてるの?」
 
 
 
 モニター室には既に誰もいなかった
 
 
 
 「アスカが起きたから・・・アスカが起きたことが嬉しいからに決まってるじゃないか・・・・・」
 
 “嬉しいから”
 
 アスカが起きたことが嬉しい
 
 シンジはそう言った

 今までにないぐらいハッキリと
 
 
 
 『そうなの・・・・』
 
 アスカは言われたことを整理してみた
 
 “アスカが起きたから嬉しい”
 
 そう思われるのは悪い事じゃない、むしろ良い事だろう
 
 涙を流してまで・・・・
 
 
 その時のシンジの表情は
 アスカが今までに見たことのないような美しさとか格好良さと等とは
 関係無しにとても綺麗な表情だった。
 
 
 少女は、あの不器用な少年が感情をハッキリ言えるとは思っていなかった
 
 少年は涙を流して少女の回復を喜んだ
 
 
 黙っていたアスカが口を開いた
 「そろそろ手を離してくれない。痛いから・・・・。」
 
 「ゴメン・・・・」
 手を離すと、俯きながら速攻で謝るシンジ
 
 だが、アスカの次の言葉はとても優しかった
 
 「ありがと・・・・・起きて良かったわ・・・・・・」
 
 シンジは顔を上げた
 目の前のアスカの表情は
 
 “天使”
 そう思わせるような、とても綺麗な笑顔だった。
 
 「シンジが泣いてまで喜んでくれるなら、もっと早く起きれば良かったわね。」
 
 その言葉を聞いた少年はもう一度涙をこぼした。
 
 
 その数秒後に
 扉の方で小さな物音がした
 
 二人は揃って扉の方を向いた
 
 直後
 
 大量の医師・看護婦・ネルフ職員がアスカの部屋に雪崩れ込んだ
 
 そして一斉に言った
 
 「「「「「「「「アスカ、誕生日おめでとうっ!」」」」」」」」
 
 
 キョトンとしていたアスカは、起きたことを理解して言った
 
 「ありがとう・・・・」
 
 とても綺麗な笑顔と共に
    

あとがき

エピローグを付ければ、なんかそのまま終われそうですね(爆
嘘です。まだ続きます。(創さんありがとうございます。
『美しい』って表現より『綺麗』って表現を多く使いました。
その方がしっくりくるもんで(笑
一応(マジで)まだ続きます。
次は・・・・どうしてくれようか


緒方さんから第6弾をいただきました。ついにアスカさん、復活〜〜〜!!(どんどんぱふぱふ〜)

さて、緒方さんはこれからテストに突入するそうです。本業もがんばってください。

PS

男は腰が基本です。

緒方さんへのメールはこちら

緒方さんのHP「RIDE on AIR」

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