胃潰瘍について


社会の多様化、複雑化がすすむ現代では、多くの方がストレス性の潰瘍に悩まされています。
今回は胃潰瘍について説明します。
胃潰瘍の原因
自分の胃液によって、胃・十二指腸の粘膜を自己消化してしまい、部分的に組織の欠損が起きた状態が、胃・十二指腸潰瘍で、消化性潰瘍とも呼ばれています。
胃潰瘍は、中年以降に多く、また、十二指腸潰瘍は、青年・壮年に多くみられます。
男女差では、男性に多いのが特徴です。消化性潰瘍と一口にいっても、短期間で治るもの、手術が必要なものなど、程度によって治療の方法は異なります。
コントロールしにくい、精神的ストレスが、多くの場合、その主因であるため、胃・十二指腸潰瘍の治療や再発防止には、医師の指示のもとで、しっかりした治療を受けなければなりません。
最近、欧米ではヘリコバクター(Helicobacter pylori)と言う菌が胃潰瘍や十二指腸潰瘍の再発や悪化に関係があるとされ、その除菌治療が十二指腸潰瘍の再発防止に極めて有効とする報告が数多くなされています。ただ、除菌による再発防止のメカニズムにはまだ不明の点が多く、一方、胃潰瘍では除菌と再発防止の関連は十二指腸潰瘍ほどはっきりした成績は得られていません。
現在のところわが国ではヘリコバクター除菌の是非についてのコンセンサスは得られていませんが、ヘリコバクターの影響がある症例も現実で、今後の課題だと思います。

胃潰瘍の症状
一般症状・局所症状ともに胃潰瘍に特異的なものはありません。
潰瘍の自然歴のなかで、比較的古い、再発を繰り返した潰瘍においては食後の心窩部痛(みぞおちの痛み)、胸やけなどの定型的な症状を示しますが、高齢者では痛みを自覚しない場合もあり、不定愁訴や吐血が初発症状の方もあります。

胃潰瘍の診断
 自覚症状だけでは胃潰瘍の確定診断は出来ませんし、胃癌などでも心窩部痛、胸焼けもありますので、必ず検査が必要です。
 検査としては胃透視と胃内視鏡検査があります。
胃透視はバリウムという液体を飲んでいただき、レントゲンで潰瘍部のバリウムの溜まり(ニッシェ;影)を見つけます。胃透視だけでの診断には限界がありますので、出来れば内視鏡の併用が必要です。
内視鏡検査は潰瘍の存在診断のみならず、潰瘍の病期、すなわち活動期(A stage図-1)、慢性退行期(H stage図-2)、瘢痕期(S stage図-3)などを診断できます。
下の内視鏡写真は胃潰瘍の治癒過程です。39歳男性で、図2は2週間後、図3は1ヶ月後です。H2 stageといえます。この症例の1年後の再発写真は後半にあります。
 図-1 図-2 図-3
 また 潰瘍縁や周辺の粘膜の不整な状態から,良悪性を鑑別できますし、悪性の可能性が有ればすぐに生検(顕微鏡による病理検査)も行えます。
出血を伴う胃潰瘍では内視鏡的な止血術も可能で、胃潰瘍の検査には欠かすことは出来ません。
初めての方は検査に少し苦痛はありますが、最近の内視鏡は細く、苦痛も減り、最近の電子内視鏡検査では、検査後にすぐに写真を見ることが出来ます。

胃潰瘍治療の実際
a. 一般療法
 潰瘍患者さんでは、生活環境と潰瘍の発生・再発に因果関係を認めることが少なくないため、因果関係の推測できるストレス因子があれば、その除去を考えます。
b. 食事療法
  酸分泌抑制薬の適切な内服下では、原則として食事制限は不要です。刺激物を控える程度でよいでしょう。
c. 嗜好習慣
  主として喫煙とアルコールが問題とされてきましたが、ほとんどの例で潰瘍の治癒遷延化・再発因子とは認められません。したがって、再発との関連が濃厚な例に限って制限します。
d. 薬剤
 消炎鎮痛薬では胃潰瘍を引き起こす可能性がありますが、そのほかにも副腎皮質ホルモン、糖尿病薬、抗生物質、降圧薬など多くの薬剤が潰瘍の発生と難治化に関係しうると考えられます。
 しかし、一般的には酸分泌抑制薬が適切に内服されておれば処方を神経質に回避する必要はありません。これら薬剤は基礎疾患に対し継続投与の必要なことが多く、潰瘍との関連性が強い場合には、より胃粘膜障害の少ない薬剤への変更、酸分泌抑制薬の増量または制酸薬、粘膜被覆薬との併用を試みます。ただ消炎鎮痛薬では坐薬でも胃粘膜障害を引き起こす例があることを知っておくべきです。
e. 薬物療法
H2(エッチツウ)プロッカーと言う酸分泌抑制薬が胃潰瘍に使われだして、胃潰瘍の薬物療法は全く変わりました。潰瘍の治癒率もあがり、胃潰瘍で胃の手術を受けることはほとんどなくなりました。
H2プロッカーには、最初のタガメットに始まり、ガスター、ザンタック、アルタット、など多くの薬剤が開発されています。
また最近ではPPIというH2プロッカーよりもっと制酸機能の強い薬剤も発売され早くかつ高い治癒率をもたらしています。
維持療法 胃潰瘍に対し防御因子強化薬を初期治療から併用すると質の高い潰瘍治癒が得られ再発の抑制につながるという成績があります。また治癒後の維持療法に用いると再発抑止に有用だといわれています。

胃潰瘍予後判定の基準
 1.平均的には4〜8週で治癒します。
 2.胃潰瘍の大きな問題は再発が多いことです。累積再発率は内科的治療の継続に依存し異なりますが、内科的治療を行わないままでは1年後の再発率は30〜40%、10年で80%の再発率を示すと言われています。
従って胃潰瘍では治癒した後の再発予防が大切になります。
また、この再発に前述したヘリコバクターの関与が考えられており、再発を繰り返す難治性の胃潰瘍患者さんではヘリコバクターの存在検査を受け、除菌治療を併用することも考えて良いでしょう。
ただし、現在ではまだ治療が保険適応とはなっていません。
 図-1例の1年後の再発 

胃潰瘍手術適応のポイント
前述したように胃潰瘍では手術することは極端に減りましたが、以下のような場合には手術を勧めることがあります。
【1】輸血に反応しない胃出血例と穿孔例では緊急手術.
【2】幽門狭窄に対しては待機手術.
【3】再発・再燃を繰り返し社会生活に支障ある時も待機手術.

胃潰瘍Q$A
 どうして、消化性潰瘍はできるのでしようか…?
 潰瘍は、ストレスなどの刺激因子で調節機能が乱れ、胃の中の攻撃因子と防御因子のバランスが崩れた時にできます。
胃液の中の、塩酸とペプシンの消化力は非常に強く、胃から取り出した、体温程度の胃液の中に、動物の肉を入れておくと、一晩のうちに肉の形はなくなってしまうほどです。しかし、健康な胃では、強力な胃液やペプシンなどの攻撃因子も、胃粘膜の粘液、血流などの防御因子とバランスがとれていて、潰瘍はできませんが、このバランスが崩れた場合、胃壁は白己消化され、潰瘍になってしまいます。
 どうしたら、ストレスに強くなれるのでしようか…?
 現代では、ストレスを受けない立場は考えられません。みんな多かれ少なかれストレスは持っています。考え方を変え気持ちの切替えを早くし、ストレスの原因となる悩み、不安を長時間持ち続けないことです。
それには、睡眠・休養、バランスのとれた食事を適度にとることです。また、精神が解放される、スポーツ、趣味を持つことで早目に気分転換をはかることも、ストレスに強くなる秘訣です。
参考:今日の診療、胃潰瘍の治療より
   平成8年9月  玖珂中央病院 院長 吉岡春紀


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