新型インフルエンザの現状と対策
玖珂中央病院 吉岡春紀
2009年5月8日
5月12日 修正追加分
新型インフルエンザA(H1N1)の感染患者は世界中で増加し、各国がその感染防止対策を行っています。
ただ、当初心配された、強毒性で死亡率の高い鳥インフルエンザによる新型インフルエンザとは異なり、ウイルスの詳細も少しずつ解ってきました。
これまでの新型インフルエンザ対策を見直すべきだと思いますので現状と対策をまとめてみました。
今後、内容は変化することもありますのでご了承下さい。
新型インフルエンザの感染者数
WHOによると、5月8日朝現在、世界中で24カ国において新型インフルエンザ(Swine-origin influenza A/H1N1)感染の確定例2371例が報告。
内訳はメキシコ1112 例、アメリカ合衆国893例、カナダ201例などである。2371例中、死亡例はメキシコ42例・アメリカ2例である。日本国内での感染確定例はまだいません。
追加・変更
国立感染症研究所の資料では5月11日午前10現在、感染者数は増加しており世界中で29カ国
において4,000例以上の新型インフルエンザ感染の確定例が報告されています。内訳はメキシ
コ1,626 例、アメリカ合衆国2,254例、カナダ280例などで、死亡例はメキシコ 45例、アメ
リカ2例、カナダ・コスタリカ各1例です。
日本ではカナダから帰国した日本人3名が入国前に成田空港検疫所にて新型インフルエンザA
(H1N1)感染確定と診断され、停留中に1名がさらに感染確定と診断され計4名の感染者が確認
されました。。
死亡率はアメリカ0.1%、メキシコ2.8%、カナダ0.4%で、総計では1.1%と減少しており、
メキシコをのぞけば通年性のインフルエンザの死亡率と変わりありません。
新型インフルエンザウイルスの特徴
豚から直接でしか人に感染しないブタインフルエンザウイルスでしたが,ヒト―ヒト感染が確認されていることから,これは定義上「新型インフルエンザ」であると認定されました。しかし,従来恐れられていた「新型インフルエンザ」のイメージとは異なります。
WHOはインフルエンザA(H1N1)ウイルスのアウトブレイクとしました。
○ウイルスはH1N1のA型インフルエンザである
○潜伏期はおそらく1〜4日、最大8日程度(CDC、WHO)
患者の他人への伝播可能期間は「発症の前日から始まり、発症7日後ま
たは無症状になるまで」と暫定的に定められている(CDC)
○感染力は高く急速に拡がっている。
各国で感染対策は行われていますが毎日のように世界中で感染者は
増えています。
○特に弱毒性で致死率は高くないこと。
死亡率は2.0%弱であるが、大半がメキシコからの報告であり、ま
たアメリカ・NY市の学校では無治療で軽快した者が多くいたとみられ、
実際の重症度や死亡率はもっと低い可能性もある
メキシコで死亡例が報告されていたが、その後の調査で、貧困など医療
環境が悪く医療機関受診が遅れたなど特殊な環境であったこと。
感染者は増えていますが逆に死亡率は減少しており、メキシコ以外の新型
インフルエンザによる死亡率は通年性のインフルエンザの日本の死亡率と
変わらないようです。
○臨床症状などは季節性のA型インフルエンザに近いこと。
○20歳以下が半数以上で、高齢者の感染は少ないこと。
○タミフル・リレンザなど抗ウイルス剤が効果あること。
○季節性インフルエンザに対するワクチンは無効と思われる。
新型インフルエンザのワクチンはこれから作られますが、約半年かかりますし
必要量の確保は難しいと考えられています。また当初考えられていた新型インフルエンザの
プレパンデミックワクチンも今回の新型インフルエンザナは効きません
など ウイルスの特徴や詳細が少しずつ判明しています。
ただし、国や地方自治体の対策マニュアルは、致死率の高い「鳥インフルエンザ」を想定していたものであり、現在自治体もマスコミも過剰な反応を示していると考えられ、今回の「ブタインフルエンザ」用の新型インフルエンザ対策を作り直す必要があります。
現時点では日本では「水際でいかに食い止めるか」に注目が高まっていますが、ウイルスの正体がある程度わかった今、過剰な対策は見直すべきだと思います。
発熱スクリーニング方式の空港検疫は、潜伏期間中で無症状の人は検疫をすり抜けて簡単に国内に入ることをができると考えれば、症状だけでの検疫は無駄なことは明白です。SARS時の経験で空港・駅での発熱スクリーニングが効果無かった事で、世界中でやっていない「水際で止める」という行動計画を作成したのは厚労省医系技官の机上の空論とのことです。
幸い現在は帰国者での発生は認められていませんが、いつ発生してもおかしくありませんし、日本人に感染者がいない方が不思議です。
5月9日日本人の感染者はでました。
現在、政府が作成した「新型インフルエンザ対策行動計画」に沿って対策が講じられていますし、マスコミも同様な報道をしていますし、何時日本人初の感染者が出るのかを待っているような報道が続いています。
また、新型インフルエンザの死亡者をことさら取り上げた報道もありますが、季節性インフルエンザでも毎年インフルエンザの時期には、「超過死亡」が増えることはよく知られています。国内ではこの数年1000人から15000人の報告があります。
インフルエンザの社会的インパクトを評価するにあたって、インフルエンザによる死亡者数が重要ですが、その際に単に原死因がインフルエンザの記載のあるものだけでなく、より広くインフルエンザが直接間接に影響し、インフルエンザ流行がなければ回避できたであろう死亡「超過死亡」として定義する考え方が国際的にも行われています。
ですから、一人二人の死亡や数字をことさら取り上げる意味はないのです。世界的に今の状態では死亡率は低いという安心報道こそ必要だと思います。
一般市民の対応
本邦ではあまりにもマスコミの報道が過剰なので市民も不安に思っていることだと思います。一方米国でも市民向けの勧告が米疾病管理センターから出されていますが,過剰さはなく常識的な対応であり好感が持てます。
○市民に出来ること
◎手洗い
石けんと水による手洗いをさらに行い感染の拡大を防ぐこと。
石けんがなく手が汚れていない場合はアルコールベースのハン
ド・ジェル(アルコール含有率60%以上)を用いる。
◎咳エチケット
咳やくしゃみをするときはティッシュペーパーで口や鼻を覆う
こと。使ったらゴミ箱に捨てること。ティッシュペーパーがな
い場合は,手で覆うのではなく上腕の袖で覆うこと。咳・くし
ゃみの後は手を洗うこと。
アメリカでの対策はこの二つです。
大半は,院内感染対策の標準予防策および咳エチケットとして日本でも病院職員にはよく知られている内容です。
このCDCの勧告には、日本でよく使う「マスク着用」と「うがい」という言葉ありません。特に「うがい」という感染予防行為が日常化しているのは,おそらく日本だけです。
ただマスクに関して感染症の専門家は、「マスクは、咳をしている人が他の人にうつさないためには意味があるけれど、感染を防ぐのに有効かは不明確です。あまり神経質になる必要はないでしょう。ただ日本では咳エチケットが定着していなくて、平気でゴホゴホやっている人もいるから、そういう人にマスクしてくださいというのは意味があるかもしれません。本来は国が責任もって咳エチケットを広めるべきと思います。」と言っておられます。その通りだと思っています。
人混みでの安心感のためにマスクを付けることを否定はしませんが、マスクが市場から姿を消し、国内発生のない地方でみんながマスクをしているのは異常です。
も一つ疑問に思っているのが、今回の新型インフルエンザ報道の中で、一時話題になった、万能インフルエンザワクチンとインフルエンザ新薬の情報です。いずれも最終段階になって、臨床的にも使える頃だと思っていました。特に万能インフルエンザワクチンはもう少し実用化は後のようですが、使えれば、大きな福音となりますので、急いで欲しいと思います。
今回の新型インフルエンザ騒動はまだ決着しているわけではありませんが、これを機会に、本当の新型インフルエンザ対策を国民全体で考えることが出きれば無駄ではないと思います。もう少し冷静な対応が望まれます。
そして、いろんな対策には「ヒト・カネ・モノ」と「日頃の訓練」が必要だと思いますが、地方自治体には全て欠落しています。それがないなら、現在の対策自体を実行できるとは思えませんし、強引に現在の対策案を続けるのなら「ヒト・カネ・モノ」を優先すべきだと思います。
政府は「追加経済対策」として、補正予算案を国会に提出しています。額は、補正予算としては過去最大の約14兆円規模とのことです。その一部でも、新型インフルエンザ対策に充てる柔軟性はないのでしょうか。
また、前述の万能ワクチンや新薬開発に予算や人を増やすことが国民の安心のためにも必要だと思います。
ワクチンの開発について
秋冬の流行も考え、新型インフルエンザワクチンと通年性のインフルエンザワクチン
の比率をどうするのか検討されています。
一番良いのは、通年性のワクチン株(Aソ連・ A香港・B型)と一緒に今回の新型株
Aメキシコ株(仮称)を混合できれば良いと思いますが、
難しければ、今のところ新型インフルエンザは高齢者の感染が低いとのことですし、
高齢者は今の通年のワクチン接種でかなり予防効果があると実感されていますので、
通年型は高齢者用にし、新型用を小児や若年者・成人向けに接種すれば良いのでは
ないかと、素人考えです。