炭疽と感染症新法
平成13年10月11日に各都道府県衛生主管部(局)感染症対策担当者 宛に厚生労働省健康局結核感染症課から「国内における生物テロ事件発生を想定した対応について」の通達があり厚労省ホームページでも公開されています。
これ以外にも厚労省の生物テロへの対応はかなり素早い対応がとれ情報公開されています。
「CDCによる健康に関する勧告 炭疽菌等の汚染のおそれのある封筒等の取扱い方法」
ここでは全米での炭疽菌感染者が確認された事と、本邦での注意事項が記載してあります。19日現在アメリカでの感染者46人・うち発病は6人とのことです。封筒内の白い粉の接触感染以外に飛沫した炭疽菌からの感染も考えられています。またアメリカ以外でもケニアや南米でも炭疽菌感染が確認されています。日本では、テロによると思われる事例の報告はありませんが、悪質ないたずらと思われる事件が報道され、多くの国民が不安を感じています。
そこで「炭疽」とは国内の感染症としてはどんな位置づけなのか、万一の対応はとれるのか平成11年4月に制定された「感染症新法」で検討してみました。
保健所等における防疫業務の法的根拠であった「伝染病予防法」に代わり、平成11年4月1日から「感染症の予防及び感染症の患者の医療に関する法律(以下、感染症新法)」が施行されています。
これでは73に及ぶ多様な感染症を一類から四類に4つに類型化しています。
これ以外に特別分類として「新感染症
」がという分類がされています。
この「新感染症 」とは
「人から人に伝染すると認められる疾病であって、既知の感染症と症状等が明らかに異なり、その伝染力及び罹患した場合の重篤度から判断した危険性が極めて高い感染症
であり、厚生大臣が公衆衛生審議会の意見を聴いた上で、都道府県知事に対し対応について個別に技術的指導・助言を行う。」とされ
1類感染症に近い未知の感染症ということです。
感染症の分類
[1類感染症]
エボラ出血熱・クリミア・コンゴ出血熱・ペスト・マ−ルブルク病・ラッサ熱
[2類感染症]
急性灰白髄炎・コレラ・細菌性赤痢・ヂフテリア・腸チフス・パラチフス
[3類感染症]
腸管出血性大腸菌感染症
[4 類感染症]
1)全数把握4類感染症
保健所は、その感染症患者を診断した医師から、全数の届出を受け、それを地方衛生研究所、県知事、
国へと報告します。
ウイルス性肝炎、黄熱、Q熱、狂犬病、クリプトスポリジウム症、後天性免疫不全症候群、梅毒、
マラリア、発疹チフス、アメーバ赤痢、破傷風、回帰熱、ツツガムシ病、オウム病、
レジオネラ症、ライム病、デング熱、腎症候性出血熱、Bウイルス病、日本紅斑熱、
エキノコックス症、ジアルジア症、髄膜菌性髄膜炎、乳児ボツリヌス症、劇症溶血性レンサ
球菌感染症、クロイツフェルト・ヤコブ病、ハンタウイルス肺症候群、炭疽、ブルセラ症、(30)
先天性風疹症候群、日本脳炎、バンコマイシン耐性腸球菌感染症、コクシジオイデス症です。
2)定点把握4類感染症
管内の定点医療機関が該当する感染症を診断した時に、保健所を経由して県知事に報告します。
これにはMRSA、風疹、水痘、ヘルパンギーナ、手足口病などが含まれます
注目すべきは感染症新法での炭疽の扱いで、現在本邦では一番軽い4類感染症に分類され、保健所への届け出が義務づけられているだけで、疾患としては急性のウイルス肝炎等と同じ扱いです。また、ここに狂牛病で注目されているクロイツフェルト・ヤコブ病も入っています。いずれもこれまでは本邦ではほとんど発症例もなく危険な感染症とは考え難くかったため4類感染症とされていたと思われます。
このことは、上の通達でも「炭疽は感染症法において4類感染症(全数把握)となっておりますが、米国での状況等も踏まえ、感染者(疑われる感染者を含む)を診察した場合は、直ちに最寄りの保健所に届け出を行っていただくと同時に国立感染症研究所(電話:03-5285-1111(代表))にご相談、情報提供をお願いします。同様に、その他異常な感染症の発生を疑う場合につきましても、保健所及び国立感染症研究所にご相談、情報提供下さい。」とされ、報告と相談が記載されていますが、万一感染者や発病の疑い患者があった時の患者や家族・周辺の扱い・医師への指示・隔離やその施設などの指導は全く考えられていません。
感染症新法は生物テロを予測して作られていないと思いますが、この様な時には早急に感染症新法の見直しが必要ではないかと考えています。この法律のままでは万一の「炭疽」には対応できません。
また、この通達の最後に今後「生物テロに使用される可能性が高いと考えられている主な感染症の察知等について」という説明があり炭疽(肺炭疽)以外に天然痘、ペスト(肺ペスト)、 ボツリヌス毒素の4つの感染症が説明してありました。
天然痘はすでに予防接種は中止されており感染症の中にも含まれていません。ペストは1類感染症で第一種感染症指定医療機関(知事が指定、県に1カ所)へ、原則として入院させねばなりませんが、その受け入れは果たして出来るのでしょうか。県内での収容施設は法律施行後2年半まだ検討中だと思います。この様に通達は出ていますが、万一の感染症の発生やその対応になると全くと言って良いほどお粗末な対応だと思います。
感染は予防が第一で、郵便物の取り扱いも大切ですが、アメリカ以外の国でも感染者が出ている事を考えると発見時の対応策を医療機関には知らせておく義務があるのではないかと思います。
また今回の生物兵器テロに指定される様な感染症は、新たな「新感染症 」として対応して良いのではないかと思います。危機を煽ることは感心しませんが、その対応を準備しておくことは国の役目と思います。
平成13年10月20日 玖珂中央病院 吉岡春紀
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