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   「かぜ」とインフルエンザ


インフルエンザの予防と対策・新しい治療法を含めて

インフルエンザはかぜじゃない?
 かぜとインフルエンザは違うのでしょうか。
 同じとも言えますし違うとも言えます。「かぜ」という言葉は一般に使いますが、本来は「かぜ症候群」と呼ばれる一群の病気の総称で、かぜ症状(発熱・咽頭痛・鼻水・関節痛・食欲不振など)を訴える普通感冒の患者さんには「かぜ」と言う言葉で説明してしまいます。
 インフルエンザも「かぜ症候群」の一つですが、簡単に「かぜ」と言えないのが事実です。まあそんな些細なことは別にして今回は「かぜ」とインフルエンザについてお話しします。

かぜにはどんな種類があるか
かぜ症候群はいくつかの病型に分類することができます。
  1. 普通感冒
 2. インフルエンザ
 3. 咽頭炎・上気道炎
 4. 気管支炎
 5. 肺炎など


普通感冒
 これが私たちがふだん「かぜ」と呼んでいるものです。
 鼻炎症状が強いので、鼻が出たり喉が痛かったりしますが、一般的に軽い症状です。経過・予後ともに良好で1週間ほどで治ります。全身症状はほとんどありません。症状 として くしゃみ、鼻水がおおく、せきやのどの痛みがあります。 発熱はないか、あっても37度台です。 全身がだるかったり、頭が痛いこともありますが、一般に軽度です。

インフルエンザ
 ふつうのかぜが喉の痛みや咳ではじまることが多いのに対して、インフルエンザは悪寒・発熱や倦怠感、あるいは全身の痛み(頭痛も含む)ではじまります。
 かぜに比べて熱も高く、熱は39度から40度になることもあり、 しかもそれが4-5日継続します。 全身症状は普通感冒に比べ重く、食欲減退、吐き気、下痢などがでてくることもあります。また流行する時期も大体決まっていて、1月から3月が多く、高齢者や乳幼児では肺炎や脳炎などを合併することもあります。

インフルエンザの歴史と流行
 突如として発生して瞬く間に広がり、数ヶ月のうちに消えていく、咳と高熱の流行性疾患の記録はヒポクラテスの時代からあったといわれています。
 周期的に流行が現われてくるところから、16世紀のイタリアの占星家たちはこれを星や寒気の影響(influenza=influence)によるものと考えていました。我が国では「増鏡」に、「しはぶき(咳)やみはやりて人多く失せたまふ・・」と書かれており、江戸時代には、「お駒風」「谷風」などと名付けられたかぜ(インフルエンザ?)の流行が見られたといいます。
 1890年(明治23年)アジアかぜが世界的に大流行。我が国ではインフルエンザのことを流行性感冒(流感)と呼ぶことが定着してきたとのことです。
 1918年には、スペインかぜが世界各地で猛威をふるい、全世界の罹患者数6億、死亡者は2,000-4,000 万人にのぼったことが推定されています。
 我が国には大正8-9(1919-1920)年の冬に流行、罹患者は2,300 万人、死者は38万人に及んだといわれています。当時の新聞には「流感の恐怖時代襲来す。一刻も早く予防注射をせよ」という見出しが見られます。

インフルエンザの研究
 60年も前にウイルスが分離され、ウイルスの研究が進められ、ワクチンも早い時期から実用化され改良が続けられているにもかかわらず、いまだにインフルエンザは世界中いたるところで流行が見られています。 また膨大な研究がなされているにもかかわらず、流行状況やその把握、感染と免疫のメカニズム、ウイルスが変異をしていく理由、予防方法などインフルエンザの基礎は、残念ながら十分に解明されているとはいえません。
 突然に現われるインフルエンザは、狭い地域からより広い地域、県・地方・国を越えて流行があっという間に広がり、学校や仕事を休むものが増えてきます。医療機関では外来患者数の増加とともに、インフルエンザとは断定されないが、肺炎・気管支炎症状・痙攣・心不全・脳炎・脳症などの入院数も増加してきます。インフルエンザの流行期には、「超過死亡」という現象が見られることが確認されています。

インフルエンザウイルスの種類
 ウイルス粒子内の核蛋白複合体の抗原性の違いから、A・B・Cの3型に分けられ、流行的広がりを見せるのはA・B型です。特にA型が注意がいります。
 ヒト以外にもブタやトリなどその他の宿主に広く分布しているので、A型インフルエンザウイルスは、人畜共通感染症としてとらえられています。そして最近では、渡り鳥がインフルエンザウイルスの運び屋として注目を浴びています。
 日本では冬になると、国中のいたるところでインフルエンザが見られます。北半球にある温帯地域以北の国々では、おおむね1〜2月頃が流行のピークとなるが、南半球では7〜8月頃の冬期に流行が見られます。熱帯・亜熱帯地域では冬というシーズンはないが、雨季を中心としてインフルエンザはやはり流行します。  我が国では多くの人々の頭の中からその重要性と恐ろしさが薄らぎつつあるインフルエンザですが(実態はそうではないのですが)、地球的規模では、いまだに残されている最大級の人類の疫病といって言い過ぎではありません。

予防方法(予防接種)
 インフルエンザに対して科学的な予防方法として世界的に認められているものは、現行のインフルエンザHAワクチンです。 WHOでは、世界から収集したインフルエンザの流行情報から次のシーズンの流行株を予測し、ワクチン株として適切なものを毎年世界各国にむけて推奨しています。
 我が国では、WHO からの情報および全国の衛生研究所からの情報を国立感染症研究所が収集し、これに基づいてワクチン製造株が毎年選定されています。我が国ではインフルエンザワクチンは以前勧奨接種の形で行なわれていましたが、1976年の予防接種法の改正により法による接種となり、幼稚園児〜中学生を対象として集団で接種が行なわれるようになりました。
 その後ワクチンの効果や集団で接種することが適切であるかなどの問題点が論議され、保護者の接種意向を重視するという経過措置を経て、1994年の予防接種法改正で、全年令特に幼稚園(保育園)児〜中学生および高齢者を対象とする任意接種にする、と改められました。このためワクチン接種が激減しました。

インフルエンザウイルスの命名法
 国際的に次のように表すことに決められています。ウイルスの型(A,B,C)/分離動物/分離地/分離番号及び分離年/HAとNAの型。で命名されます

今年のインフルエンザの流行株
 全世界的にはA型のH3N2亜型=A香港型A(H3N2)型が主たる流行株ですが、A(H1N1)型=Aソ連型、B型も確認されています。

過去の大流行
1918年 スペイン風邪(H1N1)
1957年 アジア風邪(H2N2:Aアジア型)
1968年 香港風邪(H3N2:A香港型)
1977年 ソ連風邪(H1N1:Aソ連型)

インフルエンザの予防のためにはどのようなことに気を付ければよいでしょうか。
 一般的には以下のようなことが考えられますが厳密には予防不可能です。
 (1) 過労を避け十分な睡眠をとる。
 (2) 栄養と休養を十分とる。
 (3) うがい、手洗いを励行する。
 (4) 人混みを避ける。
 (5) マスクをする。

インフルエンザの治療
 古くて新しい治療法 アマンタジン

メルクマニュアルによるインフルエンザの治療
アメリカの教科書では治療の項目にアマンタジンの記載があります。これでは
 「アマンタジンは,合併症のないインフルエンザAで早期に与えられれば,発熱および呼吸器症状に有効である。それは肺炎に使う時には肺機能の回復を早めうるだろう。リバビリンを微粒子エアゾルまたは大量に経口で投与すると,発熱期間を短縮し,インフルエンザAまたはBにおけるウイルスの脱殻を減少させることができる。」と書かれています。

抗ウイルス剤としてのアマンタジンについて
 1964年に抗ウイルス剤として開発されたアマンタジンは、A型インフルエンザに対する予防・治療薬として欧米では広く使用されており、老人ホーム入居者を中心に、毎年のインフルエンザ流行期には、約100万人が内服しているといわれている。本邦では70年代に治験報告があり有効性が確認されていますが、追試報告は少なく現在保険適応はありません。(一般の医療では使えません)

新聞報道 毎日新聞 平成9年
「アメリカではインフルエンザにかかって48時間以内の内服と、予防薬として2〜3週間の連続服用を勧めている」と言う。日本では67〜69年に治験が行われ、アマンタジンがA型ウイルスのインフルエンザに有効であることを認めた(B型には無効)が、認可申請は立ち消えとなったそうである。これに対して厚生省は「インフルエンザの治療薬としては登録されていない。医師と相談の上で保険外処方なら構わない」

アマンタジンの抗ウイルス作用とは
 A型インフルエンザには有効であるがB型には無効です。
 ウイルス粒子を直接不活化する作用はなく、ウイルスの細胞への吸着も阻害しないが、感染細胞内でのウイルス増殖を抑制すると考えられています。
 本邦では発売後20年以上たち、パーキンソン病や脳梗塞の治療に使用されていますが一般には馴染みの薄い薬です。

アマンタジンの副作用
中枢神経症状として神経興奮・不安・集中力低下・めまい・脱力感などがあります。
消化器症状は吐き気・食欲不振・下痢などですが、これらは投薬を中止すれば消退します。まれに行動異常・譫妄・幻覚・興奮・痙攀などの副作用発現の報告があります。

その他の問題として薬剤耐性の問題があります。
 アマンタジン耐性のウイルスの出現があり、耐性ウイルスにはアマンタジンの効果がなくなり、乱用は慎むべきで今後の問題点です

 


 ハイリスク高齢者におけるインフルエンザ流行時の対応
   アマンタジンの治療経験
 今年2月に行った私たちの治療成績の抄録で詳しい説明はこのホームページに掲載しています

 毎年全国各地でインフルエンザの集団発生がみられ、慢性疾患を持った(ハイリスク)の高齢者や幼児では重症化や死亡例も報告されている。
 欧米ではA型インフルエンザに対する予防・治療薬としてアマンタジンが広く使用されており、老人ホーム入居者を中心に、毎年のインフルエンザ流行期には、多くの人が内服しているといわれている。
 しかし本邦ではアマンタジンの治療経験の報告は少ない。
 我々の病院でも2月初めよりインフルエンザの流行が始まり高熱の持続により全身状態の悪化や重症化、一部に肺炎の合併もみられていた。 そこで、これまでの対症療法での限界を感じ治療薬としてアマンタジンの投与を開始した。
 対象者は突然の発熱、頭痛、咳嗽などインフルエンザ様症状を認めた患者(13例)で、アマンタジンは発熱日より4日間(100mg/日)投与した。
 それまでの対症療法群(21例)と明らかに差が見られたのは発熱期間と治療期間であり、アマンタジン投与後ほぼ全例で翌日には解熱し、対症治療群と比べ明らかな効果を認め、その他の臨床症状や治療期間の短縮・薬剤費の削減も顕著であった。
 アマンタジンはハイリスクの高齢者ではインフルエンザ様疾患の流行期には考慮されるべき薬剤と考えられた。


今年のインフルエンザワクチンの組成
 A型香港(H3N2)
 A型ソ連(H1N1)
 B型 の3種混合です。

お勧めのインフルエンザの予防と対策
 1,インフルエンザの予防法とし第1はワクチン接種です。
   できるだけ流行前にワクチンの接種を勧めます。
 2. 流行し始めてからワクチンを接種しても効果はありません。
 3.ワクチンは2回接種する必要があります。
   4週間程度あけて2回接種が必要ですので11月には初回接種を勧めます。
 4.万一感染したらハイリスクの高齢者や受験生などは早期にアマンタジンを内服し症状の緩和をはかる。
   高熱が続きますので全身症状を緩和する意味でアマンタジンの内服をご相談ください。
インターネット上のインフルエンザ情報を参考にさせていただきました。
      平成10年11月  玖珂中央病院 吉岡春紀


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