血圧には心臓が収縮して血液が動脈に送り出されるときの最大血圧(収縮期血圧)
と、心臓が拡張して血液が心臓に満たされているときの最小血圧(拡張期血圧)とが
あります。一般には上の血圧、下の血圧などと呼ばれます。
高血圧というのは、この両方のいずれかが高くなることをいいますが、両方とも高
くなることが多いのです。
高齢者で最大血圧だけが高くなるのは、大動脈硬化によるもので、一般には必ずし
も血圧を下げる必要はありません。
また血圧は一日のうちで上り下りがあり、季節によっても変わり、精神的なストレ
スや興奮などでも一時的に上ることがあります。
自宅ではそれほど高くないのに、
病院や診療所で計ると高い人がいます。この様な人は「白衣高血圧」とも呼ばれて
います。精神的な緊張が血圧に過剰に反応することによります。
したがって、一回測った血圧が高くても、本当に高血圧症なのかどうかは、日を変え
て、時間を変えて血圧を何回か測ってみることが必要です。
高血圧のほとんどは原因がわからず、本態性高血圧症とよばれています。本態性高
血圧症は若い人にも時にみられますが、多くは男性は40歳前後から、女性は更年期前
後からあらわれます。また両親や兄弟など血縁の人に高血圧症の人が多い高血圧症に
なる可能性が高いといわれています。
高血圧のほとんどが本態性高血圧症ですが、一部には、特に若い人では、高血圧の
原因となる病気を持った「二次性高血圧」であることがあります。
副腎の腫瘍などによる内分泌性高血圧(原発性アルドステロン症、褐色細胞腫、
クツシング症候群など)、血管がせまくなって起きる血管性高血圧(大動脈炎、
大動脈縮窄症など)、腎臓が悪くなったり、腎動脈がせまくなって起きる腎性高血圧
(慢性腎炎、腎血管性高血圧症など)などがあります。
これら二次性高血圧は、
高血圧のために臓器が悪くならないうちに、原因となる病気を取り除けば高血圧は
治ってしまいます。一方若い人の重症高血圧は急速に進行して、悪性高血圧といわれ
る状態になることがありますが、最近では早期に治療すれば進行が抑えられるように
なっています。
高血圧そのものは自覚症状の少ないものです。頭の重い感じ、頭痛、めまい、肩こ
り、動悸や「のぼせ」などを感じる人もいますが、必ずしも血圧の高さと比例しませ
ん。高血圧が進行して、脳や心臓や腎臓などに変化が起こってくるまでは自覚症状は
少ないものです。
最近は健康診断で高血圧であることは早く発見されますが、自覚症状がないために
放置してしまい、高血圧による合併症を起こしてしまったあとで、高血圧管理の重要
性に気付くこともあるのです。特に両親や兄弟等に高血圧や脳卒中などがある人は、
日頃からの注意が必要です。
高血圧が長くつづくと、脳や心臓や腎臓などの大切な臓器に都合の悪い変化が起こ
ってきます。
脳の血管は高血圧による変化を受けやすく、血管がいたんで破れると脳出血になり
ます。高血圧がつづくと動脈硬化が進みやすく、血管がせまくなったりつまったりす
ると脳梗塞となります。これらがいわゆる「脳卒中」の大部分で、おおくの場合は半
身不随になってしまいます。
最近では動脈硬化のために微少な脳の血管が詰まり、多発性に脳梗塞を起こすこと
が注目されています。これは殆ど無症状で「無症候性脳梗塞」と呼ばれています。
高齢者の性格や運動能力の変化、痴呆症状、などでおかしいなと思われるくらいで、
CT検査でも確診が難しく、MRIと言う検査が必要になります。
心臓は高血圧がつづくと心臓に負担がかかり、まず心臓が肥大してきます。さらに
進と心臓のポンプとしての働きが悪くなり、心不全という状態になって、呼吸困難や
浮腫などの症状があらわれます。また高血圧がつづくと、心臓を栄養している「冠動
脈」の動脈硬化が進み、冠動脈がせまくなったり、つまったりして狭心症や心筋梗塞
が起こってきます。
腎臓は血圧と関係が深く、高血圧がつづくと細り血管がせまくなって腎硬化症とい
われる状態となり、腎臓の働きが落ちて逐には腎不全(尿毒症)になることもありま
す。若い人では急激に進行する悪性高血圧という重症の状態になることもあります。
また眼球では眼底の細い血管からの出血が起こり、視力が低下することがあります。
これが眼底出血です。
したがって血圧の高い人は血圧を測るだけでなく、これらの大切な臓器の変化につ
いても検査をしておく必要があります。
○日常生活では
血圧が上る要因を少なくするためには、まず日常生活を規則正しいものにすること
が必要です。うまく気分転換をはかってストレスを解消し、適当な休養時間をとり入
れて、睡眠時間を充分にとることです。高齢者では特に急な寒さには充分注意して保
温することが大切です。
自宅での血圧の記録も必要ではありますが、血圧を過剰に心配し、その上下を一喜
一憂する方がいますが、血圧を測ることがストレスになる場合もありますのであまり
神経質になるのも困ります。
○運動は
適当な運動は血圧を下げます。
最近はあまりきついと思わないていどの運動を、1回1時間以内で毎日あるいは週
2〜3回程度定期的に行うと、血圧が下ってくることがわかっています。
急激な過激な運動は逆効果ですので、詳しい運動処方はかかりつけ医に相談される
ことが必要ですが、日常で器具を使わず出来ることと言えば、少し汗をかく程度の
早足で歩くこと。それも30分から1時間程度の時間をかけて行うことが簡単です。
○煙草や酒は
煙草はストレスの解消に役立つといわれますが、血管を収縮させるの
で、血圧の高い方は禁煙につとめなければなりません。
飲酒も量がすぎると血圧が上ってくることがわかっております。多くとも日本酒で
1合、ビール大瓶1本までに止めておくことが必要です。
○食事は
高血圧の食事療法と言えば食塩摂取の制限と、誰もが知っておられるくらい、
血圧の治療に最も大切です。1日の食塩摂取量は1日多くとも10g以下、出来れば
7g程度にまで制限することです。
しかし、1日7g程度の減塩食の維持となるとどうしたら良いかはわからない人が
多いと思います。現在日本人の食塩の1日摂取量は13〜15gとされていますので、
その半分まで塩分を抑えることになるわけですが、これが一番難しいことです。
塩辛いものをさけて、薄味に慣れるように心掛けることですが、醤油、ソース、塩
などの調味料を追加しない、味噌汁やうどん、ラーメンなどの汁物の汁を飲まない、
などを行って下さい。
一番良いのは自分の舌で減塩食を体験し、舌で覚えることだと思います。
このため、減塩食の体験講座を考えていますので、主治医にご相談下さい。
次に肥っている人は、体重をへらすように摂取カロリーを少なくして適当な運動を
するように心掛けなければなりません。
また良質のタンパク質を充分に、動物性脂肪を少なくし、糖質(でんぷんや砂糖類)
をへらし、植物センイを多くとるようにして、動脈硬化が進まないようにして、全
体としてバランスの良い食事をとるように努力したいものです。
降圧薬は現在たくさんの種類があります。必ず医師の診察を受け、症状にあった薬
で治療されなければなりません。
医師は診察をして、その人の体質や、血圧の下り方や、臓器への影響はないか、副
作用はないかなどをみて、薬の種類や薬の量を調整します。したがって、血圧の上り
下りや、全身状態を定期的に診てもらい、必要な検査を受けながら、気長く治療をつ
づけることが大切です。
血圧が安定したら必要な最小量の薬を決まったとおりに長期
間飲むことが必要で、2〜4週間に1回は必ず診察を受けることが大事です。
現在用いられている主な降圧薬は
(1)水・ナトリウムの排泄をよくする薬(サイアサイド系利尿薬)
(2)交感神経の興奮を押さえる薬(β−ブロッカー、α−ブロッカー、
その他の交感神経抑制薬)
(3)小血管を拡げる薬(カルシウム拮抗薬)
(4)血圧を上げる物質を抑える薬(ACE阻害薬)などがあります。
これらの薬が病状などにより選ばれて使用され、場合により併用されます。
また血圧が高くても臓器の変化が少ない間は、自覚症状がないことが多いので、降
圧薬の飲み忘れが多くなり勝ちです。最近は薬を飲む回数を減らして1日1〜2回飲
めばよいように長く効くような降圧薬がふえてきました。
降圧薬をきちんとつづけて治療した人と、そうしなかった人との経過をみると、
治療をつづけた人では、脳卒中、心不全、腎不全や悪性高血圧になった人がはっきり
へり、脳出血でなくなった人や、脳梗塞や心筋梗塞になる人もへる傾向がみられてい
ます。降圧薬による治療は最近進歩して、高血圧による合併症を、予防出来る段階に
なったと言えます。
ごく一部の高血圧(二次性高血圧)を除き、ほとんどの高血圧(本態性)は、根治
療法がない現在です。そこで高血圧症と診断されれば、一生血圧管理をつづけなけれ
ばなりません。一般療法で充分に血圧がうまくコントロール出来れば薬は飲まなくて
すむ可能性があります。またはじめに多くの降圧薬を飲まないとコントロール出来な
かった場合でも、良い管理をつづければ薬の量は次第にへらすことが出来ます。
高血圧の治療管理は生涯にわたるものです。主治医とよい信頼関係を保って血圧管
理をして、合併症が起こらないようにして、一病息災で健やかに長生きしましょう。
平成8年10月 玖珂中央病院 吉岡春紀