新型インフルエンザ対策運用指針の改訂について

6月19日、厚労省は新型インフルエンザ対策運用指針の改訂を発表しました。詳細は厚労省の新型インフルエンザホームページに書かれていますのでご覧下さい。
今後、軽症者は自宅療養とし、原則的に全医療機関が新型患者を診察するなど、態勢は大きく切り替わることになります。
これは新型インフルエンザの秋以降の流行「第2波」に備えた対策の新たな運用指針と言うことになっていますが、具体的な内容を読んでみると、国や地方自治体の役割を放棄して、民間の医療機関に補償も補助もせずに対応を丸投げにしたという対策ではないかと思います。

今後の予定は、7月中旬を目処に各都道府県で
 原則として全ての医療機関において患者の診療を実施。
 発熱外来の閉鎖。
 発熱相談センターは業務縮小し、平日開庁時間内のみの「相談窓口」。
となるようです。

さて、今回の国の突然の方針変更は、個人的には「元々この新型インフルエンザが弱毒の可能性が報告され、世界的にも一部の国とハイリスク以外死亡例も少ないので、診療態勢の整っていない我が国では過剰な対応を止めるように希望はしていました。」ので、強毒化したときや鳥の新型インフルエンザに対応する資産を温存出来るという意味で歓迎したいと思います。

しかし今回の変更は、まさに「朝令暮改」各地域の現状を把握しておらず、突然の方針変換で、現場は戸惑っていますし、一般市民も昨日までは毎日宇宙服のような検疫を見せつけられ、発見症例の物々しいライブ中継など新型インフルエンザの脅威を吹き込まれていたのに、今日に「は何もしないで良い」という対応になれば混乱は目に見えています。少しずつ国民の安心出来るような広報活動をしながら切り替えてゆくべきです。

山口県でも国の指針のように、入院は取りやめて自宅療養に切り替えたようです。先日アメリカより帰国し、山口県内の知人宅で発見された症例も入院せず、知人宅で療養と報道されています。しかし、これまでのような感染者に保健所から毎日の電話や病状確認などは行わず、外出の自粛要請だけのお願いだけのようです。また先日東京都で見つかった大学生は、診断後自宅療養を希望し、そのまま新幹線でマスクのみで奈良の自宅に帰ったようです。その際の東京都と奈良県の対応の違いがマスコミでも報道されています。東京都は新しい対応・奈良県はこれまでの対応をとったのですが、お互いの情報交換や意思疎通が必要だったと思います。

この変更の報道の際、厚労省の新型インフルエンザ対策本部では、国は方針は変更したが、「原則すべての医療機関で診察するとしたのは、あくまで感染が拡大し、患者が発熱外来に集中する事態が生じた場合を想定した対応だ。したがって、感染者がそこまで多くない場合には発熱外来での診察を基本とする」と説明していました。
各地方自治体もその方針で、地域の実情を見ながら徐々に変更すべきだと思っていました。しかし厚労省では出来るだけ早い対応を希望しており、7月中旬までの変更を各都道府県に指示したようです。
 我々医師会の対応も、この改訂の発表前に一般診療所でも新型インフルエンザを診療することにしましたが、それは「まん延期」までは、新型インフルエンザの疑いが少ない場合、地域の発熱外来の負担を減らすために、相談センターからの紹介者に限り予約制で行うとしたもので、新型インフルエンザかどうかを解らない全ての発熱患者をどこでも診察出来る体制はまだ整っていませんし、直ぐに対応するには無理があります。

発熱外来の早急な閉鎖や発熱相談センターの縮小は、県職員の負担は減るでしょうが、まだ、一般の医療機関が、新型インフルエンザの診療を行う準備も出来ていないのに、発熱外来を縮小させたり、かかりつけ医での受診を勧めるのは、もうしばらく様子を見るべきですし、当然次の第2波や鳥インフルエンザなどにも対応出来る、対策を協議し立ててからだと思います。

今回の新型インフルエンザは、この準備が全国の地域で出来ていないときに新型が発生してしまったのです。
何度も言いますが、医療機関の準備が出来ていないのに、発熱相談センターや発熱外来の閉鎖をしてしまえば、新たな症例があれば感染を拡大してしまうことは明白ですし、個別では確認のPCR診断はしないので、発生数も解らなくなります。国内発生は落ち着いたとはいえ、まだ渡航者からの発生は続いていますし、国内でも発生はだらだらと続き、当分集結することは無いと思います。

また発熱者の診察は、原則全医療機関で、と言いながら医療機関では重度の感染症として、診察の際に患者分離(インフルエンザの患者さんと一般患者さんを一緒に診察しない)を求めているのです。

時間や空間を分けて、診察時間をわけたり、診察の部屋や待合室を分けたりする事は、小さな診療所では直ぐに対応できるものではありませんし、発熱者本人が感染症というちゃんとした認識で、受診前に電話予約するという基本を守らねば、分離は出来ません。

せめて発熱者にそんな受診の仕方を勧める広報活動やパンフレットを全家庭に配布するのでしょうか。医療機関だけに配布して玄関に貼っても仕方ないのではないでしょうか。予約して時間を分けて来られれば何とか少しは対応できる医療機関もあるでしょうが、直接予約なしに来院されたら、診察分離・感染防止は事実上無理だと思います。


そして、この新型インフルエンザが感染症2類指定されたまま季節性インフルエンザ対応ということが元々おかしい事なので、季節性と同じ対応にするのならば、感染症2類の指定を取りやめるべきです。指定を解除し、もし強毒化したならその際に再指定しても構わないのではないでしょうか。
諸悪の根源は「感染症2類の指定」だと言っても良いのではないでしょうか。

感染症2類は致死率の高い鳥インフルエンザ(病原体がインフルエンザA属インフルエンザAウイルスであってその血清亜型がH5N1であるものに限る)とされていました。しかし今回の豚インフルエンザが、何故か2類に指定されてしまったのです。世界的な新型発生という場面では仕方なかったかも知れませんが、H5N1のA型でなかったのですから、一端指定を解除してもなんら問題はないのではないでしょうか。因みに季節性のインフルエンザは感染症5類に指定され、発生の届けは定点の医療機関の報告だけです。

そして一番大切なことは、自治体は自分たちで行うべき事を民間の医療機関に全て丸投げし、まだ補償も補助も何も行おうとしていない事です。4月10日に創設された補正予算1兆円の「地域活性化・経済危機対策臨時交付金」を新型インフルエンザ対策への活用しても良いという通達はでたとのことですが、すでにこの交付金は各自治体で、別の予算に申請されており締め切りの期限もあって、新型インフルエンザへの確保は難しいと聞きます。


発熱外来をやめて民間の診療所で診るならば、せめて仙台市のような補償と予防を自治体が示すべきですし、このまま縮小するのではなく、今の体制では、強毒化したウイルスには対応できないことは解ったので、秋までにもっと現実的な協議を進めるべきですし、県内の各医療圏での統一した方針も示されるべきです。

そして、変更の際には、県知事などが何度かマスコミにでて、変更の経過を説明し、発熱受診の注意などを繰り返し述べるべきですし、医療機関へも、「全ての医療機関に何もしないで診療をお願いするのは申し訳ないので、診療医療機関のスタッフ分の予防タミフルやマスク、診断キットなどを無償で配布しますのでご協力下さい。また万一感染して診療所の休診などあれば、休業の補償も検討します」と言う位の誠意を示してしてくれないかな、なんて思っています。

特にタミフルの備蓄については、別の機会に述べたいと思いますが、全国の自治体で十分な備蓄は出来ていませんし、前倒しで予約した自治体も今年の分は確保できないと思います。そしてなにより不思議なのは、備蓄タミフルは、使わずに使用期限が切れたら破棄することになっています。

そして、備蓄用だけ使用期限を延長してみたりしておかしな対応をしていますがそろそろ1年をきったタミフルもあります。使用期限が切れたら捨てるのなら、仙台市の対応を見習って、この時期に発熱外来を行う事の出来る医療機関に、職員分の予防タミフルを無償で配布するならタミフルの配布理由もあるのではないかと思います。

       21年6月27日