講座めざす未来社会第6回報告

科学的社会主義の基礎理論を学ぶ講座「めざす未来社会」

2011/07/20THU 19:00-21:00

参加費 500円/1回

講師 宮中翔(現・県労学協常任理事・28歳)

次回 8月17日(水)開催予定

以下、レジメを転載します

※音声は、おわり4分間も載せています。

搾取とは何か?〜資本主義における自由・平等〜

1.生産諸関係の変遷

風景

@前回の復習

・これまでの階級社会の歴史は、大きく奴隷制、封建制、資本主義に分かれる

・社会は大きく、土台と上部構造に分かれ究極的には土台によって上部構造は規定される

・社会革命の契機は、土台における生産関係が生産力の発展にとって桎梏になった時から始まる

・史的唯物論は、諸階級間の対立・矛盾を通じて階級闘争が起こり、矛盾を止揚することにより社会は進歩、発展するという見地に立つ

A資本主義以前の生産関係

・奴隷制社会・奴隷所有者は奴隷を人格ごと支配し、牛や馬と同然に、奴隷所有者のために働かせた

・奴隷制のもとでは、奴隷は「自由な人格」を持つ主体とはなりえなかった

・封建制社会・封建領主は農奴を土地に縛りつけ封建領主のために働かせた

・封建制社会においても、農奴には“自由”や“平等”は存在しなかった

B資本主義以前の搾取形態

・奴隷制社会・奴隷所有者は奴隷が生産したすべての生産物を自己の所有物とする。そのため搾取は一見して明白

・封建制社会・農奴の生産した生産物の半分前後を封建領主が取り上げる。そのためこの段階においても搾取は明白

・奴隷制、封建制ともに搾取は、生産物の流通過程を通じて行われていた

C資本主義的生産関係と搾取形態

・資本主義的生産関係(雇用関係)の特徴は、資本家と労働者の双方が対等・平等の「自由な意志」により雇用契約を締結する事により成立

・「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」(労基法第二条一項)・労使対等決定の原則

・資本主義的搾取は一見すると、対等・平等で、そのうえ「自由な意志」にもとづいた労働契約における生産過程の中で生じることから、目に見える形で存在しない

・つまり、階級社会に分裂して以降、一貫して搾取は継続しているにも関わらず、資本主義的搾取は学習しない限り見えてこないのであり、ここに同じ階級社会でありながら資本主義特有の搾取形態が隠されている

2.資本主義社会の特徴

受講生

@自由・平等をもとめた市民革命

・封建制の桎梏から逃れた自由民は、「自由にして平等な身分」と「自由にして平等な取引」を求め始める

・この要求に応えて、17・18世紀のイギリス・フランスの啓蒙思想家(ジョン・ロックやルソー)たちは、封建制社会の身分的束縛(身分的不自由)、不平等、不合理を批判して、自由

・平等な個人の結合した社会を求める事になる

・こうして、17世紀のイギリス革命(ピューリタン革命と名誉革命)、18世紀のフランス革命が勃発して、これらの革命は“自由”で“平等”な市民社会を求めた「市民革命」として以後、捉えられることとなる

・「いまようやく夜が明け、理性の国が出現した。これ以後は、迷信、不正、特権、圧制は、永遠の真理、永遠の正義、自然にもとづく平等、人手に渡すことのできない人権によって、とって代わられるべきだ、とされた」(「空想から科学へ」全集Rp.187)

・市民革命によって資本主義は発展し、産業革命をつうじて、商業資本にとって代わる産業資本を中心とする本格的な資本主義が展開されることになる

・「いまではわれわれは知っている。この理性の国とはブルジョアジーの国の理想化にほかならなかったのだということを。永遠の正義はブルジョア的司法として実現されたということを。平等はけっきょく法のもとでのブルジョア的平等になってしまったということを。最も本質的な人権のひとつと宣言されたものーそれはブルジョア的所有権であったということを」(同)

A「労働力」という商品の発見

・資本主義社会の特徴は、すべてのものが商品となる商品生産と商品交換の社会

・資本主義的生産は、資本と労働力が結合して生産することで剰余価値(富)を生み出す

・そのためには、資本は市場で「労働力」という商品を手に入れなければならない

・「資本は、生産諸手段および生活諸手段の所有者が、みずからの労働力の売り手としての自由な労働者を市場で見いだす場合にのみ成立する」(「資本論」Ap.291)

・「自由な労働者」とは「自由な人格として自分の労働力を自分の商品として自由に処分」(同p.289)という意味でも、「売るべき他の商品をもっておらず、自分の労働力の実現のために必要ないっさいの物から解き放されて」(同)いるという二重の意味での「自由な労働者」

B市場原理

・商品交換は市場をつうじて行われる

・商品所有者は市場において対等・平等の関係にあり、誰もが商品を価値どおりにしか交換する事ができない(等価交換の原則)

・したがって市場を支配する原理は、誰もが商品所有者として自由・平等であるという自由・平等の原理

・この原理は労働者が持つ唯一の商品である「労働力」の売買に対しても貫かれる

・資本家は「労働力」という商品を価値どおりに等価交換によって手に入れ、それを自己の所有する生産手段と結合することによって、剰余価値を手に入れ搾取を実現する

・「なぜ等価交換を通じて搾取を実現できるのか」−この謎を解明したのがマルクスの「資本論」

・「これら二つの偉大な発見、すなわち唯物史観と、剰余価値による資本主義的生産の秘密の暴露とは、マルクスのおかげでわれわれにあたえられたものである。これらの発見によって社会主義は科学になった」(「空想から科学へ」全集Rp.206)

3.「資本論」の功績

@「商品」に内在する対立物の統一

・あらゆる商品は「使用価値」(質)と「価値」(量)の統一として存在する

・「使用価値としては、諸商品は、なによりもまず、相異なる質であるが、交換価値としては、相異なる量でしかありえず、したがって、一原子の使用価値も含まない」 (「資本論」@p.64)

・「ではどのようにして価値の大きさははかられるのか?それに含まれている“価値を形成する実体”、すなわち労働の分量によってである」(同p.66)

・つまり商品の価値は「社会的に必要な労働の分量」(同p.67)によって決まる

・使用価値が区別された商品を等価交換できる根底には、同一の社会的平均労働時間が含まれているからこそ可能(区別と同一の統一)

A「労働力」という商品の特質

・生産力が発展してくるにつれ、「労働力は、…ある価値を持つようになる」      (「反デューリング論」全集Sp.211)

・「労働力は、商品としての労働力それ自体がもつ価値と、労働力が使用され労働することによって生みだす価値という二つの価値に関わりをもち、後者が前者より大きいところに、剰余価値生産の秘密があるのです」(「資本論の弁証法」p.62)

・労働力は、それを使用することによって、自らのもつ価値以上の価値を生産できるという「独特な使用価値」(「資本論」Ap.331)を持った商品

・「わが貨幣所有者(資本家―宮中)は、…市場において、一商品―それの使用価値そのものが価値の源泉であるという独自な性質をもっている一商品を、したがってそれの現実的消費そのものが労働の対象化であり、それゆえ価値創造である一商品を、発見する幸運にめぐまれなければならないであろう」(同p.286)

「労働力はまる一日作用し労働することができるにもかかわらず、労働力の日々の維持(つまり生活費―宮中)は半労働日しか要しないという事情、それゆえ、労働力の一日のあいだの使用が創造する価値がそれ自身の日価値の二倍の大きさであるという事情は、買い手にとっての特殊な幸運であるが、決して売り手にたいする不当行為ではないのである」 (同p.331)

・つまり、商品の等価交換の法則は、労働力という特別な商品の「独特な使用価値」によって、「資本主義的取得法則への転換」(「資本論」Cp.993)をとげる

・「手品はついに成功した。貨幣は資本に転化した。問題のすべての条件が解決されており、商品交換の法則は少しもそこなわれていない」(「資本論」Ap.332)

・労働力という商品の商品交換は等価交換にはじまり不等価交換に終る

・「商品生産および商品流通にもとづく取得の法則または私的所有の法則は、明らかに、それ独自の内的で不可避的な弁証法によって、その直接の対立物に転換する。最初の操作として現れた等価物どおしの交換は、一転して、外観的にのみ交換が行われるようになる」(「資本論」Cp.1000)

B資本主義社会の本質と現象

・「資本は、剰余労働を求めるその無制限な盲目的衝動、その人狼的渇望のなかで、労働日の精神的な最大限度のみではなく、その純粋に肉体的な最大限度をも突破していく。資本は、身体の成長、発達、および健康維持のための時間を強奪する」 (「資本論」Ap.455)

・「人格化された資本にすぎない」(同p.395)資本家は、「生きた労働を吸収することによってのみ吸血鬼のように活気づき、しかもそれをより多く吸収すればするほどますます活気づく」(同)

・つまり資本主義の本質は、「利潤第一主義」にあり、資本は利潤を得るためには労働者の安全や生命には何ら配慮せず、飽くなき利潤獲得へひた走る

・「“大洪水よ、わが亡きあとに来たれ!”これがすべての資本家およびすべての資本家国民のスローガンである。それゆえ、資本は、社会によって強制されるのでなければ、労働者の健康と寿命にたいし、なんら顧慮も払わない」(同p.464)

・資本主義社会はこのように「利潤第一主義」という冷厳な本質をもちつつ、一方で自由

・平等の「市民社会」が現象する社会・本質と現象の対立

・資本主義的搾取の自由を保障する条件

@労働力が商品化される

A生産手段の私的所有が保障される

B自由な商品交換が保障される

・資本主義社会では自由・平等・私的所有を保障する法律さえあれば資本主義的搾取の自由は保障される

・「労働力の売買がその枠内で行われる流通または商品交換の部面は、実際、天賦人権の真の楽園であった。ここで支配しているのは、自由、平等、所有およびベンサムだけである」(「資本論」Bp.300)

・「近代国家による人権の承認は、古代国家による奴隷制の承認となんらちがった意味は持たない」(「聖家族」全集Ap.118)

C搾取における人間疎外

・現代日本においても、「日常はうまくコーティングされ、塗装され、やさしげなことばで包まれているけれども」(「しのびよる破局」p.64)、資本主義的搾取は強化される一方であり、「実態はかつてのタコ部屋よりもひどい」(同)状態が蔓延している

・「能う限りの最善の世界においては、万事が最善に仕組まれている」(「資本論」Ap.333)

・マルクスは1844年の「経・哲手稿」の中で、搾取における人間疎外を鋭く告発      (次講で詳述)

・「人間が彼の労働の産物、・から疎外されていることの一つの直接の帰結は、人間の人間からの疎外である」(全集40p.438)

・現代日本では「非正規雇用」が常態化し、搾取における人間疎外は極限まで進行し、すべての人間的価値は貨幣的価値に置き換えられている

・科学的社会主義は、「人間が人間にとって最高の存在であるという教説」(全集@p.422)であり、人間的価値を取り戻す学説

・したがって、「科学的社会主義は、この解決とともに始まり、この解決を中心として成立している」(「反デューリング論」全集Sp.211)