Willow Pattern in Old Noritake


2001年10月14日新規掲載

オールドノリタケにおけるウィローパターン
「デコ・ウィロー」
の提唱
Proposing a New Term;
DECO WILLOW


An Old Noritake red tray with
with a modified "willow" pattern
Hand painted
M in the wreath, Green



  • ウィローパターンの歴史
    18世紀、ヨーロッパ諸国は中国景徳鎮磁器を大量に輸入していた。ヨーロッパ中を中国趣味が被っていたのである(シノワズリーChinoiserie)。どうしても磁器の製作方法を会得することができない彼等は、中国からもたらされる磁器に畏敬の念を禁じ得なかった。それらを宝物のように扱った。
    当時のディナーセットの代表的な図柄は、大きな松に楼閣、卍型の組子のある垣根、楊柳を右景に描き、左に遠景と江水を思わせる余白を配した山水図であった。ヨーロッパの人々の食卓にこのようなディナーセットが並べられ異国情緒を満喫させたにちがいない。

    ヨーロッパへ輸出された景徳鎮の皿、左1750年頃、右1840年頃
    Chinese plates exported to Europe, Circa 1750 (left) and 1840 (right), Hand painted


    一説によると、この図柄は男女の悲恋がもとになったとも言われている。(実際には主人公の二人はあまりウィロー・アイテムの中には登場しないことが多い。)中国の地方官吏の息子と、地元有力者の娘との物語である。空に二羽の鳥が描かれることが多いが、これは両親らの反対にあって一緒になれなかった二人が、辛い終末の末に鳥に化身して飛び立った姿を表しているらしい。(参考資料1)(参考資料2)。


    1860年頃の英国製ウィロー・アイテム
    A typical willow tray (England, Circa 1860)
    Printed


    ともかく、この図柄の人気は衰えることなく続き、18世紀後半には完全にパターン化してしまった(上の写真参照)。絵画的な情感性が減って面白みは消えていくが、食器の図柄として完成されていった。と同時に、陶器に転写技術と言う革新的発明が起こった!。
    当時ヨーロッパでは中国からの輸出用磁器は「ナンキンウェアー」と総称されていたが、イギリスにおいて転写技術が発達し銅版画の精細な図柄を大量に廉価に生産できるようになると、この山水画パターンはあっという間にヨーロッパ全土に広まっていった。そして、現代の私達も使用している言葉「ウィローパターン」と呼ばれるようになった。(逆に、絵付けという工程は「アート」化してしまった)
    コバルトの絵柄を銅版画にアレンジし、軟質の陶器にブルーで焼き付け(転写し)、釉薬をかけた陶器製造技術は、1780年にイギリス人トーマス・ターナーThomas Turnerが開発したと考えられている(参考資料3)。これによって、精巧な図柄を鮮烈なコバルトブルーによって華飾した陶磁器を大量生産できるようになり(図柄は中国磁器の模写であったが)、現代の洋食器の基礎を築かれたことになる。19世紀になるとイギリスはこの技術とウィローパターンをもって転写陶器ディナーセットを世界中に輸出することになった。後にオランダもイギリスに追従した。ドイツでは磁器を作れるようになっていたが、まだたいした磁器商品を作れないイギリスは、それでもこうやって陶器輸出国として先んじた。



  • 我が国におけるウィローパターン
    イギリスやオランダで製造されたウィロー陶器(後に磁器)は、西はアメリカ大陸へ、東はインド、東南アジア、そして江戸後期の我が国へもやってきた(限られた対象であろうが、出島を通して流入したと思われる)。100年前にヨーロッパにシノワズリーをもたらした中国の楼閣山水図の意匠が完成度を高めて、近代文明の技術革新とともに東洋に帰ってきたのである。
    中国景徳鎮で作られていた18世紀の楼閣山水図は、江戸時代にも知られていたであろうが、我が国に広く根付くことはなかった。ようやく、明治に入って美濃や有田ではさかんに転写磁器を模索し、国内向けの食器にウィローパターンを採用・生産するようになった。おそらく、清新な藍・蒼の印象を放ち東洋趣味を昇華させた表現力を有する磁器食器を見て、人々は異質で高度な文化に感動したからではないだろうか。


    1860年頃の有田焼のウィロー・アイテム
    A Willow plate (Arita, 1860)
    Printed


    しかし残念ながら、上に示したように明治期の我が国のウィローパターンは、磁器大量生産技術も拙く、意匠も完全には消化し切っていないように思われる。日本元来の美意識と大急ぎの西洋化が入り交じって、面白いといえば面白いのだが(これはオールドノリタケの作品にもあてはまることである)。


    1946年頃のオキュパイドジャパン製
    A Willow plate (Occupied Japan 1946)
    Printed


    その後、大正、そして昭和になっても、我が国では、印判手のお皿やカップ&ソーサーが盛んに作られた。ひとつの例として、上にOccupied Japanの輸出用アイテムを紹介する。図柄は、洗練されたまさしく正真正銘のウィローパターンに見事進化している。このように戦後復興期にも外貨獲得のために、ウィローは今度は大平洋を越えアメリカに渡ったのである。



  • オールドノリタケにおけるウィロー・アイテムの存在と疑問
    そんな歴史を鑑みると、わがオールドノリタケにおけるウィローパターンは異質であり、数々の疑問が浮かんでくるので、列挙しながら新しい言葉デコ・ウィローDECO WILLOWを提唱するに至った理由を述べたい。


    1925年頃, An Old Noritake Vase(Komaru backstamp) 28cm tall
    Hand Painted


    1)Nippon期にはウィローが盛んに作られた形跡がない。大量生産とディナーセットが中心となっていく日本陶器株式会社時代になっても、転写技術によるウィローアイテムは盛んに作られていないと思われる。ノリタケ製の転写ウィローをご存知の方があれば、教えて下さい。
    2)日本陶器株式会社設立以降に作られたウィローはやはり手描きであり、意匠は著しくdeformingされている。写真からも分かるように、オールドノリタケと言っても、かなり作風は新しい。裏印などからすると、大正後期から昭和10年くらいまでのものであろう。Art Decoの範疇に留まり多少の中国趣味を残しつつ、えたいの知れない不思議な雰囲気をまき散らしている。私がこれを新語デコ・ウィロー(DECO WILLOW PATTERN)と呼びたい理由は、今までのウィローの経緯をかなり逸脱しながらデコの雰囲気を取り込むのに成功しているからである。
    3)こんなにデフォルメする必要があったのだろうか?。九谷焼きの中にも写真で示したように、染め付けによるかなりデフォルメされたウィローパターンが見受けられる(明治初期と思われる)が、意匠や作風から察するに、オールドノリタケとは対象を異にしているようだ。大正以降にも九谷焼の手描きウィロー・アイテムが存続したようには思えない。陶磁器のデザインは顧客の趣味に強く反応すると言うものの、アメリカなどの輸入国にはデコ・ウィローを欲するようなシノワズリーが存在したのであろうか。


    1870年頃, 九谷焼
    Kutani Circa 1870
    Hand painted


    4)先述のように、ウィローパターンは、転写柄で大量生産の規格品として広まって行った歴史がある。森村は、日本陶器株式会社を設立し、ディナーウェアーを大量に輸出することに成功した時代において、なぜこのような手描きのウィローパターンをファンシーウェアーに残し続けたのであろうか?
    ここから先は、作者の勉強不足。改めて、20世紀前半の欧米におけるウィロー熱とシノワズリーを調べてみます。なにかご存知の方は是非連絡下さい。
    請う・御期待!



  • ウィロー・アイテムのピットフォール!
    それにしても、ウィローパターンは信じられないくらい長生きである。現代においても作られているし、熱狂的なコレクター(コレクターのHP1コレクターのHP2)も世界中にいる。イギリスには博物館もあるらしい。ひとつのデザインが200年以上にもわたって、洋の東西を問わず親しまれていることは驚くべきことである。
    西洋ではむしろ日常雑器として扱われるようになったため、100年以上昔のウィローをもしアンティークショウや骨董屋で見つけても、かなり痛んでいることが多い。しかし、我が国にもたらされた幕末から明治初期の輸入ウィローは、珍重な舶載品だったので(18世紀ヨーロッパにおける景徳鎮の品々と同じ)、今でも状態の良いものが各地に残っているはずであり、世界中のウィローコレクターの垂涎の的となるかもしれない!?。是非に手に入れたいアイテムのひとつである。


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