高脂血症の定義は,血液中の総コレステロール,あるいはトリグリセライド(中性脂肪)が正常以上に高いということです。
現在の、診断の基準としては空腹時に測定した血清総コレステロール値が220mg/dl以上、血清トリグリセライド値が150mg/dl以上の何れか、又は双方とも越えるものを高脂血症と呼んでいます。
しかし、高いからといって必ずしも直接症状につながるものではありませんし自覚症状もありません。つまり高い状態が長期間続くことによって起こる病気というものが問題になるわけです。その中で最も命に関係する重篤なものとして冠動脈や脳血管の病変があり,狭心症,心筋梗塞などの冠動脈硬化性疾患の発生率が,高脂血症でない人よりも非常に高くなるという問題がでているからです。
山口県の成人病基本健診でも約30%を越える高率でコレステロールの異常が認められており、今後の高齢化社会にとって大きな問題と言えます。
リポ蛋白という言葉は聞き慣れない言葉ですが、脂質であるコレステロールやトリグリセライドは疎水性であるため血液中では水と油で存在できません。血液を介して必要な臓器に運搬されるには、特殊な蛋白質と結合して親水性を持った構造になる必要があります。このコレステロールやトリグリセライドなどの血清脂質に蛋白質が結合しているものをリポ蛋白と呼んでいます。これは電気泳動で分子量によってカイロミクロン、VLDL,IDL,LDL,HDL-コレステロールなどに分けられます。このうち動脈硬化に直接影響をすると考えられているのは後で述べるLDL-コレステロールですし、HDL-コレステロールは動脈硬化の改善に作用すると考えられています。
日常の診療では血清の総コレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、HDL-コレステロールを測定すればぼぼこれらのリポ蛋白の状態は把握できますし、この三つの言葉はよく覚えておいて下さい。
わが国の高脂血症の実態を全国レベルで明らかにするために,厚生省原発性高脂血症調査研究班が組織され,疫学調査,病因・病態の解明,治療の確立に関する研究が行われていいます。それによりますと
血清総コレステロール値と虚血性心疾患の合併率との相関では,血清総コレステロール200mg/dlの群に比べて,280〜300mg/dl群では約2.6倍,320〜360mg/dl群では約3.3倍,360mg/dl群では約5倍に達しています。脳血管障害に関しても血清総コレステロール値と相関する傾向が認められました。さらに,HDLコレステロールは逆に低いほど虚血性心疾患の発生率が高いことも認められています。
また諸外国における疫学調査では以下の諸事実によって,血清総コレステロール値が冠動脈疾患と強い関係をもつことが疫学的に示されました。
1.第一次ならびに第二次世界大戦の食料不足で西欧諸国の冠疾患患者が減少した。
2.食事脂肪の多い国で血清総コレステロール値の水準が高く,冠疾患の死亡率が高いことが示された。
3.血清総コレステロール値と冠疾患の間には直線的比例関係がみられた。
4.日本人の本国在住者とハワイ,アメリカ本土移住者の血清総コレステロール値と冠動脈疾患の発症率をみると移住者で高い。
5.心筋梗塞患者のLDLコレステロール値がさして高くない例でみると,HDLコレステロールが低いことが見出され,HDLが“負の危険因子”であると示され,HDLの関与が明らかにされた。
6.食事療法と薬剤の併用によって血清脂質値を改善すると,血管造影で動脈硬化が退縮することが確認された。
7.ある種の治療薬を高コレステロール血症患者に7年間投与した研究で,LDLコレステロール値を1%低下させることができれぱ,虚血性心疾患の発症は2%減少するという定量関係が明らかにされた。
このように疫学的な検討で血清コレステロールの異常は冠動脈の動脈硬化性疾患に悪影響を及ぼしていることと、治療によってある程度、疾患の発症を予防できることが解ります。
HDLコレステロールは動脈硬化を防ぐ作用があると考えられますので善玉コレステロールと言われることもあります。
動脈硬化の始まりは,血管の内皮細胞の障害に始まると言われています。これには多くの因子が関与することが知られていますが、専門的で難しく一言で述べることもできませんが、簡単に述べてみます。
血管の内皮細胞が障害をうけると内皮細胞には正常では起こらない血小板の凝集や単球等がくっついてきます。これらは血管の平滑筋細胞に作用して,さらに増殖因子の作用を受けて活発に増殖し細胞内に脂質を蓄積させ,ついにはコレステロールに富む細胞を形成します。このような取り込み機構は,ついには細胞の崩壊をきたし,細胞間に脂肪を漏出し、線維成分の増生がみられ、さらにカルシウムの沈着がみられます。これが動脈硬化です。
このような一方的な動脈硬化巣の形成ばかりではなく,抑制という機構としてHDL(高比重リポ蛋白)を介した逆転送,すなわち細胞からコレステロールを抜き取る作用もはたらいています。
高脂血症の重症度の診断基準についてですが、一般には基準がありません。高コレステロール血症については遺伝性の場合をのぞき350mg/dlを越えるような重症者はめったに見られません。しかし、遺伝性の家族性高コレステロール血症は、遺伝性の病気で、若年者の心筋梗塞を発症することが多く、血清総コレステロールは300mg/dlを越えることも多く中には400mg/dl以上の場合もあります。このような場合には重症といえると思います。従って270-330mg/dlを中等症、それ以上を重症として良いでしょう。しかし、たとえ血清総コレステロールがそれほど高値でなくても、冠状動脈硬化などの臓器障害を伴っているような場合には、これを重症と呼ぶこともできるわけです。
トリグリセライドに関しては単独では動脈硬化の危険因子とは認められていませんが、250〜400mg/dl程度までが中等症、400mg/dlを超えたような場合には重症と判断をされることもあります。
一方、HDLコレステロールは男女で正常値に差は見られますが40mg/dl以下が異常と考えられています。正常の平均値は40-60mg/dlです。女性では男性より10mg/dl程度高値です。
これらについては、それぞれの研究者、あるいは治療する側の医師の判断によるものと思います。また、動脈硬化の重症度とは比例しませんが若い人ほど治療の対象となると思います。
成人病健診などは昼から行われることもあり、絶食で検査しておりませんので、検査結果には食事の影響が考えられますが、血清総コレステロールとHDLコレステロールは、食事による影響はあまり受けません。したがって、それらを測るのであれば、午前でも午後でも、食事前でも後でもかまわず、補正の必要はありません。しかし、トリグリセライドは食事による影響を大きく受けますので、基本的には空腹時の採血が必要となります。
また、トリグリセライドは、LDLコレステロールを計算するために必要になりますので、(LDLコレステロール=血清総コレステロール−HDLコレステロール−1/5トリグリセライド) 正確なLDLコレステロールを得るためにも空腹時採血が望ましいと思います。計算で算出したLDLコレステロール値の正常範囲は55-130mg/dlとされています。
また、血糖値なども食事により影響を受けますので、健診の時間、特に採血の時間には注意がいると思います。とくに前夜にアルコールを摂取したり、あるいは遅く食事をすることなどにより強くその影響を受けます。従って採血は前日のアルコールを禁止し、早朝空腹時が基本となります。
それでは高脂血症の治療開始はどの時点で始めたらよいのでしょうか、
総コレステロールの治療開始値は,日本動脈硬化学会では220mg/dlというところに線を引いていますが,理想値は,総コレステロール値180mg/dlという低いところに設定する人もあります。総コレステロールが高くなるにつれて,動脈硬化性疾患のリスクが加速度的に増えているわけですから,やはり高い人にはできるだけ早く何か手を打って,実際に動脈硬化,さらに虚血性心疾患や脳梗塞などの発症をくいとめることが大事なのではないかと思います。
高脂血症の治療の基本は何といっても食餌療法が一番でこれをやらずに高脂血症の治療はありません。それと肥満などがあれば運動療法を併用します。
食餌療法や運動療法の基本は長続きすることが必要ですのであまり最初から食事の内容を極端に制限しても長続きしませんし、神経質になりすぎると必要な栄養素がとれなくなります。少し不十分でも長続きできるよう何でも食べて良いと考えて下さい。但し一日の摂取カロリーは押さえる必要がありますので、高脂血症の人は今まで食べていた量の8割、昔からいう腹八分で行ってみてはどうでしょうか。
摂取カロリーの基本は標準体重1Kgあたり25-30カロリーです。標準体重とは身長から100を引いた値です。たとえば身長160cmの人では60Kgとなりこの人の1日摂取カロリーの基準は60x25-30=1500-1800カロリーとなります。もちろん年令や仕事の内容、高脂血症の重症度によって増減されます。
詳しい食事の内容が知りたい方には栄養指導を行います。
しかし家族性の高脂血症や重症高脂血症では食事のみでのコレステロールの低下は限度がありますので薬物による治療も併用します。最近ではコレステロールを低下させる薬も多くありますのでそれらをその人の状態にあわせて使用します。
これらの治療は若年や中高年の高脂血症の人にはすぐに始めるべきですが、高齢者でも今後の動脈硬化の伸展予防や退縮を期待して行うこともあります。
いずれにしろあまり自覚症状がない病気ですから中途半端にならないよう、また折角異常が改善されたら維持するように心がけたいものです。
平成7年10月 玖珂中央病院 院長 吉岡春紀