新型インフルエンザワクチン接種

  小児接種の前倒しについて

「厚生労働省は6日、当初のスケジュールでは12月以降としていた小学校低学年までの子どもに対する新型インフルエンザワクチンの接種開始時期を、今月中旬に前倒しするよう都道府県に検討を要請した。」

という報道がありましたので、我々も厚労省がワクチン接種の優先順位を変更して、小児優先に方向転換したのかと歓迎していたのですが、実はどうも期待はずれの通達に終わりそうな、むしろ現場をますます混乱させるような改訂になりそうな雰囲気です。

その原因については後述しますが、元々新型インフルエンザのワクチンの製造が間に合わなかった事を正確に公表せず優先順位で急場しのぎを行ったこと、次にワクチン接種の優先順位を決めましたが、優先順位で接種出来る人数が現場でも把握が難しい基礎疾患を設定したことも混乱の元だと思います。そして基礎疾患の有無では各学会主導でかなり曖昧な規定を作り、希望調査でも正確な数を求めず概数で構わないとしたため、臨床現場では接種希望数が増えて、全国的にどの都道府県でも基礎疾患を賄うには到底ワクチンは足らない状態になっているのです。
 また、10月下旬からの全国的な大流行でマスコミもワクチン接種について現状を知らない報道が過熱し、ワクチン騒動が起こったためだと思います。

 最近のワクチンの配分と接種についての国の通達もころころと変わっていますが、最新版では

「現在の流行状況を踏まえた小児に対する接種開始時期の前側しについて」
 11月6日からワクチンの第3回の出荷を行うこととなっています。
 各都道府県においては、10月27日の事務連絡に基づき、主に妊婦及び基礎疾患を有する方への接種等を前提として準備を進められていると思います。しかしながら、現在の流行状況を踏まえ、第3回の出荷分について、各都道府県のワクチンの流通・在庫状況や医療機関の対応状況を把握した上で、可能であれば、小児等の接種時期の前倒しについて下記3点を検討いただくようお願いします。

とされて11月中旬からの3回目の基礎疾患用の配布分について
 ・基礎疾患を有する小学校4年生から中学校3年生
 ・幼児(1歳から就学前)
 ・小学校低学年(1〜3年生)

を基礎疾患と平行して前倒しで行うこととなりましたが、「可能であれば」という文言もあり都道府県任せになっていますし、「なお、今回の対応については、従来の実施要綱・要領の範囲内のものであり、接種順位の入れ替えを行うものではありません。」との注意書きもあり優先順位の見直しや変更ではないと書かれています。優柔不断な対応で、責任逃れの通達です。それと同時いろいろな対象者に使えるワクチンはありません。
 また基礎疾患を持つ人たちの接種は、今回は通院患者に限定され、前回の配布の際の、入院患者に限定されていたのとは全く逆の判断になっています。2回目配布で入院患者の基礎疾患に接種された施設も少ないのに、今回は入院は外されています。

 10日の朝日新聞山口版に、新型ワクチンの第3回目の配布前に「ワクチンが足らない」ことが伝えられています。

新型ワクチン足りぬ
 優先21万人、今回配分4.8万回分 子供前倒しなら拍車

 医療従事者に次いで新型インフルエンザワクチンの最優先接種が始まっている妊婦や重症化の可能性が高い基礎疾患を持つ患者について、県内の医療機関が報告した接種対象者の数が約21万人と配分量の4倍以上にのぼり、ワクチンが大幅に不足することが県の調査で明らかになった。さらに、国が健康な子どもへの接種を11月中旬までと前倒しを求めたため不足に拍車がかかるのは確実だ。子どもと基礎疾患患者、それに患者間で誰の接種を優先させるべきか、判断の難しさも課題として浮上している。 

また共同通信社では
 全国で新型インフルエンザが本格的に流行する中、子どもの重症化例が増えていることを受けた措置。6日に355万回分の国産ワクチンが出荷され、供給量に一定のめどが付いたことから、前倒しも可能と判断した。ただ、自治体からは「ワクチンの供給がスムーズにいっていない」との声も聞かれ、接種の進み具合もまちまち。国の前倒し要請にどこまで応えられるかは不透明だ。
との報道もあります。

供給量に目処がついたという判断自体現場を知らない役人の発想です。

 これまで、あまりにマスコミの報道が国や県の一方的な通達をそのまま報道し、ワクチン接種についても県内でどこでも接種出来るような印象を与えて、感染者も死亡例をことさら強調し不安を煽ってワクチン接種を勧めている報道をしていたので、現場では圧倒的にワクチンは足らないこと、どこにも現在ワクチンは無く正しい報道をして貰わないと、現場はその応対に毎日追われている事を、伝えていました。

 当初の見込み違ってというか、新たな感染症ですから専門家にも予想は出来なかったのが本音ですが、今までの季節性では考えられない時期に、全国各地で警報宣言が発令されるような大流行になっており、かつ季節性と違って現在感染者が小児に偏っていることが特徴です。
 病原性というか臨床症状は今のところ、多くの感染者が軽症で経過しており、一部の重症化や死亡例も報告されていますが、当初の予想よりは全体的には新型も季節性と大きな変わりはないのが現状です。
 そんな現状を知れば、現状に会わせて感染予防やワクチン対策の見直しをすべきですが、国は今まで決めたとおりの対策してとっておらず、ワクチン接種も後手後手の対策になっていました。
 臨床の現場では、感染後の死亡率を減らすためのワクチン接種ではなく、国民の不安を少しでも軽くして、感染の主体である子供たちに優先的にワクチン接種を行うようにするのが、政治の対応ではないでしょうか。

 ワクチンの接種回数にしても、海外での実績が報告されており、国内でも少数ですが成人の接種は1回でも良いという報告があります。国は医学的なエビデンスが確認されていないので、その実験結果が出るまでは予定道りの2回接種を決めました。
 ワクチン接種したら、国民は全員が感染予防出来るとは思っていませんし、効果の医学的根拠などは期待していません。副作用の実績などは詳しい情報提供は必要ですが、製薬の際の薬剤の効果判定とは全く違っています。それよりも国民の不安を少しでも軽減し、今一番困っている小児に接種することに変更し、成人・高齢者は基礎疾患があっても感染は少ないので、もうしばらく接種を遅らせるとして丁寧に説明すれば国民は納得するのではないでしょうか。
 何ども言いますが、こんな初めての感染症では、医学的根拠は無いのです。責任のない学者や専門家が多すぎ、政治家の決断が求められているのです。


 前述したように、遅ればせながら6日の夕方国は、第3回目の妊婦や基礎疾患向けのワクチン配布の一部を、小児に前倒しで接種して良いとの通達をしました。しかし、但し書きに「なお、今回の対応については、従来の実施要綱・要領の範囲内のものであり、接種順位の入れ替えを行うものではありません。」と書いてあります。

 これではワクチンの取り合いになり、何の解決策にもなりません。この通達がまた現場では大混乱を来しています。
「小児前倒し接種」だけ見れば、厚労省の英断だと思いますが、これまでの経緯や接種回数の1回か2回が未定のまま、また基礎疾患患者の接種は最優先としたまま現場の医師の判断で、小児も基礎疾患も接種を同時進行させるのなら、これは全くナンセンスな方策であり、ワクチンが足らない現場を無視した、また基礎疾患向けの配布手続きを続けてきた県や市町村の混乱は目に見えています。
 
 基礎疾患の調査が曖昧であり各関連学会が示した優先順位をそのまま連ねただけで全国の実数予測も出来ない調査でしたし、医療機関へのワクチン希望調査も県からは概数調査で良いと言うことでしたので、厳密に全患者のカルテチェックを行った医療機関も、適当におおよその数を記載した医療機関も、同じ扱いとなって山口県の場合にはその約1/4が公平に??、配布されるとの報告でした。

 基礎疾患を持った方が感染症に罹ると病状が重症化したり死亡率が増えることは素人でも解りますし、その人達を優先することに異存はありません。でもその調査も曖昧で、実際には成人や高齢者の感染者は全国的にもほとんど無いのですから、今は感染の主体である、小児優先がベターではないでしょうか
また、幼児・小児が感染すれば、看護のため親の見守りが必要になり、親も仕事を休まねばなりません。この親の負担や、経済的損失も大きなものがあり、子供の感染を防ぐことは最優先だと思います。

 但し、全国でこれほど感染が拡がった時期に予防接種を行うという経験は誰にもないのですから、いまさら接種しても効果はないのかも知れません。しかし国として、小児を守りたいという事で、方向転換して基礎疾患は年明けとして、年内は希望する小児を優先するという方向転換を期待します。

 もう一つ、小児優先とした時、各医療機関に配布されたワクチンをその医療機関で接種することは現実的ではありません。また小児科の診療所では多くのインフルエンザ患者さんを診察しながら、予防ワクチン接種も行うことも現実的ではありません。
国は保健センターなどに接種希望者を集めて接種する事を考え、
(例1)市町村が中心となり、当該市町村に所在する受託医療機関を募って 
  特定の学校・学年の児童等を集めて保健センター等で接種する方法 
(例2)郡市区医師会が中心となり、受託医療機関の管理者が当該医師会の 
  会員となっている医療機関を募って、保健センター等に当核地域の児童
  を集めて接種する方法 
(例3)小学校の校医が勤務している受託医療機関が、保健センターに特定
  の学年ごとの児童を集めて接種する方法

などを具体的に提案しています。また16歳以下の子供さんには親の付き添いを求めています。

医師が保健センターに出向いて、接種することは可能ですが、多くの学校や保育施設の子供さんを一箇所に集める必要があるのでしょうか、なぜこれまで長年行ってきた、学校や施設での集団接種を再考しないのでしょうか。平成6年の予防接種法の改正以降インフルエンザワクチンは個別接種・任意接種となり、集団接種は廃止されました。

当然個人(親)の意志は尊重しなければなりませんが、新たなインフルエンザの蔓延ですので、予防接種法を一時凍結してでも、希望する多くの子供たちに効率よく接種出来る方法を考えるべきだと思います。保健センターへ接種希望者を集める事も一案だとは思いますが、副作用・健康被害の対応はどこでも同じです。学校医とその応援の地元医師が、学校に出向き保健室で希望者に接種出来れば、集団接種は一番効率よい接種だと思います。


医師会もその応援には人も出せます。接種のワクチンの準備には学校の先生方の応援も必要でしょう。また乳幼児以外の父兄の同伴も現実的ではなく、これまでの集団接種時の同意書と同じような書類を用意して、当日の体温や症状などを親に記載して貰い、接種の同意書とすれば良いと考えます。勿論親が接種必要ないとすれば接種しなければいいのです。料金なども学校に納めることにすれば接種時にお金を用意することも不要です。
早急に集団接種を見直すべきだと思います。
集団接種の日に、都合が悪く接種出来なかった児童には、市町村の保健センターで時間を決めて接種出来る体制を作れば良いと思います。

 結論は、厚労大臣が、年内供給できるワクチンが足らないことを国民に丁寧に説明し大至急、新型インフルエンザワクチンの接種対策を見直し変更する。特に感染の主体である、乳幼児・小児に早急に原則全員接種を行えるようにワクチンを手配する、その後中学生・高校生まで順次接種を拡げる事だと思います。
勿論、妊婦や一部の呼吸器疾患・透析・免疫異常患者さんなど、人数が把握できる基礎疾患には現場で主治医が臨機応変に対応できることも必要だと思います。いずれにしろ年内に接種出来るかどうかが問題であり、接種回数についても学問的判断ではなく、政治的判断で決定しても国民は納得できると思います。

 そして、本当に子供たちを守るのなら、接種費用の無料化や減免を考えるべきであり、ワクチン接種の費用や万一の健康被害を国が補填する。これも政治だと思います。

   11月10日 玖珂中央病院 吉岡春紀